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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
176/225

29.ダンジョン攻略中

「残念ながら、これひとつではどうしようもないようです」


【ファーストーン(アンバー)】

価格:購入不可

等級:神話級

種別:その他のアイテム

効果:『根源』の地の領域から産出されるという秘石の欠片。

   これ単体では力を発揮せず、複数集めた上で条件を満たす必要がある。


「なるほど。やっぱ、そういうことか」

「次の部屋に進むことはできても、攻略はできないということね」

「それじゃ、ミナギはん。一旦戻るんか?」

「後回しにしてもいいけど……戻らない理由もないか」


 みんなを見回し、率先して前の部屋へと足を向ける。

 それに、心当たりがないわけじゃない。


「あの渦の中心に、ファーストーンがあるんじゃないかと思うんだ」


 ヘルエラ神の水の部屋へと戻りながら、俺は推測を口にした。

 根拠はない。

 だが、突拍子もない考えでもないはずだ。


「残念ながら、お姉ちゃんパワーで分かったりしないのよねー」

「お姉ちゃんですか? 同じ精霊の力ではなく?」


 濃いキャラに慣れていない本條さんが、驚いて立ち止まる。

 変にすれないで、ずっとこのままでいて欲しい。


「ともあれ。五つ目がなにかは分からないけど、とりあえず四種類のファーストーンを集めるのは間違いないはず」

「そう……ですね。作為を感じますが、精霊さんたちがこの神殿を変貌させたということであればあり得ると思います」

「お姉ちゃんも賛成よ~」

「回収をすれば、あの水も消えるかしら?」

「さっきの例からすると、たぶん」


 確証はないけど、よっぽど意地悪じゃなきゃ解除されるだろう。

 遠く離れた九層地獄だから神聖魔法の術者レベルが落ちるとか、マジックアイテムのプラス修正が低くなるとか、瞬間移動系の呪文を使うとゴミ溜めへ強制転移させられるとか、神託系の呪文を使うと嘘を教えられるとか。


