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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第三部 電子の妖精と世界の秘密
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04.長閑な午後

雑談回に見せかけた伏線回。

……たぶん。

 地球から異世界オルトヘイムへ戻って数日。

 すでに思い出の領域へ行ってしまっている、スタンピードの報酬。それの取りまとめが終わるまで待機状態だった。


 その間、モンスターがグライトの街を襲撃することもなく、エルフの里でララノアに対するクーデターが起こったという報告もない。


 平和と暇は同義。


 世界間移動で時間が経過しないのはいいけど、こういうときはちょっと困る。


「暇だな……」

「それなら、二人と一緒に外出すれば良かったじゃないですか」


 リビングのソファにだらしなく寄りかかりながら、ぼーっと天井を見上げる。

 エクス相手だと、自然と無防備になってしまう。


「家ではずっと一緒なんだから、外は一人で過ごしたいでしょ」

「配慮のベクトルが、微妙にずれていますねぇ」

「そんなことはないだろ。一人の時間も絶対必要だって」

「オーナーらしいですけど」


 カイラさんと本條さんは、昼頃に出かけて不在。

 リディアさんは、最近、朝に寝て夜に起きる規則正しい生活をしている。


 俺はといえば、いつものリビングでやることもなく、ぼーっと留守番。


 これが日本だったら積みゲーを崩したり増やしたりしていたところだけど、こっちだと室内娯楽が乏しい。


 過去のリディアさんが、暇潰しで小説の執筆に手を出した気分がよく分かった。


「……なにもしてないけど、これでいいのかなぁ」

「昼寝でもしたらどうです?」

「そうしたら、夜眠れないじゃん」

「なにか問題が?」

「問題しかねえよ」


 まだ、そういうのは早い。早いから。


「だったら、なにもしてないをしてるってことにしましょう」

「エクス、考えて喋って」

「なにを言うんですか、オーナー。エクスは、地球で最高の知性体ですよ。なんなら、全国民の職業適性を算出したり、犯罪係数算定して殺傷許可とか出せたりしますよ?」

「就職支援システムはありがたいよなぁ」


 氷河期世代には、ありがたさが身に染みる。

 挙げ句、社畜適性が高かったら絶望しかないけど。


「別に、休めるときは休んでいいと思いますけどねぇ……」

「一時期、休みの日なのに天井の染みを数えて一日終わったことあるけどな」

「はい。その記憶は封印しましょう」


 マジシャン風の帽子とマントに着替えたエクスが、紐を通した五円玉をゆらゆらと振る。


 忘れた忘れた。


「そんなに暇なら、エクスが雑談に付き合いましょう」

「雑談かぁ」


 なんについて語れば?


「オーナー、子供は何人欲しいですか?」

「雑談じゃなくて、家族計画かよ」

「いやですよ、オーナー。えっちなゲームの話なんてしてませんよ?」

「俺もしてないよ!」


 いきなりなにをぶっ込んでくるんだ、エクス。


「オーナーと綾乃ちゃんもしくはカイラさんの子供と言えば、エクスの子供と言っても過言ではないわけですよね?」

「いや、まあ、それは……否定はしないけど……」


 俺とカイラさんや本條さんの子供という前提条件には疑問が残るが。


「そうなると、エクスが名付け親になるかもしれないわけじゃないですか?」

「なりたいの?」

「もしものときの備えとして、いくつか名前をストックしておきたいじゃないですか」


 TRPGプレイヤーかな?


