82.地球へ……
約二ヶ月半ぶりのメフルザードくん再登場記念。今回は8,000文字ぐらいあります。
「忘れ物はないかな? まあ、石を使えばまた戻ってこれるけど」
「あるわよ」
微少な魔力水晶だけでなく、本條さん用の大型な魔力水晶も購入。《ポーション効果遅延》も購入し、リディアさん謹製のポーションも事前に飲んだ。俺と本條さんだけは、《渦動の障壁》も展開中。
カイラさんのチョーカー(首輪ではない、断じて)は仕方ないが、変に警戒されないよう、服も当時と同じにしてある。
朝ご飯も、食べ終わっている。
今日の世界樹ご飯は、ハンバーガーとコーラだった。
正直なところアラフォーには重たかったが、物がいいのか。それとも健康になったのか。普通に食べられてしまった。
そんなこんなで、いざ地球。メフルザードへのリベンジだ……と意気込んだところで、つまずいてしまった。
「忘れ物あったっけ?」
カイラさんだけでなく、本條さんもこくこくとうなずいている。
もちろん、抜けがないかの確認だったので指摘自体は歓迎なのだが……。
「オーナー、きらきらですよ、きらきら」
「あ、ああ……」
普通に忘れてた……。
世界樹(仮)のたもとに集まった俺たち。
しまったという表情を浮かべる俺を、カイラさんと本條さんとエクスが、「仕方がない人ですね」と言わんばかりの表情を浮かべ慈愛で包み込もうとする。
やめて……。俺を甘やかさないで……。
「ミナギはん、いくら恥ずかしくても忘れるのはさすがにないわ」
「それが聞きたかった」
「はあ?」
肯定されてばかりではダメになってしまうという想いは、残念ながら通じなかったようだ。
まあ、仕方がない。通じるほうが怖い。
それに、あれだ。
クライマックス前に、仲間に声をかけるなんて当たり前だしね。TRPGでもよくやったしね。侵蝕率によってはやりたくないときもある。
「じゃあ、カイラさんから」
「ええ」
短く返事をしたケモミミくノ一さんが、赤い瞳でじっと俺を見つめる。
真剣に。
でも、尻尾をぱたぱたさせて。
可愛いな、もう!
「カイラさんは、本来メフルザードの件には関係ないのに……なんて言わない」
「もちろんよ。どこであろうと、誰が相手であろうと、ともにあるわ」
「うん。危険な役目をお願いするけど、カイラさんにしかできないし、言えない。よろしくね」
「任せてちょうだい」
ギルドマスターのマークスさんぐらい表情を変えず、カイラさんはうなずいた。
でも、耳も尻尾もどったんばったんしてるし、なにより、花の形をしたきらきらが全身を覆ったことで、表情と内心が異なることは一目瞭然だった。
いいんだけど、これ、カイラさんはどの程度把握してるんだろうね……?
「本條さん」
「はい!」
待てをしていた大型犬のように、本條さんが反応する。
犬キャラはカイラさんだけじゃなかった……だと……?
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
いつでも発動できるように握っていた剣の欠片をもてあそびながら、俺は言葉を探す。
……重圧を取り除いてあげないとだな。
「メフルザードは俺たち共通の問題だから……と言っても、たぶん、遠慮とか罪悪感はなくならないと思う」
「……はい。正直なところ、今でも巻き込んでしまったと思っています」
「だから、さくっと倒しちゃおう。それで解決だ」
最初はびっくりしたけど、吸血鬼の真祖なんて大したことなかったねと。
全部思い出にしちゃおう。
……うちの本社を買収してまともにしてくれるという話も。
「そう、そうですね。ここで立ち止まっているわけにはいかないですものね」
本條さんの言葉は、ただの決意表明ではない。それを超える覚悟で構成されていた。
いつも通り美人なんだけど……なぜか背筋に悪寒が走る。
それでいて、追及したらいけない。そんな予感もする。
「リディアさんは……まあ、いいか」
「ウチをオチ担当に使うのやめへん?」
「ああ、まあ。普通にシルバーブラッドとかの件は感謝してます」
「最初からそう言えば、ええんよ。まったくもう」
「吉報を待っていてください」
俺の代わりに、本條さんがフォローしてくれた。
ありがたい……んだけど、なんか取り返しが付かないことをしている感があるのはなぜなんだろう?