 そういう仕組みはなさそうなので、大丈夫なはず。


「じゃあ、ウチの出番やな」


 水の縁まで戻ってきたところで、密かに先頭にいたリディアさんが振り返りながら言った。


「私が行っても、構わないのよ?」

「ウチが一番の適任やろ。ばっちり、若返ってくるで」


 片眼鏡(モノクル)を直しながら、リディアさんが笑う。

 無理をしているようには見えないが……変に気負ってなければいいけど。


「移動しなきゃいいんだから、転けたりしなきゃ大丈夫でしょ」

「……アカン。不安になってきた」

「吸血鬼のパブリックイメージ大切にしてっ」


 なお、リディアさんが一般的な吸血鬼かは考えないものとする。


「それはともかく、活躍できるときにしとかんと肩身が狭くなるからな」

「別に、気にすることはないんだけど……」

「ウチが気にするんや」


 まあ、気持ちは分からないでもない。

 研修中に先輩社員が緊急対応で忙しくなって、なにも指示されず、なにもできずにただ座っていたあのときの居たたまれなさといったら……。


 良くない。そういうの、良くないな。


「頑張ろう」

「なんや、哀れみの視線を感じるんやけど……」

「エクス、細かい操縦はよろしく」

「永遠に年齢の変わらないバーチャルネットアイドルエクスにお任せです」


 エクスは13歳だったのか……。


 それはさておき。


 微妙に納得いかないというリディアさんをフェニックスウィングの後ろに乗せ、渦の中心を目指す。

 しかし、いきなり飛び込んだりはしない。


「ここからで分かる?」

「う~ん……?」


 リディアさんは虫眼鏡……【グラス・オブ・トレーサー】で。俺はタブレットを水面に平行にして鑑定でファーストーンを探す。


「よう分からんな……」

「こちらもです。なにかに阻害されているような、そもそも存在していないような……?」

「もしかして、水に入らないと分からない……とか?」

「あり得るやん。というか、それが正解と違う?」

「厄介な」


 せめて入る前に場所だけでもという、些細な願いは叶わなかった。


「しゃーなしや。ミナギはん、ウチ行ってくるで」

「……よろしく。危なくなったら、すぐ引き上げるから」


 命綱代わりのロープを腰に巻いたリディアさんが、ためらわずにダイブ。

 じゃぽんっと音を立てて、着水した……途端、バランスを崩す。


「おっとと」

「大丈夫!?」

「意外と微温いわ、この水」

「その情報を聞いて、どうすればいいの……?」

「大人しゅう、見守っとればええねん」


 最初は冷や冷やしたが、立っていられないほどではないようだ。


 リディアさんが、懐から虫眼鏡……【グラス・オブ・トレーサー】を取りだして、その場でくるっと回って周囲を見て回る。


 移動してないから、セーフ。


「あー。なんやこれ。渦に合わせて移動しとるやん」

「殺意高えな、おい!」


 なるほど。そういう仕様だから、渦自体は人が流されるほどじゃないわけか。自分から移動してね! ってことね。


 絶対に年齢を上下させてやるという覚悟を感じる。


 ……が、感心してる場合じゃない。


「エクス、一時的に渦を止めよう。リディアさん、そのまま耐えてファーストーンの場所と移動速度を教えて」

「分かりました!」

「アヤノはんたちの足下を通過して……今、入り口のほうに移動していったで」

「結構早いな」

「問題ありません!」

「なら、エクス。《踊る水》、最大威力で」

受諾(アクセプト)!」


 水を操作するマクロ《踊る水》。

 年齢が変わる効果があろうが、水は水。複合効果はあっても、物理的な特性まで失われるわけじゃない。


 まるでモーセが引き起こした奇跡のように、水が割れた。


「そこや!」


 むき出しになった地面に転がる、指先ほどの宝石。

 それに向かって、命綱を外したリディアさんが走る。


「うおっっ」


 慣れないことをしているからか途中でつんのめったが、足は止めない。

 むしろそのまま頭から突っ込んで、その宝石をつかみ取った。


 白? 透明? とにかく、ファーストーンで間違いないだろう。

 なぜなら、一瞬で、すべての水が消え失せたからだ。


「やりました!」


 俺たちを見守っていた本條さんたちが、歓声を上げる。

 それを聞いて、俺も大きく息を吐いた。


「ありがとう。リディアさん。お疲れさま」

「へへっ。残念やったな、ウチのロリボディがお披露目されへんで」

「そういう趣味はないので」

「そうですよ。オーナーはエクス以外のロリボディに興味はありません」

「否定しづらい!?」


 まあ、なんとかなって良かった。

 これ、正攻法だとどうやって攻略すれば良かったんだろうな? 投網?


