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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
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09.再訪、水の精霊殿

 情報収集を終えたカイラさんと本條さんが戻ってきたのは、夜に近い時間帯だった。


「申し訳ありません。ご飯は外で買ってきました。すぐにあたため直しますね」

「いや、お疲れ様。というか、俺が準備すべきだったね」

「そんなことはさせられません」


 意外と……というよりはイメージ通り古風な本條さんの手により、ブイヤベースに似たスープと、肉の串焼き。野菜の煮物や、バゲットに近いパンが並べられていく。


 異世界情緒があって良い。


 というか、結構本條さんの手も入ってない? ありがたい……けど、次からは俺もなにかやろう。


「それで、冒険者ギルドで調べた結果なのですが……。あの宝島は、やはり、普通ではないようです」


 そして、食事もそこそこに報告をしてくれる。


「普通じゃない? やっぱり、精霊が?」

「はい。砂漠の隣に森林が存在したり、強風が吹く地域から一歩外に出たら始終大雨が降っていたり。また、山からは溶岩ではなく氷雪が吹き出るなど、モザイク状に地形が変化するようです」

「そりゃ精霊の力が乱れてるって言われるわ」


 それが、島の中に凝縮されてるんだろ? 無茶苦茶じゃん。


「そんな場所なので、初期に探索隊が入ったあとはほとんど放置されているような状況です」

「そりゃ、そうやろな。儲けもなしに、よう行かんわ」

「……即物的ですが、そういうことのようです」


 秘境探検家みたいな人は、そうそういないか。

 待っているのは、自然の脅威だけじゃないもんなぁ。


「ですので、冒険者ギルドでは外縁部に向かう収集隊の護衛を引き受けたことがある程度でした」

「その辺では、戦闘とかは起こらない?」

「島に存在しているという意味ではいないそうですが、突然、モンスターが出現することはあるそうです」

「気配もなにもなかったそうよ」

「しかも、ゴブリンからドラゴンまで統一性もなにもないようです」

「やっぱ、時空が歪んでる」


 ランダムエンカウントのみとか、クソGMかよ。

 ダイス目のせいだし。俺は悪くないみたいな顔してるんじゃねえ。


「警戒するしか、できることはないわね」

「あとは、危なかったら逃げられる準備か……」

「それから、盗賊ギルドでは、改めて依頼するまでもなくある程度の情報があったわ」

「山師みたいな連中なら、盗賊ギルドとも関係があるか」


 カイラさんがうなずき、肯定する。


「彼らが発見した“お宝”も、モンスター同様統一性がないどころか、見た事も使い方も分からない物品がたくさんあるとか」

「……地球からの漂着物とかあるんじゃない?」

「あり得ますね」


 本條さんも同じ想像をしたのか、心配そうにうなずいた。

 戦時中行方不明になったあれこれとかありませんようにと祈りながら、肉の串をかじる。美味い。


「あの宝島まで往復したことがある船も、いくつか教えてもらったわ。盗賊ギルドを通して依頼もできるわよ」

「そのことなんだけど……」


 ちょうどいいと、リディアさんと水の精霊に聞くのはどうかという話になったことを告げる。


「水の精霊……ウンディーネね」

「また別の精霊さんですか」


 ちょっと複雑そうなカイラさんに対し、本條さんはわくわくしたご様子。

 あの地の精霊に会っておいてまだ精霊に期待できるとは。


 純真だなぁ。まぶしい。


「ふっ。まあ、役に立つとは思えないですけど、それを確認するのも大事ですよね」


 エクスからの許可も下りたし、明日早速行くこととなった。





 というわけで、翌朝。


「だって、精霊と会うとエクスはん怖なるんやろ?」


 と言うリディアさんを家に残し、ファーストーンで水の聖地へと移動した。


 今回は《渦動の障壁》を張って飛び込んでみた。

 というか、試したら移動できた。


 一瞬で、湖だ。


 これ、俺が原因で作ったんだよなぁ。


「濡れずに済んで良かったわね」

「濡れるというよりは、これがなかったら溺れてしまうのでは……」


 精霊湖に初めて来た本條さんは、岸に上がりながらその大きさにびっくりしている。確かに、ぞっとしない話だよな。


「久し振りに来たけど、変わらなく……もないな」


 大量の水を湛えるカルデラ湖は、記憶にある通り。

 しかし、ちっちゃな祠ができていた。


 ……誰が?


「私たちじゃないわよ」


 俺の視線を感じたカイラさんが、さくっと否定した。

 じゃあ、ポーション用の水を取りに来てる人たちか?


「お、久し振りだな! というか、今まで会いに来ないのはどうかと思うぞ!」


 そんな疑問を吹き飛ばすように、湖から現れた水の精霊ウンディーネ。

 相変わらず、テンションめっちゃ高い。


「くっ、出ましたね……」

「出ましたね……って、そっちから会いに来たのに! わはははは、おもしろいな!」

「はっ、正論なんて聞きたくはないんです」


 警戒したエクスがビーカーブスタイルを取る。

 まるで、エザード・ロスのラストサン。


 ステイ、ステイだぞ。


「お、一人増えてるな! さすがだな!」

「え? 私ですか?」


 ウンディーネが本條さんをくるっと囲むように飛んで、ふんふん言いながらねっとり観察する。

 それを制しつつ、抗議を入れる。


「人をハーレム野郎みたいに言うの止めない?」

「違うのか?」

「おっと、そういうコメントはエクスを通してからにしてもらいましょうか」


 さすがエクスP。頼りになるぜ。


「あー、まあ、ご無沙汰なのは悪かった。でも、水を汲みに人は来てただろ?」

「おお! なんか変なのを作ってお祈りしてから持っててるぞ。あんまり意味ないのにな!」


 わはははと笑って人の信仰心を否定する水の精霊。

 意味ないのかよ!


