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35.テスト後、試練の予感

「武器をどうするのかと思っていたら、そんなマジックアイテムがあったのね」

「今まではずっとほこりかぶってただけだけどな!」


 ここは、まだカラオケボックス。

 外の風景は、その通りだ。


 しかして実体は、俺がというかエクスが《セーフティゾーン》で作り上げた、外からは不可知の空間。

 外敵から隠れてゆっくりと休息を取るための場所では、今、戦闘が始まろうとしていた。


「いくぜ、マナブレード」


 大知少年が右手で握っているのは、リレーのバトンぐらいの筒。向こうにいた頃はサブウェポンだったようだが、お守り代わりに持ち歩いていたらしい。


 それは夏芽ちゃんも知らなかったらしく、軽率だってキレていた。


 まあ、それはともかく。

 もう片方には、貸与した魔力水晶。


「魔力そのものを刃にするマジックアイテム……ということになるのでしょうか?」

「みたいだね」


 魔力水晶を使い潰し、代わりに筒から真っ白い光が伸びる。

 それは、ドラゴンでも両断できそうな大きさで止まった。


 大きさはともかく、ノーザングランブレードとか使ってきそうな雰囲気がある。


「久し振りだから、鈍ってるなー」


 長大な魔力剣を、それほど広くない《セーフティゾーン》の内部でぶんぶんと振るう大知少年。

 エンハンスポーションで底上げしているとはいえ、とても鈍っているとは思えない。


 斬られたら。いや、触れたら終わり。

 にもかかわらず、カイラさんは動じない。冷静そのものだ。


「なるほど。圧倒的な身体能力で剣を振るっていたのね」


 エンハンスポーションとかで補っているが、今は失われたもの。

 逆に言うと、技術は大したものではない……ようだ。


「ちゃんと避けてくれよなっ」

「言われなくても」


 まあ、比較対象がカイラさんっていうのは差し引かなくちゃいけないけど。


 俺だったら一発で終わりそうな魔力剣の斬撃を簡単に見切って、カイラさんは肉薄していった。

 傍目にはそうは思えないが、実のところハイレベルな攻防なんじゃないだろうか。


「ちぃっ」

「それだけでなく、以前なら、振りながら微妙に長さを調整していたのでしょうね」

「その通りだよ、こんちくしょう!」


 やはり、力を抑えられて勝手が違うのだろう。大知少年が、思い通りにならない戦闘に歯がみする。


 その間隙を縫うように、夏芽ちゃんが動いた。


「はあぁっ」


 足を高く上げない八極拳特有の震脚から放たれた、鋭い肘撃。


 俺と同年代の男子には、八極拳は。そして、神槍・李書文は無敵というイメージがある。


 そのイメージに違わぬ、夏芽ちゃんの必殺の一撃。連続技ではなく一撃の威力に比重を置いた本来の八極拳だ。


 カラオケボックスで大知少年に折檻していたのとは違う。

 これが夏芽ちゃんの本気。


「めちゃくちゃいいタイミングなのがムカつくぜ!」


 そこへ、大知少年が魔力剣を大上段に構えて振り下ろす。


 ――けれど、切り裂いたのは残像。


「いい威力ね。でも、当たらなければ意味はないわ」

「はふぁっ!?」


 瞬時に夏芽ちゃんの背後に回ったカイラさんが、とんっと軽く押してバランスを崩した。

 なんとかこらえた夏芽ちゃんだったが、続けて足を払われてはどうしようもない。


 ぺたんと座り込んでしまった。ちょっとかわいい。


 しかし、カイラさんの追撃が来る前に素早く立ち上がって再び構えを取る。それをかばうように、大知少年がさりげなくいい位置を確保した。


 二人とも、根本的にレベルが足りていないが、戦闘経験は充分。

 ちょうど、俺や本條さんとは逆だった。


「なあ、夏芽。影人(シャドウ)って、こんな強かったっけ?」

「……頭領とかは、分身が全部本物だったりしたじゃない」

「あれは……例外で規格外……だろ?」


 過去のニンジャの野を馳せる者(セリアン)も、相当アレだったらしい。

 まあ、ニンジャだからな。多少の理不尽は存在するだろう、ニンジャだし。


「というか、やっぱ俺たちが弱くなってるんだよな」

「仕方ないでしょ。あんな力持ったまま日常生活送れって言われても困るわよ」

「それでも、無力さを見せつけられるとなぁ!」

「そろそろ、休憩は終わりにしましょうか」

「ああ、やってやるぜ!」

「足引っ張るんじゃないわよ!」


 説教されて精神的な引け目はあったようだが、二人ともそれを感じさせない。理想の自分とのギャップに落ち込みそうになっても、即座に切り替える。

 それどころか、もっとやる気になっている。


 これが本当の勇者(アインヘリアル)……といったところだろうか。


「すごい……ですよね?」

「たぶん」


 と、近接戦の素人である本條さんと俺の理解を超える攻防を繰り広げた三人だったが……。


 それから三セットほどでテストは終わってしまった。


「だいたい分かったわ」


 知るべきことは知ったと、カイラさんが構えを解く。

 しばらくして、大知少年と夏芽ちゃんは、荒い息を吐いてその場にへたり込んだ。


「攻撃力に期待をしてはいけないわね。牽制以上の役には立たないわ」

「はあぁ……。はあ……。はっきり言われると、きちいな」

「ふぁっ、はああ……。でも、事実……なのよね。わたしも、今のわたしがオーガを吹っ飛ばせるとは思えない……わ」


 昔は吹っ飛ばしてたんですね、そうだよね。勇者(アインヘリアル)だもんね。吹っ飛ばすというか、木端微塵までありそう。