「でも、水がなくなってしもうたんは、もったいないな」

「いや、危ないから消えて正解でしょ」

「永い生に飽いた不死者向け施設として、金取れたと思うで」

「そんなに需要なくない?」

「量より質や。遺産を全額受け取る契約にすれば、がっぽがっぽやん」


 そう冗談を言うリディアさんの表情は晴れやかで、憑き物が落ちたかのようだった。


 ……冗談ということにしよう。うん。





「目新しい情報はないですね」


【ファーストーン(オパール)】

価格:購入不可

等級:神話級

種別:その他のアイテム

効果:『根源』の風の領域から産出されるという秘石の欠片。

   これ単体では力を発揮せず、複数集めた上で条件を満たす必要がある。


「ほぼ、コピペだな」

「ウチの努力は一体……」


 やっぱり、ダーククリスタルのボスを全部倒さないと、くらやみのくもにダメージが通らない的なあれか。


 というわけで、虎子の間ぐらい広くなったヴァレンティーヌ神の部屋を抜け、今度はエイルフィード神の部屋だ。


 広さは、今までと同じ。

 床のタイル一面に、ルーンが描かれているのもドローンで偵察した通り。


「踏み込む前に、文字の解読かしら」

「大事、大事」

「そうですね。どんな文章になるのか、とても気になります」


 というわけで、《トランスレーション》持ちの三人で床をじっとにらむ。


「なんや、真面目にやってるのは分かるけどおもろい光景やな」

「お姉ちゃんは、笑ったりしないわよ~?」

「でも、否定はせえへんのやな」

「嘘はつけないから~」


 そんな背後からの雑音にも負けず、読み解いた結果は……。


「……平仮名?」

「というより、音節文字と言うべきでしょうか」

「一マス一文字ね」


 専門的なことはよく分からないが、要は床一面に一文字ずつ平仮名が書いてあるような状態だった。


「ルーンとは、一体なんだったのか」

「本当の力あるルーンだったら、干渉し合って大変なことになってるわよ~」

「なるほど。刻印騎(ルーンナイト)がでかいのも、そういう理由だったっけ」


 つまり、本物のルーンだと判断して解読に挑むと痛い目を見る。

 けれど、《トランスレーション》のお陰で本当の意味が分かってしまったと。


 やっぱり、俺たちギミックブレーカーだなぁ。


 ……むしろ、俺たち――勇者(アインヘリアル)しか攻略できない構造になってるとか? いくらなんでも考えすぎか。


「それはいいけど……これ、合言葉を唱える……じゃないな。触れていけばいいのか?」

「恐らくはそうなのでしょうが……ヒントがなにもありません」


 聖なるかな聖なるかな聖なるかなとか、かしこみかしこみとか、そんな定型句があったりしないのか。


 そう、現地組に聞いてみるが。


「特に思い当たるものは、ないわね」

「適当に、ヨイショしたらええんちゃう?」

「それでいいのか、神様」


 天空神で、慈悲深き女神なんでしょ?

 もっと高貴って言うか、厳かっていうか。


「神サマは、特に、儀式的なの嫌いなのよねぇ~。感謝は適当でイイから、全力で生きなさいって感じ?」

「ふ、フランクですね……」

「物分かりがいいのは素晴らしいけど、こういうとき困る……」


 どうしたものか……。


「とはいえ、『エイルフィード神は心も優しい』とか、そんなんじゃダメだろ?」

「それでいきましょう」

「え?」

「問題ないわよ」

「本当ですか?」


 俺と本條さんの疑問を置き去りに、カイラさんが跳んだ。


 マフラーがたなびき、数メートル向こうの「え」のマスにふわりと着地。真似できないし、しようとも思わない。


 ニンジャすごーい。


「あれ? ウチ、なんとなくディスられてへん?」


 大丈夫です。リディアさんは、カイラさんの比較対象にならないので。


 と、内心でフォローしているうちに、次々とマスを踏んでいくカイラさん。その途中、特に妨害らしきものは発生しない。


 ……あれ? マジで? このままいけちゃう?


 いやいや。どうせ、最後に爆発したりとか……しなかった。


「エイルフィード神は心も優しい……と。これで完成ね」

「ああ……。プレジデントマンと同じ扱いにしてしまった」

「プレジデントマン……?」


 最後は、偶然にも部屋の中心。

 そこに降り立つと同時に、床のルーンがすべて消え去った。


 そして、天井から落下する光るなにか。


「あっ」

「赤い……ということは、火のファーストーンかしらね?」


 天井から落ちてきた宝石をキャッチし、カイラさんはクールに微笑んだ。


 尻尾を、ぎゅるんぎゅるん振りながら。

ヘルエラ神の部屋。

→最初の部屋。一面水で覆われた部屋。

 風の精霊との複合で、水中を5フィート(約1.5メートル)移動する度に年齢が乱高下(±1D100)する。

 水の中にある小さな風のファーストーンを自ら離すと、この部屋は開放される。


エイルフィード神の部屋

→火の精霊との複合。タイルに様々なルーンが描かれた部屋。

 ルーンは一文字が一音になっており、エイルフィード神を讃える文章を捧げることで部屋は開放される。

 誤った文章だった場合は、部屋全体が劫火に包まれる(一旦部屋から退出すると再挑戦が可能となる)。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロリボディ…エクスはずっとぺったんこ(タブレット)だからw エイルさんかわいいとかでも行けたんだろうか…?
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