21.マジックアイテム島と歴史
「それでは、マジックアイテム島への遠征にあたって情報や方針を整理しましょう」
「その名前で行くんだ」
「ランデルエンゼラス島とか、憶えていられませんからね」
呪いのアイテムを鑑定して確保した日の夜。いつものリビングに戻ったエクスが、今度は高度なAIジョークを飛ばした。
「はぁ……。ほんまに行くんやな。物好きかい」
「リディアさんが、素直になれない系だ」
「ちゃうわ!」
ワイングラスを片手に、片眼鏡の吸血鬼さんがノータイムでツッコミ。
貴重なツッコミ役だ。ライバルチームのカンテラから強奪した期待の新人ぐらい、大切に育てていかないと。
「マジックアイテム島と呼ばれていたぐらいなのですから、昔は栄えていたのですよね?」
「ところが、そういうわけでもないらしい」
「でしたら、逆に搾取されていたのでしょうか?」
「いや。職人たちが中心の場所だったみたいだ」
アイナリアルさんと星見さん経由の情報を披露すると、カイラさんが耳をぴくっとさせて疑問を口にする。
「だけど、マジックアイテムの元となる品も必要なのではない?」
「そういうのは、全部船で運び込んでいたらしい」
「なるほど。どちらにしろマジックアイテムを輸送する必要があるのですから、往路に物資を積めば済むことですね」
「空荷じゃ、もったいないもんな」
魔力が豊富で、マジックアイテムが作りやすい。その一点で選ばれた場所。
いわば、モノカルチャーになるのは必然だったわけだ。
神さまが降臨した土地なんだから神殿みたいなのがあるのかとも思ったけど、そういうわけでもないらしい。
「でも、例の邪神戦役の最中に吹っ飛んだと。そういうことらしい」
「だから、痕跡も見つかってないんやな」
「沿岸部しか捜索してないみたいだから、内陸に行くとなんかあるのかもしれないけど」
できれば、なにもないほうがいいけどね。
古代のマジックアイテムが眠る島とか、厄介事の匂いしかしない。
「ところがぎっちょん、当時、刻印騎という巨大ロボットを再現しようとしていたらしいですよ」
「刻印騎……? 人の魂を糧に動く巨神かいな」
「そうなの?」
「まあ、おとぎ話やけどな」
リディアさんが、確証はないと肩をすくめた。大阪なら、「知らんけど」とついているところだ。
「人の魂をか。憑竜機に乗ってた勇者から聞いた情報とは、ちょっと違うな」
「はあ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
確認するように本條さんを見たが、彼女も白く細長い指を頤に当てるだけ。確証はないようだ。
「……地球に帰還した元勇者から依頼を受けて、エルフ――アイナリアルさんを探してたわけだけど」
「それは聞いとるわ」
「その依頼人の知り合いに、憑竜機に乗ってた勇者がいたんだ」
「南大陸の勇者かいな。どんな人脈やねん……って、まあ、ええわ。驚いたけど、本筋には絡まん情報やし」
別大陸の情報がぽんっと出てきたら、そりゃ話の腰も折りたくなるか。
それはともかく。
「エクスにもよく理解できなかった部分がありますので、該当部分をそのまま流させていただきます」
そして、タブレットから再生が始ま……らなかった。
『わたくしも現役時代に、一度だけ刻印騎を目にしたことがありますわ。憑竜機が10メートルほどなのに対し、その数倍はありましたね』
『さすが、南大陸の勇者。こちらでは、残っておりませんでしたのに』
『邪神の使徒が乗っ取って、敵として出てきたのですが』
『なにそれ、絶望的すぎる』
なぜか、エクスが声真似をしてお送りしていた。
しかも、俺のセリフまで。どうして……。
『とまれ、人間が乗り込む形で作動するのは刻印騎も憑竜機も変わりありませんわ。もっとも、乗り物を操縦するわけではありませんが』
『ええ。《憑依》と《融合》のルーンにより、巨大な鎧を自らの肉体の延長として扱うことができるのですわね?』
『その通りですわ。巨大なのは、大型魔獣に対抗するためであり、数多く刻まれたルーンが干渉しないようにするためでもあったと』
要するに、古代の巨大ロボットだということだ。
月光蝶はなさそうなのが、幸いである。
でも、勇者とか超者の可能性はあるな。
「と、こういうことのようです」
「……そのまま録画音声流せば良かったんじゃ?」
「電子の妖精エクスは、日々進化中ですので」
「その進化、必要かな?」
進化の袋小路に入ったりしない? 恐竜みたいなことにならない?
