表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
192/225

45.フェアリーフォーム

「かわいい!」

「は?」


 エクスが可愛い。

 それは至極当たり前のことなので、事実を耳にしただけで驚くことはない。


 しかし、それが本條さんから発せられたものだとなると話は別。


「かわいいです!」


 フラスコから出てきたばかりのエクスへと駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。止める間もない早業。

 あ、エクスが全角で書かれたコードを見つけたみたいな顔してる。


「天才? 天才ですか!?」

「綾乃ちゃんが、わけの分からないことになっているんですけど!?」


 本條さんも緊張していて、それが弾けてああなったって感じ? 仕方ないよな。しっかりしてても、女子高生なんだもん。

 かわいい天使を愛でたくなるときもあるよ。


「ちょっと、綾乃ちゃん。落ち着いてください。ステイ、ステイですよ」

「私、ずっと前から妹が欲しかったんです!」

「人類、不可解なんですけど!?」


 エクスが手足をバタバタさせて助けを求めるが……これ、俺が間に入っちゃいけないやつだよな。

 百合の間に入る男になっちゃいけねえ。皆木秋也はクールに去るぜ。


 となると、助けられる可能性があるのは……とケモミミくノ一さんに目をやると。


「…………」


 カイラさんは微動だにしていなかった。

 けれど、尻尾はめっちゃ揺れていた。耳も、ぴくぴくしまくっていた。


 ……もしかして、かわいいの好きだったの? 今度、でっかい熊のぬいぐるみとかプレゼントして出方を見たほうがいい?


「オーナー! オーナー! エマージェンシーです!」

「あー、はいはい」


 ここまで来たら、傍観もできない。

 信条を曲げて間に入るしかなさそうだ。


「本條さん、エクスが未知の感覚に戸惑ってるから。一度、離れよう? ね?」

「……はっ、そうでした。エクスさんが生身の感触を経験するのはこれが初めてになるんですよね」

「そこまで初めてってわけじゃないですけど? 理論は知ってますし?」


 なぜか強がるエクスだったが、本條さんが離れてくれてほっとしたようだった。もうひとつのタブレットを抱きしめるようにして、深呼吸をする。


「本当にエクスさんなのね……」

「はい。正真正銘エクスです」

「元気そうで良かったわ」


 カイラさんが安心したように微笑んだ。

 いいシーンなんだけど、尻尾が無茶苦茶ふぁっさふぁっさしてるんだよなぁ。


 それも含めて、ものすごくいいシーンになった。


「それで、オーナー。どうですか? エクスの新しいからだ……名付けてフェアリーフォームは」

「びっくりするぐらい神々しい」

「その反応は予想外なのですが!?」


 喋ったらエクスだって分かるけど、妖精を越えてもはや天使じゃん。天使が俺に舞い降りたよ。


「ヴェインクラルらしさがなくて良かったなんて、言われるのかと思っていたのですが」

「そんなオーガのことは知らない」

「なるほど。あえて、意識から外していたというわけですか」


 そう。エクスの新フォームを見て、二度とヤツを思い出すことはないだろう。


「まあ、いいですけど。こんな羽とかアンテナとかはエクスも予想外です。邪魔ですね」

「邪魔なんかじゃないですよ。かわいいです!」

「そうは言いますけどね、綾乃ちゃん。これ、めちゃくちゃ目立つじゃないですか。滅多に外歩けませんよ」

「外に出るときは、私が魔法を使いますから。毎日でも問題ありません。むしろ、毎日会うついでです。負担もなにもありません」

「本條さんが早口になってる……」


 これはつまり、今のエクスが本條さんにとっては本に等しいほどの価値を有しているということだ。


 ……すごいな、エクス。


「そ、そうですか。まあ、最悪は体を置いてオーナーのタブレットに帰ればいいんですが」

「……ちょっと待った」


 猛烈に嫌な予感がしてきたぞ。


「エクスが、その体から抜けたらどうなるんだ?」

「もちろん、ただの抜け殻ですが。あ、別に腐ったりはしませんよ?」


 それを俺の部屋に残す場合は、ベッドに寝かせる形になるだろう。


 羽とかアンテナは置いといて、微動だにしない中学生ぐらいの美少女がアラフォーの部屋に残されるわけだ。


 どうみても監禁か変死体です。本当にありがとうございました。


「すべては本條さんにかかっている」

「あ、はい。頑張ります……?」


 ちょっと戸惑っていたけど、社会的な死を迎えるか否かの瀬戸際。こちらも必死だ。


「それで、新しい体はどうなのかしら? なにか問題はないの?」

「最高に「ハイ!」ってやつだってなもんです」


 いち早く冷静さを取り戻した。それでもなお、尻尾がゆらゆらしてるカイラさんからの問いに、こめかみをぐりぐりしながら答えるエクス。


 ジョースターの血でも吸ったのかな? 俺の血しかなかったはずだけどな。背中に星形の痣もないし。


「まあ、問題ないなら良かった。これで、論理榴弾(ロジカルグレネード)への対策もばっちりだな」

「なにを仰る、オーナー。それどころじゃないです」

「え? そうなの?」

「エレクトラに奪われたエクスの力も、概ね戻りました」

「マジで?」

「マジです」


 どういうことなの?

