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34.幼なじみたちのリアクション

「えーと。ちょっと驚くような展開になっちゃってね。二人をないがしろにしたわけじゃないんだ。ごめんね」


 平謝り。

 俺が選んだのは、真摯な謝罪だった。


 というより、他に選択肢はない。


「ちょっと心配になってしまって……。過剰反応だったわね」

「次から気をつけてくれれば、それで……」


 常になく怒っていた、カイラさんと本條さん。それが嘘だったかのように、目に見えて沈静化していく。


 一緒に入ってきた大知少年が、かなり露骨に驚いているのが分かる。反応が違いすぎると思っているんだろう。


 どうやら、カイラさんにこってり絞られたようだ。

 まあ、勝手に人の秘密を暴こうとするのはほめられた行為じゃないよな。


「シューヤくん、大人って感じ!」

「シューヤくん?」

「皆木さんじゃ、みんなと一緒で面白くないもんね」

「あ、うん」


 俺は積極的にスルーことにした。

 現役高校生と会話するのは、アラフォー的にわりとハードル高いので。跳ぶこともくぐることもできない、絶妙な高さ。


 とにかく。


 正しい答えが、正しい選択肢とは限らない。

 まずは、下手に言い訳をせずに謝ること。これこそが、怒りを沈静化させる秘訣なのだ。


「それで、なにがあったのかは……。いえ、聞くのはまずかったわね」

「いや、宅見くんから許可は下りたよ」


 そこで、みんなに着席を促した。

 俺の両脇にカイラさんと本條さんが陣取り、その向かいに大知少年と夏芽ちゃんが座る。

 いつも通りで、違和感もない。


 慣れって怖い。


 深く考えるとあれなので、前置きはなし。早速、話を切り出すことにした。


「とりあえず、最初から説明かな。この写真を見て欲しい」


 そう言って、宅見くんにも見せたララノアの写真を液晶画面に表示させる。


「このエルフ? どこかで……」


 金髪褐色ギャルエルフを凝視する大知少年。

 一方、夏芽ちゃんは大きく目と口を見開き……驚きが通り過ぎると、隣に座る大知少年をジト目で見つめた。


「どこかでじゃないわよ、バカイチ。アイちゃんにそっくりじゃない」

「あー。アイナかぁ。確かに似てるけど、そっくりではないだろ?」

「でも、それだけじゃないような……」


 もしかして、夏芽ちゃんには宅見くんの面影も見えたんだろうか?