「ただ、体力を戻せば、主戦力とまではいかなくとも足手まといにはならないと思うわ」

「雑魚相手はいけたり、囮にはなれたり……ってところか」

「妥当な評価ね」


 落ち込んでいるのか、さばさばしているのかよく分からない二人の感想。

 まあ、現実を無視して自信過剰に振る舞われるよりはずっといい。


 というか、宅見くんもそうだけど、わりと人間できてるよな。


「ミナギくん、こんなところで良かったかしら?」


 試験結果を報告するカイラさん。

 冷静な教官そのものといった感じだが、尻尾はゆっさゆっさと揺れていた。


「ありがとう。参考にするよ」


 素直にお礼を言うと、尻尾がぶんぶんした。

 勇者の指輪(アインヘリアルリング)をしてたら、確実に星間飛行(きらっ)としてたことだろう。


「かー。ここまで鈍ってるとは思わなかったぜ。ランニングすっか」

「あんたは朝4時起きでやりなさいよ。あたしは6時からにするから」

「なんでだよ」

「会いたくないからよ。一緒になって噂になったら恥ずかしいでしょうが」

「あ、うん。そうだな……」


 相変わらず、夏芽ちゃんは大知少年に対してセメントである。

 頑張れ。運動を伸ばしたら、卒業式の日には伝説の樹の下に呼ばれるかもしれないぞ。


 可能性? この広い宇宙で、他の星の住人と出会う可能性ぐらいかな?





 大知少年と夏芽ちゃんが帰ってからも、俺たちはまだカラオケボックスにいた。


「大丈夫ですよ、オーナー。経費で落としますから。むしろ、経費使わなすぎなのでレシートが欲しいです、レシートが」


 というエクスの求めに応じて、残ることにしたのだ。


 もちろん、歌うためではないけどね。


「そういえば、オーナー。ヴェインクラルのことを話したのはいいですけど、本当に巻き込むつもりではないですよね?」

「そりゃ、できれば俺たちだけでなんとかしたいさ」

「なにか考えがあるのね」

「秋也さん……」


 全幅の信頼を寄せるカイラさんの視線は慣れたけど、救世主を見つめるみたいな本條さんのには引いてしまう。

 自分の予知で迷惑を掛けて……みたいに思ってるんだろう。全然、そんな事ないのになぁ。


「でっかいたらいに水を入れておけば、ファーストーンで移動はできるだろう?」

「できますけど……あ、そういうことですか」

「うん。事前に人目につかない場所にファーストーンを投げておく必要はあるけどね」


 ヴェインクラルがこっちに来たとき、ヤツの居場所を捕捉できないといけないけど……。

 上手くいけば、あとは煮て焼いてやるだけだ。


「……ヴェインクラルを連行できるのであれば、そのまま倒せるのではない?」

「それならそれでもいいけど、騒ぎをなるべく起こしたくないというのがひとつ」


 もうひとつは、若干ギャンブル要素はあるけど……。


「本気で相手をしてやるって言ったら、向こうからついてくるんじゃないかと」

「……あり得ると思います」


 本條さんは、あっさりと納得してくれた。


「実に不合理だけど……そう。確かに、そうね」

「まったく、有機生命体は道理や理屈に合っていない選択を平然とするのですね」

「そこ、かぶせなくていいから」

「AIとして、ここは譲れないところですよ、オーナー!」


 AIらしく振る舞おうとするAIって、AIなんだろうか?


「でも、どこを決戦の地にするかなんだよな」


 戦隊ものなら、どっかの採石場に移動するもんだが……水がない。


「心当たりがあります」


 控えめに手を挙げる本條さん。

 それは彼女らしい仕草なのだけど、なぜか照れたようにはにかんでいる。


「別荘の敷地に池があります。近くに他の別荘もない奥まったところにあるので、人目につく心配もないと思います」

「別荘かぁ」


 知ってる。部活ものの合宿回で出てくる施設だよね。知ってる。


「そんなに大きなものではありませんよ? 父が書庫代わりに使っているぐらいですから」

「実在していたんだな……」

「していますよ。殺人事件が起こったこともありませんし」


 中村青司が建てたわけじゃないらしい。


 でも、別荘。別荘かぁ……。


 タヌキは極東にしかいないらしく、海外のアニメファンが実在の動物だと知って驚いたりするんだとか。


 俺にとっての別荘は、それとほとんど同じ扱いだ。


「そこを借りられれば……って、あれ?」


 本條さんの家の別荘を借りる?

 いやまあ、泊まりたいわけじゃない。敷地に入らせてもらって、石を放り込みたいだけなんだけど……。


 無断でってのは……できる。カイラさんでなくても、できるけど……。


 さすがに、それはまずいよな。


 人として。


「となると……挨拶しなくちゃだよな……」

「いえ。鍵を借りるぐらいなら、私が……」

「綾乃ちゃん、用途とか聞かれたら答えられます?」

「それは……なんとかします」


 たぶん、無理だと思う。


 思うけど……。俺が挨拶に行って事情を説明するのと、どっちが無理ゲーだろうか……?


 レゲーとフロムゲーの難易度比較するようなもんじゃね?

【フォースパイル】

価格:6,400金貨

等級:古代級

種別:武器(様々)

効果:50cm程度の筒。片手でも両手でも扱える。

   魔力を込めることで、使用者の任意の武器を創造する。

   攻撃前に魔力を10点消費することで、

   また、この武器による攻撃は『<防御無視>ダメージ』となる。

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