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44.会長との出会い

「うふ。うふふ……」

「本條さん……? あのちょっと……」


 突然の本條さんのお兄さんの襲来。

 そして、それを上書きしてしまった本條さんのお母さんの来襲。


 嵐のようなイベントを終えた俺に待っていたのは、緩みきった本條さんと腕を組んでソファに座らされるという天にも昇る地獄の責め苦だった。


 お経か。お経を唱えればいいのか?

 否。それよりも頼りになるケモミミくノ一さんがいるじゃあないか。


「カイラさん、どうにかして」

「それは、私にはできない相談だわ」


 耳をぴこぴこさせて、笑顔でスルーされた。


 かわいい。


 二人ともかわいいけど、まずい。まずくない?


「綾乃ちゃん、さっきの動画の編集が終わりましたよ」

「エクスさん、ありがとうございます」

「いやぁ。エクス、ちょっと動画サイトデビューしたくなりました」

「やめて。広告収入で養われそうだから」


 個人事業主でさえなくなったら、完全に無職になっちゃう。

 いまにして、社畜って俺のアイデンティティの一部だったんだなって思うよ。


「というか、なんの動画?」

「実際に見てみましょう」


 と、異世界プレゼン動画と同じようにテレビに映像が出力されるが……。


『それでも、本條さん……綾乃は必要な女性(ひと)だから』


 俺だった。

 俺がなんか、真剣な表情で告白していた。


 うぎゃあああああああっっっっ。


『それでも、本條さん……綾乃は必要な女性(ひと)だから』

「って、ループしてるじゃねえか」


 拷問? ベルモンド Le VisiteuR?


「100分ぐらいありますよ」

「映画館で上映できる長さですね」


 本條さん、正気に戻って!

 カイラさんも、じっと画面見てないで!


『それでも、本條さん……綾乃は必要な女性(ひと)だから』

「あの……だからね」

『それでも、本條さん……綾乃は必要な女性(ひと)だから』

「だから……」

『それでも、本條さん……綾乃は必要な女性(ひと)だから』

「ああっ。うるせえな、俺!?」

「秋也さん、秋也さんになんてことを言うのですか」


 これもうちょっとわけ分かんねえな……。


 地球最後の男な気分を味わっていると、不意にスマホが振動した。


 はて? APは寝起きに消化したはずだが……と思っていたら、振動は一回だけではない。通知じゃなくて、電話の着信だ。


 相手は、夏芽ちゃん。


 ……なんで夏芽ちゃん? 授業中じゃないのか? 休み時間?


