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41.男の覚悟

前話で名刺に関するミスがありましたので修正しています。

ご指摘ありがとうございました。

「本條さんやカイラさんもいるんだ。一緒に聞いても構わないかい?」

「そうなんですか……。はい、大丈夫です」


 平日のこんな時間に一緒にいるとか、どういうことなのか。

 そう疑問を抱いたにもかかわらず、宅見くんは追及しなかった。


 今の彼にとっては、そんなことは些事だからだろう。


『オーナー、こっちで引き取ります。かけ直してビデオ通話にしましょう』

「なら、こっちからかけ直すよ。せっかくだから、ビデオ通話にしよう」

「アプリとかは……」

『デフォルトで入っているということで押し通してください』

「スマホなら最初から入ってるよ。問題ない」


 エクスがハッキングするんだろうなぁと心の片隅で思いつつ、一旦通話を切った。


「それじゃ、タブレットとスマホをあっちへ。OK、オーナー。それでいい………。そこの位置がいいです!」

「こんなに離すってことは、テレビに出力するのか?」

「はい。なんか、未来って感じで格好良いですよね」


 分かる。

 エクスが言うのは、本当になんだけど。


 というわけで、異世界プレゼン動画は中断。

 テレビの前に三人並んだところで、エクスが宅見くんへリクエストを送り……しばらく待つとビデオ通話がつながった。


 テレビに映し出される普段着の宅見くんと彼の部屋。どうやら、勉強机にスマホを立てているようだ。

 光景自体は普通と言えば普通だが、テレビ電話そのものにちょっとした未来感がある。


 昔のSFは、テレビ電話好きだったよな……。


「宅見くん、大丈夫そう?」

「はい。動画も音声も問題ないです。こんなアプリがあるなんて知りませんでした」

「使わなきゃ知らないアプリ、たくさんあるもんだよ」


 特別なことじゃないよと、軽く受け流した。

 エクスの所行をごまかすため……だけではなく、聞くべきことがあるから。


「それで、ビデオレターは完成した?」

「それはやめにしました」

「……決めたんだな」


 画面の向こうで、宅見くんが小さくうなずいた。


「皆木さん、僕をアイナやララノアと会わせてください」

「……分かった」


 無理だ。

 確約はできない。


 そんなことは、宅見くんも承知の上。

 だから俺の答えはひとつしかなかった。


 男の子の決心だ。無下にはできない。


「精一杯やらせてもらう」

「ありがとうございます。無理を言ってすみません」


 感謝と謝罪の言葉が並ぶ。

 どっちも宅見くんの本音なのだろう。


「でも、ただでというわけにはいかないわよ」

「もちろんです」


 いつも必要なことを言うカイラさんの言葉を、宅見くんは不快感も見せず肯定した。

 むしろ、こっちから言い出さなかったら自分で言うつもりだったんだろう。


「報酬……対価は用意しました」


 そう言って、レンズ外からデイパックを取り出しその中身を見せる。


「ビデオ通話にしてくれて、ちょうど良かったです」

「それは俺も思ったけど……そんなにたくさん金貨を持ち込んでたんだな」

「僕のだけじゃありません。二人からも借りました。ははは、借金ですね」


 どの二人かは、言わなくても分かる。

 大知少年と夏芽ちゃんが向こう――オルトヘイムから持ち込んだ、文字通りの金銀財宝。


 それがぎっしりとつまっていた。

 規模は違うが、ドラゴンの巣を連想させる。


「あと、記念で持ってきていたマジックアイテムもあります」


 そう言って、机の上にいくつか並べていく。

 金属のボール、スプーン、ランタン、サングラス。それから、見憶えのある筒。


「フォースパイルは、大知が見せたんですよね?」

「そうね。魔力がないと無用の長物ではあるけれど……」


 カイラさんの言葉に、俺は心の中で同意する。

 だが、俺から魔力水晶を仕入れることができれば使えるマジックアイテムでもある。


 それをあっさり手放したのか。


 ヴェインクラルのことがあるから、俺に渡してもしばらくは貸し与えられる……と考えるような子じゃないんだよなぁ。


 どれだけ本気か分かるってもんだ。


「この金属の球は、メタルバインド。命中させたら、自動的に解けて敵に巻き付きます」

「行動阻害系か」


 ゲームだとデバフが微妙な場合多いけど、現実だと必殺になりかねないんだよな。逆に、強すぎるからゲームバランスの名の下に微妙にされてるのかもだけど。


「そちらのスプーンもマジックアイテムなのですか?」

「合言葉を唱えると、スープが溢れてきます。一口で一日動けるぐらいですが……」

「めっちゃまずいとか?」

「絵の具を洗った水の味がしました」


 うわぁ……。

 経験者……。


「潜入任務には良さそうね」

「…………」

「…………」

「…………」


 さすがニンジャだ。なんともないぜ。


「ええと……。こっちのランタンは、光が届く範囲の幽霊とか非実体系モンスターを実体化させます。というよりは、この光の下だと非実体化できないと言った方が近いですね」

「それはすごいわね」

「でも、地球じゃ役にたたねえな……」


 真祖(メフルザード)もいたし、幽霊もどっかにいるのかもしれないけどな。いて欲しくはないが。


 でも、おキヌちゃんなら許す。


「最後に、この虫眼鏡はグラス・オブ・トレーサー。魔力だけでなく、目に見えない様々な痕跡を可視化するマジックアイテムです」

「……ウィッチャーの感覚か」

「はい?」

「いや、ゲームの話」


 ゲラルトさんになれる眼鏡か。わりと欲しいぞ。