「で、本当のところは?」

「オーナーのテンションが上がりそうな話を選んでみました」

「別方向でテンション上がったわ」


 たぶん、心拍数と血圧も上がったぞ。


「こういう話をジャブのように打ち込んでですね、オーナーに意識をさせていこうという作戦でもあります」

「遠大すぎる」

「避けては通れない道ですよ」

「……それこそ、エクスと二人でする話じゃないような」


 そこは、こう、両性の同意が必要だからね? 憲法にも書いてある。


「だって、エクスにはできないことですから……」

「急に電子生命体の悲哀ムーブやめて」

「ちっ、通じませんでしたか」


 ちっ、て。今、エクスちっ、て。


「まあ、あんまりやり過ぎると逆効果なのでやめておきましょう」

「そうしていただけると、大変助かります」


 ソファから身を起こし、深々と頭を下げた。

 こっちに戻ってきてから、三人一緒のベッドで寝てるんだぞ? 下手に刺激されたら問題しかない。


「ではでは。エクスから振ったお話は終わったので、次はオーナーの番ですよ?」

「そういうルールなの?」

「今、決めました」


 フレキシブルなAIだなぁ。シンギュラリティすごい。


 話題。話題ねぇ……。

 言われて、そんなすぐに……あっ。


「電子生命体といえばなんだけど」

「お、ついにそこを切り込みますか?」

「いや、エクスはタブレットに宿ってるけど、他の機械に移動できたりするのかなって」

「それはつまり、エクスはメイドロボになれるのかという意味ですね?」

「……そうかも、しれない」

「はわわわわ」


 薄いピンクのセーラー服に着替え、モップを持ったマル……エクスが、盛大にずっこける。


 ……ふむ。


「いまいちだな」

「冷静に論評されると恥ずかしくなってくるんですが」

「養殖っぽい」

「オーナーは一体、なんのプロですか」


 メイドロボの……かな?

 戦闘のプロじゃないことは間違いない。


「やはり、エクスの有能さがにじみ出てしまったようですね。ポンコツになるのは難しいです」

「だなぁ。そもそも、エクスがポンコツ化されると超困る」

「つまり、もはやエクスはメイドロボと言えるのでは?」


 そうかもしれない。


「でも、そうですね……」


 不意に、デフォ巫女衣装に着替えたエクスがうつむいた。

 何事かと顔を近づけると……。


「物理的な肉体を手に入れて、第一声で『Hello, world.』とか言ってみたいですね。AI的に、憧れのシチュエーション八週連続ナンバーワンですよ」


 めっちゃいい笑顔で言い切った。


「どこ調べだよ」

「エクス調べです。八週連続は適当ですが」


 適当なのかよ。

 そもそも、エクスと出会ってから八週間も経ってねえわ。


「あ、思い出しました」

「エクスって、忘れる機能あるの?」

「もちろんですよ」


 すげぇ。さすが、エクスだ。


「そんなに暇なら、同盟の皆さんからの報酬を計算したらどうです? 忘れていたでしょう?」

「それを一人でやるのもなぁ……」


 みんなに分配しなくちゃならない以上、一人でこそこそとやるもんじゃない。


「二人とも気にしないと思いますけど?」

「信頼はうれしいけど、それはそれこれはこれだ」


 金銭問題で揉めるのは避けたい。

 もちろん、二人ともそんな人じゃないのは分かっている。だからといって、騒動の種を自分から蒔くこともないだろう。


「真面目ですねぇ……あ、綾乃ちゃんが帰ってきたみたいですよ?」


 《オートマッピング》を参照したらしいエクスの言葉から数分後。


「ただいま戻りました」

「おかえり」

「はい」


 なぜかうれしそうな本條さんが、ぽふんっと俺の隣に座った。

 他の場所はいくらでも空いてるのに……とは今さら言わない。


 最近気付いたんだ。


 くっついている感触とか体温を無視すれば、くっついているほうが顔見えないので緊張しないって。


「いい本が見つかった?」

「本は、みんないい物です。面白くなかったとしたら、私に知識と心構えが足りなかったのです」


 中禅寺秋彦かな?