 いや、それよりも電話に出ないと。


「ごめんねー。シューヤくん、ヒマ?」

「ああ、大丈夫だよ」

「うちの会長が日本に戻ってきたみたいで、今日にでも会いたいって言ってきてるの」


 会長? あっ、異世界帰還者同盟リーグ・オブ・リターナーズの会長か。

 重要顧客じゃないか。


「突然でごめんね」

「それは、こっちも願ったりだよ」

「なら、会長とあたしだけなんだけど。いつものカラオケボックスはどう?」

「ちょっと待って。確認する」


 電話を保留にして、ループ動画を見ている二人に経緯を説明した。


「というわけで、行ってもいいかな?」

異世界帰還者同盟リーグ・オブ・リターナーズの会長さん、ですか……」

「ああ。向こうは会長さんと夏芽ちゃんだけだし、俺一人で大丈夫だと思う」

「変なことに巻き込まれると問題なので、エクスも同行しましょう」

「全員で行くのも圧力と解釈されかねない……ですね」

「そういうことなら、仕方がないわ」


 結論は出た。

 保留を解除し、夏芽ちゃんに了解と伝える。


「お待たせ。今日会いに行くよ」

「じゃ、4時ぐらいに現地集合でいい?」

「それで」


 ファーストーンで家に戻ればいいから……待ち合わせの一時間ぐらい前に出ればいいかな。


 ループ動画を再生するテレビからは目を逸らし、出発の算段を付ける。

 あっさりと単独行動が認められ、安堵していた。


 でも……。

 俺も、このときは知らなかったのだが。


 異世界帰還者同盟リーグ・オブ・リターナーズの会長が女性だと事前に知っていたら、こうもあっさり話は進まなかっただろう。





「うちの会員がお世話になったようですわね」


 姫カットに、鴉の濡れ羽色の髪。

 先に入ってカラオケボックスで待っていたのは、日本人形のような容姿の女性だった。


 人形のようなというのは、雰囲気だけではない。

 整った顔の造型も、もちろん。


 なにより着物――紫の柄物――を普段着のように身につけている点もまた、そうだった。


「わたくしは、異世界帰還者同盟リーグ・オブ・リターナーズの会長を務める星見(ほしみ)花蓮(かれん)ですわ。よろしくお願いしますわね、皆木秋也さん」


 ここがいつものカラオケボックスだと忘れてしまいそうになる、堂々とした所作。本條さんとはまた違った意味で、生まれの良さを感じさせる。

 とても、就活が憂鬱とか言いそうな雰囲気はなかった。


「星見……さん。こちらこそ、初めまして……」


 驚きからなんとか立ち直り、古いパソコンのようにようやく再起動を果たす。だから、メモリとディスプレイは増やせっていったじゃないか。


 当然歌は入れられておらず、俺はゆっくりと正面のソファに腰を下ろした。


「どうも。俺のことは、宅見くんたち聞いているんですね?」

「その通りですわ。エジプトからイタリアに着いたところで、とんぼ返りしてきましたのよ。このあと、ロンドン塔まで行って、イギリスの歴史教科書を買って来るつもりでしたのに」


 やはり、奇妙な冒険の聖地巡礼だったか……。

 たぶんというか絶対に、その教科書にタルカスとブラフォードは載ってないよ。


「会長、途中で軍資金が足りなくなったって……」

「それは、どうでもいいのですわ!」


 夏芽ちゃんがツッコミを入れると、星見さんはそれを圧倒する声量で打ち消した。


 ははぁん。さては、この娘もポンコツだな?


