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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
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46.フェアリーフォームは動かない

各話感想が書ける仕様になってから、前回が一番感想数多かったようです。

評価もいただき、ありがとうございました。

「それでは、一旦帰りたいと思うのですが」

「そうだな。いろいろあって、さすがに疲れた気がする」


 冷静に考えると、宅見くんとアイナリアルさんに会ってからほぼノンストップで動き続けてない?

 急な移動だったから向こうとこっちの時間も合わせてないし、時差ぼけになりそう。


 おかしいね? 海外に行ったことなんてないのにね?


「……不思議です。突然、ものすごく眠たくなってきました」

「時差ぼけなんじゃない?」

「確かに、夜から昼間になったからバランスが崩れてもおかしくないわね」


 こっちで生まれたカイラさんも、ある程度は理解できるようだ。

 もしかしたら、俺の先輩勇者(アインヘリアル)にラナルータ使いがいたのかもしれない。


 あれ、リアルで考えるとめちゃくちゃ迷惑だよな……。ラナリオンとか、PCの電源すぐに落とさなきゃだし。


「でも、秋也さんは……」

「俺は昼夜逆転とか余裕だから」


 夜勤明けで生活リズム治すコツって知ってるかい?


 寝ないことだよ。


「お腹も空いてきましたが、食べたらすぐに寝てしまいそうです」

「そうだ。肉じゃがの予定だったんだな」


 エクスが泣いたり、世界の真実が明かされたりだったからなぁ。パンダだって、「笹喰ってる場合じゃねえ」って柵を飛び越えるレベル。


「なにかいいポーションがあるのではない?」

「薬に頼るのは、どうなのでしょう?」

「ポーションだから、副作用とかあんまり考えなくて良さそうだけど、どうなんだろうな?」


 あんまり印象は良くないよな。

 リディアさんも、疲労がポンっと取れるポーションとか言ってたし。


 副作用とかないよね……?


「お疲れのところ、大変申し訳ないのですが……」

「ん? なにか問題が?」


 遠慮がちに言うフェアリーエクスへ、みんなの注目が集まる。

 それにしても、エクスが中学生ぐらいの大きさになるなんてなぁ。今さらだけど、ビックリだよなぁ。


「エクスの計画のため、刻印騎(ルーンナイト)を持って帰りたいんです」

「さすがに、ファーストーンであれは無理だよなぁ」


 ビルのような巨体だ。もし、家に移動させたらコントみたいに崩壊する。

 かといって、他のポイントに移動させるのも……水の精霊殿ならいける?


 エクスが嫌がるか。


「ですので、帰りは空を飛んでいきたいのですが」

「まあ、いいと思うけど……」


 カイラさんと本條さんからも、異論は出なかった。

 元々、ホムンクルスが5分で完成したのもイレギュラーだしな。その分を移動時間に費やしても問題はない。


「それは構わないけれど、どこに置くつもりなのかしら?」

「綾乃ちゃんの魔法で透明にでもして、中庭に置こうかと思っています」

「なるほど」


 視線で本條さんに問いかけると、しばし考えていたものの、しっかりとうなずいた。

 日当たりは悪くなりそうだけど、可能は可能か。


「光学迷彩みたいなもんか。まあ、仮置きってことならいいんじゃない?」

「仮なのですか?」

「見えなくなっても、魔力とかでは検知されるんじゃないかなって」

「なるほど。その可能性には気付きませんでした」


 本條さんから素直な賞賛を受けてしまったが、これはもうどれだけゲームに親しんでいたかという違いでしかない。


「そこまで心配しなくていいわよ。勇者(アインヘリアル)の住居を探査するなんて、相当なもぐり(・・・)しかいないわ」

「え? うちって、そんな扱いなの?」


 ヤクザの家、みたいな感じかなぁ。


 子供の頃、近所にでっかい洋館みたいなのがあってヤクザの家って噂があったんだよなぁ。友達の友達ぐらいの子供が、その家にボール蹴り込んで取らせてもらったらヤクザにケーキをごちそうになったというまことしやかな噂だ。


 オチはない。


「少なくとも、下手に手を出そうものなら盗賊ギルドと冒険者ギルドは黙っていないのではない?」

「社会の表と裏からフルボッコか」

「もちろん、里も黙ってはいないけれど」


 おかしい。いつの間に、そんなことに……。

 俺、なにもしてないと思うんだけど。


 ……まあ、それはいい。


「とりあえず、刻印騎で帰るのも庭に置くのも了解だ」

「エクスのわがままで申し訳ありません」

「必要なんだから、誰のせいでもないさ」


 しかし、光学迷彩のロボットか。


 M9! M9ガーンズバックじゃないか!


 きっと、オゾン臭がするんだろうなぁ。


 庭にロボットのいる生活。


 ちょっとワクワクしてきたぞ。やっぱ、地下に格納庫作ってプールから出撃できるようにすべきなのでは?


