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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
70/225

70.ログインボーナス

「なるほど。《ホールディングバッグ》を重複取得した場合、容量を倍にするかバッグ……アイテムの出入り口を増やすか選べるわけか」

「そういうことのようですね。ただし、中身は共通ですが」


 それはある意味メリットとも言えるような気がしないでもない。離れていても、倉庫を共用できるわけだからね。

 少なくとも、容量がいっぱいいっぱいになるまでは、明確なデメリットとは言えない。


「スキル被りでテンションだだ下がったけど、外れではなかったか」

「本当に、神引きでしたね」


 でも、二度と引かないぞ。調子に乗って引くと、爆死が待ってるんだ。俺は詳しいんだ。


「となると、《水行師》とかも重複取得の特典があったりするのかもだな」


 とはいえ、確かめるために石を50,000個も消費できない。

 それだけあったら、《中級鑑定》を取るに決まっている。ガチャでも出なかったからな、鑑定シリーズ。


 自分の意志でつかみ取れ!


 ということらしい。頑張ろう。


「それで、オーナー。どっちにします?」

「それはもちろん、バッグを増やすよ」

「即答ですねぇ。ちょっと意外です」

「そうか? だって、容量を増やしてもカニを入れるしかないだろ」

「他にもっとあると思うんですけど……」


 そう言うエクスも、否定はしなかった。

 つまり、そういうことだ。


「というわけで、本條さんのバッグを《ホールディングバッグ》にしたいと思う」

「私ですか? カイラさんではなく?」

「その魔道書、普段は仕舞っておいたほうがいいよね?」

「確かに、ずっと出しっ放しでは傷んでしまうかもしれません」


 外観の話をしてるんだよなぁ。

 誰もツッコまないというか、俺が見て見ぬ振りをしているだけだけど、その魔道書めっちゃ怪しいからね? 持ち歩くとか、普通にあり得ないレベルだからね?


「指定するバッグは、なんでもいいのでしょうか?」

「そうですね。ただし、あんまり口が小さいと出し入れできない物も出てきますよ」

「分かりました。秋也さん、今度お買い物に付き合ってください」

「……まあ、そういうことなら」


 さすがに、勝手に買ってきてというのは気が咎める。

 日本じゃなくて、こっちでならセーフだろ。ギリギリ、なんとか。いや、お巡りさんに捕まらないというだけで、倫理的にはどっちもアウト?


「今の話をまとめると、アヤノさんはシュークリームを食べ放題なのね。シュークリームを」

「食べませんよ!?」


 きらきらしているカイラさんが、からかうように言った。


 そう。

 カイラさんは今朝もきらきらしている。


 言うまでもなく、朝っぱらから《勇者の祝福》させられたのだ。どんな羞恥プレイだ。

 もちろん、昼や夜なら構わないという意味じゃないけど……早晩、俺のボキャブラリーは尽き果てるものと思われる。


 ちなみに、本條さんからは遠慮された。


 これが普通の感性だよね。そう思うだろ、あんたも!


「なあ、現実逃避は終わりでええか?」

「あ、はい」


 唐突に発せられたリディアさんからの一言で、俺たちは現実に引き戻された。

 まあ、唐突に感じられたのはこっちだけで、リディアさんは日の光の下、辛抱強く待ってくれていたわけだが。


 例の片眼鏡(モノクル)で耐性はあるとはいえ、大変申し訳ない。


 というわけで、ガチャを引いたり、いろいろあった翌朝。

 俺たちは屋敷の庭にいた。


 なぜか?


 眠っている間に木が生えてきたから。


 昨日、世界樹の種を埋めたところ……というか埋まっていった場所に、木が生えていたから。


 夏休みの宿題として観察日記を提出したら、問答無用で再提出を命じられるレベル。

 ところがどっこい、これが現実。


「現実なんだよなぁ……」

「私が変なことを言ったばっかりに……」

「いや、それは関係ないでしょ」


 実際、本條さんが言ったジャックと豆の木にはほど遠い。

 高さは、俺の身長と同じぐらい。幹も細い若木といった感じだ。


 もっとでっかくなるぐらいの予想はしていたので、これだけなら全然許容範囲内だった。


「でも、一晩でこれは異常よ?」

「まあね」


 ここからは成長が緩やかになってくれると嬉しいけど、こればっかりは分からない。

 というか、世話とかどうすればいいんだ。


「しっかし、世界樹の種から生えたのがこの木……ということは、これも世界樹ってことになるんやなぁ」

「その辺、ポーション職人的に分かったりする?」

「ふっ。ウチを誰だと思っとるんや」


 リディアさんが、片眼鏡(モノクル)をクイっとしてから言った。


「引きこもりの吸血鬼に、なにを求めとるん?」

「ですよねー」


 うちのパーティ、脳筋寄りかつ世間知らずばかりということが判明した。


「ウチに言えるのは、葉っぱとか樹皮とか枝とか、これポーションの素材にしたらどないなことになるんやろなということだけや」

「……もしかして、売ったら一財産なのでは?」

「エルフにケンカ売りたいんやったら、構わへんけどな」


 はい。解散。リディア先生の次回作にご期待ください。

 ちなみに、三回打ちきりを受けると、次回作にご期待くださいとすら書かれなくなるらしいぞ。


 まあ、その辺は今はいいんだ。


 それよりも、差し迫った問題がある。


「問題は、この実をどうするかですねぇ」

「実ってことは、食べられるんだよなぁ」


 そして、種もあるはず。

 放置したら腐って地面に落ち世界樹の種がまた芽吹いたり、鳥が運んでいったりするわけだ。


「とりあえず、収穫してみる……?」

「なんなら、ウチがやろうか? そうそう死なへんし」

「そこまで警戒するものでもないでしょ」


 つるっとした、メロンからしわを取ったような果実。

 特にいい匂いがするというわけではないが、逆に、警戒する要素もない。


 俺はカイラさんを目で制してから果実へと手を伸ばし……。


 その瞬間、勝手に実が落ちてきた。


 まるで計ったようなタイミング。自然と俺の手の中に収まっていた。結構重たいな、これ。


「ニュートンかな?」

「ニュートンは重力を自在に操る能力者じゃないですよ」


 ニュートンは……光速の異名を持ってなかったっけ……?