「まあ、待つもなにも」
「そうなのよね」
この中で唯一の経験者であるカイラさんが苦笑する。
「さて、それじゃ私たちの姿を消してもらえるかしら」
「はい。リディアさん行ってきますね」
本條さんがぺこりと頭を下げ、手にした怪しい呪文書を構えて理力魔法を発動させる。
「天を三単位、幻を三単位。加えて地を二単位。理を以って配合し、我らの姿を隠蔽す――かくあれかし」
「おー。ほんまに姿が消えたわ。音も聞こえへんね」
だが、同じ魔法の影響下にある俺たちはしっかり見える。
だから、問題点も分かる。
きらきら外れちゃうんだよね……。
「さあ、オーナー。素早く、きらきらを付け直してください。間髪容れずに《ホームアプリ》を実行しますよ」
和マンチなら当然だけど、GMからすると禁止したい行為だな! なんかほめなきゃいけない俺としても!
まあ、無理なんだけどね!
「秋也さん……」
「本條さん……」
追い詰められると逆になにも思いつかない。
そんな状態だから、出てきたのはみたそのまま。
「今日も、めっちゃ美人だね!」
「はい! 《ホームアプリ》実行します!」
なんとも締まらない……否、この上ないほどリラックスして。
俺たちは、真祖との第二ラウンドに挑んだ。
「ふうん。お兄さんたち、そんなこともできるんだね」
メフルザードの目には、俺たちが突然消えたように見えているはずだ。
にもかかわらず、黒髪褐色美形ショタ真祖吸血鬼は動じない。それどころか、心から面白がっている。
メフルザードは相変わらずだった。
余裕。負けるなどとは、欠片も思っていない。
その態度に俺はイラッとしてしまうが、カイラさんは冷静そのもの。
姿を消したまま、吸血鬼絶対殺す液ことシルバーブラッドを投擲。やるべきことを淡々とこなすその態度は、俺に冷静さを取り戻させてくれた。
「挨拶代わりよ」
「挨拶なら、さっきされたような気がするけどね」
メフルザードからは、前触れもなく虚空にガラス瓶が現れたように見えただろう。
反応などできるはずがない――普通は。
「これは、嫌な予感がする」
にもかかわらず、勘までいいのか、メフルザードは体を霧に変えた。輪郭を保ちながらも、足の先からつま先まで、服も一緒に存在そのものが霧状に変化する。
やっぱ、そういうことできるのかよ、吸血鬼!
霧化したのは、ほんの一瞬。だが、ガラス瓶は行き先をなくして素通りし、床に落ちて砕けた。
おいおい、《勇者の祝福》付きの攻撃だったんだぞ? エンハンスポーションも飲んでるし。チートかよ。絶対命中を絶対回避で返されたようなもの?
「おや、白いお姉さんが出てきたよ。ビンを投げつけたら出てきた……本来は隠れることしかできない能力なのかな?」
「そうよ。今も、二人は虎視眈々と命を狙っているわ」
「ああ、怖い怖い。気配はするから、逃げたわけじゃないのは分かっていたけどね」
本條さんの姿が見えなくなっても、メフルザードに焦った様子はない。むしろ、黙って事態を見守ることを強いられている本條さんのほうが心配だ。
けれど、沈黙は金。いや、それ以上の価値がある。
鬼札は、必殺のタイミングで切らなくちゃいけない。
まずは、俺が頑張る時間だ。
「エクス、《踊る水》!」
「受諾です!」
俺の合図で、エクスがマクロを発動。
床に散乱したシルバーブラッドが、うぞうぞうぞとスライムみたいに這い寄って、背後からメフルザードへ向かう。
黒髪褐色美形ショタ真祖吸血鬼にスライム責めとか、業が深すぎるな! そういう趣味は一切ないのに!
