表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
175/225

28.財宝の天秤

 入り口の部屋から通路を使って、第一の部屋の前までたどり着いた俺たち。

 そのまま、人跡未踏の奥地へ入って行っ……たりはしなかった。


「部屋に入る前に、オーナー。行動方針はどうします?」

「方針もなにも、部屋に入るしかあらへんのと違う? 水浸しやけど」

「エクスが聞いているのは、その水をどうするかだよな?」

「ふふふ。やはり、オーナーとエクスは一心同体ですね。絶対に誰にも渡しませんよ……」

「急にヤンデレっぽくなるの、なんなの?」

「趣味です」

「趣味なら仕方ない」


 というわけで、水の女神ヘルエラの部屋。

 10メートル四方ほどのそこは、膝ぐらいの高さまで水が溜まっている。しかし、この部屋から一滴たりとも漏れ出してもいなかった。


 不思議というかご都合主義的だが、神様と精霊が絡んでるんだ。なにがあっても、驚かない。


「……あっ、あのバイクを使えば、水に触れずに抜けられますね」

「お姉ちゃんが運んでもいいわよ~」

「いや、それはなにが起こるか分からないのでなし」

「えぇ~?」


 不満そうにするけど、今回は風の精霊の出番はなしだ。NPCだと考えて、勘定には入れない。


「素直に、入ってみるのはどないや?」

「正攻法は、そうなんだけど」

「それは、私の役目ね」


 危険を顧みず、カイラさんが立候補。むしろ、外したら怒ると言わんばかり。

 あらゆる意味で適任ではあるんだけど、危険度が分からないからなぁ……。


「あとは、俺のマクロでどうにかする手もあるけど……」

「先ほどの炎の壁のことを考えると、効かない可能性もありますね」


 どれも、一長一短。

 スルーして飛んでいくのが、一番安全なんだよな。


「でも、果たしてそれでいいのかしら?」

「確かに、次の部屋には行けると言えば、行けるんだけど」


 しかし、ぐるっと円を描いてるだけで他の場所には行けない。

 つまり、俺の中の世界樹を植えるべき、神殿の中心への道がどこにもないのだ。


「試練に打ち勝って、道を拓かなければならない。そう思えるのだけど」

「そういうことみたいね~。みんなっぽくない真面目さだけどー」

「それ、自分で言う?」


 まあでも、いきなり問答無用のデストラップとか、パーティ分断されてクソみたいなモンスターとの戦闘とかならないだけで慈悲を感じなくもない。

 戸板の影から、キャリオンクロウラーが出てきたりもしないし。


「とりあえず、鑑定してみますか」

「うん。《中級鑑定》でなにか分かれば……」

「あー。これは……」


 早速《中級鑑定》を使用したエクスが、なんとも味わい深い表情を浮かべた。


「水の中を移動する度に、年齢が1~100歳変動するとのことです」

「振れ幅でかすぎる!?」

「かなりの確率で死んでしまいますね……」

「俺でも、ほぼ5割の確率で死ぬな」


 本條さんはもっとだろう。

 分の悪い賭けは嫌いじゃないにしても、限度ってものがある。


「とりあえず、ここはフェニックスウィングで飛んで行こうか」

「そうですね。別の部屋でまた、ヒントが見つかるかもしれませんし」

「そうね。危険性が判明したのなら、無理に突き進む必要はないわ」


 特に意見は出なかったが、リディアさんと風の精霊も異存はないらしい。


「二人乗りですから、最初にオーナーとカイラさんが乗って向こうへ」

「そして、《ホールディングバッグ》に戻ったのを本條さんに出してもらうか」


 順番はどっちでもいいけど、《ホールディングバッグ》の取り出し口がふたつあるとこういうとき便利だな。


「まあ、無理やり詰めれば三人乗れないこともあらへんな」

「大丈夫よ~。お姉ちゃんは風のように軽いから」


 まあ、向こうは任せよう。女性の体重と年齢には、触れちゃあならない。古事記にも書いてある。たぶん。


「……俺が、ダンジョンでカイラさんを運ぶことになるとは」

「なんなら、操縦は私がやっても――」

「はい。後ろに乗って」


 戦力的にも、カイラさんがフリーのほうがいいだろう。

