24.風の刻印騎
※※※後書き注意※※※
白い。
装飾も飾り気もない純白の機体。
ビルやマンションに匹敵する巨神が、山地に立っている。
暴風を纏って、屹立している。
お台場で見たあれとはまた違う。実在しているのに、現実離れした存在。
まるで、素組みのプラモデルが巨大化したかのよう。
そう。でかい。問答無用にでかい。
確かに、30メートルはありそうだ。
30メートルもあるプレートアーマーに、両肘の部分に取り付けられたラウンドシールド。その表面にはなにかの紋章のようなものが刻印されている。
これが、ルーンか。
よく見れば。いや、見なくても、胸や胴。足にもルーンらしきものが刻印されていた。人力では、これを描くだけで一仕事だろう。
得物は、馬上試合で使用するランス。それもまた、ぐるぐるとつむじ風を纏っていた。
邪神戦役。過酷な大戦において、切り札として生み出されたのであろう巨大ロボット。
分かる。
そうしなければならないのは、分かる。
だが、なぜやり遂げてしまったのかは分からない。
ここがアフターコロニー世界だったら、確実にロームフェラ財団の息がかかってるだろ、これ。
「どないするんや!?」
リディアさんの声で我に返った。
どうする……? 戦うか、逃げるか。
ゲームじゃないんだ。逃げてもペナルティなんかない。ブレイブブレイドが弱体化もしない。
――でも、決まっている。
(まずは一当て。試してみるわ)
テレパシーリンクポーションで、カイラさんが宣言。
そりゃそうだ。
超大型半魚人相手に、一歩も引かなかったんだ。相手が巨大ロボだろうと、まず逃亡から入るはずがない。
十傑集だって、九大天王だって逃げるはずがない。いわんや、カイラさんがだ。
「エクス、《渦動の障壁》を最大威力で!」
「受諾!」
「地・風・火を五単位。加えて、天を二単位。理によって配合し、肉体と魂を覚醒す――かくあれかし」
俺と本條さんを流れる水の壁が覆い、身体能力を上昇させるバフがカイラさんにかかる。
「ウチは、物陰に隠れとくわ!」
リディアさんが戦場を離脱した、そのとき。
風の刻印騎が動いた。
動いたといっても、それはあの風を纏ったランスだけ。本体は、最初の位置から微動だにしない。
それだけ。それだけなのに、圧迫感がものすごかった。強キャラ感がとんでもない。
無謀にも刃向かう野を馳せる者。それを憐れむように、それでいて無慈悲にランスが振り下ろされる。
カイラさんはその一撃を大きくかわす……が、ランス本体ではなく周囲の風に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「近付くのもひと苦労というわけ」
しかし、カイラさんは屈しない。
超巨大半魚人戦でもみせた空中ジャンプで姿勢を整えると、両手とマフラーで合計三本の【カラドゥアス】を投擲。
きらきら――勇者の祝福付きの攻撃。
けれど、機体を覆う風の防御膜によって明後日の方向へ飛ばされてしまった。
「懐に入らないとだめね」
自動的に戻ってきた光の短剣を両手とマフラーでキャッチしつつ、カイラさんが冷静に分析。
相変わらず頼もしいが、ここは俺たちの出番だろ。
(本條さん!)
(はい!)
リディアさんの代わりにフェニックスウィングに搭乗し、本條さんとタイミングを合わせる。
「火を三単位、天を九単位。加えて、風を二単位、地を四単位。理によって配合し、光を励起・収束す――かくあれかし」
「エクス、《ミヅチ》だ」
「受諾!」
本條さんのきらきらレーザー。そして、俺とエクスの水の竜がカイラさんを掠めて飛び、風の刻印騎に直撃。
光と水の爆発を引き起こした。
外すわけがない。外れるわけがない。
しかし、それとダメージを与えられるかは別問題。
またしても機体を覆う風で吹き散らされ、その余波も両腕の盾で遮られた。本体にはダメージが及ばない。
ちっ。
だが、予想以上じゃあない!