 というか、またキャラが濃い……。


 本條さんとかカイラさんは、一緒にいても疲れないからいいなぁ。


「さて、皆木秋也さん。聞くところによると、あっちとこっちを行ったり来たりできるということですけれど?」

「嘘じゃないですよ」

「もちろん。そこを疑ったら話そのものが成り立ちませんわ」

「でも、全部が本当とも限らないと」

「その通りですわ。ひとつの真実が、また別の真実を保証するとは参りませんでしょう?」


 俺は否定も肯定もせず微笑んだ。

 下手に説明するよりは、先に言いたいことを口にしてもらったほうがいい。


「わたくしは彼らよりも年上で、とはいえ数年の違いなのでまだまだ若いのですけれど――」

「あ、はい」


 大丈夫。俺に比べたら、みんな若いよ。というか、高校生も大学生も大差ないよ。


「とにかく、僭越ながら皆さんの保護者役を自認していますわ」

「えー? 会長はお姉さんだけど、保護者って感じじゃ……」


 星見さんが、なんとも言えず微妙な顔になる。

 夏芽ちゃん、オブラート。オブラートを忘れないで。


「わたくしは! 保護者! ですわ!」

「気を悪くなんかしませんから、本題をどうぞ」

「本当に、アイナリアルさんとその子孫を見つけたんですの?」

「会長!?」


 単刀直入な問い。


 存在はかなり濃いけど、鋭い。

 そりゃそうか。オルトヘイムで活動してきたんだもんな。


「だって、ララノアって娘は似てたよ?」

「わたくしは詳しくありませんが、画像なら修正もできるのではなくて?」

「やってはいませんけど、やろうと思えばできますね」

「ええ……? シューヤくん、話がややこしくなるだけだよ?」

「でも、必要なことだからさ」


 つまり、星見さんは宅見くんたちが詐欺被害に遭っているのではないかと疑念を抱いているわけだ。

 これが、存在もしていないアイナリアルさんの孫をでっち上げ、宅見くんの弱みにつけ込んでいるのではないかと。


 正直不本意ではあるが、客観的にはその心配ももっともだ。取引額も莫大だし。

 同時に、そんな年長者が宅見くんたちの近くにいることをうれしくも思う。


「じゃあ、動画ならどうでしょう?」


 だけど、疑念は払拭しなければならない。

 前は、存在自体を知らなかったから見せられなかった。しかし、今はエクス謹製の異世界プレゼン動画がある。


「動画って?」

「確かに、動画のほうが加工はしにくいものですわよね。詳しくは知りませんが」


 これ、詳しく知ってるやつだ。


 ……などとは言わず、カラオケボックス備え付けの液晶モニタとタブレットをつなぐ。実際は、エクスがバックグラウンドでやってくれた。


 そして映し出される、異世界プレゼン動画。


「うわー、森。シューヤくんも、森に放り出されたんだ」

「そっちもか」

「うん、大変だったよ。バカイチが暴走して」

「そうなんだ……」


 初手から苦労してたんだな、宅見くん。


「そうそう。影人(シャドウ)の里ってこんな感じでしたわね。北のほうでも、同じなんですのね」

「あー。行ったことはないけど、懐かしい街並みー」

「平和になっているんですのね。こんなにうれしいことはありませんわ……」


 俺たちにとっては、見慣れた普通の風景。


 でも、夏芽ちゃんや星見さんには違う。

 もう二度と戻れない世界のその後。それはある意味、失った故郷を再訪したのと近いのかもしれなかった。


「ここまでのものを見せられては、嘘や作り物とは言えませんわね」

「うん。懐かしかったー」

「もちろん、これがすべてを証明するわけではありませんが、わたくしは納得しましたわ」

「それはなによりです」


 とりあえず、解決か。

 ますます、エクスには頭が上がらないな。


 そう思いつつ後片付けをしようとしたところ。


「皆木秋也さん」

「あ、はい」

「疑ってしまい、申し訳ありませんでしたわ」


 カラオケボックスのテーブルをずらし。

 止める間もなく、ぬるりとした動きで。


 星見さんが土下座をした。


 いやぁ。めっちゃ動画枚数使ってるなぁ……って、土下座!?


「立って、早く立って! というか、着物が!?」

「できませんわ」

「ナンデ!?」

「土下座こそ、今この場で最も相応しい謝罪方法だからですわ」

「ああ、そっかー。なるほどなるほど」

「なんでさ!」


 若い人の考えることが分からない。

 助けてよ、本條さん!


「これが、日本とエルフの双方に伝わる最上級の謝罪だからですわ」

「エルフにも伝わってるの!?」


 なんで? エルフって、高慢な種族なんじゃないの?

 伝えるにしても、もっと大事なことがあったよね!?


