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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
201/225

54.第三回呪いのアイテム鑑定会、in盗賊ギルド

「こういうところに来るのは初めてなので、どきどきします」

「俺は三回目だけど、やっぱりどきどきするよ」


 悪い方向にね。

 もちろん、不整脈というわけじゃない。その辺は、《レストアヘルス》でどうにかなってるはずだからね。

 それに、最近はカフェインも取ってないし。ちゃんと寝てるし。健康診断の結果に怯える必要はない。ないのだ。


閑話休題


 ここは、日の当たらぬ盗賊ギルドでもさらに奥まった一室。鉄格子で区切られた地下牢のような部屋だ。


 しかし、それは本質じゃない。


 その環境もさることながら、俺たちを圧倒するのはそこに積み重ねられたアイテムの数々。


 剣や槍、弓といった武器に盾や鎧のような防具。

 宝石やアクセサリーに加えて、絵や陶磁器などの芸術品。


 さらには、鑑定団なんかには出てこないポーションや酒類もある。


 そして、すべてが例外なく禍々しい――呪いのアイテムなのだ。


「以前からそうでしたが、《マナ・リギング》を得たエクスにとっては、まさに宝の山ですね」

「実質、呪いを無効化できるんだもんな」


 フェアリーフォームではなく、タブレットの中に戻っているエクスにうなずき返す。

 体は、寝ているリディアさんの隣にこっそり安置してきた……わけではなく、世界樹のある神殿で分離した。

 ちょっと手間だが、安全第一だ。


「無効化と言うよりは、正規の対象が存在しないので呪いが霧散してしまうと表現したほうが正確かもしれません」

「どっちにしろ、ズルだよな」


 鑑定結果からすると、同期(シンクロ)したとか使用した人間に呪いが降りかかることがほとんど。

 しかし、《マナ・リギング》を間に挟んでクラックすることで、エクスはそれを無効化してしまうのだ。


 チートや! ビーターや!


 と、脳内キバオウさんが叫んだりするものの、損はないので問題ない。盗賊ギルド的にも、上手いこと処分できるのでWin-Winというやつだ。


 後藤隊長も、言っている。みんなで幸せになろうよ、と。なので、やっぱり問題はない。


「あ、秋也さん。本、本がたくさんありますよ」

「触らないようにね」

「それくらい、分かっています」


 ぷうと、頬を膨らます本條さん。


 かわいい。


 かわいいが、本のこととなると無条件には信用できないのでさりげなくブロックしておく。


「掘り出し物を探すというよりは、向こうでの決戦に役立つ物を見つけるのが優先事項ということでいいわね?」

「はい。でも、なにが使えるかは分からないので、片っ端からやっていきましょう」

「それなら、まず本からはっきりさせていこう」

「そうですね」

「賛成よ」

「あの……。いえ、なんでもありません。お願いします」


 俺とエクスとカイラさんの賛成三で可決。実に民主的だ。


 というわけで、金属製の台に置かれていた本へタブレットを向ける。

 最初に《中級鑑定》で確認したのは、黒い……本というよりはノートだった。


【スモールハードラック・ノート】

価格:530金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:黒い革で装丁を施されたノート。

このノートに名前を書かれた対象は、肉体的な損傷などはない、小さな不幸に見舞われる。

   その後、名前を記入した者は同じ不幸に見舞われる。

   一人が、同じ対象の名前を複数回書き込むことはできない。


 デスノ……ではなく、不幸の手紙のライト版みたいな感じ? いや、ライトといっても、(ライト)ではないんだが。


「小さな不幸か……マウスが、常にチャタリングするようになるとか?」

「それ、地味に嫌ですねぇ」

「チャタリング……? マウス……ネズミが鳴くのは当たり前なのではないですか?」


 俺が言ってるチャタリングは、マウスのシングルクリックがダブルクリックになってしまう現象。

 一方、英語のChatteringには動物の鳴き声とか、人間の喋り声という意味があるそうだ。


 ごめんね。IT業界、ちょっとひねって元の英単語の意味を歪めるような単語が多くてごめんね。


「失うものがない人間が書くと厄介ね」

「確かにそうですが、結局はちょっとした嫌がらせ程度では?」

「いえ。例えば公式な式典に出席したとき見舞われでもしたら、社会的な立場をなくしてしまうかもしれません」

「はあ……。人間はめんどうですね」


 デフォ巫女衣装のエクスが肩をすくめる。

 生身の体を手に入れてから、こういうAI仕草が増えた気がする。


 いいと思う。


「悪用はしないように、言い含めておくわ」

「お願い」


 運転中にブレーキとアクセルを踏み間違えるような“小さな不幸”でも、大問題になるしな。慎重に扱うに越したことはない。


 ノートはカイラさんに任せ、次の本へと目を向ける。

 百科事典のように分厚い。ちゃんとした装丁の本だ。


【ネヴァーエンディング・ノベルス】

価格:2153金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:古代エルフの文字で記された書物。全十巻。