「エクス、《泥沼の園》! それから、《脆き結晶》を最大効果で!」
《ミヅチ》の水蒸気で強化された《泥沼の園》により、風の刻印騎の足下が泥地に変わった。さらに、《脆き結晶》で地面の硬度が低下する。
つまり、風の刻印騎は自重で埋まっていく。
「これで、煮るも焼くも好きにしてやるぜ!」
思惑通り、ずぶりと巨体が沼にはまる……が。
大きく。さらに大きく風が逆巻いた。
「ありかよ!」
巨体がそのまま浮き、沼から脱出する。ジャンプでも、這い上がったのでもない。そのままの直立した姿勢で、ただ、浮いた。
シュール過ぎるわ!
しかし、風を移動に使っている。
つまり、無防備。
「火を三単位、天を九単位。加えて、風を二単位、地を四単位。理によって配合し、光を励起・収束す――かくあれかし」
光が収束し、太い光が風の刻印騎を襲う。
(これなら、やったやろ!)
(それ、フラグ!?)
なのに、盾に阻まれ攻撃は届かない。
なんだこのチート。
こんなのが必要だったとか、邪神戦役はどんだけ過酷だったの? というか、国家離散しても邪神を一体倒したアイナリアルさんのエルフの国っておかしいな!?
その刹那、さらに驚愕の事態が起こった。
「Gaaaaaaaaaa!!!!!」
「ドラゴン……?」
どこにいたのか。なにをしに来たのか。
なにひとつとして分からないけど、赤い鱗で羽を生やした巨大な爬虫類――ドラゴンが、風の刻印騎に噛みつこうとしていた。
なんじゃこりゃーーーー!?
(落ち着き。単に、でっかいのが気に食わんと仕掛けてきてるだけやで)
(ええ、ただの通りすがりよ)
(ドラゴンが通りすがるんですか!?)
スカイリムで見たヤツだ!
ドラゴンをトレインして、巨人に押しつけた戦闘シーンを高みの見物したことあるよ!
まるで、その再現のように。ホバリングしたドラゴンが炎のブレスを放ち、両腕の強靱な爪で刻印騎を打擲する。
それを風の防御膜で散らしつつ盾で受け、ランスを突き出して反撃。
とんでもない迫力。エクスがフェニックスウィングを微調整してくれなかったら、とっくに吹き飛ばされていただろう。
うわー。すげー。怪獣映画かよ。
(呆けとる場合やないで!)
少し離れた場所で冷静に俯瞰できているリディアさんのテレパシーで、我に返る。
(刻印騎がなんのために、作られた思うとるん!)
(……あ、巨大モンスターを倒すためでしたよね)
(勝敗は明らかということね)
パネェ。
でも、降りかかる火の粉は振り払わなくちゃならない。
(タイミングを合わせよう!)
テレパシーだけど、意識の上では大声で行動方針を伝える。
風の防御膜は、めちゃくちゃ厄介だ。
なんだあれもう、刻印騎じゃなくて精霊騎って名乗ったほうがいいんじゃねえの?
でも、無敵のはずがない。
(飽和させて押し切るという作戦ですね)
(それで、上手く行くん?)
(個々でやるよりはましでしょう)
こちらの方針が決まった直後。
風の刻印騎は、ランスを縦にではなく横に振るいドラゴンを弾き飛ばした。ホームランかよ。
さらに、上空をふらふらと飛ぶドラゴンへランスの先を向けると、そこから渦――ドリル状の風が発射された。
「GYAaaaaaaaaa!!!」
それに巻き込まれ、遥か彼方へぶっ飛ばされるドラゴン。
ほんとに、なにしに来たの!?
「露払いご苦労様と、言ってあげましょう」
先陣を切るのはエクス――ドローンたち。
骨の盾を装備したドローンが先頭を飛び、その能力で風の刻印騎の注意をひく。
まるで羽虫でも払うかのようにランスが振り下ろされる。
「みんなまとめて行きなさい!」
そこへ、リディアさん謹製爆薬ポーションを積んだドローンが突っ込んでいき――
――爆発。爆発。そして、爆発。《渦動の障壁》越しでも圧力と熱を感じるような大爆発。
それが晴れると、俺たちの視界に半ばまで破壊されたランスが飛び込んできた。
「快感ですね、これは!」
いける!