「はい。一説によると、アマルセル=ダエア王国の中興の祖たる偉大な女王が得意としていたとか」

「女王が土下座しちゃ駄目じゃない? しかも、得意なの?」

「実るほど頭が垂れる稲穂かなと、申しますでしょう?」

「いや、それ自体は立派なだけど……」


 それも、日本のことわざだよね……。

 エルフ……とんでもねえな……。


「謝罪というわけではありませんが、わたくしが持ち込んだ金貨も捜索資金に使ってくださいまし」

「え? 会長いいの?」


 思ってもみなかった言葉に、夏芽ちゃんがびっくりしている。

 まあ、彼女が驚かなかったら、代わりに俺がしてたと思うけども。


「海外旅行の軍資金にしたかったんじゃないの?」

「むぐっ。それはそれ、これはこれですわ!」


 痛いところを突かれたと仰け反るが、それでも前言を翻すことはなかった。


「とはいえ、マジックアイテムの類は元々持っていなかったんですのよね」

「そうなんですか。夏芽ちゃんみたいに、モンクとかグラップラー系のクラスで?」


 なんとなく、当て身投げとか得意そうな気がしてきた。


「いえ、わたくしは憑竜機に乗っていましたの」

「ひょうりゅうき?」


 なにそれ? 響きからすると……。


「ポゼッショナーとも呼ばれてましたが、簡単に言うとロボットですわね」

「なにそれすごい」


 オルトヘイムにロボット兵器なんかあったの?

 そんなの聞いたことも見たこともないんですけど?


「といっても、操縦というよりは乗り憑って憑竜機と一体化するようなものですわ。ですので、大きな鎧を着て自分で動いているような感覚ですわね」

「なるほど……」


 駄目だよ、そんな。

 異世界でロボットなんてさ……。

 ほんと、そういうの良くない。良くないよ……。


 そんなのはさ……。


 公衆電話を探したり、水に魔法陣書いて召喚したくなるに決まってるじゃないか!


 しかも、愛機とのお別れイベントまでこなしてるんでしょ? ダーリン最高ジャン!


「会長は、南の方の別の大陸で活躍してたんだ」

「現役時代は、星見にちなんで“スターゲイザー”と呼ばれていましたわ」

「なにそれずるい」


 その大陸、でっかい剣がぶっ刺さったりしてなかった?


 思ったよりもセンス・オブ・ワンダーに溢れてるな異世界。


 って、まだ、土下座させたまんまじゃん。


「その話は無茶苦茶気になりますが、とりあえず立ってください。謝罪はもう充分してもらいましたから」

「ですが……」

「いや、ほんとに」

「会長、話が進まないし」

「……分かりましたわ。ありがとうございます、皆木秋也さん」


 星見さんがさっと立ち上がり、椅子に戻った。

 たぶん、多少の汚れは構わないような着物なんだろう。きっと……。


「それで、できればでいいんですけど……」

「なんでしょう?」

「会員の皆が、こういった映像を鑑賞できるような機会を設けていただけませんこと?」

「会長、それナイス!」

「できれば、定期的に」

「俺が編集したわけじゃないので、相談した上でになるけど……。そういうことなら」

「是非、お願いしますわ」

「うんうん。みんな、金貨とか出すと思うな」


 もしかして、これも新たな収入源になるのだろうか?

 少なくとも、俺への好感度は上がってポーション売買とかはやりやすくなるよな。


 うちのエクス、優秀すぎる……。

憑竜騎ポゼッショナー

 南方大陸は、邪神戦役以前から大型魔獣が跋扈する魔境であった。

 その脅威に対抗するために開発されたのが刻印機と呼ばれるルーンを用いた機動兵器だった。

 しかし、生産は刻印術師の才能に左右されるため安定的な供給は望めなかった。


 そこで、大型魔獣の心臓を触媒に操縦者の魔力を用いて具現化させる憑竜騎が開発された。

 初期はドラゴンの心臓でしか制作できなかったため憑竜騎と名付けられたが、後に、より小型の魔獣でも利用できるようになった。

 憑竜騎は、触媒と魔力さえあればカスタマイズが容易であるという特徴があり、数多くの機体が戦役には投入された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔神英雄伝!! じゃない、憑竜騎!! 絶対、おもしろかっこいい、やつですよ!! うわなにそれ、読みたいです。 もしくは、漫画化とか映像化とか、どこに要望を出せば実現しますか? 面白い物語をい…
[一言] スターゲイザー……でっかい魚がぶっ刺さってそうなとてもいい名前ですね!!
[一言] ワタルかグランゾートかと思いきや、リューナイトで… ん?ワースか?と思ったらナイツマだったでござる…? 面白カッコイイぜ!
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