「お兄さん、器用なことするね。それに、そのバリアは? あと、妖精憑きだったの?」
「オーナーは確かに妖精好きですが、今ここで言うことではないでしょう!」
「ちげーよ。ダブルでちげーよ!」
ツッコミが追いつかないが、メフルザードはスライムを避けて踊るようなステップで前へ。そのまま、俺へと距離を詰める。
カイラさんをどうにかしちゃえば終わりなのに、こっちへ来た。《渦動の障壁》の存在が、ヤツの興味を惹いたのは間違いない。
だから、これも想定内……ということにしてくれ。
「エクス、レクチャードールだ」
「《ホールディングバッグ》、ディスペンサーモードで起動します!」
タブレットを正面へ向ける。すると俺とメフルザードの間に、宝石が埋め込まれた木製のマネキンが出現した。四肢をだらんとさせた状態から、そのまま地面に崩れ落ちる――寸前、マフラーが絡みついた。
「ははは! 今度は人形? 次から次に、まるで手品だ!」
「手品はこれからよ」
レクチャードールをマフラーの手で掴んだカイラさんが、両手の短剣を投擲して牽制。いつもより鋭いのは、エンハンスポーションの効果だろうか。
その間に、俺はなんとか距離を取った。だが、すぐに壁で行き止まる。部屋が狭いというのもあるし、こっちもエンハンスポーションのお陰で身体能力が上がっているのもあるだろう。
「じゃあ、一番良い席で見物しないと」
「その余裕、命取りになるわよ」
「命? 面白い冗談だね、白いお姉さん」
こっちには勘が働かなかったのか。それとも、好奇心が上回ったのか。さっきみたいに霧化しない。
回数制限が理由だったら嬉しいけど、どうせならもっともっと油断してくれ。慢心せずして、なにが真祖かの精神だ。
「まさか。冗談を言う相手は、きちんと選ぶわよ」
カイラさんは戻ってきた短剣を掴みながら、狭い喫茶店の個室でマフラーを振り回し、レクチャードールをメフルザードにぶち当てた。
乱暴だけど、これで充分。
「おやおや。これは驚いた」
マリオットのように、マフラーに翻弄されていたレクチャードール。
胸の宝石がメフルザードに触れ、四肢に力が入り大地に立つ。
スイッチが入った。
マフラーの戒めが解かれたレクチャードールは、軽いステップで。しかし、目にも止まらぬ速さでメフルザードへ突進した。
レスリングのような低い姿勢からの高速タックル。
それを見て、真祖は目を丸くした。同時に、驚きではなく愉悦に唇を歪める。
「これ僕だ。へえ……ほんとに手品だねぇ」
感心するかのように――実際感心して、メフルザードはレクチャードールの組付きをさばいた。人形の手を打ち払い、逆に首を掴もうとした手を叩き落とされる。レスリングに似た動き。
なにをやってくるか理解しているというのか、まるで演舞でも見ているかのように息が合った動きだ。
「今さら卑怯とは言わないでしょう?」
「言ったら勘弁してもらえるかなぁ?」
「真祖は勇敢に戦い散ったと、子々孫々に語り継ぐわ」
「ひどっ!? 問答無用だ!」
後ろに回ったカイラさんが、マフラーも含めて三本の【カラドゥアス】でメフルザードを攻め立てる。
二対一。
レクチャードールの組みつきに対応しながら、三刀流の攻撃に身を晒すメフルザード。にもかかわらず、微妙に間合いを外しかすり傷も負わない。
おいおいおい。死なねえうえに、回避も上手いのかよ。最低だな、こいつ。というか、HP高い回避型ボスとか一番やっちゃいけねえやつだろ。
「心の底から、厄介ね」
カイラさんが、速度を上げた。
ここまでくると、エンハンスポーションで動体視力も強化されているはずなのに、なにをやっているのかよく分からない。気分は天下一武道会のアナウンサーだ。
さすがにメフルザードも回避しきれなくなって、血煙が舞う。
でも、さすがに限界だというのは分かる。