 本人も気付かなかったのに。すごいな。


「ふ~ん。タクは、アイちゃん探しをお願いしてたんだ。アイちゃんだけをね……」


 さすが……と言うべきか。夏芽ちゃんがあっさりと見破ってしまった。これも一種の女子力なのかもしれない。


「何百年も経ってるんだし、生きてるのアイナぐらいしかいねーからじゃね?」

「バカイチは、ほんとバカイチね」

「なにおう?」

「あの二人が両思いだったのは、見れば分かったでしょーが」

「お、そうだな」


 まるで分かってねえな、これ。

 もっとも、俺も大知少年側なので黙っておく。


「それに、アイちゃんが今なにをしてるか知りたいってだけなら、あたしたちに隠し事する必要ないでしょうが」

「お、おう?」


 大知少年は分かっていないようだった。

 いいよ。そのままの君でいて。


「結果として、私たちのお説教は無駄になってしまったわね」

「たちというか、私はお説教めいたことはなにも言っていないのですが……」


 ここまでは、カイラさんと本條さんがすでに知っている情報。平然としたものだ。

 カイラさんが、どんだけ二人を詰めたのか気にならなくもないけど。


「ララノアがアイナリアルさんに似てるって、先入観なしで言えるってことはほぼ確定と言っていいと思うけど……」


 一応、違う可能性があると前置きした上で、俺は続きを語る。


 アイナリアルさんがエルフの里で長老のようなポジションにいるらしいこと。

 ララノアがその孫娘であること。


 そして――


「このララノアは、客人(まろうど)の血を引いているんだそうだ」

「はああぁぁぁぁっっっっ!?」

「タク、あたしたちに隠れてぇぇぇぇっっっ!?」

「その気持ちは分かる。でも、まだ続きがあるんだ」


 カラオケボックスで良かった。

 大音声に顔をしかめつつ、俺はさらなる惨状を覚悟しつつ続ける。


「え? 秋也さん、どういうことなんです?」

「宅見くんが言うには、プラトニックな関係だったそうだ」

「はああぁぁぁぁっっっっんんんっっ!?」

「サイッテェェェェッッッ」

「落ち着きましょう」

「お、おうふ」

「アッ、ハイ」


 今にも飛び出していきそうな大知少年と夏芽ちゃんを、カイラさんがたった一言で抑えた。

 うちのニンジャが、すごすぎる。


「とても嘘をついている様子はなかったし、情報過多でふらふらしてたから、タクシーで家に帰したよ」

「そう……ですか。ですが、そうなると……」


 どうなるのかと、本條さんが不安そうにつぶやいた。


「とりあえず、宅見くんには心を整理する時間が必要だと思う。そして、もし相談を持ちかけられたら真剣に話を聞いてあげて欲しいんだ」


 これは会ったばかりのアラフォーにできることじゃない。ずっと一緒だった二人の助けが必要だ。


「ウソだったら、とんだ最低野郎だけど、本当だったら大変なこと……よね? どう大変なのかよく分からないけど……慰謝料……? 養育費……?」

「俺に聞くなよ。でも、まあ、話ぐらい聞いてやるさ」


 うんうん。

 これで大丈夫だろう。


 これで、話の半分は終わり。


「ミナギくん、例の件はどうするの?」

「ああ。これから話そうと思う」


 隣の本條さんが緊張するのが分かった。

 大丈夫だよと視線を送ってから、正面の大知少年と夏芽ちゃんに向き直る。


「それから、これはまったく別件なんだけど……」

「シューヤくん、どうしたの?」

「実は、向こうからこっちにオーガが越境してくるかもしれないんだ」


 さすがに、宅見くんには話せなかったヴェインクラルが地球へ来る予知の件を伝えた。

 本條さんのとは言わず、未来予知で情報を得たと説明すれば、たぶん、神託的ななにかだと誤解してくれるはず。


「はへー、オーガが。向こうからこっちに来るなんて、昔もなかったわよねぇ」


 案の定、あっさりスルーしてくれた。

 異世界リテラシーが高くて助かるなぁ。


「バカかよ、夏芽。そんなことができたら、もっと簡単に帰って来れたじゃねえか」

「まさか、バカイチに正論を……」

「言われるとは思わなかったって? 俺だって、それくらい――」

「正論を言う機能が備わっていたなんて」

「どこまで俺の評価低いんだよ!?」

「まあ、まあ」


 出会い頭に本條さんに告白しておいて高評価を求めるなんて、どんだけ厚顔無恥なのか。

 ……なんてことは考えもせず、ヴェインクラルがどんだけ厄介かとか、ゴブリンと組んでいるらしいことも追加で説明した。


「オーガかよ」

「オーガねえ……」


 ヴェインクラルのことを聞かされた大知少年と夏芽ちゃんが渋い顔をした。

 感情を整理するかのように炭酸とオレンジジュースを飲んでから、感想を口にする。


「あいつら、殺しても簡単に死なねえんだよなぁ」

「そうそう。一回死んでから相討ち狙って攻撃してくるのよね」


 死とは一体。うごごごご……。


「……そういや、ヴェインクラルも相当しぶとかったな」

「その上、絶対に逃げねえし。むしろ、逃げるときはこっちに向かってくるし」

「しかも修羅(ロード)種ってなると……。一人で騎士団壊滅させてたわよね?」


 やっぱ蛮族度高えな、おい。見た目はシュワちゃん、頭脳は大人。その名は蛮人コナンって感じだ。


「ゴブリンも、戦車みたいなの作ってたよな」

「そうそう。大砲で撃たれたし、装甲も堅かったわよね」

「チャリオットじゃなくてタンクのほうの戦車だったか」


 というか、ゴブリン戦車を凌駕してるじゃねーか。オルトヘイムは、ミスタラよりも進んでいた……?


「動力はどうなっていたのでしょう? 魔法ですか?」

「そうなんじゃない? 壊したからよく分からないけどねー」

「普通、素手で戦車は壊せねえけどな」

「大知、その頭はインテリアなの? 普通の人間は戦車を壊せたりしないのよ?」

「なんで俺、憐れまれてるんだよ!?」


 確かに、戦車を壊せるのは901ATTぐらいだろう。奴らは蒼い鬼火と共にやって来る――


「興味深い話ね。オーガも邪工師も地下世界に追いやって久しいから、具体的な情報は失われつつあるのよ」

「日本でも、島原の乱の頃には合戦のやり方が失伝していたという話がありますね」


 本條さんの本條さんらしい補足に、俺はそんなもんなんだろうなとうなずく。


「まあ、どんな状況でこっちに来ることになるかは分からないし対処は俺たちがするけど、危険があるかもしれないってことと……」


 この先は、言うべきかどうか葛藤があった。

 だが、最悪を防ぐためには、言わなくちゃあいけない。


 大人失格だけど。


「最悪の場合、周辺に人が立ち入らないように封鎖してもらうとか、避難を手伝ったもらうとかで協力をお願いしたい」

「……俺も戦いますよ」

「そうよ。やるわ」

「いやいやいやいや」


 思いがけず好戦的な二人に面食らってしまった。


 レベルキャップかは分からないけど、戦闘能力は失われてるんだ。

 それに、異世界の先輩とはいえ、高校生を矢面に立たせることなんてできない。


「それは認められないよ」

「ポーションがあればなんとかなるって」

「牽制ぐらいはできるもんね」

「それでもなぁ……」


 カイラさんと目を合わせ、どう説得したものかと思案する。

 納得できるような落としどころが、どこかに……。


「だから、タクにはこの話は秘密にしてください」

「ああ。絶対にテンパって、ろくなことにならねーからな」

「それから、アイちゃんのことも、よろしくお願いします」


 頭を下げる夏芽ちゃんと大知少年に、俺は虚を突かれたように固まった。


 タイミング的にできなかっただけで、宅見くんにも話は通しておくつもりだった。それが、当たり前のことだと思っていた。


 だが、言われてみれば知らせずに処理出来ればそれが一番。


 それに気付かなかった悔恨。

 そして、そんな心配をしてくれる友人がいることへの羨望。


「まあ、交換条件にしなくてもそれくらいの配慮はするけど……」

「ダメっすよ。同盟のメンバーは助け合わないといけないんすから」

「そうだよ、シューヤくん」

「……カイラさん、テストをしてくれます?」

「二人が実戦に耐えうるか、ね」


 俺は無言でうなずいた。

 幸い、ポーションの在庫はいくらかある。それでバフをかけた上で、足手まといにならないかどうか試験。


 駄目なら諦めてもらうし、合格なら逆にお願いする。なんなら、報酬だって支払っていい。


「任せてちょうだい」

「うげ……」

「うええ……」


 快諾するケモミミくノ一さんに対し、元勇者(アインヘリアル)たちはガチャで爆死したようなうめき声をあげた。


 そして、本條さんは目を背ける。


 一体なにやったの、カイラさん?

カイラさんが締めました。ニンジャ的に。

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