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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第一部 勇者(アインヘリアル)チュートリアル
57/225

57.鉱脈発見?

 盗賊ギルドへ訪問した翌日。


 俺はというか、俺たちは何事も無く目覚めた。

 なにもないのが当然だが、やはり、眠るときに「臨兵闘者皆陣列在前」と唱えながら寝たのが良かったのだろう。


 さすが、裏高野だぜ。


 今日はグライトの市場とかを見て回ろうか……と朝から観光気分だった俺たちは、冒険者ギルドからの呼び出しを受けた。


 早速、講師が見つかったらしい。対応早いな。


 まあ、講義も一日中ってわけじゃないはずだし、帰りに寄ることもできる。


 そう気を取り直し、部屋で朝食を取ってから出かけることにした。


 ちなみに、朝食のメインは鯖サンドだった。

 トルコ風のレモンが利いた味で、鯖は脂が乗ってボリュームあり、スライスオニオンやレタスにトマトも新鮮。パンはちょっと噛み応えがあったが、味は文句無しだ。


 昨日の夕食に出たブイヤベース風のスープもそうだけど、異世界の港町らしさを感じさせる食事だった。


 何日かしたら、肉食いたくなりそうだけど。


 というか、トマトは普通に食用であるんだな。地球でも、最初は観賞用とかだったのに。これは、月影の里がちょっとあれだっただけで、この世界はわりと食材が豊かなのかもしれない。


 まあ、ここが高級宿だから出てきたという可能性もあるけど。


 とにかく。


 冒険者ギルドを訪れた俺たちは、初回のように不躾な視線に晒されることなく、二階の会議室へと案内された。

 あっという間に周知されたんだろうか? だとしたら、管理能力凄いな。


 どうやら、場所も冒険者ギルドが提供してくれるらしい。ありがたいのは確かだが、あんまり厚遇されると裏を疑いたくなる。


 でも、心当たりがないんだよなぁ。


 盗賊ギルドとの取引って、反社会的行為とかじゃないよね?

 まあ、会社の面接とか面談に比べたら大したことはない。こっちのほうがクライアントなんだしな。


 ……それはそれで慣れねえな。


 若干おどおどしつつ、案内された扉を開く。

 縦長の、会議室というか、会社のミーティングルームみたいな部屋。その奥に、一人の男が待ち受けていた。


 青みがかった黒髪をオールバックにしていて、顔の彫りは深く美形と言っていいかもしれないが、厳しすぎる表情がちょっと裏切っている。その名の通り、表情は鋼鉄だ。


 昼行灯の逆と言おうか。ロボットアニメだったら、確実に隊長とか司令とか呼ばれてるタイプ。


 でも、もしかしたら俺よりも年下かもしれない。

 もはや高校球児が年下になって幾星霜だからね……。


「冒険者ギルドグライト支部ギルドマスターのマークス・ジーグだ」

「……はい?」


 なんでここにギルドマスターが?


「私が講師を務めることになった」


 見た目通りの渋いイケボで自己紹介をしつつ、俺たちに着席を促すギルドマスターのマークスさん。握手とかはないらしい。


「期間は三日程度を予定している。よろしく頼む」

「あ、はい。ミナギと言います。よろしくお願いします……」


 カイラさんと本條さんの視線を受けて、代表者として挨拶したというか、させられたというか。

 リーダー経験など、TRPGでパラディンをやったときになんとなく押しつけられたことぐらいしかない。


 それなのに、代表者面である。向いていないにもほどがあるぜ。


 まあ、一番年上だからね。仕方ないね。


「まず今日はグライト周辺のモンスターの分布を解説する。概説のようなものだ。気楽に聞いてほしい」


 挨拶もそこそこ……というか実質なしで講義が始まる。


「これが、グライトの周辺図だ」


 と言って広げた地図は縮尺とか適当で、ある程度の位置関係と地形程度しか分からない概略図みたいな感じ。宝の地図よりは、地図地図しいけど。


 あれだ。


 ファンタジー小説とかに出てくる地図。いや、ファンタジーなんだけど。


 本條さんもきらきら目を輝かせている。さては、ちょっと欲しがってるな。

 うちでは無理だが、本條さんの知的な雰囲気が漂う部屋のインテリアとかに良さそうだ。もちろん、本條さんの部屋なんて知らないけど。


 それはさておき、《オートマッピング》は秘匿すべきだと心から理解できた。


「現在、グライト冒険者たちが一番活動しているのは、この牙の森だ」


 牙の森か。

 グライトの南。海岸からちょっと外れた辺りに描かれた結構大きめの森を指さし、マークスさんの講義は始まった。


 吸血鬼は後回しになるようだ。

 まあ、応用みたいなもんだろうしね。こっちも、知りたいことは知りたいけど最優先というわけじゃない。

 先生の授業進行には従おうじゃないか。


「まず、牙の森にもゴブリンの集落がいくつか存在する。そして、すべては駆逐できていない」

「あれは勝手に繁殖するから仕方がないわね」


 カイラさんの相槌に、マークスさんがわずかにうなずいた。


「ゴブリンは、残念ながら地下世界(アンダーシェイド)へ完全に追いやることはできなかったからな」


 ゴキブリかな?

