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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
65/225

65.チョーカー・オブ・エンジェルブレッシング

お休みして申し訳ありませんでした。

ストックがほぼ完全になくなったので不意にお休みを頂く可能性もありますが、再開します。


また、活動報告へのお見舞いありがとうございました。

それから、誤字報告も助かってます。

「いやぁ。これで宿なし家なしは避けられたわ。ありがとな」

「まだ、給料とか、その辺の条件を詰めてないんだけど?」

勇者(アインヘリアル)はん……いや、ミナギはんなら、悪いようにはせえへんやろ?」

「もちろんです。オーナーはすべてのブラック労働者の味方ですからね」


 味方というか、そのものなんですけどね。え? 有給って病欠以外で取得できるんですか!?


「ミナギくんは気にしなくていいわ。細かいところは私が処理をするから」

「全部丸投げってのも悪い気がするんだけど……」

「私では信用できない?」

「まさか」


 相手がカイラさんだったら、謀反を起こされても是非もなしと腹を切る。いや、別に、家臣ってわけじゃないけどね。仲間だよ、仲間。


「じゃあ、労働条件はカイラさんに任せるとして……」

「任されたわ」

「そういえば、ポーション作りにもそれなりの設備が必要だったりするんじゃない?」


 まさか、錬金台ひとつで全部賄えるとかそういうものじゃないだろう。


「その程度、薬師ギルドに言えば大喜びで揃えてくれるわよ」

「せやな」


 補償金は受け取り拒否だが、こっちはいいらしい。


 あえて分類するなら、自立支援だからかな。

 うん。立派な福祉事業だよね。


 ……だから、厄ネタを一ヶ所にまとめてられて向こうも嬉しいとか、そういうことではないはずだ。


 それに、ほら。実現したら、吸血鬼の秘密工房になるわけだよ。


 うん。とてもいい響きじゃあないか。トレメール氏族が妖しい儀式してたり、ツィミーシィが人体改造してそうでいい。


「申し訳ありません。私は、ポーションは詳しくないのですが、具体的にどういったお薬? になるのでしょうか?」


 と、悦に入っている俺とは対照的に、本條さんが極めて真っ当な確認をしてくれた。


 この中で一番若いのに、しっかりしてるなぁ。

 もちろん、本條さんだけでなくカイラさんもエクスも頼りになるし……。


 俺の外付け諮問機関、優秀すぎない?


「そうやね……。単純に負傷を治療するヒーリングポーション。それから、精神力を回復するマジックポーション。毒への耐性を得るアンチポイズンが基本やな」

「毒消しじゃないんだ」

「最初から毒にかからんほうがええやろ」


 ごもっとも。


「あとは、身体能力が上昇するエンハンスポーション」

「それは、カイラさん用だな」

「むしろ、ミナギくんやアヤノさんの底上げをしたほうがいいのではないかしら」

「それから、いい具合に疲労がポンッと飛ぶ――」

「それ以上いけない」


 ほんと、ダメ絶対。


「あとは、武器や防具に塗布するオイルの類もあるんやけど……まあ、ミナギはんたちには必要なさそうやな」

「そうね。あっても邪魔にはならないでしょうけど」


 使い所は思い浮かばないな。


「もっとも、一番必要なのはウチの血やろね」

「感謝する……けど、この展開を狙ってたんなら、前に無理矢理渡さなくても良かったんじゃ?」

「この展開を狙っとったから、強引に押しつけたんやない」


 恩を売る作戦だったのか。

 結果から言うと、成功だったんだろう。無能なスポーツライター並の感想ではあるが。


「相手の強さによっては、効果アップさせたるで」

「強さ……ですか……」

「とりあえず、日光はまったく気にしていなかったな」

「それから、体を真っ二つにされても平気な顔で再生してたわね」

「……ウチ、帰ってええ?」


 どこへ行こうというのかね?


「完全にバケモノやん。吸血鬼の本能が、めちゃくちゃ警告しとるわ」

「それほど……ですか……」

「分かりきっていることではあるわね」


 本條さんは責任を感じ、カイラさんは動じない。まあ、確かに今さらだよね。


「メフルザードが強くても弱くてもバケモノでも、やることは変わんないさ。勝利の女神からお告げは下ってるんだし大丈夫だよ」

「秋也さん……」


 いや、そんなキラキラした目で見ないで。

 フォローしたのは確かだけど、そんな大したことじゃないから。


 あと、エクスもニヤニヤしない!


「とりあえず、ウチの血に魔力を注ぎ、聖水、銀の粉末、大蒜の抽出液を配合して……という感じでいい具合にやってみるわ」

「それは嬉しいけど、いいの?」

「同族なのにって? 気にすることあらへんわ」


 リディアさんが、なんでもないと顔の前で手を横に振る。


「なにしろ、ウチは他の同族に会った記憶があらへんからな!」

「……ほら、吸血鬼同士って、あんまり仲が良くないイメージあるし? 事情が事情だし、ぼっちってわけでもさ?」

「慰めなんざ、聞きたくないわー」


 リディアさんが泣いた。


「まあ、それはともかく」


 嘘泣きだった。知ってた。


「気軽に実験できんのが難点やけどな」

「そりゃそうだ」

「少し覚悟を決めて、自分に使えばええだけなんやけどな!」

「本人はいいかもしれないけど、ブラック過ぎて引くわ!」


 俺が大声でツッコミを入れると、リディアさんはからからと笑った。

 さてはこれを持ちネタにするつもりだな。


「あの……。そういうのは、やめてください。発端である私が言うのはなんですが、自分を大切にしてください」

「あ、はい」


 リディアさんがエセ関西弁を放り出して真顔になった瞬間、通知音がリビングに響き渡った。


「久々に実績解除ですよ、オーナー」

「いろいろあったのに、なんでこのタイミングで」

「どうやら、そのいろいろをまとめて……ということのようですね」


 エクスに言われて、タブレットの画面を見る。

 そこには――


『クエスト:港町の吸血鬼が完了しましたのでご連絡いたします。

 おめでとうございます。

 特別な報酬を《ホールディングバッグ》へ転送しました。

 今後の冒険にお役立てください。

[詳細はこちらをタップ]

