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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
165/225

18.厄ネタが増える情報収集

評価フォームが変わったお陰か、いつもに増して評価を頂きました。

ありがとうございます。

「それじゃ、一時間したらここに集合で」


 駅近くのホームセンター。

 その二階にある家具売り場で、放課後の高校生たちに自由行動を告げた。


「店の予約をしているので、それまでに目星を付けてくれるとうれしい」


 これから、事務所というか、アイナリアルさんの部屋というか。

 まあ、そこのインテリアを揃えるべく店内にファンネルを飛ばすところだった。


 なにしろ、あそこにはなにもない。


 服やら家電製品は別途選ぶけど、まず最低限の家具を入れないとアイナリアルさんの引っ越しも始まらない。


「シューヤくん! 予算はどれくらい?」

「子供がお金のことを気にするんじゃない。とりあえず、いいと思った物を選んでくること」

「やったぁ!」


 別に自分で住むわけじゃないが、部屋のコーディネートを気兼ねなくできるというのは魅力的なのだろう。夏芽ちゃんがうれしそうに飛び跳ねた。


 ちなみに、もう一人の女子高生である本條さんの意識と視線は本棚のある方角へ向いていた。

 恐らく、収納力の高い本棚のことしか頭にないのだろう。


 別に良いんだけど、《ホールディングバッグ》共用してるからね? 活用しよう?


