20.第二回呪いのアイテム鑑定会、in盗賊ギルド
沢山の評価ありがとうございました。頑張ります。
「額縁の隅に、なんか書いてあるな……」
「オーナー、そういうの読まないほうがいいのでは?」
「だよね」
いくら《トランスレーション》先生で文字が読めるからって、不用意に口に出すのは止めたほうがいい。
なにしろ、ここは異世界オルトヘイム。バルスの三文字で崩壊する天空の島がないなどと、誰が言えるだろう。
「さくっと、《中級鑑定》いきましょう」
「よろしく」
場所は前回と同じ地下の一室。
第二回呪いのアイテム鑑定会、in盗賊ギルドが始まった。
依頼人の希望鑑定額はないが、代わりにボディーガードのカイラさんがいる。前回と同じフォーメーションだ。
「……はい、鑑定完了です」
「どれどれ……って、危ねえ」
【アタトナイ・フレーム】
価格:849金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:黒い木製の額。しかしながら、絵を入れることはできない。
額に描かれた文字“我が魂は永遠なり”と合言葉を唱えると、一度だけ死を回避することができる。
ただし、合言葉を唱えてから1~36日後に自動的に死亡し、魂が【アタトナイ・フレーム】に囚われる。
そして、魂を囚われた物の姿が額に浮かび上がる。
「……よく、今まで誰も額の文字を読まなかったな」
「恐らく、古代のドワーフ文字よ。読める人間なんて、ほとんどいないでしょうね」
「なるほど。《トランスレーション》トラップか」
恐ろしい。
これ、自分で使うのはあれだけど使わせるのはありかもなぁ。
ちょっといっちゃったラスボスが部下に使わせて、「私の可愛い部下たちを偲び、一本だけ煙草を吸うのが私の日課なのだよ」とかいって、壁に無数の額を飾ってる光景が目に浮かぶ。
巨蟹宮? 違うよ。全然違うよ。
「これ、あれですね。続編で、前作生き残った主人公が伝聞で死んだことになってる原因なんじゃないです?」
「それは、ギャラとか契約の問題なんじゃないですかねぇ」
それよりも、アメドラはせっかく成立したカップルを何シーズンか後に離婚させる病をどうにかしてください。
「寿命が迫った王様に使わせたらいいのではない?」
「なるほど。使いようによっては緊急延命装置ですね。結局、死にますが」
「それでも、後継者の問題が起きなくなる可能性はあるか」
まあ、事故だとどうしようもないだろうけど。
侍女を驚かせようといたずらしかけたら、自分がそのトラップに引っかかって転んでお隠れになったやんごとなき御方とかいらっしゃいますからね……。
「あとは、騙して言わす手もあるかな」
部屋に殺したい人物を招いて、合言葉を言うように誘導する。
そうしたら、あとは死ぬのを待つだけだ。
これ、タブーの能力だな。ああ、ついでに氷を頼むのは止めよう。
「……なんで、俺たちは真剣に使い方を考えてるんだ? 盗賊ギルドに使い方を指南してるようなもんじゃね?」
「それは、オーナーがゲーマーだからですよ。わりと、だめな」
「標準的だって」
「いいんですよ。だめなオーナー、エクスは大歓迎です」
「……気をつけます」
その後は、てきぱきと鑑定を進めていく。
しかし、めぼしい物はほとんどなかった。
【リング・オブ・プライマリーインテリジェンス】
価格:923金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:蔦が絡み合う姿をモチーフにした、プラチナの指輪。
この指輪を外すことはできない。
同期した着用者の総合的な知力を二倍に引き上げる。
その代わり、日中は猿に変身する。変身中は身も心も猿となる。
【クリムゾン・セイル】
価格:79金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:真紅の帆。大型船用。
常に帆に風をはらみ、最低15ノットで航行する。
しかし、錨を降ろすまで減速されない。
また、“ここぞというとき”に10%の確率で帆柱に雷が落ちる(帆は燃えない)。
【クレドリズの酒樽】
価格:849金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:オーク製の大きな酒樽。
一日に一度、任意の種類で酒樽を満たすことができる(約36リットル)。
ただし、一度口にすると酒樽を干すまで飲み続ける衝動に駆られる。
また、ドワーフなど酒に強い者でも必ず二日酔いとなる。
