12.鑑定の呪い
数日後。
楽しそうに創作する(尊い)本條さんとリディアさんを残し、向かった先は盗賊ギルドだった。
港の倉庫から地下道を歩き地下酒場を通り過ぎ、たどり着いた一室。
そこは、鉄格子の牢屋みたいな部屋。
その環境もさることながら、俺を圧倒するのはそこに積み重ねられたアイテムの数々。
武器にドレスに装飾品。
絵画に家具に壺。
それから、よく分からない薬みたいなのが入った瓶。
エトセトラエトセトラ。
そのいずれもが、例外なく禍々しいブツだった。
窓もなくて暗いというだけでなく、背筋を振るわすようなオーラ? 霊気? そんな物が漂っているような気さえする。
というか、松明の光とか明らかに翳ってるし。影からゾンビとか湧いて出ても不思議じゃない。
俺がディアブロ3のバーバリアンだったら、その辺のオブジェクト全部壊してフューリーを生成してるところだ。
「要するに……」
カイラさんのことだから、場所はある意味想定内。
見慣れた場所に連れてこられた時点で、故買品の鑑定かなとは予想してた。
けれど、これは……。
「呪いのアイテム……」
「このオチは、読めませんでしたね。このエクスの目をもってしても」
タブレットから飛び出たエクスが、名探偵フォームで所狭しと積まれた呪いのアイテムを見て回る。
そこは五車星じゃないのか。世紀末スタイルのエクス見たい? 見たくねえわ。
「方々から集めた……というよりは、盗賊ギルドでしか引き取れなかった物品の吹きだまりみたいなものね」
純白のケモミミくノ一さんが、淡々と説明してくれた。
まったく以て完全に、いつも通り。その存在が呪いのオーラに負けることはない。
いてくれるだけで安心する。
「目利きの呪文も通じず、無理やり同期させるにも数が多い。詳細が分からなくては、解呪も難しい」
「かといって、価値自体はありそうで捨てるにはもったいない……と」
そういうことよと、カイラさんが肯定する。
同席するというギルドの幹部を、手の一振りで追い払った威厳は呪いのアイテムを前にしても健在。
まあなんか、尻尾はふぁっさふぁっさうれしそうに動いてるけど。
「まあ、無理やり同期させるのは人道的にどうかと思うけど……」
「そうね。刃向かわれても厄介だものね」
ニアピン。でも、ガーター。
そんなこころの中のツッコミは届かず、カイラさんは報酬の話を始める。
「鑑定価格の4割が報酬の目安よ。確定するのは売りさばけてからになるでしょうけど、前金でその半分は受け取るわ」
「それは暴利なのでは? あんまり高圧的なのは、ちょっと……」
「いいのよ。ミナギくんがいなかったら、スタンピードで大損害だったのだから」
ああ、超巨大半魚人が上陸してたらこの辺もヤバかったか。
あれはみんなでやったことだけど……。
「以前から相談を受けていたけど、あまりにメリットがなくて断っていたのよ。《中級鑑定》の実力が分かったからこそ」
「つまり、オーナー以外にはできない依頼なのだから気に病むことはないということですね!」
「……ふむ」
ま、エクスとカイラさんがいいって言うんならいいか。
「今日はとりあえず、試しにいくつか鑑定するということになっているわ」
「試用期間ってやつか。それはいいけど……」
問題は、どれを鑑定するか……だな。
鑑定自体は一瞬でも、選ぶのが大変。正直、あんまり長居もしたくないし。
「悩んでも仕方ありませんね。適当に選んでしまいましょう」
「そうしてちょうだい。私が運ぶわ」
「じゃあ、まずはあの盾にしましょう。それから――」
エクスが選んだのは、ファランクスの兵士が持ってそうな盾と……青い全身タイツ? いや、女怪盗が着てそうなスーツかな?