 そんな妄想はひた隠しにしつつ、俺はざっと周囲を見回す。


 お世話になったけど、帰らなくてはならない。


「それで、ここの後始末は大丈夫?」

「はい。完全にロックしました。万が一、どこかに異星の吸血鬼の生き残りがいたとしても動かすことはできません」

「そっか。ならば良し……だな」


 リディアさんの言葉に甘えて使わせてもらっただけでなく、望外の結果まで得てしまった。


 これは、明確に借りだ。誰に対するかは分からないが、借りには違いない。


 だから俺は、深々と頭を下げてから退出した。


 いつか、なにかの形で恩返しがしたいなと考えながら。





「かわいいわ~。名誉風の精霊の称号をあげちゃう~」

「それは要りません」


 グライトの館に戻った直後。


 玄関ホールで出迎えた笑顔満面な風の精霊に、エクスが低いトーンで答えた。

 真顔もかわいい。


「ええ~? なんで~?」

「そこで不満を抱かれる理由のほうが分かりません」

「でも、かわいいから許しちゃう~」


 ぐりぐりと可愛がる風の精霊から逃れて、エクスが俺の背中に隠れる。


「ぐるるるる」

「あの子も持って帰ってきたのね~」

「……そのテンションの乱高下なんなんですか。ええ。本来の形ではありませんが、使わせてもらいます」


 運がいいのか、それが当たり前なのか。

 エクスが《マナ・リギング》で支配した刻印騎による空の旅は、なにひとつアクシデントのない順調なものだった。


 俺は起きてたけど本條さんは仮眠を取れたし、有意義でもあった。


 それに、これからは庭にロボットのある生活のスタートだ。思わず、マンションポエムでも作りたくなるね。


「お風呂場から戻ってこんから、なにかと思ったら……」


 一方、リディアさんはめちゃくちゃ渋い顔だ。アナベル・ガトーの声ぐらい渋い。


「エクスはん、すごいことになっとるやん」

「まあ、外見は確かに……」

「それだけやないやろ」


 片眼鏡(モノクル)越しに射抜かれて、俺は思わず顔を背けた。

 だって、事故みたいなもんだもんこれ。メイわるくないもん。


「記憶が定かやないウチが言うことやないけど、絶対にあんなん作れる設備やなかったで」

「素材が良かったんじゃないかな?」

「それにしたって、あれ……ほんまに精霊クラスやない?」

「精霊? 水や地の精霊と一緒にして欲しくはありませんね」


 俺の背中から出てきたエクスが、こっちの会話に入ってくる。不本意だと、全身で表現していた。


「フェアリーフォームとなったエクスは、精霊とはまったく異なる存在なのです。いいですね?」


 この体を手に入れても、キャラ被りに厳しいエクスは変わらなかった。

 それにしても、そうか。やっぱ、すごい体なんだなぁ。


「まあ、エクスは新しい体だし。俺たちも、地球から動きっぱなしだったし休憩しよう?」

「いえいえ、休んでる暇はありませんよ。こうなったら一刻も早くエレクトラにお仕置きをしなければなりません。姉として」

「やる気なのはいいけど、力に溺れてない? 大丈夫?」


 このテンションだと、そのうち姉より優れた妹はいませんとか言い出しそうな気がする。


 というか、一刻も早くって言うけど、地球じゃ一秒たりとも進んでいないんだよなぁ。


「ふふふふふ。そんなことを言っていいんですか?」

「なにを企んでるんだ……」

「オーナー、キャラ作とか好きですよね?」

「え? 寝食忘れるほど好きだけど、どういうこと?」


 使う当てのないTRPGのキャラとか、3桁の単位で眠ってるけど?


 でも、今のこの流れで、なんでキャラ作?

 システムは? 環境は? 能力値はダイス? その場合、振り直しは何回まで? 経験点はどれくらい使えるの?


 それとも、格ゲーのキャラクリエーションみたいな感じになるの? それはそれで楽しそうだ。


「ふふふふふ。詳しい話は、リビングに移動してからにしましょう」

「そういうことなら、こいつの出番やな。疲労がポンっと取れるポーション」

「それは、いりません」


 普通のカフェインとかにして。

 むしろ、今は禁止令が出てるからカフェイン摂取したい。


「本條さんは大丈夫?」

「はい。さきほど寝かせていただいたお陰で楽になりました」

「そういうことなら、先に片付けちゃおうか」


 長くなるなら、そのときにまた考えよう。

 そう結論づけて、一階の玄関ホールから二階のリビングへと移動を開始する……が。


「エクス?」


 なぜか、フェアリーフォームのエクスは動かない。

 不思議そうに、階段を上る俺たちを見上げていた。


「……はっ!? 自分で動かないといけないんですよね!?」

「うん、そうだね……。生身の体、不便でごめんね……」


 なるほど、これは良いAI仕草。

 個人的にポイント高い。俺がアイドルだったら、パーフェクトコミュニケーション。


「さっきは、普通に移動していたではない」

「さっきまでは気を張っていたと言いますか……」


 セメントなカイラさんの指摘に、うつむきながら答えるエクス。


 油断してると、電子の妖精だった感覚になっちゃうわけだ。


 ……イイ。


「ほら。じゃあ、一緒に行こう」

「……はい」


 エクスの所まで戻って手をつなぐと、エクスは燐光を振り撒きながら飛んで移動する。


 いやぁ。たまには、俺が引っ張る立場なのもいいんじゃない?


 なお、普段はアラフォーが引っ張られてばかりという点には目をつぶるものとする。

●どっちのエクスショー

Q.最後に動くのを忘れていたのは?


1.純粋に素で忘れてた。カワイイ。

2.せっかくの生身の体なのに、ミナギくんが触れようとしないのに拗ねて。カワイイ。


今夜のご注文はどっち?

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― 新着の感想 ―
[一言] エクスがいるならむしろアーバレストと言っても過言ではないかもしれない
[一言] エクスさんは運ばれたい(お姫様抱っこで) エクスは精霊ではありません…神霊です!と言い出したりしない? 大丈夫?
[一言] (綺麗さ的に)アーバレストにしてあげてくださいw
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