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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
77/225

77.薄闇の告白

 きらきらは、魔法を使って解消してもらうことにした。


「天を三単位、幻を三単位。加えて地を二単位。理を持って配合し、我らの姿を隠蔽す――かくあれかし」


 初めて会ったときに使った光学迷彩魔法で、姿が風景に溶けた。

 俺たちは相互に見えるが、この場にいるカイラさんからは知覚できなくなった。


「確かに、認識しづらくなっているわね」


 ……はずなんだけどなぁ?


「どうして見えるの……?」

「集中すれば、分かるわよ」


 なんでもないことのように、カイラさんはあっさりと言った。誇らしげに、尻尾をふぁっさふぁっささせているのはご愛敬。


 ニンジャすごい。ニンジャなんでもできる。


「視覚にだけ頼っていないと、分かってしまうのですね」

「ゾンビもどきもそうだったしな」


 こりゃ、メフルザードには通用しないかな。


「目くらましにはなると思うわよ」

「使い所を考えよう……ってところか」


 たとえば、ゴブリンの洞窟とか。結局行かなかったけど、ギルマンの本拠地とか。そういう所への潜入には役立つはずだ。ステルスアクションみたいになるけど。


「いいじゃないですか、きらきらは消費できたんですから」

「ああ。元々、そっちが目的だったもんな」

「どうせ、途中でまたきらきらしそうですけどね!」


 エクスの言う通りなんだけど。

 そうなると、解決策はひとつしかなくなる。


「それなら指輪を外すしかないんじゃ……」

「それはだめです!」


 思ったよりも大きな声に、びっくりしてしまった。

 まあ、一番驚いているのは、他ならぬ本條さんっぽいけど


「ええと……そうです! はぐれた場合に、お互いの位置が分からなくなるので」


 そういえば、そんな機能もあったな。パーティ分断されたことないから、すっかり忘れていた。もちろん、そんなことはないに越したことはないんだが……。


 はぐれたときに、指輪を着ければいいのでは?


 などとは言えず、きらきら問題を抱えたまま、街に行くことになった。


 移動には、どうせ周囲からは見えないしとフェニックスウィングを使った。というか、他に移動手段がない。いっそ、馬車とか買ったほうがいいのかも。


 今はどうしようもないので、いつも通り俺は前に乗り、その後ろに密着する形で本條さん。

 そう。いつも通りなので、対策は万全だ。


 運転はエクスに任せ、俺は心の中で武技言語を唱えていた。我は無敵なり。


 そうして、あっという間にグライトの中心街に到着。クルダの修練闘士(セヴァール)は不敗だからね。当然だね。

 物陰でフェニックスウィングから降りて《ホールディングバッグ》に戻した頃には、光学迷彩魔法も解けていた。


 通りに出て、改めて目の前の光景を心に刻む。


 いかにも異世界らしい、石造りの町並み。

 城壁はもちろん、道も建物も石でできた光景は、まず日本じゃお目にかかれない。ゲーマーとしては、何度見ても感動してしまう。


 リアル中世のように不衛生ということもないし、栄えてる辺りだからというだけかもしれないが、治安だって悪くはない。


 いくつかある広場の中でも最大のここは、露店が並んでいるほか、広場を囲むように店舗も存在している。小売という意味では一番だ。


 それを証明するかのように、人通りも多い。


 やっぱり、人間以外の異種族の姿はないが、行き交う人たちは外国人と一言で済ますことのできない容貌をしている。

 しかも、髪も肌も結構カラフルなのに違和感がないんだよな。昔、友人がとある格ゲーキャラに憧れて髪を真っ赤にしたときには違和感しかなかったのに。


 日本じゃない場所……異世界にいるんだなぁ。


 当たり前なのに、しみじみと感じてしまった。


「それでは、エクスは引っ込んでますね。あとは若い二人でどうぞ」

「一番若いのはエクスだろ」


 そんな感傷を台無しにするエクス。

 しかし、正論は無力だ。


「さよなら、さよなら……さよなら」


 二回目と三回目の間に一拍空けて、エクスはフェードアウトした。ほら、そのネタ、本條さんにまったく通じてないぞ!