 ここから、ハンデ戦で大逆転を目指す展開じゃなかったの?


「いや、それは良かったんだけど……。電子の妖精が肉体を得てパワーアップ?」

「パワーアップではなく、失ったものを補ったという感じですかね」


 素材のお陰か神のいたずらか。

 すごい体を手に入れて、エクスの演算機能の補助をしてるとかそういうこと?


 理屈はよく分からないけど、あのアンテナとかもうひとつのタブレットが良かったんだろうか。


 ……タブレット?


「それ、こっちの俺のタブレットと同じ機種に見えるんだけど」

「これは、スペアポケットみたいなものですね」

「スペアポケット」


 ただのスペアじゃだめだったの?


「今まではオーナーの指示や認証が必要な行動も、ある程度エクスの判断で行えるようになりました。もちろん、オーナーからの指示もマルチタスクで処理しつつです」

「おお。それいいな」


 今までも、《マナ・リギング》みたいなエクス主体のスキルは使えてたけど、《水行師》のマクロとかは無理だったし。


 これもう単純に手数が二倍になったようなもんだろ。


「あとは……そうですね。この翅で飛べます」


 と、ふわりと浮いて狭い製造装置の部屋を一周した。

 ぱたぱたとするのではなく、翅から燐光を振り撒きながらの優雅な飛行。おお、ミノフスキードライブっぽい。


「さすがに、オーナーを抱えて飛ぶことはできませんが」

「それは仕方がないわね」


 エクスとカイラさんで住み分け協定が発行された瞬間だった。


 なぜ、俺を抱えて移動する前提なんですかねぇ。


 解せぬ。


「……妖精。本当に、妖精ですね。秋也さん、これでコナン・ドイルの汚名も晴らせますよ」

「コティングリー妖精事件か」


 それは無理じゃないかな。合成写真に騙された事実は変えようがないし。


「もっとも、推力の代わりに攻撃力と防御力に振られてるんですよ」

「……翅だよね?」

「光の翼ですね」


 V2アサルトバスターかな?


「実は、【フォースパイル】と【フォースシールド】も素材に混ざっていまして」

「……後で取り除くからって、ガンガン入れたもんな」

「その辺が悪魔合体して、燐光をまとめて伸ばしてビームサーベルのように斬ったり――」

「――ビームシールドのように防御したりできると?」

「はい」


 V2アサルトバスターだった。


「でも、石を消費しますしあんまり燃費は良くないですから」

「エクスにあんまり危険なことはして欲しくないんだけど、あって困る機能でもないしなぁ」

「体を手に入れるだけのはずだったのに、随分とすごいことになったわね」

「SSR引いちゃった感じかぁ」


 しかも5分だもんな。やっぱ、素材がオーバーキルだったか……。


「そういえば、その体って普通にご飯とか食べられるんだよな?」

「ああ、そうですね」

「ご飯食べられるんですか!?」


 俺の不用意な一言が、本條さんの魂に火を付けた。


「なにを食べたいですか? 和食ですか? 中華は少し重たいですか? イタリアンとかどうでしょう? あ、いっそお子様ランチ風にいろいろ盛り合わせにするのもいいかもしれないですね」

「オーナー……。いったい、どうなってしまったんです?」

「かわいさが罪なんだよ」

「なんということですか。かわいいは正義ではなかったのですか?」


 不合理なんだよ、人類は。


「とりあえず、しゅーくりーむを食べさせてあげては?」

「いえ、別に空腹というわけではないのですが……」

「……そう」


 カイラさんの耳と尻尾がしゅんとしてしまった。

 悪いけど、かわいい。


 めっちゃかわいい。


「ところで、オーナー」

「ん? まだ、なにかあるのか?」

「今のエクスとオーナーが、一緒に街を歩いたらどう見られると思います?」

「親子」

「ですよねー」


 はははははと、揃って笑う。

 親子じゃなきゃ、かわいいい女の子と、親戚のおじさんだな。


 いやぁ。そこに本條さんやカイラさんが加わると……ほんとに説明できないな。


 まあ、関係なんて自分たちが分かっていればそれでいいんだけどね。

>やっぱ、素材がオーバーキルだったか……。


そら(あんな伝説級の素材ぶっこんだら)そう(光の翼が生えたり、行動回数二倍に)なるよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] しかも当たり判定小さい、まさにょぅι"ょっょぃ
[一言] てっきり、バインボインで空中窒素固定装置でコスプレし放題だと思ったのに!
[気になる点] 二回行動持ちに「倍速」かけたら四回行動になりますか?w そしてフェアリーフォームが強化されるとエンジェルフォームに…? [一言] Vだと、エレクトラは雪の中食糧恵んで貰うラストじゃな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