「おいおい、夏芽。そうは言っても、ちゃんと遠慮しろよ」

「はぁ? これだから、バカイチはバカイチなのよ」

「はっ。なにがだよ。そっちこそ遠慮を忘れたら終わりだろ」


 大知少年が小馬鹿にしたように言い返す。

 正論だ。

 だけど、今回は夏芽ちゃんに理があった。


 いや、今回もか。


「下手に安物なんて選べないでしょ? だから、シューヤくんも予算は青天井って言ってるんだから」

「使えれば、それでいいじゃねえか」


 実用第一。

 この年頃の男の子らしい意見に、思わず顔がほころぶ。


 若いっていいなぁ……。


「それを使うのが誰か考えなさいよ」

「誰って、俺たちも使うけど……あっ」


 気付いたようだ。

 最も長い時間を過ごすのが、アイナリアルさんになるということに。


「そうですわね……」


 自らが話題の中心になっていることに気付き、アイナリアルさんは自然な。それでいて、艶然とした微笑みを浮かべる。


 家具売り場が場違いすぎてヤバいな、これ。宅見くんとか、完全に見とれてるし。


「最高級品を用意しろとは申しませんが、あまりに貧相では鼎の軽重を問われるというものでしてよ」

「アイナ……もうちょっと、こう、包み隠す感じでね?」

「タクマとならば赤貧も厭いませんが、元来安い女ではありませんわ」


 ふふっと、ロイヤルスマイル。

 いや、王族ではないんだっけ? まあ、庶民からすると王族も貴族も大差ないから別に良いか。


「そういうこと。さすがに、青天井ではないけどね?」

「あー、でも……。お世話になりっぱなしで……」

「お金の話は、会長さんとしておくから」

「ええ、任せてくださいまし。なにしろ、皆さんの保護者ですから」

「えー? 会長は……うん、保護者かな?」


 前回のことを思い出したのだろう。

 夏芽ちゃんは、あっさりと引いた。別の意味で引いていたのかもしれない。


「というわけで、スタート」


 ぽんっと手を叩くと、トップで夏芽ちゃんが飛び出した。

 別にそういう競争じゃないんだが、続いて大知少年も。


 二人とも、走らず早足だけど……ぶつからなきゃいいか。


「さて、タクマ。まずはベッドを見に行きますわよ」

「異存はないけど、ここで言う必要あった!?」


 この夫婦はいつも通りなので、特にコメントはない。

 それよりも、うちのビブリオフィリアさんのほうが心配だ。


「本條さん、気をつけてね」

「大丈夫です。見るだけですから」

「……任せてちょうだい」

「カイラさん、お願い」


 さて、これで残ったのは俺と星見さんだけ。

 いつも通り和服装備の彼女を、隅の方にあるベンチへと誘った。


「で、お金の話だけど」

「承りますわ」


 前置きなしの話にも、余裕でついてくる。

 大物だな。


「まずは、これを見て欲しいんだけど……」


 いつも持ち歩いているビジネスバッグから、通帳を取り出して渡す。

 中身を開いて、星見さんが一言。


「高級車が買えるほどの額ですわね?」

「足りなければ、おかわりもあるよ」


 驚きを通り越して、あきれたように息を吐いた。


「これで、わたくしたちに首輪をつけるつもり……と問いたいところですが、この前のオーガの件を鑑みるに、そこまでの価値があるとは思えませんわね」

「もちろん、完全な善意じゃないけど……」

「では、優越感ですの?」

「それもないとは言わないけどね」


 あっさりと認めた。

 そのことに星見さんは、天を仰ぎ……次いで、頭を下げた。


「大変、失礼しました」

「気にしてないよ」


 実際、サークルOBみたいな感覚がないとは言えないし。


「これは、みんなから預かった金貨や宝石が原資になってるんだ」

「預かった? あれは、報酬としてお渡ししたはずですわ」

「でも、特に苦労もせず見つかったからねえ」


 もらいすぎというのが、正直なところだ。

 マジックアイテムだけでも充分過ぎる。


「エルフの里との交易も、アイナリアルさんがこっちに来たお陰でみたいなところあるし」


 ララノアは犠牲になったのだ……。古くから続く因縁……。その犠牲にな。


「アイナリアルさんを雇用するって話だったけど、働かざる者食うべからずみたいな感覚も無さそうだし。こだわらなくてもいいかなって」


 代わりに、相談役みたいなポジションになって欲しい……というか、この後ちょっと相談する予定だ。


「……この通帳を、わたくしに預けると?」

「面倒を押しつけるけど、できれば」

「お二人の気持ちが、少し分かりますわ」

「なんのこと?」


 しかし、答えはない。

 俺の疑問を置き去りにし、通帳を帯の間に収納すると星見さんは立ち上がった。


「では、わたくしも家具を見てきますわ」

「うん。ごゆっくり……する時間はあんまりないかな?」

「一緒に来ませんの?」

「俺は、家電選びでハッスルするから」


 テレビは、ゲームをするならメーカーは一択。

 あとはサイズだけだが、その他の家電は選び甲斐がある。


 スチームオーブンとか、ちょっと試してみたいところあるよね。なんか、デジタル積みゲー増えそうな名前だけど。


「お二人の気持ちが、少し分かりますわ」

「……どういうこと?」


 繰り返し言われたけど、さっぱり分からなかった。

 しかし、答えはない。


 楚々とした動作でありながら、止める暇もなく。着物姿の背中は、遠くへ行ってしまった。





「え? 今日は焼肉食べて良いの?」

「ああ、しっかり食え」


 おかわりもいいぞ。


「食べ放題だからな!」

「いえー!」


 念のため予約していた、オーダーバイキングの焼肉店。

 その店内に、夏芽ちゃんの明るい声が響いた。


 八人もいるので、さすがにひとつのテーブルには入りきらない。

 ふたつのテーブルに別れ、片方は夏芽ちゃん・大知少年・本條さん・カイラさん。そして、俺と同席しているのは、宅見くん・アイナリアルさん・星見さんだ。


 親睦を深めるため、ちょっと変わった組み合わせとなっている。

 まあ、理由はそれだけじゃないんだけど。


「食べ放題……ですか」

「本條さん、こういう店、苦手だった?」

「いえ……。普通に好きな物を頼むのでは駄目なのでしょうか? と、少し疑問に思っただけです」


 容赦ない正論が、庶民を襲う。

 夏芽ちゃんと大知少年は石化した。


「駄目ではないですわ。ですが、それでは新しい選択肢が生まれないでしょう?」

