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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
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33.《マナ・リギング》

「とりあえず、他のアイテムを確認しようか」

「そうですね。石はいくらあっても腐りませんし」


 エクスがデジタルに割り切って、《ホールディングバッグ》からアイテムを具現化させる。電子の妖精は、こういうところが強い。


「本を書いてプレゼントした報酬は、このアイテムですね」

「ヘルメット?」

「ペンも一緒になっているようですが」

「不思議な組み合わせね」


 フルフェイスじゃないけど、50年とか60年前のSF……というよりは、空想科学風味な白いつるっとしたヘルメット。

 ただし、頭頂部からラインが伸びていてその先はスタイラスペンのようになっている。


 なんだこりゃ?


「なんや、格好ええやん。これは、当たりやない?」

「そ、そう?」


 俺からするとレトロフューチャーな感じなんだけど、こっちの人には新鮮なんだろうか。


「じゃあ、早速鑑定しましょう!」

「これ絶対いい物やって。ウチの勘がささやいとるで」


 その結果は、予想していなかったけど意外ではない効果だった。


【ヘルム・オブ・イメージプロジェクション】

価格:2860金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:出力機構であるペンがつながった、白いヘルメット。サイズ調整機能がある。

同期(シンクロ)した装備者が心中でイメージした映像を、ペン先から出力する。

   あるいは、文章もしくは絵として自動筆記する。


「廃棄や!」

「なんでだよ」


 廃部だ! みたいに言われても困る。


「あんなぁ。脳内の妄想が垂れ流しになるねんぞ。こわっ。恐ろしゅうて、夜も眠れんわ」

「落ち着いて。リディアさんは、夜寝ない生き物だ」


 吸血鬼、吸血鬼だからね。その設定、忘れないで。


「別に悪い物ではないはずですよね?」

「本條さんの言う通りだよ」

「私は、ペンで書いてもパソコンで書いても作者の魂は文章に宿ると信じています」


 違う。そうじゃない。


「……それに、心配なら変なことを考えなきゃいいんじゃない?」

「そんなん、無理に決まってるやん。自分が一番、信用できへんわーーー!」


 横島みたいなことを言われても困るんだけど……。


「そもそも、リディアさんが使わなくちゃいけないってわけでもないんじゃ?」

「え? 自動筆記してくれるんやろ? めっちゃ便利やん」


 作家の人は、複雑だなぁ!


「尋問に使えるから、廃棄はしないわよ」

「そうだね」


 なるほど。ニンジャ的には、そういう用途に落ち着くか。

 自動だもんな。ある意味、心を覗くのと同じってことになる。


「リディアさん、大丈夫ですよ」

「アヤノはん……」

「締め切りに間に合う、余裕のあるスケジュールを組めばそれでいいんですから」

「せ、せやな……」


 正しい。

 正しすぎるほどに正しい。


 正しすぎて、ヴァンパイアセイヴァーにおいてザヴェルは理論上最強みたいな話になってしまった。


 ところで、リディア先生は次回作も書くってことでいいのかな?


