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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
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22.地上の雨

「プロジェクトの前に立ち塞がった難問。それは、可搬重量の問題でした」

「プロジェクトXって、今時の子には通じないんじゃないかなぁ……」


 ほら、本條さんなんかきょとんとしてるじゃん。


「名前ぐらいは、聞いたことがあります」


 愛想笑いもかわいい。


「そんなこんなで、目処が立ったんでお披露目っちゅーわけや」


 とりあえずの期限である一週間後。

 俺たちはまたしても屋敷のリビングに集まり、エクスとリディアさんのプレゼンを聞くこととなった。


「確かに、あれだけ小さいと。盾をくくりつけたら」


 カイラさんのもっともな指摘。


 でもこれ、ドローンに対抗心を燃やしているだけなのでは?

 どうか、呪いのアイテムの【クリムゾン・セイル】を使って自分も空を飛ぶとか言い出しませんように。


 え? 風をはらんで上を飛ばすのはいいけど、止まれない?


 使い捨てにして空中から落下すれば、いいんじゃないかな……。


「で、重量に関しては重量を軽減するポーションで解決したんやけど」

「軽いッ」

「誰が上手いこと言え言うたんや」


 うぜぇ。


「では、重量問題は解決したとして、どうやって攻撃をするのでしょう?」

「アヤノはん、ええ質問やな。まずひとつ――」

「いくつもあるのかよ」

「四つや」

「ふたつで充分ですよ」


 普通に多すぎだろ。勘弁してください。


「有機物だけを溶かすグリーンスライムってのがいるんやけど。それをドローンに寄生させて特攻さすんや? どない?」

「どないじゃない」


 ガチでテロじゃねーか。

 どないや言いながら攻撃するのは、ゼンザインだけで間に合ってるよ。


「それを使ったとして、後始末はどうするつもりなんだよ」

「後始末……やて……?」

刻印騎(ルーンナイト)が仮想敵なんだろうけど、それを倒した後スライムはどうなるんだってこと」

「あー……」


 言われて気付いた。

 そんな感じで、片眼鏡(モノクル)の向こうの目をぱちくりさせる。


「自然に任す感じやな」

「却下だ、却下」


 環境テロじゃねーか。池の水抜いても、グリーンスライムは駆除できねーだろ。


「つまらんな……。じゃあ、普通にポーションで勝負やな」

「最初から、それでいいんじゃないの?」

「まずは、回復するポーションの薬効を無闇矢鱈に高めて、過剰回復を引き起こして自壊させる――イカロスポーションや」


 どんっと、テーブルの上にポーションの瓶を置く。


 閃華烈光拳かな?


「ちなみに、エクスが名付けました」

「だろうな」

「ただまあ、刻印騎(ルーンナイト)や精霊に効くかどうかは未知数や」

「それも、そうだろうな」

「そこで、三つ目や」


 続けて、もうひとつの瓶を出してくるリディアさん。

 今度は、さっきのよりもわりと粘着質な感じだ。


「ダークエルフ秘伝の超強力ほれ薬や」

「ほれ薬ですか……」

「ダークエルフの秘伝? そんなものが……」

「なんで二人とも、そこに反応するの?」


 明らかに、危険なワードだよねぇ。


「乙女としては、気になるところです」

影人(シャドウ)としては、見過ごせないわね」

「えー? いやいやいや」


 ほれ薬とかさぁ……。


「もう、必要ないんじゃないかなぁと思ったりなんかしちゃったりするんだけど……」

「そうですね」

「そうね」


 あっさりと引く二人。

 ニヤニヤするエクス。


「けっ、死ねば楽になるのに……」

「訛り、訛りを忘れないで」


 そして、やさぐれるリディアさん。


 なんだこれ、地獄かな?


「とりあえず、精神操作系は後処理が面倒になるから最後の手段にしよう?」

「あーあ。伝承通りなら、相手が物品……ただの布なんかに恋をさせることもできるらしいかったのになー」

「劇物すぎる」


 取扱注意が多い。多すぎない?