「……なるほど。確かに、図書館でないと出会わなかった本もありますね……」


 社会的なヒエラルキーが近そうな星見さんの言葉に、感じ入ったと、本條さんはうなずいた。

 自分の好きな物にたとえると分かりやすいよね。


「あ、サラダがこんなにたくさんあります。ソーセージとかベーコンも焼肉のメニューなんですね?」


 そうね。お高い店には、その辺はないよね。

 まあ、今日は庶民の焼肉を楽しんで欲しい。


 カイラさんとか、なにも喋らないけど尻尾はふぁさふぁさしてるから。


「それでは、最初にご用意した盛り合わせを食べ終えてから、お好きにご注文ください」


 最初に用意された肉の盛り合わせ。

 それを目にして、夏芽ちゃんのテンションが天井に達した。


「わーい! カルビ! あやのっちもカルビからいくよね?」

「バカなのかよ。牛タンからに決まってるだろ」

「……あやのっち?」

「アヤノさんのことだと思うわよ」

「こまかーい」

「うるせぇ。お前はトング持つな。俺がやる」


 大知少年は、焼肉奉行をやっていた。

 一番食べそうなキャラなのにな……。


「大知は弟が二人いるので、ああいうの得意なんですよ」

「なるほど」


 今時わりと珍しいな……って、国産上ロースうまっ。


 ロースのさっぱりに加え、カルビのような脂の旨味も備わっている。これはびっくりだ。


 高度に発達したロースは、カルビと見分けがつかないってやつだな。


 まあ、それよりも。


「それで、このテーブル分けにした理由なんだけど」

「たくさん食べる班と、それ以外ですか?」

「それなら、宅見くんと本條さんは入れ替えだね」


 そんなことしたら、アイナリアルさんが怖いからやらないけど。


「実は、あっち側で次に冒険する場所が決まったので、なにか知らないか聞きたかったんだよ」

「皆木さん……。冒険者してるんですね」

「え? そこ引っかかるところ?」

「あんまり、そういう話を聞いていないので」

「そんなことは……」


 あった。

 エクスのプロモーションビデオで説明した気になってたけど、あれは観光案内に近い。


 いや、宅見くんたちに今のオルトヘイムを伝えるというコンセプトで、俺たちの戦闘シーンを入れてもどうしようもないんだが。


「場所は、今いる島から離れた場所にあるこれまた島なんだけど」


 厚切りの豚タンをひっくり返しながら、話を続ける。

 これ、網をやたら占拠するなぁ。最初にこれを出して、少しでもオーダーを少なくする作戦だろうか?


「精霊の力が歪んでる場所らしいんだけど、細かい情報があんまりなくてさ」

「ランデルエンゼラス島ですわね」

「ああ、マジックアイテム島……え? 今、そんなことになってるの?」


 即答するアイナリアルさんを、トングを持った宅見くんが見つめる。

 和服の上から紙エプロンを装備した星見さんが、過去を懐かしむような表情を見せた。


「その島でしたら、南大陸でも有名でしたわ。なんでも、五大神が降臨された聖地で、一際魔力の濃い地域だとか」

「ええ、仰る通り」

「僕たちが使ったマジックアイテムも、ランデルエンゼラス島で作られたものがほとんどです」


 へえ、そんな場所だったのか。やっぱ、聞いて良かった。

 でも……。


「向こうじゃ、そんな話まったく出なかったんだけど」

「滅びましたから」

「滅んじゃったのか……」


 諸行無常だ……。


「僕たちが帰るまでは、そんな話聞かなかったけど……」

「邪神戦役中に、公にできる話ではありませんわ」

「それはそうですわね」


 ウーロン茶で喉を湿らせた星見さんが、当然とうなずく。

 俺は、分厚い豚タンを噛んでいたため返事ができなかった。そのまま、次はカルビを網に置く。


「攻め滅ぼされたの? それとも、なにか事故で?」

「前者、その後に後者ですわね」

「攻められて、なにか無茶をしたのかぁ」


 カルビの脂で、火が大きく燃えさかった。

 とりあえず、野菜を置いて鎮火を試みる。さすがに、マクロを使うわけにはいかない。


「それでしたら、皆木さんの耳にも噂が届くのでは?」

「ああ。漂着物よりも、当時のマジックアイテムとか探したほうが儲かるだろうし」

「……危険な場所だというのを忘れていますわね」


 国産上カルビを飲み込んでから、アイナリアルさんは言った。

 唇が艶めかしい。肉食エルフ(ダブルミーニング)の貫禄だ。


「もちろん、回収は試みたのでしょう」

「……でも、リターンをリスクが上回ったと」


 それで意図的に情報を隠蔽し、すでに忘れ去られてしまったと。


「そういえば……ランデルエンゼラス島で刻印騎(ルーンナイト)を再現するプロジェクトが進行していたというのは事実ですの?」

「王国の刻印術師が、多くランデルエンゼラス島へ渡った。それは、間違いありませんわね」


 はむっと、肉をご飯の上でバウンドさせてから頬ばるアイナリアルさん。

 順応早いな、おい。


「プロトタイプのロボまで出てくるかも知れないのか……」

「いや、さすがに今の情報で断定はできないんじゃ?」

「完全にフラグ立ってるよ」

「だとしても、乗るほうかもしれないじゃないですか」

「それは10代の特権だよ」


 アラフォーがロボットに乗っても仕方がないからね。

 むしろ、博物館から骨董品のガンタンクを持ち出すほうに近い。


 女性がロボットに乗っても、あんまりいいことはないしなぁ。


 シュラク隊とカテジナさんのことは、絶対に忘れないよ。


 それはともかく。


「情報が増えたのはいいけど……。厄ネタが増えてくな、これ……」


 行くしかないんだけど、どうしたもんかなこれ?

ミナギくんがリア充っぽくっていらっとするので、次回から異世界です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古の孤島で発見されるロボットというと、胸の中に遺骸を乗せたまま彷徨う青い巨神でしょうか?
[良い点] 「お二人の気持ちが、少し分かりますわ」(ダメな時のユウトを見守るアリシア姉さんの眼差し) ↓ 「お二人の気持ちが、少し分かりますわ」(台所の隅でラーシアを見つけた時のユウトの目) の温度…
[一言] ランデルエンゼラス島…ランゲルハンス島…( ゜д゜)ハッ! すい臓!
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