 ……という本音はともかく、もしかしたら、俺たちがメフルザードをどうこうしたと確信したのもこの眼鏡の力かもしれないな。


「正直、こんなに大知と夏芽が持ち込んでいたとは知らなかったんですが……」

「まあ、基本的には無害だし」


 世界樹が、その辺を基準にして想い出の品的に移動を許可したのかもしれない。

 ……あの幼女が、あんま細かいことを考えているとは思えないんだけどな。


「成功報酬ではなく、全部先にお渡しします。受け取って下さい」

「……それはいいけど、ポーションとかはどうする?」

「諦めます」


 万が一の時の保険。

 その程度ではあるが、それにしても潔すぎる。


 本気だ。

 本気で、アイナリアルさんと話をしたい。しなければならないと思っている証拠。


 ……とはいえ、できることとできないことというのは、やっぱり存在するわけで。


「一応、確認しておくけど……」

「はい。別に、僕を連れて行って欲しいとか、逆に連れて来て欲しいというわけではないです」


 先手を打つように、宅見くんは淡々と答える。

 覚悟をしている人間の目だった。


「一度でいいから、実際に会って話をしたい。それだけです」

「本当に、それだけでいいのですか……?」


 思わずといった調子で口を開いた本條さんに、宅見くんは透徹した微笑を浮かべて言う。


「それがいい。それでいいんだと僕は思います」

「アイナリアルさんも、同じでしょうか?」

「アイナにはアイナの考えがあると思いますが……きっと、分かってくれます」


 納得してくれるか分かりませんけどねと、肩をすくめる宅見くん。

 親密さと、親愛を感じさせる。


「二人は、なんて?」

「いろいろ言われましたけど、最終的には好きにしろと」

「目に浮かぶようだなぁ」


 あっさりと秘蔵のアイテムを出したことも含めて、実に大知少年や夏芽ちゃんらしい(・・・)


 アラフォーには、まぶしすぎる。


「さすがに、個人的なことなので異世界帰還者同盟リーグオブリターナーズのみんなには話せません。少ないでしょうけど、役に立てばうれしいです」

「分かった。今は方法はまるで思い浮かばないけど、必ず見つけ出すよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 テレビの向こうで、宅見くんが安堵の息を吐く。

 ここで、通話は終わった。テレビ画面は真っ黒になり、リモコンで電源を落とす。


 さっきまでの眠気はどこかへ吹き飛び、代わりにこれからやるべきことが次々と浮かんでくる。


「こんな風に、あちらとこちらで会話ができればいいのですが……」

「そうなれば、問題解決だよなぁ」


 最悪、メッセージだけでのやり取りでも構わないといったところか。


「なんか、そういうアイテムの話とか知らない?」

「私は聞いたことがないわね」

「そんな魔法もないようです」


 いつの間にか例の正気度が減りそうな魔道書を手にしていた本條さんが、沈痛な面持ちで首を横に振った。


「まずは、冒険者ギルドと盗賊ギルドで情報収集かなぁ」

「他は、神秘協会(アカデメイア)に情報があるかも知れないけど、島の外なのよね」

「そう言えば、水の精霊さんはどうなのでしょう? 私はお会いしたことがないですけど……」

「まあ、聞くだけならただか……」

「ファーストーンで移動できるものね」


 でも、あのハイテンションな精霊が知っているとは思えない。


 となると、他の候補は……。


「あとは……エルフか?」

「可能性は……」

「あるかもしれませんが……」


 カイラさんと本條さん。さらに、エクスまでもが渋い顔をする。


 俺が知るエルフと言えば、ララノア。そして、間接的にアイナリアルさん。


 うわぁ……。どっちも当事者だぁ。


 そして、その二人から宅見くんへのコンタクトがないということは……。


 明るい未来が見えねえな、これ。

【メタルバインド】

価格:670金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:鈍色をした金属の球体。大きさは、テニスボールほど。

メタルバインドを投擲し命中させると帯状に解け、対象に巻き付いて拘束状態にする。

   一分すると、元の球体に戻る。


【ニュートリションスプーン】

価格:100金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:木製の大きなスプーン。

口に含むと、一日活動できるだけの栄養があるスープが溢れ出る。一日に十回まで使用できる。

   しみじみと不味い。


【ランタン・オブ・エンティティ】

価格:860金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:角形をした金色のランタン。

合言葉を唱えると浮遊し、周囲15メートルを緑色の光で照らす。

   その光の範囲内では、非実体の特徴を持つクリーチャーは、その特徴を失う。


【グラス・オブ・トレーサー】

価格:1070金貨

等級:英雄級

種別:その他のマジックアイテム

効果:手のひら大の虫眼鏡。

   この虫眼鏡を通して観察を行うことで、追跡や知覚の判定に有利(5)を得る。

   この効果は、視覚だけでなく嗅覚要素にも有効。

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― 新着の感想 ―
[一言] >絵の具を洗った水の味 ギリギリ頑張ればたえられる可能なまずさですねw >おキヌちゃんなら許す おキヌちゃんみたいなのいたらランタンの値段天井知らずじゃないですかw 生き返る前にそんなのあ…
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