31.最後の部屋
申し訳ありませんが、別作品を更新した関係でストックがなくなったので一回お休みさせていただきます。
次回は、04/05(日)の予定です。
「ここが最後の部屋ね……」
「とりあえずは、ね」
感情のこもったカイラさんの言葉に、無粋とは知りつつ注意を口にする。
隠された第六の部屋とか、暗闇の中に地下への階段が……という展開もありえなくはない。
「せやな。最後だとしても、さっきみたいなトラップがあるかもしれへんしな」
「…………そうね」
たっぷり溜めてから、カイラさんはうなずいた。
地雷。それ見えてる地雷だから。本條さんも、めっちゃ渋い顔してるじゃん。美人だけど。
「大丈夫よ~。男の子は、ガリガリよりも多少お肉があったほうが抱き心地が良くて好きなのよー」
と、こっちを見てウィンクする風の精霊。
そこで、俺に振る!?
上手にフォローできたでしょ、ほめてみたいな顔してるけど、厄介事を押しつけられただけだからな!?
「理想の自分というものはあるでしょうが、それから外れてしまったとしても元に戻ろうと努力すればいいのです。その流れる汗こそ、美しい」
「そうそう。俺の好みがどうこうってより、自分がどう思うかが大事だと思う」
さすがエクス。心の友よ。
「もっとも、エクスは電子の妖精なのでダイエットの必要はありませんが」
その付け足しは要らなかったかなー。
「まあ、そうね。重要なのは、これからよね」
「そこでひとつ、秋也さんにお願いがあるのですが」
「なに? なんでもやるよ?」
この空気をどうにかできるんなら、本当になんでもやるよ。
「オーナーはまた、安請け合いを。ここでいきなり、婚姻届を取り出されたらどうするつもりなんです?」
「それ、拒否したほうが問題にならない?」
「いえいえ、そうではないです」
本條さんが顔を真っ赤にして、手をぱたぱたさせきらきらする。
……良かった。空気は変わったな。
あと、かわいい。
かわいい。
「部屋に入る前に、外から部屋を攻撃してみたいので《水鏡の眼》を出して欲しかっただけですから」
「うん、それくらいなら……うん?」
今、本條さん攻撃するって? なんで? なにを?
「過激やなぁ。やったれやったれ。景気よく、どかんといこ」
「ダメよ。まずは、明かりの呪文を放って確認したほうがいいわ」
「……そうですね。そうですよね」
「なにも分からなかったら、そのときは先制攻撃しましょう」
うちのケモミミくノ一さんはブレないなぁ。
「勇者くんと仲間たちは愉快ね~。お姉ちゃん、大好き~」
「ノーコメントでお願いします」
触れるなよ 体重関係は マジでガチ
新選組の土方さんぐらい上手な心の俳句(川柳)を読み上げる俺。
頼む。闇よ、光で晴れてくれ。
「火を一単位、天を二単位。加えて、地と風を一単位ずつ。理によって配合し、舞い踊る光を産む――かくあれかし」
趣味の悪い魔道書から光球が生み出され、まっすぐに最後の暗闇の部屋へと飛んでいく……が。
結果は、光が闇に飲まれただけ。なにも見えないし、反応もなかった。
「だめでしたか……」
「ダメだったかぁ」
残念な結果を受けて、本條さんだけでなくカイラさんまでこっちを見る。
「とりあえず、ウチは後ろに下がっとるわ」
「お姉ちゃんも、そうするわね~」
「壊しちゃいけないなにかがあるかもしれないから、天井とかちょっと軌道は逸らしてね?」
「そうですね。そうします」
止める気はないらしい。
まあ、変に鬱屈とされるよりは発散したほうがいいか。
「エクス、《水鏡の眼》を」
「受諾!」
暗闇の部屋の入り口に、水で作ったレンズが生まれる。
「いきます。火を三単位、天を九単位。加えて、風を二単位、地を四単位。理によって配合し、光を励起・収束す――かくあれかし」
さすがに最大威力ではないが、《水鏡の眼》で増幅されたレーザーが暗闇の部屋を斜めに貫き天井へと直撃する軌道を進む。
さすがに闇に吸収されることはなく、天井を打ち貫いた爆音が轟いた。
「なんや。闇が薄くなっとるような?」
「確かに、そんな気がするな」
「このまま攻撃し続けてみる?」
「まだ、魔力も魔力水晶もあります。いけます」
……あれ? おかしいな?