それと、瓶に入った液体。どろり濃厚な感じだ。
「あと、その5枚重ねてあるざるみたいなのもまとめてやっちゃいましょう」
こうして、牢屋のような部屋に並べられた盾と全身スーツと薬瓶とざる。統一感の欠片もない。
共通点は、いずれもカースアイテムらしいということ。
「じゃあ、この盾からいこうか」
「受諾! 《中級鑑定》実行します!」
タブレットのカメラを向けると同時に、エクスがアプリを実行。
その結果は――
【モンクスシールド】
価格:529金貨
等級:英雄級
種別:防具(盾)
効果:鎖で雁字搦めになった漢が、逆さ釣りにされている様子が描かれた盾。
同期した装備者は、身体的な行動力が半減する。
一度同期すると、なんらかの方法で解呪するまでは盾を手放すことはできない。
――完全に呪いのアイテムだった。
なぜ作ったし。
「これは、罪人相手とか戦場とかで使い道はあるか……?」
「無理やり同期させる必要があるから、使い勝手は悪そうね」
「呪いのアイテムだから、そこは仕方ないのでは?」
「私たちが使うわけではないものね」
軽くうなずいて、ふたつ用意していた木箱の一方へ移動させるカイラさん。小須田部長方式で、要る物と要らない物を選り分けていくようだ。
力の限り生きてやろう。
「では、次はあの全身タイツにしましょう」
【ギルマンスーツ】
価格:529金貨
等級:英雄級
種別:防具(その他)
効果:ギルマンの皮を加工して作成した全身を覆うスーツ。
同期した着用者は水中で自由に活動でき、水中であれば窒息もしない。
一度同期すると脱ぐことはできず、2~12ヶ月後にギルマンになる。
「ギルマンになるって。直球過ぎない?」
「『インスマスを覆う影』ですねぇ」
「これは、廃棄するしかなさそうね」
売れるとしても、ギルマン相手しかないだろうなぁ。
「残りふたつか、さくさく行こう」
【オイル・オブ・オーバーロード】
価格:1054金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:塗布した物品の性能を限界以上に引き出すオイル(7回分)。
ただし、その所有者は日ごとに衰弱していき2~12日後に臓器をひとつ無作為に失う。
そうなった時点でオイルの効果は終了し、塗布したアイテムは破壊される。
「デメリットのある、一般的なマジックアイテムというところでしょうか?」
「一般的とは」
腎臓ならまだ生きられるんだろうけど、心臓だったら即死じゃん。
アウターゾーンだったら、ミザリィが最後のページで微笑みながら心臓回収してるやつじゃん。
「そうですか? エクスは内臓がないのでよく分からないですね」
「ランダムでタブレットの部品が失われたらやばいだろ」
「なるほど。それは確かに」
「これは、使い方によってはというところね」
そう言って、要るほうの箱へ入れるカイラさん。
確かに、追い詰められたときとか死ぬぐらいなら……って使う場面はあるかも知れない。ポーションとか魔法で内臓をどうにかできる可能性もあるし。
「じゃ、ざるにいきましょうか」
とりあえず、最後。
五つ重ねられたざるへとタブレットのカメラを向けた。
【ソルト・トゥ・ダスト】
価格:53金貨
等級:英雄級
種別:その他のマジックアイテム
効果:精製済みの塩を魔力水晶に変換する、金属製の篩。
処理能力は一日に1キログラムまで。100グラムにつき10MP分。
ただし、変換される魔力水晶は必ず微少サイズとなる。
「これは、呪いのアイテムというよりは失敗作かしらね。いくら魔力水晶とは言え、微少では割に合わないわ」
見方によっては呪いのような物ではあるわねというカイラさんの感想が、右から左に抜けていく。
やべえ……。やべえよ、これ……。
「一日に石100個だけど……。同じアイテムが5個もあるとか……。これ、さっきの薬とコンボのバグじゃん……。禁止カードになるやつじゃん」
「……そういえば、英雄界では塩は安かったのよね」
「いえ、《水行師》のマクロで製塩も可能なはずですが、オーナーが言いたいのはそういうことではなく……」
海水があれば毎日石がプレゼントボックスに届くってだけじゃない。
デメリットをどうにかできたら、変換効率だってアップさせられる。
これは、報酬代わりにもらってしまおう。そうしよう。というか、普通に買い取ってもいいわ。
「最初からこれだと、もしかしてここって宝の山なんじゃ?」
「そんなことはないと思うのだけど」
その忠告は聞き流し、鑑定を続行。
結果は――惨敗だった。
「他は、ほんとに呪いのアイテムしかなかった」
名剣と見せかけてとんでもないなまくらとか、攻撃を集中させられる代わりに受けるダメージが増えるとか、足が速くなるけどスタミナが無くなるとか。
そんなんばっかりだったよ……。
真っ先に【ソルト・トゥ・ダスト】が見つかったのって、もしかして【フォーチュンランプ】の幸運効果だったりする?
なるほどね。幸運がもたらされても、それを活かせるかは自分次第と。
ははははは……。
もうちょっと、こう、手加減というものを……。
呪いのアイテムいいよね……。