 そう理論武装をして、フェニックスウィングにまたがり移動開始。


 水面から数メートル上を浮いて、右隣の財宝と彫像の部屋を目指す。さすがに、いきなり暗闇の部屋に行くのはない。


 何事も無く、三分の一ほど進んだ――ところ。


「ミナギくん、水面が渦巻き始めたわ」

「エクス、急ごう!」

「はいっ」


 フェニックスウィングにとっては狭い部屋だったが、一目散に次の部屋の通路へと飛び込んだ。

 それと同時に、テレパシーで状況を確認する。


(本條さん、そっちも大丈夫?)

(はい。念のため退避しましたが、こちらに被害はありません)

(お、渦が収まったで)


 まさか、いきなり渦が発生するとはな……。

 クロコダインのおっさんが潜ってたら、バルジの大渦がふたつになってるところだった。


「偵察のときは、起こらなかったわよね?」

「人が通ったら発生するってことなのかも」


 そうなると、あの渦にどんな意味があるかだが……。


(試しに入ったら、渦に巻き込まれて引きずり込まれるわけやな)

(強制移動か……)

(その間、ずっと年齢が変化し続けるわけね)


 ロシアンルーレットよりひでえや。


「警戒はしつつ、次の部屋へ行こう」

「せやな」


 合流した俺たちは、カイラさんを先頭に進んでいく。

 そのケモミミくノ一さんは、マフラーの【ギルシリス】を伸ばして通路壁や天井を叩きながらの進軍。


 一種のジェネリック10フィート棒だな。もはや、10フィート棒は概念になったのだ。


 というわけで、何事も無くヴァレンティーヌ神の財宝と彫像の部屋に到着した。


「やっぱり、絵に描いたような金銀財宝だなぁ」

「そうですね。目の前にあるのに、現実感がありません」


 本條さんが、ほう……とため息を吐く。年齢以上に大人っぽく見える仕草だ。

 俺的には、財宝よりも価値があると思う。いわゆる個人の感想ってやつだけど。


「しかし、ざーっと鑑定してみましたが本物のようですよ」

「鑑定すら騙す幻とかでなければ?」

「ですね。そんなのがあるのか分かりませんけど」


 本物だろうとそうでなくても、価値を感じるならそれでいいのでは?

 金本位制を脱したら紙だってお金になるわけで、それでも俺は本物が欲しいとか言ったりはしないぞ。お金なんて、所詮は引換券だ。


 それはそれとして、この部屋のギミックはなんなのか。そもそも、ギミックがあるのか。


「どうしたもんかな……」

「お宝回収して、次の部屋へ行くんちゃうの?」

「現状それしかないんだけど、確実にバッドエンドルートへ突き進んでる気がする」

「なにもされないというのも、不気味なものね」

「仕掛けがあるとすると、この像が怪しいと思うのですが……」


 本條さんが、天秤を持った女神像へと一歩踏み出す――と。


「宝物を捧げよ」

「え?」


 唐突に、声が聞こえた。

 女性とも男性とも判別できない。無機質な。しかし、威厳と威圧感のある声。


「あの像から……だよな?」


 周りを見回して聞くが、返ってきたのは困惑の表情。


 誰も言ってはいない。

 となると答えはひとつだが、秩序やら公平の女神がそんなことを言う? という困惑。


「捧げよってことは、あの天秤に乗っけたらええんかいな?」

「そんなところかな……」

「乗らない場合は、足下に置けばいいでしょうか?」

「宝物を捧げよ」


 また、声がした。


「ここは、無視しないほうが良さそうだな……」

「そうね~。ここだけじゃないと思うけどー」

「ですよねー」


 しかし、問題が残る。


「宝物って、どれを?」

「頑張って鑑定し続ければ、一番高いのは判別できますけど」

「ヴァレンティーヌ神は、そんなに俗な女神ではないわよ」


 エクスの提案も、カイラさんはいい顔をしない。

 それには、俺も同意だった。


 たくさんの金貨。

 色とりどりの大粒な宝石。

 美しく繊細な装飾が施された、指輪やネックレス。

 威厳すら感じる宝冠。


 語彙力の関係で金銀財宝としか言えないが、いずれ劣らぬ煌びやかさ。


 それなのに……。


 どれも今ひとつぴんと来ない。


 どういうことなんだろう?