 それでは、今後ともよろしくお願いいたします。』


 ――と、書かれていた。


「クエスト、クエストねえ……」


 受注した憶えはないんだけど、そういう扱いになったみたいだ。良心的とも言えるけど、それよりも……。


「つまり、リディアさんの動向は運営も気にしてたってことになるよな?」

「そうなりますねぇ」

「う、運営? これ、どういうことなん?」

「神様からの手紙みたいな?」

「はー」


 さすがのリディアさんも驚いたようだ。

 目を丸くして、ソファに軽く全身を投げ出す。


「さすがは勇者(アインヘリアル)やねぇ。神様とか、よう言わんわ」

「まあ、俺も会ったことはないからよく知らないけどね」

「エクスも、土下座されましたので右に同じですね」

「はー」

「神様って土下座をするものなんですか? え? え?」


 最近は、そういうものみたいよ?

 戸惑う本條さんはそっとして、報酬を確認しよう。


「で、今度はなにが送られてきたの?」

「無限砂糖とかかしら?」


 甘味から離れよう? というか、いろいろ相場とか社会が崩壊するわ。


「ひとつは、防具。もうひとつは、便利アイテムのような感じですね」

「便利アイテム? どんなの?」

「じゃあ、ちょっと出しちゃいましょう。《ホールディングバッグ》、ディスペンサーモードで実行します」


 タブレットの液晶画面が光を放ち、リビングの床に落下して人の形を取った。


 そう、人の形――人形だ。


「マネキン……でしょうか?」

「木人――レクチャードール。触れることで起動し、触れた人間よりもほんの少しいい動きをして戦闘の練習相手になってくれるそうです」

「つまり、ウチが触れたら、超クソ雑魚指導員になるわけやな?」

「おいこら、やめろ」


 もし身体能力という意味なら、俺と本條さんもアウトだぞ。


「面白そうね」

「ただし、使えるのは一日一時間だけ。それを過ぎたら、初期化されます」

「一時間はちょっと短いわね……。あと、数体欲しいわ」


 やめてください。アラフォーなんです。死んでしまいます。


「レクチャードールは分かった。次に、防具のほうは?」

「では、オーナー、手を出してください」

「ん?」


 疑問に思いつつ素直に手を出すと、天使っぽいオーナメントが飾られた首輪……チョーカーが出現した。


「チョーカー・オブ・エンジェルブレッシング。待望の天属性防具ですよ! あと、ついでに歌も上手くなります」

「なる、ほ、ど……」


 俺と本條さんの視線が、カイラさんへと注がれる。

 後ろにいたはずなのに超スピードで前に出て、尻尾をばっさばっさと振っているカイラさんへ。


 あ、これダメなヤツだ。


「さ、さすがに首輪はいささか行きすぎなのではないでしょうか?」

「ひゅーひゅー」

「エクスは、特におかしいとは思いませんねぇ」


 ちょっと、だんしー。やめなさいよー。

 って、マジでやめない?


「ミナギくん、お願いね」


 カイラさんが、マフラーを外しながらくるっと回った。

 所有権の主張をスキップして、装着を要求されている。


 いや、俺しか着けられないわけじゃあない。


「ほ、本條さん……」

「分かりまし……ません」


 今、かなりうなずきかけたよね!?


「駄目です。私が代わりに着けたりするのは、駄目なんです」

「いやぁ。ほんま、アットホームで明るい職場やわ」

「でしょう?」


 エクス、でしょうじゃないよ!


「ミナギくん……?」

「あー。はい……」


 俺は覚悟を決めた。決めざるを得なかった。だって、完全に四面楚歌だもん。


 よろよろと立ち上がり、カイラさんの背後から首へ手を回す。

 見れば、わずかに手が震えていた。


「いきますよ」

「どうぞ」


 こういうのは、意識するから駄目なんだ。


 今にも感じそうなカイラさんの体温とか匂いとか柔らかさとかはすべてシャットアウトし、手早くチョーカーを着けてベルトを締めた。

 そう。チョーカーである。断じて首輪ではない。


「きつくない?」

「ええ。大丈夫よ。ありがとう」


 そう言って振り返ったカイラさんの笑顔は、あまりにもまぶしかった。

アイテムデータは後日で(カイラさんが満足しているので、データは不要なのではないだろうか)。

……とか言いつつ、アイテムデータ作成しました。


【チョーカー・オブ・エンジェルブレッシング】

価格:675金貨

等級:英雄級

種別:アクセサリ

効果:天使のオーナメントが飾られたファッション性の高い首輪。

   同期(シンクロ)した着用者が行う歌唱による芸術判定に攻撃に『有利(2)』を与える。

   また、天属性のダメージに対し、『非常に高い耐性』を得る。


【レクチャードール】

価格:4,400金貨

等級:伝説級

種別:その他のマジックアイテム

効果:胸に宝石が埋め込まれた木製のマネキン。

   宝石に触れた者と同じ姿に変化し、同等の身体能力を得る。

   効果は一時間持続し、その間、宝石に触れた者へ自動的に攻撃を続ける。

   ただし、会話はできず魔法など特殊なスキルはコピーできない。

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