「本條さん、行くよ」
「いつでもどうぞ!」
「《スキル錬結》、《凍結庭園》!」
「受諾!」
山地に、鉛色の斧が三つと透明なレンズが現れた。
もうお馴染みになった、《スキル錬結》で同時に三つ生み出した《凍える投斧》。それと、《コンティンジェンシー》で出現した《水鏡の眼》。
風の防御膜の前に、《凍える投斧》は三つ一緒に吹き散らされたが、所詮は前座。
「本條さん、頼む!」
「火を九単位、天を二十七単位。加えて、風を六単位。理によって配合し、光を励起・収束す――かくあれかし」
真祖すら消滅させ、超巨大半魚人の水流のブレスすら打ち勝った俺たちの切り札。
それが、風の防御膜と正面からぶつかり――打ち勝った。
「やり……ました」
風が凪いだ。
人の身が、再び奇跡を起こした。
しかし、ルーンが輝いて風の刻印騎を包み、それ以上のダメージから防ぐ。
想定内だ。
この程度で折れるような心を、俺の仲間は持ち合わせていない。
「つまり、これを破壊すればいいのね?」
風が晴れ、残されたのは棒立ちの刻印騎。
そこに、カイラさんが突っ込んでいった。
両手と、マフラー。三本に増殖した【カラドゥアス】の光の刃が、ルーンへ迫る。
風の刻印騎は盾をかざす……が、通用しない。
光の刃は盾などなかったかのように貫き通し、ルーンに達する。
この戦闘で何度目かの爆発。
それは、風の刻印騎から発生した初めての爆発。
「ええいっ。出し惜しみはしない!」
本当は、リソースを温存したい。
したいけど、このチャンスを逃すわけにはいかない。絶対に。
「オーナー! ブレイブシャードいけます!」
「頼んだ、聖騎士さん!」
タブレットからせり出してきた刃の破片を、勇者の指輪と擦り合わせる。
間、髪を容れず。白い鎧の光り輝く聖騎士が、枝刃のついた大剣を振りかぶって虚空に出現した。
(聞け! 失われし、過去の同胞よ! 邪道を王道に正すは、我が運命なり!)
口上を述べると、少しだけ寂しげな表情を見せる。
それでも、自らの役目を忘れることはない。
(《降魔の突進》)
聖騎士さんが剣を掲げて、棒立ちの刻印騎へと突撃。
目も眩むような、光のスペクタクル。
その一撃を真っ正面から受け止め、なおも屹立する巨兵。
――が、その拮抗は長く続かない。
光が駆け抜け、静寂が場を支配し。
風の刻印騎は崩れ落ちるようにして、膝を屈した。
擱座した風の刻印騎。
胸のルーンから光の柱のようなものが地上へと射出され、そこを細身の男性? 女性か?
全身を刻印騎と同じような鎧で覆っているので性別は分からないが、一人地上へと降り立った。
ほう。これが、刻印騎の搭乗システムか。
特に警戒した様子も。あるいは衰弱した様子もなく、こちらへと近付いてくる。
その途中、兜……ヘルメットを外すと、長い緑色の髪がぶわーっと広がった。ぶわーっと。
「よくやってくれたわぁ。おねーさん、感謝しちゃう」
いいな。ロボットものの醍醐味だ。
それはともかく、これで分かった。
風の刻印騎のパイロットは、女性だった。
……よく生き残ってくれた。
特にお姉さんキャラのパイロットとか、存在自体が死亡フラグなのに。
「ほんと、助かっちゃった」
「それは良かった……けど、一体?」
「おねーさんは、風の精霊さんよ」
「え? 風の精霊?」
水とか地の精霊と縮尺あってないけど、大丈夫なの? それとも、あっちがスーパーディフォルメだったの?