ここで、俺が――
「お兄さん、ちょっと大人しくしてもらえるかな?」
「くっ」
視線を向けられた瞬間。その一瞬で、俺は動けなくなった。
吸血鬼の魅了の魔眼というやつか? いや、別に黒髪褐色美形ショタ真祖吸血鬼への感情は変わってない。
だが、動けない。
――俺の体は。
「起動済みの《踊る水》は、普通に動かせますから」
「妖精が本体だったの!? って、《威圧》でお兄さん喋れないんじゃん!」
むしろそっちが失策だったと言わんばかりに、メフルザードの動きが固まる。
その頭から、《踊る水》で操作したシルバーブラッドがコントみたいに降り注いだ。
だが、結果は笑い話じゃ済まない。
メフルザードの全身が、燃えたように白煙が立ち上った。
「くふっ、くははははははっ。数多の血を飲み干してきた僕も、同胞の血は効くみたいだ」
褐色の肌が焼けただれ、服も溶ける。カイラさんがつけた傷痕からシルバーブラッドが染みこみ、集中が切れたのか。俺への重圧も、なくなっていた。
初めて効いた! いける! 無敵でも無謬でもない!
「感謝するよ、僕に吸血鬼だということを思い出させてくれて」
全身から煙を吹き出させながら、メフルザードはギアを一段上げた。
「殺せない。人形じゃあ、僕は殺せないよ」
笑顔とは、本来攻撃的なものである。
それを実証するかのように、メフルザードは満面の笑みを浮かべてレクチャードールに抱きつく。
そして、そのまま抱き潰した。
力をなくしたレクチャードールが、へなへなと崩れ落ちる。
怪力ってレベルじゃねえ。無茶苦茶だ、吸血鬼。
「自分は、絶対に死なないと思っているのかしら?」
「もちろん」
その隙をカイラさんが逃すはずもなく、首、右肩、左膝が光の刃で同時に切り裂かれた。間欠泉のように血が噴き出し、首と腕と足がスライドして地に落ちる――が。
「やっぱり、心臓から潰すべきだよね」
「目立ちたくないんじゃないのかよ!? こんなシーン見られたら、一発でアウトだぞ」
「だから、僕の店でやってるんじゃあないか」
返事は、地面の首から聞こえてきた。
メフルザードは、片手片足首なしで、こっちへと向かってくる。ゾンビアクションかよ! あと、俺は別にパーティの心臓とかじゃないぞ! 本條さんに行かれるより、全然いいけど!
「させるわけが――」
「――白いお姉さんは、僕の相手をしていて」
残った首と手と足が浮遊し、カイラさんの前に立ち塞がった。いや、立ってないけど。とにかく、頭が犬歯をむき出しにして噛みつこうとし、対処に迫られる。
「この程度っ」
傷つくことも厭わずカイラさんがメフルザードの残骸をさらに細切れにするが、その間に本体はこっちに肉薄している。
「本條さんは、そのままで!」
姿は見えないが動く気配がしたので、大声で警告。
この状態は、本條さんのビジョンとは違う。まだ動くべきじゃない。俺は大丈夫。
ミラージュマントとエンハンスポーションの効果を信じて避けるか。
それとも、《渦動の障壁》に任せて耐えるか。
選択肢だって残されている。
俺は後者を選択し――結果として、それは失敗だった。
「がはっ」
細い褐色の腕が一発で《渦動の障壁》をぶち破り、俺の胸を貫いていた。
――というのは錯覚で、実際には、《渦動の障壁》がバリアみたいに割れただけ。
そして、片手片足首なしのメフルザードが……目の前にって、もう、再生してやがる。
「ミナギくん!?」
「秋也さん!!」
カイラさんだけでなく、本條さんまで悲鳴をあげる。なんとか、片手を上げて無事を知らせるのが精一杯。
「オーナー、今のでスケープゴートが燃え尽きました!」
あ、やっぱ俺は一回死んでたらしい。《渦動の障壁》ごと、致命傷を受けていたようだ。もしかしたら、一回の攻撃じゃなかったのかもしれない。
にしても、ヴェインクラルだって貫けなかったんだぜ?