「話がまとまったところで、次にいきましょう」

「エクスは、デジタルだなぁ」

「なにを隠そう、電子の妖精ですから」


 シャーロックホームズスタイルのエクスが《中級鑑定》を実行し、次に表示されたのは……わりと、馴染みのある効果だった。


【ディスガイズ・アンクレット】

価格:1216金貨

等級:英雄級

種別:アクセサリ

効果:つや消しされた、黒い足飾り(アンクレット)。サイズ調整機能がある。

同期(シンクロ)した装備者は、目撃者にとって“その場に存在していることに違和感がない”姿の幻影を纏う。

   これは意識することなく自動的に展開されるが、装備者を直接知る者や映像には効果がない。


「《リフレクティブ・ディスガイズ》とほぼ一緒だな」

「つまり、私たちには不要ということね」

「まるで、配達を依頼されているかのようですね」

「とはいえ、俺たちにメリットがないわけじゃないさ。本條さんが、わざわざ魔法を使う必要はなくなるし」


 それに、この効果なら職質なんかも防げそうだし。


「便利でいいわよね~。お姉ちゃんもひとつ欲しいぐらい」

「え? なんに使うの?」

「好きなところに行けるってことでしょ?」


 ふふふっと、風の精霊がコケティッシュに笑う。

 意味ありげで、もてあそんでくれそうな隣のお姉さんっぽくもあり……。


「犯罪者には渡せないなぁ」

「悪いことには使ったりしないのに~」

「事後承諾取れば、ええってことやあらへんで」


 一も二もなく却下された。自由な風の精霊に渡していい物ではない。

 そもそも、このアンクレットはひとつしかないし。お届け先は、もう決まってるようなもんだ。


「そういえば、指輪ではないんですね」

「そこは、宅見くんが漢を見せるところだからね」


 ほんとに、その辺の配慮してそうであれだな。


 運営、仕事しろ。


「さて、それじゃ最後の特典アイテムといきましょうか。これは、侃々諤々の議論になりますよ?」

「ああ。でも、前にもらったスキル拡張チケットだろ?」


 アイコン一緒だし。

 前回みたいに三枚じゃなくてひとつだけみたいだから、その点では議論になるかも知れないが……。


 あれ?


「結構重要そうなクエストだったけど、スキル拡張チケットが一枚?」

「よく気付きましたね、オーナー」


 エクスがくるりと回って、デフォ巫女衣装の袴がぶわーっとする。


「なんと、今回はスキル・アプリ作成チケットだそうです」

「スキル・アプリ作成チケット」


 驚きすぎて、アホみたいに繰り返してしまった。

 名称からして、こっちの希望で自由に効果をデザインできるようだけど……。


 いやいやいやいや。それ、絶対ゲーマーに渡しちゃだめなヤツじゃん。悪用しか考えないヤツじゃん。


 そ、そうだ。どうせ、なにか制限があるに違いない。


「好きなスキルが作れるけど、習得には石がかかるとかなんじゃないの?」

「なるほど。それで、先ほど50,021個も」

「かかりませんよ」

「マジかよ」


 神かよ。神運営かよ。手首がくるくるしちゃう。


「もっとも、あんまり強すぎる効果だと、システム的に却下されるようですが」

「そりゃそうだ」

「人に新たな能力を芽生えさせるというの? それは、神の所行なのではない?」


 カイラさんが驚きに目を見開き、耳と尻尾をぱたぱたさせている。

 なるほど。そういう話になるのか。


 そりゃ、TRPGのオリジナルデータ作ったり、MOD入れたりするのとは話が違うよな。


 ……ま、要はウィッシュリングやら魔法のランプみたいなもんだ。いや、それよりも範囲は狭い。普通、普通。そんなに大仰なものじゃない。


 ということにしよう。


「つまり、ミナギくんは神?」

「なるほど。ミナギはんは神かいな」

勇者(アインヘリアル)くんは~、神様だったの~」

「カイラさん以外は反省して」


 そもそも、この世界って女神様以外いないんじゃないの? TSは、ほら、好き嫌いとか派閥がいろいろあるから。


「そんなにかしこまる必要はないさ。どうせ、今回も使用期限があるんだろ?」

「はい。一時間以内ですね」

「なら、思い切って使っちゃおう」

「なるほどなぁ。この思いきりで、アヤノはんをゲットしたわけやな」


 まったく、リディアさんは余計なことばっかり。

 でも、顔を真っ赤にしてうつむく本條さんがかわいいので無罪。大岡越前だってそうする。俺もそうする。


「お姉ちゃんとしては、それでどうにかできるのなら刻印騎(ルーンナイト)を預けても構わないわよ~」

「マジか」

「もちろん。ここが正常化したから、あの子の暴走も収まってる可能性は高いわよ~」


 俺たちが全力で攻撃しても耐えきって、片手間にドラゴンをホームランした刻印騎。それが戦力になるというのは、めっちゃでかい。


 異世界でロボットに乗るのはあんまりいい結末にならないような気はするけど、惹かれる。めっちゃ、惹かれる。


「でも、どうすればいいんだろ? 修理? それとも、機械を支配するような能力?」

「ミナギくんの意思なら反対はしないけれど、小回りは利かないわよ」

「それから、相当目立ってしまうかと」

「あれを家に置くん?」

「あー……。それがあったか」


 途端にテンションが下がった。現実なんてクソゲーだ。


「まず、家にプールを作るだろ? そしたら、その地下から出撃するじゃん?」

「オーナー、現実を見ましょう」

「……うん」


 地下に格納庫を作るのが無理なら、母艦を用意したほうがいいか?