本を開くと同時に魂を取り込まれ、世界を渡り歩く冒険を体験する。

   本文の内容は、その結果によって変化していく。

   ただし、最後まで体験しないと魂は解放されない。


「本の世界を渡り歩く……ですか」

「アヤノさん、落ち着いて」

「私は冷静です」

「ここには9冊しかないな」

「え?」


 今、ちょっと美少女が出しちゃいけない声だったな。


「なるほど。全巻揃っていなければ、本に魂が囚われるだけの呪いのアイテムですねぇ」

「電脳空間の予行演習になるかなと思ったけど、こりゃ無理だな」

「残念です……」


 しかし、これ処分するわけにもいかないよな。


「ギルドには、残された一冊を探すように強く言っておくわ」

「うん。誰か、取り残されてる可能性あるもんな」


 しかし、10冊揃っていないとそれを確かめるのも難しい。

 もしそうでなかったら、俺も本の中に入ってみたいし。


「じゃあ、他のマジックアイテムも見ていきましょう」

「そうですね。元々、本はエクスでは使いにくいですし」


 だよね。


 というわけで、慎重に物色していくと本條さんがひとつのアクセサリを見つけた。


「これは、純金だと思います」

「そうなんだ。素材だけで、そこそこしそうだけど……」


 メダルというか、勲章というか。軍服に付いてそうな金の装飾品を《中級鑑定》にかける。


【メダリオン・オブ・リバースエンライトメント】

価格:347金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:黄金の徽章。

同期(シンクロ)した所有者は、知的な活動や魔法の行使に【有利(2)】を得る。

   その効果を受けている間、同期(シンクロ)した所有者の思考は周囲へと伝播する。


「サトラレ……」


 これは地味きついな。


「《マナ・リギング》で支配すれば、デメリット問題ないですね」

「ストレートにやばい」

「とはいえ、同時に《マナ・リギング》できる数には限りがありますから」


 もしかしたらベンチスタートかも知れないと。

 でも、お買い上げでいいだろう。


「これは、鏡のようね」

「念のため、その布は取らない状態で鑑定しよう」


 次に見つけたのは、豪華な装飾が施された大きめの鏡。


【ミラー・オブ・パーブルドゥーム】

価格:666金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:紫色の鏡。姿見ほどの大きさがある。

この鏡に映し出された者の善性は吸い取られ、肉体には悪の性質だけが残る。

   吸い出された善性は、奈落の悪魔諸侯(デーモンロード)の食卓に饗されるとされる。


 これまたストレートな呪いのアイテムだな。今までみたいな、一長一短的なのがまるでない。


「これは、廃棄で」

「ええ。後腐れなく壊しましょう」


 全会一致で粗大ゴミへ。

 こんな危ないの、残しておけるか。


 それから、いくつか鑑定していくがこれというのがなかなか出てこない。


 今回は、さっきの紫の鏡みたいにストレートにヤバイアイテムばかりだった。


「今回は、ちょっと不作ですねぇ……」

「元々、呪いのマジックアイテムだからな」


 そうそう、役に立つのが見つかるはずがない。


「戦力は充分と言えば充分ですから、撤退しますか」


 ……普通なら。


「……あ。そこの台ですが――」

「もしかして、予知に出た?」


 本條さんが、こくりとうなずく。


「ああ、さっきの本が乗せられていた台ね」

「それが、地球に設置されて、上に大きな金属の箱のようなものが乗せられていました。たぶん、アイナリアルさんに用意したあの事務所だと思うのですが」


 よく分からないな。

 本條さんも、上手く表現できなくてもどかしそうにしている。


 ささっと、鑑定してしまおう。


【リーンフォース・リブーター】

価格:1980(5920)金貨

等級:伝説級

種別:その他のマジックアイテム

効果:玻璃鉄(クリスタル・アイアン)の合金で作られた診察台。

活動停止状態の生物を一体蘇生させ、八時間の間通常通り生命活動を行わせることができる。

   八時間後、肉体は黒い泥となり、魂は完全に消滅する。

   使用回数は三回。二回使用済み。


 そうか。使用回数が一回だけだから、鑑定価格が併記されているのか。これ、《初級鑑定》のままだとわけの分からないことになってたな。


「かなり、大きいわね。モンスターに使うことも、想定しているのかしら?」

「にしても、相変わらず非人道的な……」


 骸が動いたのだ。もうけものと思え、とはいえ末路がきつい。


「でも、おかしいわね」

「そうですよね。予知のイメージは間違っていないのですが……」

「ああ、そうか」


 なんで生き物じゃなくて金属の箱が?

 それ以前に、誰を蘇らせるつもりで? もしかして、エレクトラに復活ヴェインクラルをぶつける?


 いやいやいやいや。ヤツの死体は残ってない。だから、蘇れない。


 QED。


「恐らく、それはスパコンだと思います」

「スパコン?」


 スパコンって、あのスパコン?


「スパコンって、コンピューターですよね? そんなに大きな物ではなかったです」

「いや、スパコンとかサーバなら全然おっきいから」

「そうなのですか」


 スパコンがあれば、エクスも向こうでパワーアップできるということなんだろうけど……。

 買ったり作ったりはできても、運用には電源と冷却が……。


「あ、ハックして八時間動かせばいいから、むしろ電源はいらないのか」

「その通りです、オーナー」


 回線はエクスが一晩かからずになんとかしてくれるだろうし。となると、あとは熱の問題か。


 なるほど……ね。


 スパコンを冷やす効果、お前だったのか。


 俺が本当に開発すべきだったマクロは。

氷でスパコン冷却してると勝手に持ち出されるので、他の方法で冷やすのは実際、大事(サマーウォーズ並感)

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― 新着の感想 ―
[一言] 台に載せられるレベルだとブレード一つ分しかイメージ出来ない…
[一言] スモールハードラック・ノートで電子的にしか起こらない不幸が起こった場合、生身の人間はノーダメなのでは? ネヴァーエンディング・ノベルスに囚われている間老化するのかどうかによって価値が変わっ…
[気になる点] 本の中に取り残された人はいるのかいないのか、ワタシ気になります! [一言] あの氷泥棒はもっとボコボコにされるべきだったと思います。 ちょっとした不幸って、どういう判定基準になるので…
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