 まあ、超進化してじょうじじょうじ言い出さないだけマシかもしれない。


 そうなっても大丈夫。俺の《水行師》スキルは北海一だからな!


 と、心の中で死亡フラグを立てている間にもギルドマスターの講義は続く。


「話は逸れるが、地下世界(アンダーシェイド)のゴブリンは、地上のゴブリンよりは理知的だそうだ」


 理知的。

 見張りなんかうっちゃって、オークの死体を切り刻んでいたゴブリンが理知的? 解剖でもするの? ターヘルアナトミアなの?


「邪工と呼ばれる特殊な絡繰を作りだし、筒状の武器から高速で鏃を撃ち出し、四肢の欠損すら埋め合わせられるという話だ」


 ええ……。

 銃じゃんよ、それ。


 思わず本條さんの顔を見ると、なにか考え込んでいる風情。


「いえ……でも……大型の対象には単発では対抗しきれないのでは……」


 そうか。

 すわ、火縄銃が異世界を席巻するかと思いきや、ストッピングパワーの問題があったか。


 ドラゴンとかには効かないだろうしな。


 人間だけを相手にすればいい地球とは違うのだよ、地球とは……というところか。


 まあ、今はそんなに心配することでもないか。


地下世界(アンダーシェイド)といえば、オーガの来寇もなくはないが、十年に一度といったところか」

「戦争みたいな感じですかね?」

「そうだな。頻度も被害もそれに近い。防衛戦争だから、得られる物はないがね」


 オーガが賠償金とか払うわけないよな。

 雷切みたいなマジックアイテムが手に入ったりするかもしれないけど、被害に見合う価値かどうかはなんともいえない。

 ヴェインクラルみたいなのが相手だったら、赤字確定でしょ。


 ところで、本條さんがきらきらした目でこっちを見ているのは、なんでなんだろう? カイラさんも若干ドヤ顔だし。


「牙の森に話を戻そう」


 と渋いイケボで言って、ギルドマスターが軌道修正。


「牙の森にはポーションや錬金術の素材となる植物が豊富に生えている」


 薬草集め! そういうのもあるのか!

 俺とエクスが転移したのがこっちだったら、そこから始めてたんだろうなぁ。


「資源があるから、森に入らざるを得ないということですか?」

「そうだ。ゴブリンの他にもノッカーや腐肉漁りのオチュアに、ダイアベアやフォレストウルフといった野獣も駆除対象だ。人に危害を加えるモノはなんであれギルドから報酬が出ると考えたほうが分かりやすいだろうな」


 豪快だ……。


「なお、オチュアの街への持ち込みは禁止されている」

「なんでピンポイントにそれだけ禁止に」

「死体でもなんでも綺麗に喰らい尽くすからだ。死体でもな」


 そういう用途か……。

 というか、そういう用途で持ち込こまれた前例があるな?


「だが、牙の森の真骨頂は、多彩な昆虫のモンスターにある」

「昆虫?」

「そうだ。人の首を容易に落とすキラーマンティス、群れでかかれば巨人も殺すフェザービー、スチールビートルの突進はドワーフも吹き飛ばす」

「まさに、自然が牙をむくって感じか」


 おいでよこんちゅうの森?


「同時に、これらのモンスターは資源となる」


 キラーマンティスの翅は、加工すれば綺麗な手鏡に。

 フェザービーのハチミツは、ポーションの原料に。

 鉄の鉱石どころかインゴットとして扱えるスチールビートルの外骨格は、引く手あまた。


 ……だそうだ。


「魔力水晶に加えて、素材が冒険者と冒険者ギルドの資金源になっているわけね」


 ギルドマスターが軽くうなずき、地図を指でなぞる。


「森とは違い、資源はないが危険性から対処が必要なのが湖沼地帯だ」


 森とは反対側。グライトの北の内陸部を指さしギルドマスターが続ける。


「湖沼地帯にいるのは、フロッガーと呼ばれるいわゆるカエル人間。エルフやドワーフ野を馳せる者(セリアン)を含めた人間種族と、ゴブリンやオークやオーガの中間に位置する存在だ」

「カエル人間」

「ああ。独自の言葉と習慣を持っている」


 基本的には中立だが、たまに越境して略奪とかしに来るそうだ。ピラミッド型の社会を構築しているということだが詳細は不明。


 あと、とても臭いらしい。


 コメントしづらいな!


 その他、フロッガーが使役する巨大カエルとか、巨大トカゲみたいなのもいるそうな。


 恐竜かな?


「毒も吐く危険な生物だ」


 恐竜ではないようだ。


「あとは、冒険者人気がなくギルドとしては困っているというのが正直なところなのだが……」


 マークスさんが俺たちの顔を見合わしてから憂鬱そうに口を開いた。


「海にもモンスターは数多く存在する。クラーケンほどの大物は稀だが、ウェイブシャーク、ギルマン、キラーシップ、サカサクラゲといったところが代表格か」


 海のモンスター。


 海か。

 確かに対処が面倒くさそうだよな……。


 ……あれ?


 でも、俺たちにとっては大鉱脈なんじゃない?

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[一言] 「邪工と呼ばれる特殊な絡繰を作りだし、筒状の武器から高速で鏃を撃ち出し、四肢の欠損すら埋め合わせられるという話だ」 サイバーゴブリン!
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