「つまりは、巨大な鎧ということよね」
「そうですね。パワードスーツにも近い印象です」
「それは要するに、ロボットでいいと思う」
俺は、ソルテッカマンもロボットに含める派だ。それに、ガイバーほどナマモノっぽくはないし。
「最悪、そんなんが出てくるかもしれへんと?」
「最悪というか、普通に出てくる気がする。なんかフラグ立ってるし」
「どういうこっちゃねん……」
それが世界の選択だからかな……?
「邪神戦役時代に、過去の技術を再現しようとして吹っ飛んだ島とか危険にもほどがあるやろ」
「原因は不明だけどね。まったく関係ない可能性もある」
……って、あれ?
邪神戦役時代に、すでに失われた技術だったのか。そうなると……。
「……時系列って、どうなってるんだ?」
アイナリアルさんと星見さんが知っている情報を、長生きのはずのリディアさんが知らないというのも違和感がある。
「アマルセル=ダエア王国を基準に語りましょうか」
「エルフの王国ですね。アイナリアルさんの故国である」
ええ、と本條さんに相槌を打ちながらカイラさんが金貨をテーブルに置いた。
女王の顔が刻印された、ダエア金貨だ。
「この永遠の女王が退位してから、数百年から一千年ほど後に起こったのが邪神戦役よ」
「千年」
平安時代かよ。
「その女王の旦那さんが、刻印騎を作ったと」
「あ、そうなん? それは新情報やな」
すごい。
現地の人と地球にいる勇者の情報が混ざって、とんでもないことになってる。
「そして、邪神戦役の終結が数百年前ね」
「その直後に天界から世界樹が降臨して、荒れ果てた大地を癒したわけや」
「ええと……」
頭の中で、時系列を整理。
永遠の女王の時代、刻印騎作られる
↓
それをプロトタイプに、南大陸で独自に憑竜機を開発
↓
数百から千年ぐらい経過
↓
邪神戦役勃発
↓
マジックアイテム島で刻印騎再生計画発動(結果不明)。
↓
邪神戦役終結
↓
百年ぐらい経過?
↓
リディアさんがマジックアイテム島で救助
↓
二百か三百年ぐらい経過?
↓
現在
こんな感じになるのか……?
南大陸って、戦い続きっぱなしじゃない? 今は、平和になってるのかなぁ。
「邪神戦役を境に、紀元前と紀元後と考えたほうが分かりやすい?」
「そう主張する学者もおるみたいやな」
「それにしても、時間経過がダイナミックだ」
「壮大な歴史ですね」
ほう……と、本條さんがため息をつく。
アイナリアルさんが待った時間を考えたりとか、いろいろと思うところがあるんだろう。
「とはいえ、エクスたちがやることは変わりありません」
「そうね」
ドライ……というよりは、目的を見失わないエクスとカイラさん。
「幸い、水の精霊が島までの移動は請け負ってくれました。精々、使い倒してやりましょう」
「帰りは、ファーストーンでなんとかなるしな」
「というよりむしろ、不測の事態が発生したら即座に戻るべきかと」
GMに嫌がられるプレイングだ……。
でも、正しい。
「なにが起こるか分からんしな。当然やろ」
「そうね。でも、最初から腰が引けているのも良くないわ」
「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応ですね」
それが理想ではある。
でも、完全に死亡フラグなんだよなぁ。
「とりあえず、準備期間は一週間としましょうか」
「その間に、役に立ちそうなアイテムを用意すると」
「よっしゃ。ウチが、呪いの爆弾を作ればええんやな?」
「混ざってるよ」
それができるんなら、聖なる手榴弾を作ったほうが良くない? ボーパルバニー特攻だよ?
というか、盾があるから爆弾はもういいんじゃない?
・ミナギくんのうわさ
スパロボ知識だけで、「テッカマンブレードはよく知らないけど、ブレードとレイピアでダブルボルテッカ撃つんでしょ?」と語る人間はシベリア送りにすることにしているらしい。(テッカマンブレード原理主義過激派)