「これもダメかいな。そしたら、普通の爆弾しかあらへんで?」

「単独では無害な薬品を、ドローンの特攻とともに混ぜ合わせて大爆発を起こす感じですよ」

「それなら、安心ね。私にも、少し分けて欲しいわ」


 安心。

 安心……なのか?


 分からない。

 もう安心というものが、安心院さんのスキルの数ぐらい分からない。


「さすがに実験はできへんかったけど、理論上は城壁も吹き飛ばせるで」

「いざとなったら、【シールド・オブ・フィーンディッシュアッシュ】も巻き込んで誘爆させます」


 ひどい。


 ひどいけど、今までのに比べたらまだまとも……か?


「それを、真っ先に持ってくるべきじゃねえかなぁ」

「だめですよ、オーナー。それじゃ、面白くないじゃないですか」

「プレゼンって、コントじゃないんだよ?」

「なにを言っているんですか、面白いとかわいいは正義ですよ」


 それはそうだけどさぁ。


 愉快犯のエクスから、実行犯のリディアさんへと視線を移す。


「……なんで、こんなに頑張っちゃったの?」

「小説ってな、書いててめっちゃ気を使うやん? 書けば書くほど、面白いのかどうか分からんようなっていくし」

「うん……」

「その点、破壊力は見た目で分かるからむっちゃ楽でな……」

「それは分からない」


 分からないけど、まあ、あれだ。


 作家の自覚が芽生えたみたいで良かったねと、心の中で密かに祝福しよう。


「というわけで、四つ出そろったし環境適応ポーションは要らんな」

「環境適応ポーション?」

「暑かったり寒かったり感じなくするポーションや」

「重要じゃねえか。なんなら、それが一番大事だよ」


 それを捨てるなんてとんでもない。


 というわけで、環境適応ポーションを量産させ、準備は整った。





「おう! よく来たな!」

「ああ。準備ができたからな」


 エクスのドローン用のあれこれだけでなく、テレパシーリンクポーションや環境適応ポーションをみんなで飲んだりして準備は万端。

 いつでも、マジックアイテム島へ行ける状態だ。


 もっとも、いくら準備をしても不測の事態ってのは起こるもの。過信しちゃいけない。


「そっか。なら、早速、島に飛ばすぞ」


 俺たちが、ファーストーンで水の精霊殿が沈む湖へと転移した直後にこれだ。

 せっかちな水の精霊に、思わず苦笑してしまう。


 とはいえ、こちらとしても否やはない。


「ああ。また、湖に飛び込んだりすればいいのか?」

「違うぞ!」


 違うのか。じゃあ、どうやって行くんだろう?

 やっぱり、タコやらイカに運ばせるなんてことに?


「雨になるんだ!」

「無理だ」


 人体の70%だかは水らしいけど、生物は雨にはなれない。


「間違った!」

「はっ、所詮は水の精霊ですね」

「雨にしてやるぞ!」

「ちょっ――」


 猛烈に嫌な予感がして制止の声を上げるが、間に合わない。


「雨になって循環して、飛んで行くんだぞ!」


 体がバラバラになるような感覚……は、なかった。

 ただ、意識が魂が上へ上へと引っ張られていき、白い物……雲に飛び込んだ。


 そして、雲は猛スピードで上空を移動していく。


 目も耳も鼻も。

 あるかどうかすら分からないのに、それだけは分かった。


 いくら準備をしても不測の事態ってのは起こるもの。過信しちゃいけない……って、さすがにこれは、どうしようもないだろ!?