「一長十短だなぁ。まあ、呪いのアイテムだから当然だけど」
まとめると……。
つけると頭が良くなるけど、日が出ている間は猿になる指輪(外せない)。
勝手に風をはらんで進むけど、決定的な場面でマストに雷が落ちる帆(止まれない)。
毎日お酒で一杯になるけど、ドワーフでも必ずひどい二日酔いになる樽(酒! 飲まずにいられないッ!)。
こういうことか。
「とりあえず、誰かを蹴落とすのに使えるのではない?」
「まあ、バフに見せかけてデバフ与えてるようなもんだしなぁ」
「クレドリズの酒樽というのは、制作者の名前でしょうか?」
「どうでもいいけど、最初と最後の文字を取り出すと“クズ”になるな」
「二日酔い……クズ……。八岐大蛇に与えればいいのではないですか?」
「まあ、使いようか」
個人的には、無理に使わず廃棄して欲しいんだけど……。
「もしかして……。前回、呪いのアイテムを買い取ったもんだから、世に出したくないなら買い取れって言われてるんだろうか?」
「釘は刺しておくから大丈夫よ」
「そうですねぇ。約束を破ったら三親等まで死ぬみたいな呪いのアイテム探します?」
「うなずけねえよぉ!」
本條さんを連れてこなくて良かった。
……そんなことを考えていたからだろうか。
こんな本に行き当たったのは、幸運のランプのお陰……とは思いたくない。
【ブック・オブ・フォービドゥンウィズダム】
価格:2,887金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:図案化された林檎が表紙に描かれた白紙の本。
望む知識を思い浮かべ、本を開くと答えが記されている。
ただし、現実的なものだとは限らない。
一度使用すると、何処かへと消え去ってしまう。
また、使用した直後から使用者が死ぬまで、不定期に透明な猟犬が命を狙って襲いかかってくる
「俺の遺産を引き継ぐ条件は、この本を処分することにしようかな」
「それ、絶対処分しないやつですよ」
だよね。
「さすがに、アヤノさんのお土産にはできないわね……」
「案外喜びそうな気もしますけど、普通に迷惑ですよ?」
「本條さんはガワだけだと、そこまでじゃないと思うぞ」
中身と装丁。これが合わさって、ビブリオフィリアを構成しているのだ。
それよりも……死んだらリセットなんだよな……。
「う~ん。これ、とりあえず確保しておこうか」
「え?」
「え?」
正気かという視線を向けてくるエクスとカイラさん。
もちろん、コズミックホラーの波動に惹かれたから……ではない。
理由はちゃんとある。
「俺、一回死んでるじゃん?」
「トラックですか……」
「メフルザードのときね……」
「あ、二回だった」
トラックの時は実感なさ過ぎて忘れてた。
「メフルザードのとき、世界樹の力で生き返ったじゃん?」
「なるほど……。今は、それと同じ状態ではあるわね」
「エクスは反対です」
「分かってるって。保険だから、保険」
「保険でも、あったら使いたくなるじゃないですか」
「そうね。私としても、ミナギくんに危険が及ぶのは避けたいわ」
性格方面から苦言を呈すエクスと、自らの役割から心配するカイラさん。
「でも、それなら保険を使わない状況にするのが私の役目よね」
「そうですね。つまり、エクスの体は闘争を求めるわけです」
エクスの体はどこ? タブレット?
などと、アーマードコアの新作に思いを馳せていると、エクスがカイラさんに指示してひとつのアイテムを掘り出した。
「ありましたよ! 良さそうなアイテムが!」
「盾……?」
「はい。これはちょっと盲点でした」
【シールド・オブ・フィーンディッシュアッシュ】
価格:657金貨
等級:英雄級
種別:防具(盾)
効果:悪魔の遺骨を組み合わせて作成した盾。
あまりの禍々しさに、所持者は敵から最優先で攻撃される。
ただし、一定以上の衝撃を受けると、大爆発を起こす。
「なるほど。これで敵のヘイトを集めつつ、盾で攻撃を受けるのではなく回避をする。つまり、回避盾用の装備だな」
「エクスの自爆テロが捗ります」
「テロ前提やめよう?」
確かに、ドローンにくくりつけたら爆弾になりそうだけどさぁ。
「でも、重たいのではない?」
「確か、重量軽減するポーションがあるようなことを言っていた気がします」
「それなら、大丈夫そうね」
わーい。外堀が埋まったぞ。
こんなことのために《中級鑑定》を取得したんじゃないのに……。
なぜ……。どうして、こんなことに……。
おかしい。≪中級鑑定≫が呪いのアイテム専用になっている……。