 とか言っていると、果実がぱかっと真ん中から割れた。どういう原理だよ。


 中には……。


「金……のナイフ? いや、なんで金だよ」

「ナイフのほうも、大概だと思うわよ?」

「なんだか、メルヘンチックですね」


 確かに、実の中からなにかが出てくるのって童話っぽいと言えなくもないし、桃太郎が出てくるよりはましだけど……。


 って、いやいや。まだこれが本物の金とは限らない。


「エクス、《初級鑑定》して?」

「えーと……。金貨100枚だそうです」


 金貨1枚がだいたい5,000円から10,000円だったから……50~100万円相当ですか。そうですか。


 本物だった。


「単なる装飾品の類ね」

「とはいえ、それでも金貨100枚は……」

「……で、同じような実があと四つあるわけだが」


 この意味が分かるな?


「世界樹の根元には、神々の財宝が埋まっている……という伝説は聞いたことがあるけれど」

「埋蔵金のお裾分けなの?」

「北欧神話には、そういう話はなかったと思いますけど……」

「うん」


 本條さんの言葉に相槌を打ちながら、黄金のナイフを《ホールディングバッグ》に仕舞った。証拠隠滅だ。


「では、オーナー。覚悟を決めて残りを収穫しましょう」

「中身が分かってるから、安心ではあるか」


 と、軽い気持ちで果実に手を伸ばすと同じように勝手に落ちてきて、中身が……。


 中身が……。


「そば?」


 中身は、そば……。


 なぜそば? かけそばだ。


 つゆの食欲を刺激する香りが湯気に乗って鼻腔を刺激する。

 なぜか、綺麗な黄色の卵焼きがそばの具として乗っていた。珍しいが、結構、美味しそうだな……。


「いや、美味しそうだなじゃない」


 世界樹(推定)の実からかけそばが出てくるとか、どういう状況だ。引っ越しそばなの? それとも、日本誕生しちゃうの?


「ちょっとお願い」

「ええ」


 カイラさんにメロン容器のかけそばを押しつけて、他の実を収穫していくが……。


 全部そばだった。


「秋也さん。朝ご飯に、ちょうどいいですね」

「朝からそばって、なんだかサラリーマンっぽいよな」

「二人とも、微妙な現実逃避ですねぇ……」


 だって、どうしろと。

 金のナイフも大概だけど、そばだよ。そば。食べ物を粗末にはできない。食べるしかないだろ。


「なあ、ミナギはん」

「ん?」

「ウチにも一個くれへん?」

「それは別にいいけど……四つあるし……」


 血しか飲まないって言ってなかった? 食べられるの?


「これは、食べられるような気がするわ」

「じゃあ……」


 キャンプ用品のフォークを《ホールディングバッグ》から取り出し、リディアさんに渡した。

 片眼鏡の吸血鬼さんは、器用にくるっと麺を巻いて口に運ぶ。庭で立ち食いスタイルだ。


 吸血鬼。

 朝から庭で。

 立ち食いだ。


 ちょっともう、これ意味が分かんねえな。


「うまっ」


 俺の心の俳句を余所に、リディアさんは舌鼓を打っていた……どころか、猛烈な勢いで食べきってしまった。

 つゆの一滴も、残っていない。


「はあぁ……。これ、めっちゃ美味いやん」

「それは良かった……でいいの?」

「私に聞かれても」


 カイラさんも困惑気味である。

 そりゃそうだ。


「これはたぶん、ネクタルの類やね」


 ネクタル。ネクターとも。

 不老長寿をもたらすという神々の飲み物。


「そばつゆが?」

「つゆだけでなく、まあ、このそば? っちゅー食べ物がやね」

「つまり、どういうこと?」


 空になった実を片手に、リディアさんはドヤ顔で続ける。


「毒や病気を退け、精神的にも充実し、老化は緩やかになり美容にもいい。しかも、吸血鬼でも食べられる完全食ということやな」

「美容……ですか」

「それは重要ね」

「はい」


 いや、お二人は気にする必要ないんじゃない?

 というか、他にもっと重要なところあったよね?


「ところで、これ毎朝実を付けるんでしょうか?」

「もしそうなったら……」


 毎朝健康な食事と、一財産がもたらされる。

 現実にログインボーナスが来たら、こんな感じ……なのか……?

神引きの結果、ログインボーナスが実装されました。


《ホールディングバッグ》

効果:再購入した場合、収納量を倍にするか、もうひとつのバッグを指定して収納口を増やすことができる。

   ただし、後者の場合収納量と物品は共通となる。


【世界樹の種】

価格:購入不可

等級:神話級

種別:?

解説:??????????????????

   ??????は下記のスキルを使用する。


《生命の実》

解説:世界樹に生る実は、生命力の宝庫である。

   実を口にすることで、その日の間あらゆる病と毒を退ける。

   老化は緩やかになり、精神的にも充実する。

   また実を口にした者のその日の行いに有利(1)を与える。


《財宝の実》

解説:世界樹の根本には、神々の財宝が眠っている。

   世界樹は、毎日異なる財宝が実を付ける。その価値は様々。

   この実は、収穫をしないと翌朝には消滅する。


《????》

解説:現段階では使用できない。


《?????》

解説:現段階では使用できない。

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