「というか、ここの財宝って全部この神様の物なんじゃないの? それを捧げよっておかしくない?」

「ヴァレンティーヌ様に、金銀財宝とのエピソードは特になかったわよ~」

「せやな」


 だとしたら、この部屋自体がおかしいってことになる?

 それとも、秩序とか公平とかそういう領域は関係ない?


「悩むぐらいなら、とりあえずなんか置いてみたらどない?」

「そういうことなら、私がやるわ」

「あの……危険では?」

「あー、そういうことか!」

「はい?」


 唐突に叫んだ俺に、本條さんが目を丸くする。


「エクス、付き合ってくれる?」

「オーナーと一緒なら、どこへでも」


 軽くうなずき、俺はそのまま女神像へと向かう。


「秋也さん?」

「ミナギはん?」

「たぶん、大丈夫だと思う」


 財宝には目もくれず、女神像と対峙。

 手にあるのは、俺の宝物。唯一無二の存在――エクスが宿るタブレット。


 それを天秤の片側に乗せた。


「虚飾に惑わされぬ、その心に祝福を」


 大仰なほめ言葉。

 それが頭に響くと同時に、女神像が光に包まれた。


「うぉっ、まぶしっ」


 思わず、目を閉じる。


「ああ……。やっぱり、そういうオチですか……」


 いち早く視力を回復したエクスの声。

 それに導かれるように、まぶたを開くと……。


「なくなっているわね」

「エクスじゃないけど、そんなことだと思ってた」


 女神像はおろか、山と積まれた財宝はすべて消え失せていた。


 目の前の財宝に惑わされないとか、大切な物はいつも身近にあるとか、そういう試練だったんだろう。


 後に残ったのは、琥珀色の宝石ただひとつ。


「宝石……か」

「ファーストーンに似ているようだけど」

「ずばり、ファーストーンよ~」

「精霊のお墨付きが出てしまった」


 でも、今は精霊の力が乱れてるから使えない……はず。


 いや、例外はいくらでもあるか。


 例えば、全部揃えると真の力が発揮されるとか……。


「これ、最初の部屋にもファーストーンがあったのかな?」

「そう……なりそうですね……」

「せやな」


 やっぱ、攻略しなきゃダメか。

 そりゃそうだよな。


 ……戻るか。

英雄神ヴァランティーヌの部屋

→地の精霊との複合。財宝が山と積まれた部屋。

 ヴァランティーヌ神の像が持つ天秤に片方に、その部屋で最も価値ある宝物を捧げることで、この部屋は開放される(地のファーストーンが核になっていた女神像が砕け散る)。

(元々あった財宝ではなく、自分の持ち物を捧げるのが正解)

 失敗した場合は、あなたが持つ最も価値ある装備品が純金に変わる。

 この試練を乗り越えたなら、財宝はすべて消え失せ、純金に変わった装備品は元に戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 移動の定義…1アクションごとなのか、秒数経過なのか…能動的行動なのか受動的行動でも増えるのか…さぁ、リディアさん検証お願いします(外道) …上手く行けばロリディアさんが誕生する? と…
[一言] よし、この水を瓶に圧縮で全部詰め込もう エルフとかには意味なさそうだけど、寿命の短い獣や亜人モンスターには効果抜群だ! 加齢は老衰で、若返りは消滅
[一言] つまりエクスの価値が証明されたということw 渦に飛び込むのはちょっと対策しないと無理そうだけど……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