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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
64/225

64.インタビューウィズヴァンパイア

「いや、久しぶりやな……って、なんか妖精がおるけど?」

「あー」


 説明が難しいので、エクスは自分から引っ込んでたんだよなぁ。

 ……って、《オートマッピング》でリディアさんが来ることは分かってたはずだから、わざとなのか?


「初めましてと、言っておきましょう。エクスは、オーナーに仕える電子の妖精です」

「電子の妖精……? その銀板の魔道書の妖精かいな」

「イエスアイアム。その理解で構いませんよ」


 軽くお辞儀をしたエクスが、にこやかに答える。

 銀板の魔道書……久しぶりに聞いたフレーズだな。


「そかそか。よろしゅうな」

「こちらこそ」

「あの……。どうしてリディアさんが?」


 ちらりとカイラさんを見てから、本條さんが尋ねた。

 カイラさんが通した以上ちゃんとした理由があるのだろうが、それを計りかねているといった様子。


 まあ、俺はなんか分かっちゃった気がするんだけど……。


「なんや。勇者(アインヘリアル)なのに、察しが悪いやん」

「察したくない可能性を考えてみるのも、悪くないと思うんだけどな」


 まあ、メイド服の時点でかなりあれではある。


「なら、はっきり言うしかないな。……雇ってくれん?」


 はい! 予想通り!

 メイド服が私服って言われなくて、ほっとした……というのは嘘だが、まあ、意外な話ではない。


「ええと……。もしかして、薬師ギルドから追い出されてしまったんですか?」

「いやいや、そんなことはあらへんよ」


 とりあえず、ソファに座ってもらいつつ、事情を聞くことにした。


 ところで、カイラさんは俺の後ろにすっと立ってるんだけど。護衛? 護衛なの?


「そんなことはないけど、気不味うてなぁ」

「それは……」

「さすがに、今までのことを水に流してとはいきませんね!」

「そうや。水問題がきっかけだけにな!」


 はっはっはっと、なぜか一瞬で意気投合するエクスとリディアさん。

 ……もしかして、会わせちゃいけない二人を会わせてしまったのでは?


「かといって、住みやすい古城の心当たりもなし。昨日の今日で、この街に狩場を作るわけにもいかんやろ」

「薬師ギルドから、補償金みたいなのは?」

「断ったわ」

「なんで?」


 片眼鏡(モノクル)の位置を直しながら、リディアさんは微笑んで言う。


「行動の自由はなかったけど、ウチもある意味代価は得とったわけやしな。そんなもん受け取ってしもうたら、完全に被害者ってことになってまうやん」


 それは、吸血鬼としての矜持なのか。

 それとも、ただの人間に過ぎない俺たちには理解できないなにかがあるのか。


 確かなのは、これ以上、部外者がなにか言うべきではないということだけ。


「他に頼るべき縁がなかったのは分かるわ」

「そんな、警戒せんでもええやん」


 リディアさんが、心外やわと肩をすくめる。

 やっぱ護衛のつもりだったんだ、カイラさん。


「本当に警戒しているのなら、ミナギくんの家に入れたりしないわよ」

「それならええわ」

「問題は、あなたにハウスキーパーが務まるのかということよ」

「あー」

「確かに、そうですね……」


 勢いでごまかされそうになったが、薬師ギルドで家事をする機会があったとは思えない。


 三対の不審の視線が、緑髪の吸血鬼を射抜く。


 だが、リディアさんは不敵な笑みを浮かべていた。


「この格好で、家事が不得意に見えるんかいな。掃除も洗濯も料理もお手のもんやで」

「試用期間を設けてもいいですか?」

「血しか飲まん吸血鬼が、料理なんてできるはずないやんっ」

「最悪の開き直りだ」


 ヴァンパイアのメイドって、個人的にはありなんだけど。

 でも、有能に限るんだよなぁ。


 あと、できればクール系で。


「というわけで、リディアさんの今後益々のご活躍を、お祈り申し上げます」

「なんや意味はよく分からんけど、負のオーラを感じるわ」


 そりゃもう、メイドインジャパンの現代呪術だからな。効果は折り紙付きだぜ。

 ほんと、就職活動した時期には……ほんと……ほんとなぁ!