 真実を知ったら、泣いちゃうぞ?


「祈ったりしなくても、来てくれるだけでうれしいからな!」

「落としてから上げるとは……」

「はっ。ちょっと、殊勝な態度を見せて好感度上げようなんて。あざとい。あざといにもほどがありますね」


 と言いつつ、エクスは小道具でゴンドラを出して船を漕ぐポーズをする。

 ウンディーネに対抗しているというのは分かる。


 分かる。

 でっかいかわいいです。


 でも、それウンディーネだけど水の精霊ではないよね。アクシズ教団じゃないほうだよ。


「相変わらず当たりが強いな! 面白いぞ! 変わった服だし! かわいいな!」

「かーッッ。余裕。余裕のつもりですか?」

「ほらほら、エクスだって俺の中じゃ好感度ぶっちぎりだし。もう、上げる必要がないくらい」

「いやですよ、オーナー。エクスが言わせたみたいじゃないですか」


 みたいというか、完全に言わせてますよね。

 感謝の気持ちは本当なので、もちろんそんなことは言わないが。


 カイラさんと本條さんも空気を読んで黙っていてくれる。


 ありがてぇ、ありがてぇ。


「それで、今日はちょっと聞きたいことがあって来たんだ」

「なんだー? アタシに尋ね事なんて恐れ知らずだな!」

「自覚はあるのか」


 逆に不安になる……が、聞かないわけにもいかない。


「今度別の島へ冒険に行くことになったんだけど……」


 と、《オートマッピング》で地図を見せながら経緯を説明。


「あー、あそこなー」


 すると、ウンディーネが訳知り顔で何度かうんうんとうなずいた。


「知ってるのか」

「知ってると思ってるから、来たんじゃないのか?」

「まったくその通りだね」


 一分の隙もない正論だ。


「あそこをしゃんとさせてくれたら、こっちも助かるな!」

「結構離れてるのに、影響があるのか」

「精霊だからな!」


 精霊だからか。

 まあ、深くは問うまい。


「ちなみに、しゃんとさせる方法は?」

「狂ってる精霊を殴ったり、楽しませたり、ちゃんとした精霊の力を与えて導いてやったりだな!」

「物理的になんとかしても許されるのね」


 カイラさんがほっとしたように言う。

 最後の手段だと思うんですが、それは。


「向こうの様子も分かりませんし、ある程度行き当たりばったりになるでしょうか……」

「う~ん。そういう意味では、殴ってどうにかしていいというお墨付きは大きいか……?」


 その場合、どうにかできるレベルなのかという心配もあるが。

 というか、リディアさん関係がメインだよ。流されるところだった。


「まあ、そっちはサブクエストということで。あんまり期待しないでくれ」

「そうだな! 無理にとは言わないぞ。でも、恩は押し売りしておくからな!」

「卑しい。この精霊、卑しいですね。ね、オーナー」


 そこで同意を求めないで。


「というわけで、眷属を貸してやるぞ! 島まで、簡単に行けるようにな!」

「それは助かる」


 移動手段ゲットだぜ。


「イカとタコのどっちがいいんだ?」

「なんだその選択肢」


 狭すぎる。そして、どっちもどっち過ぎるだろ。


「四人なら、タコでいけるな!」

「ちょっと待て。もしかして足に巻かれて島へ行くのかよ」

「大丈夫だ! 早いぞ! 揺れないように気をつけてくれるし」

「そこを心配してるんじゃねえ」


 触手ものは趣味じゃないんだ。そもそも、触手×アラフォーなんて需要が……って、そうじゃない。


「あの……北斎の浮世絵みたいなことはちょっと……」

「確かに、北斎ならタコが女子高生を襲ってる絵ぐらい描いていそうですねぇ。ちょっと画像検索してみましょうか」


 時空が歪んでいる? だって、江戸時代だぞ? 女子高生の一人や一人タイムスリップしてるよ。


 でも、検索は不要です。


「それにしても、所詮は精霊。無能なこと、この上ないですね」


 なぜか勝ち誇るエクス。

 気持ちは分かるけど、それじゃ問題解決しないんだよなぁ。


「そっかー。なら、ぽーんと瞬間移動させるぞ! 準備ができたらまた来いよな!」

「最初から、それで良くない?」


 なんで海の動物に運ばせようって思ったの?


「あれだろ、人間は情緒を大事にするんだろ!」

「しますが……時と場合にもよりますね」

「そうなのか! 人間、わりと適当だな!」


 その適当さが情緒って言うんだなぁ。


「オーナー、帰りましょう。エクスは疲れました」

「ああ、うん……」


 疲れるんだな、エクスも。

 こりゃ、地の精霊に会いに行くのは別の日にしたほうがいいな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 6ラトホテプが出そうな島ですねえ
[一言] 地球からの漂着物… 旧ソ連辺りで250発ほど行方不明になった核かな? 廃棄するにも封印するにも厄介なブツを取り敢えず使われないように確保してたら… エクス「地球舐めんなファンタジー!」 ミ…
[一言] >エザード・ロスのラストサン もはやベビー最強神話も…今ならパウンド・フォー・パウンドとか言って中量級で無双して終わりですよねw メイウェザーやパッキャオレベルが陸奥とやるのは……。 瞬間…
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