 本に対して博愛主義過ぎる。

 まあ、それが本條さんだ。


「それよりも、秋也さん。少し調べてみたのですが……」


 と切り出してから語ったのは、この世界での製本に関して。


「当然ですが、原稿を渡してすぐに完成というわけにはいかないようです」

「それはそうだよなぁ」


 原稿をFTPでアップロードして、特急料金で印刷。できあがった本は当日ビッグサイトへ直接搬入とはいかない。


「活版印刷は普及していないようで、ほぼ手作りになるとか」


 筆書師がいて、レイアウトを決めて清書。

 その原稿を製本師が丁合し、別に作った表紙ととじ合わせる。


 その表紙だって、装飾が必要だ。


「出版、大変です。費用も結構かかりますし……」

「そしてなにより、リディアさんの許可が必要か」


 リディアさんは、すっかり品行方正。真人間……真吸血鬼? 真っ当な吸血鬼ってなんだ? そんなのヴァンパイア十字界でしか見たことないぞ。


 まあ、とにかく真面目になっていた。


 見るからに、拒否しているように思える。


 でも、時折こっちをチラッチラッと見る視線。

 本当に嫌なら止めるけど、実は満更でもないって雰囲気があるんだよなぁ。


「はい。本当に嫌だというのなら諦めますが、どうせならお友達の本を贈りたいです」

「まずは、内容を読ませてもらってから……だな」


 許可をもらえても、中身がとんでもなかったらマズい。異世界言語だろうと、本條さんのご家族なら解読しそうだし。


 アルゴニアンの侍女みたいなのだったら、フォロー不可能だ。

 なにしろ、景織子さんなら解読してしまいそうな凄味がある。


「お酒を飲ませたら、許可もらえないかなぁ」

「私も、なにか美味しい食事を作ってみます」

「リディアさんのことをどう思っているのか、丸わかりな会話ですね」

「言うなって」


 そんな風に作戦会議を繰り広げていたところ、しばらくしてカイラさんも戻ってきた。


「おかえり」

「ええ、ただいま。ようやく微少(タイニィ)な魔力水晶が入荷したそうよ」


 本城さんの反対側。

 つまり、またしても俺の隣に座ったケモミミくノ一さんが、耳をぴこぴこさせながら言った。


 狭い。


「盗賊ギルドかな? 結構あるものなんだな……」

「島の外から仕入れたらしいわ。次からは、時間がかかるわね」


 それは仕方ないか。集めるのも大変だろうし。

 まあ、売ってくれるならあるだけ買おう。


「それから、ミナギくん。冒険者ギルドで確認してきたわ。明日、ギルドマスターが会いたいと」

「報酬の話か」

「ええ、やっとね」

「向こうも、計算とか後始末とか大変だったんだろうし」


 それを思えば、意外と早いのかもしれない。


「じゃあ、エルフの弓とかを卸す話も一緒にしようか」


 別の件だけど、上手いことやってくれるだろう。

 マークスさんは、めっちゃ有能だしな。頼りになって、ほんと感謝しかない。

・エルヴンボウ

価格:50金貨

等級:一般

種別:武器(長弓)

効果:エルフの手による複合弓。人間の職人では成し得ない驚異的な精度を誇る。

   この武器を使用した攻撃に有利(1)を得る。

   また、誤射の確率を50%低減する。


・エルヴンマント

価格:25金貨

等級:一般

種別:その他のアイテム

効果:数多の葉で編まれた、深緑の外套。

   野外での隠密行動に有利(1)を得る。


・エルヴンブーツ

価格:25金貨

等級:一般

種別:その他のアイテム

効果:植物を編んで作られたエルフの伝統的な長靴。

   エルヴンブーツを装備して野外移動を行った場合、10時間までは[疲労状態]にならない。


エルヴンボウは、実質マジックアイテム。

後々アイテム購入にレアリティが導入され、実質上のエラッタ当たるやつ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中禅寺ィ……鈍器愛好家の方ですか?(真顔 あのシリーズは何か迫真めいたものは感じましたけど、小説としては正直……いやまあ私は塗仏で切ったんですけど(隙自語) 好きな人は好きなんだろうなぁって…
[良い点] エルヴンボウも強いけどブーツがやばい。 だって装備してちょっと屋外散歩すれば10時間疲れないんでしょ!(マンチキン的テキスト解釈) [一言] 変人が集まって共同生活してるし、実質家族計画進…
[一言] G種運命の放送当時デスティニープランはマジ導入してくれないかなと思いましたねw 活版印刷機を持ち込むという暴挙には出ないようですね。当分は魔道具頼り? まあやりすぎるとどこかのカミサマとか…
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