なのに……これは……。
ああ、もう。やだやだ。冗談じゃない。こんなの付き合ってられるかよ!
「お願いします!」
(承知)
ずっとお守りみたいに握っていた剣の欠片を、指輪に当てた。吸血鬼の真祖に対し、避けようのないショートレンジから元失墜の聖騎士を召喚。
白い鎧の光り輝く聖騎士が、枝刃のついた大剣を振りかぶって虚空に出現した。
(《降魔の突進》)
「やっぱりね、なにかあると思ってたよ!」
いつの間にか五体満足に戻っていたメフルザードが、取っておいたらしい霧化を発動。気体となって刃をやり過ごす――ことはできなかった。
(我が刃に、斬れぬ悪なし)
彼女の刃は、霧自体を両断。
「ぐっ、あああああああぁぁぁぁっっっ」
(ご武運を――)
どこから発せられたのか分からない悲鳴を一顧だにせず、聖騎士は刃に戻った。
「次から次へと、まったくびっくり箱だね」
今時聞かねえな、びっくり箱とか。
というか、当たり前のように生きてやがるし……。
再生した瞬間さえ分からないほど平然と復活したメフルザードに対し、カイラさんが再び【カラドゥアス】を振るう。
やはり、カイラさんはすごい。
今度は、四肢と首を切り離されただけでなく、胴体まで両断された。
「いい加減、しつこいわ」
光の剣ってことは、天属性だろ? これはさすがに……あ、そうか……。
ここで、俺は致命的な勘違いに気付いた。
メフルザード。
強力な力を持つ吸血鬼の真祖。
カイラさんの不意打ちの一撃に耐えきる、まさに不死の存在。
そう思っていた。
でも、不死は不死でも、こいつ、RPGみたいなHP制じゃねえ。
シューティングみたいな残機制なんだ――
「気付いちゃった? ちょっと、遅かったかも?」
「ぐあっっ」
いっ、てえええええええええええ……。
痛みの源――胸を見たら、カイラさんに切り裂かれた腕の一本が、俺の胸を貫いていた。
今度は、本当に。
「ミナギくん!? なんて、やっかいな!」
「オーナー!? オーナー!?」
大丈夫。《ポーション効果遅延》で事前に飲んでいたヒーリングポーションがある。その証拠に、痛みは一瞬で引いた。血も、もう、出ていない。
腕は刺さったままだけど……。
「なんだ? お兄さん、お仲間だったの?」
いつまで経っても死なない俺に、とんでもない言いがかりを付けるメフルザード。
ばらばらに散らばる真祖に、カイラさんがシルバーブラッドを叩き付け、完全に消滅させた。
……それじゃ、ダメだ。
メフルザードは、まだ残ってる。俺に刺さってる分が。
「いやはや、人生はエキサイティングだね」
驚かなかった。
俺に生えた腕から、メフルザードが再生しても当然と受け止めた。
でも、ヤツの狙いには落ち着いてなどいられなかった。
「そのタブレット、まさかダミーってわけじゃないでしょ?」
メフルザードは俺から腕を抜き、
空いた風穴が再生し、
血塗れの腕を振り上げ、
迫る三本の【カラドゥアス】に切り裂かれながら、
尖った中指一本がミサイルのように飛び……
エクスを――
「エクス!?」
「オーナー!? オーナー!?」
俺の意識は、そこで暗転した。