「オーナー。落ち着いてください」

「おれはしょうきにもどった」

「秋也さん……」


 おっと。さすがに、学生さんの前で就職関連の醜態は見せられないぜ。

 俺たちの頃と違って、今は状況がいいはずだからね。いいかい、本條さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。


「オーナーはエクスが幸せにするからいいとして、リディアさんの件、エクスは賛成です」

「エクス? 面白いからってだけで雇っちゃダメだろ。犬や猫を飼うんじゃないんだから」

「いえ、家事以外で役に立ってもらえば、それでいいのではと」

「役に……立つ……?」

「心外やな。めっちゃ、役に立つっちゅーねん」


 カイラさんよりも薄い胸を張って、リディアさんが自己アピール。

 とてもそうは見えないんだけど?


「門前の小僧習わぬ経を読むというやつです」

「あー、そうか。ポーション作れたりするかもしれないのか」

「ん? そんなことで良かったら、いくらでもやるけどな。ウチの血なら、いくら使っても構へんし」

「いや、そこはちゃんと考えてるんで」

「さよか」


 そうなんだよな。運良く今まで無傷できてるけど、実は回復能力がないんだよな。いや、石を使えばわりとどうとでもなったんだろうけど。


 どんなポーションがあるのか分からないけど、これは戦力強化の予感。


「家事も戦闘もできへんから、逆にありがたい話やな」

「そうなの? 吸血鬼なのに?」


 吸血鬼って、とてもとても力が強いんじゃないの?


「ウチなぁ、実は過去の記憶がないんよ」

「それは、記憶喪失的なあれで?」


 あれってどれだよと自分でツッコミを入れそうになるが、それくらい唐突で意外な告白だった。


「せや。ウチはな、難破船の中に安置された棺の中に入ってたらしいわ」

「らしいってことは……」

「うん。棺を開けてこっちを見とる人間たちの顔と、太陽の光。それが、ウチの一番古い記憶や」


 その光景が、鮮烈にまぶたへ浮かぶ。

 でも、気持ちまでは分からない。分かるはずがない。


「名前と、自分が吸血鬼だってことは分かる。でも、なんで船の中におったのかは分からん。その船が、なんで山の頂上にあったのかもな」


 ほんと、なんで山の上……。いくらなんでも、ダイナミック難破過ぎる。


「ノアの箱舟……でしょうか?」

「なるほど。大洪水で山の上に乗り上げた……か」


 ファンタジー世界なら、ありえなくもないの……か?

 そういや、ノアの一族ってやたら長生きなのがいるから、吸血鬼と関連づけられることあるよね。


 あくまでもフィクションだけど、こっちはフィクションがフィクションとして働かない世界なんだよなぁ。


「ま、衰弱しとったところに太陽光を浴びたわけやからな。戦うどころやのうなったわけや」

「あの……。話していただけるのは嬉しいのですが、軽々しく聞いて良かったのでしょうか?」


 本條さんが、痛ましそうに目を伏せる。

 確かに、会って二回目で聞いていい話じゃない。


「いいんじゃないですか? 本人が話したいみたいですし」

「せやせや。精々、同情して」


 しかし、エクスは動じていない。

 そして、リディアさんのリアクションは軽い。本人的には、もうとっくに消化できてる話なんだな。


 ある意味で、年寄の病気自慢というか――


「そっから闇オークションみたいなところで売られてな、この街に来たわけや」


 ――それどころじゃなかった!


 重たい、重たいよ。


「なんで。正確には、戦ったりしたことないから、ウチの真の力は秘められたままってわけやな」


 いろいろ凄絶というか、苦労したというか……。

 これは、さすがに見捨てられないよな。


 本條さんと顔を見合わせ、そっとうなずき合う。


 だが、カイラさんの意見は違った。


「今の話が本当とは限らないわよね?」

「ひどっ。ウチが嘘をつくように見えるんか?」

「嘘をつくように見える詐欺師は存在しないわよ」

「まあ、むしろ嘘だったほうが精神的には救われるというか」

「ですよね。秋也さんの言う通りです」

「……仕方ないわね」


 カイラさんの意見は違ったのは確かだったが、あっさり折れてくれた。


「反対はしないわ。代わりに、彼女のことは私に任せてちょうだい」

「つまり……?」

「使用人の管理は、家令の仕事よね?」

「それは、そうだね。……え? 家令?」


 背後に立つカイラさんを見上げると、ものすごくドヤ顔だった。

 あと、エクスも。


 いつの間に、家令とかそんな制度が採用されたんだ……?


「そうですね。確かにカイラさんの言う通りです」


 しかも、反対意見が出てこない……だと……?

夏風邪を引きました。

次回、更新がなかったらごめんなさい。

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