 それから、どれくらい経ったのだろう。


 一瞬だったような気もするし。

 何度も日が昇っては沈んでいったような気がする。


 確かなのは、無数の水滴となって俺たちが上空から大地へと戻ったこと。


 そして、体を再構築され正常な感覚を取り戻したことだ。


「ここは……」


 降り立ったのは、氷の上。

 氷河だ。


 でも、寒くはない。


 さらに、視界の先にはもうもうと噴煙を吐き出す火山が見えた。


 そして、海は見えない。


「エクス、いる? みんな一緒?」

「もちろん、エクスがオーナーから離れるはずがありません……が、やってくれましたね」

「大丈夫よ。周囲に、モンスターの気配もないわ」

「ミナギはん、いくらなんでも初心者には厳しいで」

「大変、貴重な体験でした」


 本條さんが、マイルドにまとめてくださった。

 ありがとう。そして、ありがとう。


 あと、リディアさんは流れる水になっても平気だったんだね。良かった。


「オーナー、ドローンを出してください」

「ああ、偵察よろしく」


 偵察という言葉に耳をぴくっと反応させたカイラさんに気づかない振りをして、《ホールディングバッグ》からドローンを全部出す。


「行きますよ!」


 そのドローンが、空へと飛んでいった。

 異世界の空を、青と白のキャンパスをバックにして。


 あの、雲の中にいたんだなぁ。


「エクスさん、どうですか」

「あー。ここ、マジックアイテム島の中心部ですね……」


 自在にドローンを操りながら、《オートマッピング》と見比べエクスが言った。


「やっぱり……」


 いきなり敵地の真っただ中というのは避けられたが、人跡未踏の奥地に放り出されてしまった。

 しかも、目的地であるリディアさんが発見された山頂の船は、沿岸部側。いきなりハードモードだ。


「なんや、狙いがはずれたっちゅーことかいな」

「はっ、所詮は水の精霊ということですね。パチモン精霊はこれだから」

「なんにせよ、一筋縄でいくとは思っていなかったわ」

「さすが、カイラさん。冷静だ。ありがたい」

「未知の土地での探索となったら、影人(シャドウ)に勝る適任者は存在しないわ」


 きらきらしたカイラさんが、俺には神……いや、女神に見えた。


 随分と、尻尾が感情豊かな女神だったけど。

 とあるTRPGのキャンペーンの話をしよう(さすがに、本編には入れられないので)。

 とあるというか、D&D四版の『シルヴァークロークス戦記 巨人族の逆襲』という公式キャンペーンなのだけど。


 その味方NPCが(今回の水の精霊のように)PCたちを冒険の舞台にテレポートで送り届けてくれるのだけど。


 なにを思ったのか、何度も何度も敵の真っただ中にテレポートさせてなし崩しに戦闘をさせるひどいやつでしてね。


 それから、マジックアイテムの材料を奪うため、過去に飛ばされて死霊術師の本拠地に送られたこともありましたね。

 アサーラックという、D&DでずっとPCの前に立ち塞がる悪いリッチの若い頃なんですけど。

 この、将来悪いヤツになるからなにしてもいいよねというメリケン味!


 いきなり瞬間移動して六回攻撃してくるスケルトン多数を倒して手に入れて作ったマジックアイテム、全然使えませんでした。


 アルテマかよ。返してよ。ミンウを返してよ。


 あと、ヒロインがいないので、トリアンというオシシ仮面のようなアルフ(CV所ジョージ)のような種族のキャラをせめてヒロインにしようと「こんな見た目だけど声がくぎゅ」と勝手に決めて『くぎゅ』と呼んでいたのですが。

 友人の会社の同僚から、「異常者の集まりですか?」とか言われたらしい。


 やったね! 鬼殺隊の一員だよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] >暑かったり寒かったり感じなくするポーション なんか思ってたのと違う。感じないだけだと実ダメージ食らって死んでしまうんちゃう? 暑かったり寒かったりに適応して自動で体温を調整してくれる恒常性…
[良い点] アルフ(CVくぎゅ)やめーやwコーヒー吹いたわw是非みたい。
[一言] 大爆笑。 本編の内容が、あとがきで吹き飛びました。 一番破壊力があったんじゃないかなぁ。 面白いです。 リプレイのurlはどこですか?
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