「…………」

「…………」


 しばし無言で顔を見合わすが、エクスが出てくることはない。これじゃ、俺が眼福だっただけだ。


「……行こうか」

「行きましょう」


 そういうことになった。


 とはいえ、当てはない。鞄を買って即帰るというパターンは封じられてしまったので、目的を見失っている。今俺は、雰囲気で買い物をしている。


 いったい、どこに行けばいいのか? まずは、服でも見に行くべきなのだろうか?


 ……服か。


「そういえば、その服って……」

「せっかくだからと、カイラさんが用意してくれまして」


 どっから用意をしたのかと疑問を感じたが、まあ、コネとか伝手があったんだろう。むしろ、ないはずがない。


 完全にサイズぴったりなのは、気にならなくもないけど。


「変じゃないですよね?」

「とんでもない」


 さっき褒め方が足りなかったのか。ちょっと不安そうに聞いてくる。

 本條さんにディアンドルは、こう……シモ・ヘイヘにモシン・ナガンって感じだ。


 なので、否定するのは簡単なことなんだけど……。


「また、きらきらしない?」

「あっ……」


 それで、本條さんは俺が言いたかったことに気づいてくれた。


「セーフだ」

「良かったです……」


 安堵の表情を浮かべている本條さん。


 おちおち感想も言えないこんな仕様じゃ。やっぱ、《勇者の祝福》に回数制限か、任意で発動するか選べる機能を実装すべきじゃない?


 いつまでもこんなんじゃ、本條さんのディアンドルが気になって仕方がない。早く移動しよう。


 と、周囲を見回したところ、看板が目に入った。


 もちろん、この辺には看板なんかいくらでもある。だから、目に付いたのには特別な理由がある。


「あれ、本屋の看板じゃないかな?」

「本屋さんですか!?」


 超反応で、めっちゃいい笑顔を見せる本條さん。

 いろいろ心配になりつつ、俺は少し先にある看板を指さす。


 そこには、大きな本とそれを一緒に読む姉弟が描かれていた。実に、SNS映えしそうな看板である。


「本屋さん……異世界の本屋さん……」

「せっかくだし、書斎に入れる本を見繕うのはどうだろう?」

「……そう……いえ……ですね。いつまでも書斎が空っぽでは、見栄えが悪いですものね。ええ、見栄えが」

「そうだね」


 別に、そんなごまかす必要はないんだが……まあ、いくらお金があっても趣味の買い物には理由が必要なんだよね。


「空っぽの本棚じゃ、寂しいもんな」


 というわけで、看板のほうへ移動し店へ入る。


 扉を開けると、本特有の匂いが鼻を突く。でも、不快ではない。神保町の古書店に迷い込んだときのことを思い出す。

 次に目に入ったのは、書庫のように本棚が並んでいる光景。高級品だからか、かなり丁寧に扱われていた。


 一番奥に、店主だろう。眼鏡をかけた老人が机を前にして座っている。こちらを一瞥した後は、手元の本に目を戻した。


 無愛想? こういうのでいいんだよ、こういうので。


 外からの光は入ってこず、火は御法度なのかランタンもない。代わりに、本條さんがよく使う光球が使われていたが、魔法の光は貴重なのか光源は少なかった。


 薄暗い室内。


 それが逆に、そそる(・・・)