部屋の外からの攻撃で解決。
安全で効率的なはずだが、俺の心は軋みを上げていた。
蘇るのは、過去の記憶。
そう。TRPGで、部屋の入り口よりもでっかいモンスターを配置してしまい、外から魔法とか飛び道具でタコ殴りにされた苦い思い出が俺を苛む。
……嫌な、事件だったね。
しかし、このままでは終わらなかった。
「闇が集まってるのか?」
薄くなったように見えた闇が渦巻くように凝集し、逆巻くようにいくつか――四つに集まっていった。
「なるほど。私たちの偽物というわけ」
「そういうこと。そういうことですか」
それは、風の精霊を除いた俺たち四人と同じシルエットをしていた。
同キャラ対戦でよく見る感じの影法師。
この部屋は、そういう試練が用意されていたのか。
「最後は単純で良かったわ」
「遠慮は必要ないですね」
……あれ?
カイラさんだけじゃなくて、本條さんまで声が低くなってるんだけど……。
「エクス、どういうことなの?」
「それはもちろん、虎の尾を踏んだということですよ」
「なにそれこわい」
もしかして、さっきの部屋の件が尾を引いてる?
え~と……。
元に戻ったとはいえ、微妙に体形が崩れた。そのことが、今も心の底にわだかまっている。
そこに現れる自分たちの偽物。もちろん、体形が崩れたりしていない、普段の自分たちの姿で。
まるで、見せつけるように……?
……アカン。完全に、挑発してるじゃん。
俺が、暗闇の部屋を避けて逆時計回りに探索したから、こんなことに……。
「所詮、偽物は偽物ということを分からせる必要があるわね」
「はい。これは、私たちの戦いです」
「同感よ」
いやいやいやいや。それはどうなのさ。
同キャラ戦と言えば、まずはしばらく無抵抗で耐えてからでないと。暗黒騎士からパラディンに転職できないじゃん?
「恋する乙女ね~」
「いやはや。修羅を起こしてしもうたようやな」
「二人とも、観戦モードにはいってないで。どうにか――」
「できるん?」
……うん。それ、無理。
結論から言えば、シャドウ俺たちとの戦闘は無傷で勝利した。
瞬殺だ。
理由としては、エクスまでコピーできなかったというのがあるだろう。つまり、シャドウ俺はマジで無力だった。
シャドウなのに、変な欲望に目覚めたりとかペルソナ使えたりしなかったし。
そして、事前にレーザーで相手の力を殺いでいたというのもあるようだ。明らかに、カイラさんと本條さんの力をコピーしきれていなかったからね。
つまり、二人の殺る気……ではなくやる気はそこまで重要なファクターではなかった。
そういうことにしたいと思う。
世界平和のために。
【精霊の鍵】
価格:購入不可
等級:神話級
種別:その他のアイテム
効果:魔法銀でできた鍵。
閉ざされた地への扉を開く。
「あの影法師を倒した後に出てきた鍵ですが、ということです」
「文字通り、ここを攻略する鍵というわけね」
「とりあえず、ファーストーンの欠片を近づけてみるか」
仁徳天皇陵に突き刺したくなるような形状の、角張った鍵。
それに、今まで回収してきたファーストーンを近づけると、光を放って鍵へと飲み込まれた。
「すごい。神秘的ですね……」
「大丈夫。危険はないわよ~」
風の精霊のお墨付きを受けて、他のファーストーンも同様に鍵と同化させる。
「これで、四つすべてですが……」
「なにも起きないわね」
「いやいや。ファーストーンが飲み込まれてるだけで、充分大事やん」
しかし、それだけ。
「まだ、なにかが足りないのでしょうか?」
「場所の問題か?」
「ミナギくん、心当たりがあるの?」
「心当たりというか、最初の部屋の天井画。関係があるとしたら、あれぐらいかなぁと」
「確かに、対象していましたね。秋也さん、戻りますか?」
「そうしよう」
というわけで、元水の部屋を通って最初の部屋へ。
「あ、鍵が」
そこに戻ると同時に、鍵が独りでに浮かび上がって天井へと飛んでいく。
そして、絵の中心へと突き刺さりがちゃりと音がした。
「扉が出てきました」
びっくりした本條さんも可愛いが、それはともかく、俺たちの目の前に扉が出現していた。