「それよりもまず、長所を伸ばすか短所を埋めるかを考えたほうがいいのではない?」

「そうですね。世界樹を手放したので、今のオーナーに復活能力はなくなっているはずですよ」

「……あ。そっか」


 青々と茂る世界樹を仰ぎ見て、紋章のなくなった右手に視線を落とす。

 確かに、そう言われると補填という意味はあるのか。


 でも、回復に振るよりは攻撃を優先したほうが根本的な解決になると思うんだよな。


「《上級鑑定》が欲しいとは言わないから、俺の安全確保に関してはさっきの石でどうにかするとして――」


 それに、せっかく効果をこっちで指定できるんだ。

 用意されているスキルやアプリにはない、能力を選んだほうがいいんじゃないかな。


「――刻印騎でなければ、エクスのために使うべきかなと思う」

「はいはい、そうですね……。え? エクスですか?」


 思わず、ノリツッコミをするエクス。

 そんなに驚くこと?


「だってさ、元々の勇者(アインヘリアル)ってエクスだろ?」

「ですが、オーナーがいないとエクス一人ではなにもできませんよ?」

「なるほど、エクスさんね。一理あるわ。ミナギくんの考えを聞いてから判断してもいいのではない?」

「そうですね。秋也さんには考えがあるようですし」


 カイラさんと本條さん……だけでなく、リディアさんや風の精霊にまで興味深そうに見られていた。

 そんなに、大したことを提案するわけじゃないんだけど……。


「地球だとハッキングしたり、こっちでもドローンを操ったりはできるけど規格が合わないと使えないじゃん?」

「それはそうですが」

「フェニックスウィングはある程度操作できるけど、例えば呪いのアイテムとか遠隔操作でき

たら便利じゃないかなって」


 俺の提案に、エクスだけでなくみんなして黙ってしまった。

 世界樹の庭園にさわやかな風が吹く……あれ? だめ?


「確かに、そういう方向の能力はなさそうですね……。まあ、やたら膨大なリストなので、見落としがないとは言えませんが」

「いいのではない? 偵察も攻撃も素晴らしかったもの」

「はい。賛成です」


 良かった。マイナスな意味での沈黙じゃなかったらしい。


「結局、刻印騎は諦めとらんけどな」

「そうなると、器物操作の能力かしら~」

「付喪神的なイメージでしょうか……」


 むむっ、と眉根を寄せてエクスが考え込む……が、すぐに弛緩してしまった。


「さすがに無理でした」

「却下されちゃったか」

「なら、範囲を絞ったらええんやない? 魔力がある物だけとか」

「ぬぬぬ。無線の代わりに魔力通信のようなイメージですか」


 なるほどと目を瞑り、衣装を変えるのも忘れて集中すること数分。


 固唾を飲んで見守っていた俺たちの前で、エクスがまぶたを開いた。


「あっ……。なんかできました」

「よし。じゃあ、そのまま取得しちゃえ」

「いいんでしょうか? エクスなんかが……」

「もちろん」

「それでは、新スキル《マナ・リギング》を習得します……しました」


 あっさり、できてしまった。


 特に見た目は分からないが、エクスがパワーアップしたわけだ。

 いや、見た目変わったわ。なぜか、ジャケットと半ズボンに白いソックスだ。なぜかじゃない。正太郎くんとか大作くんスタイルだ。すぐ戻るんだろうけど。


「ふふふ。これで、オーナーのお世話(・・・)が捗りますね。戦闘中とかオーナーの出番はありませんよ!」

「それは素晴らしいわね」


 ……あ。

 それ忘れてた……。


 エクスが活躍するってことは、俺が置物になるってことじゃん。


 効率厨は、これだから! これだから!

《マナ・リギング》

持続:精神集中(最大一時間)

射程:視界

対象:マジックアイテムひとつ

効果:誰とも同期(シンクロ)していない、視界内のマジックアイテムひとつを対象とする。

  そのマジックアイテムと同期(シンクロ)しているかのように、自在に操ることができる。

  この効果を使用する度に、石を50個消費する。


強化1:同時に操るマジックアイテムの数を増やす。石50個につきひとつ。

   最大で、石500個(10個追加)まで。

強化2:石500個を支払うことで、他者と同期(シンクロ)済みのアイテムも対象とすることができる。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ヘルム・オブ・イメージプロジェクション 強制的に身に付けさせて尋問すればイメージが自動的に出力されるとか便利。 このヘルムかぶって手にペン括り付けて寝れば夢を出力できるかも? >ディスガ…
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