「…………」


 本條さんも、店内を見回しそわそわしている。遊園地にいる、小さな子供みたいだ。


「勝手に見て回っていいのでしょうか?」

「大丈夫でしょ」


 図書館でもないのに、小声でひそひそと語り合う俺たち。

 特になにも言われていないし、店の奥で眼鏡をかけた老店主も一応こっちに注意は払ってるだろうし、問題はないはず。


「そうですよね」


 俺の安請け合いに勇気づけられ、本條さんが手近な本棚へと向かっていく。最初に取り出したのは、百科事典ぐらいありそうな分厚い本。


 表紙には、立派な帆船が描かれている。だが、船の本というわけじゃあないようだ。


「草原の種族による、世界旅行記……」


 タイトルをつぶやき、ぱらぱらとページをめくる。

 集中していないので内容は分からなかったが、なかなか読み応えがありそうだ。


 同じ結論に至ったのか、本條さんがぱたりと本を閉じる。


「ふぅ……」


 その恍惚とした表情で、だいたい察した。


「買う?」

「お願いします」


 惑いなし。

 まあ、資金はかなりあるので、相場は分からないけど何冊買っても問題はない。


 問題は、カイラさんから渡されたお金ってことかなー。


 もちろん、元は水の精霊殿を解放したときの宝箱が出元なので、別にヒモになったわけではない。天体戦士でもない。


 そう若干の自己弁護をしている間に、本條さんは次の本に移動していた。


「動物誌と植物誌ですか……。全部で何十巻もありますね」

「でも、それは参考になるかも」

「プリニウスの博物誌は誤りも多いですが……参考にする分には問題ないでしょうね」


 購入リスト入り。


「これは、神学に関する本のようです」

「買っちゃおう」


 手当たり次第に購入リスト入りさせていった。

 途中までは俺が持っていたが、早々に諦めた。


「本、好きなんだな」

「はい。もう、空気と同じようなものです」


 めっちゃいい笑顔で、本條さんが答えた。

 この笑顔を見れるのならいくら金貨を払ってもいいと、思う人もたくさんいるだろう。


 実際は、単なる愛書狂(ビブリオマニア)なんだが。


 ……まあ、そういうところもいいとは思うけどね。


「でも、今は秋也さんも同じぐらい好きです」

「そうなんだ……俺が……え?」


 一時期流行った難聴主人公のように、聞き取れなかったわけじゃあない。

 聞こえていた。

 聞こえていたが、それを文字通り理解することはできなかった。


「秋也さん」


 本に夢中になっていたはずの本條さんが、その瞳をこちらに向けていた。

 俺は、口をパクパクさせることすらできず、かといって、目を逸らすこともできない。


「今の、嘘とか冗談とか聞き間違いではありませんから」

「あ、うん」

「好きです」


 ストラップで固定していたのに、思わず、タブレットを落としそうになった。

 ヴェインクラルでも、メフルザードでも、失墜の聖騎士(ネフィリムガード)でも、そんなことは起こらなかったのに。


「もちろん親愛もありますが、一人の男性として好き……愛しています」


 ……いつの間に、こんな好感度が?


 いやいやいや。


 ギャルゲーじゃないんだから、リアルで好感度とかあるわけないだろ。それよりも、どこで選択肢を間違えた。いや、正解の選択肢を選んだ……って。


 いやいやいやいやいや。


 リアルで選択肢とかないから。


 こんらんしている。


「返事は結構ですから。私が伝えたかっただけですので」

「あ、そうなんだ……」


 そう言って、本條さんは別の本棚へと小走りで移動した。

 照れ隠しなのか、ガチで次の本を探しているのか……両方か。


 俺はその後ろ姿を眺めつつ、『ラブコメで告白したのに返事を聞かないのは、大抵悪手なんだよな……』と、現実逃避していた。


 そうしないと、思わず、うなずいてしまいそうだったから。


 それくらい、完全な奇襲で。

 それくらい、あのときの本條さんは魅力的だった。


 年の差を、忘れてしまうほどに。


 ……あっぶねええええええええええっっっっっっっ。

タブレットの中のエクス「綾乃ちゃんは、やるときはやる子だって信じてました(ドヤァ)」


PCなんとか起動したのですが、かなり作業時間が削られてしまいました。

申し訳ないですが、一回スキップして次回は土曜日の更新とさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 返事は大丈夫です。 最近、大丈夫、を否定の意味で使うというおかしな風潮があるそうですが、これだけ本を愛している良い所のお嬢様がそんな言い方するでしょうか。
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