「神殿の中心への扉で間違いないわね~」
「この先に世界樹を植えるわけか」
それでクリア……だ。
「まず、私が入らせてもらうわよ」
「一人でええん?」
「危なかったら、すぐ戻って来るわよ」
一回使ったら消えるってことはないだろう。そうしたら、戻って来れないし。
それに、個々の罠は結構アレなのもあったけど、そこまでの悪意も感じない。
そもそも、ダンジョンを作るってことは攻略させる気があるってことだもんな。
「じゃあ、カイラさんよろしく」
「ええ、任されたわ」
きらきらしたカイラさんが扉の向こうへ消え、それから、数分。
「問題ないわ。誰もいなかったけれど」
「ありがとう。じゃあ、みんなで行こう」
カイラさんに先導され、扉をくぐる。
特に、気分の悪さは感じない。しずちゃんのお風呂場に直通ドアみたいな感じであっさりとたどり着いたのは、最初の部屋と似た感じのドーム状の空間だった。
「ここが、神殿の中心ね~」
「荒れ果ててるけど……庭園だったのか?」
そこは、天井で遮られているにもかかわらず、全体が優しい光で包まれていた。
地面は今までとは異なり地で、芝生が剥がれたような状態になっている。
空気は淀んでいて、少しだけ嫌な匂いもした。
気温もちょっと低いようだ。環境適応ポーションのお陰で寒さは感じないが、吐く息は白くなっている。
「昔の水路かしら?」
「だとしたら、あのくぼみは泉だったのでしょうか?」
その中心部。小高い丘のようになった場所が、不自然に空虚。
まるで、大きななにかが欠けているかのような違和感があった。
「もしかして、昔もここに世界樹があった……?」
「正解。世界樹ではないけど、近いものは祀られていたわね~」
あるべき姿に戻すということか。
俺は、この空間の中心へと移動する。
「ここが、新しい家みたいだぞ」
包帯に包まれた世界樹の紋章を思い浮かべ、地面に手を突く。
手が光り、包帯越しにそれが漏れ出て、丘に世界樹が生え――たりはしなかった。
「ラー!」
「は?」
謎のアホ毛幼女。
メフルザードに殺された後、謎空間で出会った謎のアホ毛幼女が手から出てきた。
は?
は?
え? 実在?
俺はアテナを生んだゼウスだった……? いや、あれは頭を割ったら出てきたんだった。
「ミナギくん、どういうこと?」
「秋也さん、大丈夫ですか?」
「こりゃ、けったいやな」
「オーナーが、エクス以外の幼女を……」
「違うんだ。誤解だ」
思わず、浮気男みたいな言い訳を口にしていた。
……人間、追い詰められると知能が下がるんだなぁ。
「ラー!」
俺たちの大騒ぎを余所に、緑のアホ毛幼女は大きく飛び上がり、地面にずぼっと収まった。
地面にずぼっと収まった。
「あ、世界樹だからか」
「オーナー、それはさすがに……え?」
「女の子が木になって……」
本條さんが言った通り、アホ毛幼女が緑色の光に包まれると同時に見慣れた世界樹に変わった。
まだ、それほど大きくはない若木。
それだけに、葉は生い茂り、幹は真っ直ぐで生命力を感じる。
それと同時に、世界が変わった。一変した。
枯れ果てた泉に水が戻り、淀んでいた大気が風で清められた。
むき出しになっていた地面は一面の緑に変わり、一気に暖かくなった。
「勇者くん。ありがと~。これで、島の環境も戻ると思うわ~。百年ぐらいで」
「それはすぐやな」
「寿命が長い人たちは、これだから」
まあ、いいか。とりあえず、終わった。
これで俺たちの使命も……って、リディアさんのことを調べに来たんじゃん? これ、サブクエだよ。
「今日はここで休んで、明日から頑張ろうか」
「お、ここでものすごく久し振りに通知が来ましたよ」
「マジか。運営、仕事再開した?」
「しかし、これは珍しいパターンですねぇ」
エクスが、どう判断したものかと首を傾げる。
運営からの通知。
それが、ひとつだけではなかったというのが、困惑の理由だった。
リュリム神の部屋
→パーティメンバーの影が現れる。
同キャラ対戦を乗り越えると、イベントアイテム『精霊の鍵』が出現する。