「何百年振りかの自由。いいものだわ~」
と、こっちにウィンクを飛ばす。
コケティッシュと表現すればいいのだろうか。特別な意味がないとは分かっていても、ちょっとドキッとしてしまう。こんな場所じゃなかったら、美人局を疑うところだ。
「ありがとうね、勇者くん」
「うぉっと」
両手を広げてハグもしくは、モンゴリアン・チョップをしようとする風の精霊さん。
「まずは、話を聞かせもらいましょうか」
その間に割って入る、ケモミミくノ一さん。その尻尾は、警戒するように立っていた。
カイラさん、ちょっとむっとしている?
「なるほど。今度はエクスではなく、カイラさんに被せてきたわけですね。さすが、自由な風の精霊……」
そういうことなの?
……みんな、キャラ被りに厳しくない? アイナリアルさんと星見さんを見習おうよ。
というか、別にキャラはかぶってない気がするんだが……。
本人にしか分からないなにかがあるの?
●通りすがりのドラゴン追悼企画
作者がスカイリムで遭遇した通りすがりのドラゴン、ベスト2
・第二位
とある鉱山の村で、蜘蛛のモンスターが沸いたので退治して欲しいというクエスト発生。
そのくらいお安いご用さと「ヒャッハー! 俺は蜘蛛だけは必ずぶち殺すことに決めてるんだ!(最初のボスで怖い思いしたから)」と虐殺してたら、突如クエスト失敗のアナウンスが。
なぜだ。どういうことなんだと、一応、ボスまで倒して村に戻ったところ探しても依頼人が見つからない。
仕方がないので、オートセーブのデータをロードしてやり直すが、また失敗。
何回やってもダメだったので、蜘蛛は後回しにして速攻村に戻ったところ。
そこには、村を襲う野良ドラゴンの元気な姿が。
そして、そのドラゴンに立ち向かう村人たちが。
これだからノルドは!
しかし、原因は分かったものの時間が足りず。またしても依頼人死亡。(死人からは報酬が受け取れないので)クエスト失敗。
クエスト発生中ぐらい、不死属性付かないんですかねぇ。ブレイズのクソ野郎どもに不死属性つけるぐらいならさぁ!
こうなったら、またロードして救うしかない。
気分はシュタインズゲート。いとうかなこは、Hello, world.のBLAZE UPが一番好き。
何度かやり直したら、先にドラゴン殺せました。めでたしめでたし。
でも、もらえるのは蜘蛛を倒した報酬だけなんだよなぁ。
・第一位
暗殺ギルドキャンペーンの導入。
とある小屋に連れてこられ、暗殺ギルドに参加する通過儀礼として、ちょっとした悪事を働いた一般人三人のうち誰かを殺せと言われる。
善人プレイを志していたので、勧誘には乗らず暗殺者を返り討ちにして一般人は小屋から逃がすことに。
倒した暗殺者の装備を回収して(善人とは)いいことしたなぁと、外に出たところ。
そこには、小屋の上で待ち伏せするドラゴンの姿が!
なあ、ひとついいか? 先に逃がした人たちはどうなった?
ドラゴンは倒しました。
まあ、周囲に死体はなかったし普通に生きてるんじゃないでしょうか。
信じろ。
・おまけ
暗殺ギルドのその後。
理論上最強の武装を、重装と軽装の両方で作ったドヴァーキン(=主人公)。
作ったら試したいのが人の性。
というわけで、隠密能力に全振りした軽装装備のテストのため、暗殺ギルドの本拠地にお邪魔してみることに。
さすが、最強装備を作るため、鍛冶の力量を上げる装備を魔化するため、魔化の能力を上げるポーションを作るために錬金術を上げて作った装備だ。
誰一人として気付かれることなく、暗殺者を隠密からキルしたぜ。皆殺しさ、HAHAHAHAHA。
オープンワールドって最高だね!
(なお、暗殺ギルドルートに入ってた友人からは、めちゃくちゃ怒られた)