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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~  作者: 藤崎
第二部 異世界帰還者同盟

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26.超巨大半魚人上陸阻止戦(前)

「一体で良かったんだが、増えやがったか」

「勝手に増える訳ねえだろ」


 なにをやらかしたら、あんな怪物二体に追っかけられるんだよ。

 俺の冷たいツッコミにも、ヴェインクラルに反省の色はない。


「まあ、何体いようがやることは同じだよなぁ?」

「……不本意ながら、その通りだな」


 こっちはフェニックスウィング、あっちは地上。そして、《渦動の障壁》越しではあったが、俺とヴェインクラルの視線が正面からぶつかり合う。


 ただし、ヤツは愉悦そのもので、俺は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべていたが。


「ミナギくん、そうとは限らないわよ。どうするの?」

「そうとはって……もちろん……」


 ヴェインクラルの言う通り、やることは変わらない……と言いかけて、カイラさんの赤い瞳に宿る強い光にたじろいでしまった。


「さすがに、これは許容量を超えているのではない?」


 超巨大半魚人(ダゴン)が、二体。

 これはもう、ただのスタンピードではない。個人でどうにかできるような問題ではない。


 そう、カイラさんは俺を問い詰める。


「幸い、屋敷は街の外れにあるからそこまで被害は受けないはずよ」

「私たちの身の安全を優先しろと仰りたいのですね」


 本條さんの言葉に、カイラさんは答えを返さない。

 ただ、俺のことをじっと見つめる。


 逃げもごまかしも許さないと、まっすぐに。


「この街に、そこまでの義理があるかしら?」


 カイラさんは、テレパシーなんかじゃなく、はっきりとした言葉で問い質した。


 このオルトヘイムに来て初めての街だけど、月影の里みたいに交流があるわけじゃない。

 行きつけの店もないし、知り合いだって少ない。


 極論だが、屋敷さえ無事なら今まで通りの生活を送れることだろう。


「ミナギくんに、そんなしがらみはないわよね?」

「それは、まあ……」


 そういう意味じゃ、俺は主人公失格なのかもしれない。

 普通、もっと交流範囲広いよなぁ? 装備をそろえた店があったり、冒険者仲間がいたり、世話になった下宿があったりとかさ。


 現実での過酷な勤務から逃げてきたので、そんな余裕はなかったと言い訳はできる。

 つまるところ、自分のことしか考えていなかったのかもしれない。


「確かに、カイラさんの言う通りだ」

「秋也さん……」

「だけど、それなりに思い入れはあるから」


 初めて見た異世界の街の感動を忘れていない。

 本條さんとデートして回った市場も、いい思い出だ。


 それが廃墟になったら、やっぱり哀しい。


 多くの人が犠牲になったら、罪の意識がつきまとう。


 ああ、そう。そうだ。

 やっと気付いた。気付かせてもらった。


「これは結局、俺のための戦いだ」


 柔らかな笑顔を浮かべ、俺はカイラさんに伝えた。


「俺がこれからも気分良く生きるためには、避けられない戦いだよ」


 さすがに、街を見捨てて安穏と過ごせる神経は持ち合わせていない。

 まあ、エクスなら適当なアプリでなんとかしちゃいそうな気もするけど。


「それが聞きたかったわ」

「秋也さん……っ」


 地上に居るカイラさんがきらきらした。背後の本條さんからも、きらきらし出した気配を感じる。


 あれぇ?


 愛想尽かされても仕方がないぐらいのクズ発言だったと思うけど? これはさすがに、判定基準おかしすぎない? VARが必要じゃないかな!


「エクスとしては、オーナーの決断に反対したいところですが」

「そんなこと言われたら、俺はなんにもできないんだけど……」

「オーナーの好感度稼ぎのために、頑張っちゃいましょうか!」


 エクスが頭に鉢巻きをして、デフォ巫女衣装を腕まくり。

 似合わないことこの上ないが、可愛さはお墨付きだ。


「ようやくまとまったか。少しの間だけ、共闘だな」

「お断りだ」


 敵との一時的な共闘。

 普通なら燃える展開だが、断固拒否する。


 俺は、まともなご近所付き合いもできない社会人失格野郎なんでね!


「どっちも、俺が倒してやるよ」


 あの超巨大半魚人(ダゴン)、ヴェインクラルのパワーアップ素材になるんだろ? むざむざ倒させるかよ。


「本條さん、このまま行くよ」

「は、はい」

「飛ばしますよ!」

『追うか待つかは、カイラさんに任せるから』

『私も追うわよ』


 例のポーションで短い作戦会議。

 カイラさんはフェニックスウィングには乗れないが、《水域の自由者》がかかっているので、最悪、海底を走って追いつけるはずだ。


 風を切り、ヴェインクラルと一緒にいた……たぶん、あれゴブリンだよな? 地下世界のゴブリンは理知的らしいし、一緒に地上へ来たんだな。


 とにかく、あの二人を置き去りにして海に出る。

 目指すは、上陸を目指す超巨大半魚人(ダゴン)


「……とはいえ、あのでかさだ。どうするかな」

「今度は、秋也さんが仰っていた残機制でしたか? それとは異なるはずですが……」

「あれで残機あったらクソゲー過ぎる」


 巨大な。

 ただ巨大と表現するには、あまりに馬鹿げたサイズ。


 それゆえに巨大としか言えない半魚人。


 まだ距離があるにもかかわらず、その存在感はあまりにも絶大。一時の躁状態から抜けると、怖気すら感じられる。


 そんな怪物が二体。


 揃って歩みを止め……両腕を振り上げた。


「オーナー! 攻撃態勢に入ってますよ!」

「潜れる!?」

「《渦動の障壁》があれば!」

「本條さん、しっかりつかまって!」

「はいっ!」


 フェニックスウィングが角度を付けて海面へ突っ込むのと、すさまじい勢いで水塊と衝撃波が飛んでいくのは同時だった。


 海中からでも、その脅威は分かる。港湾施設も駄目になっていそうだ。

 それどころか、海中まで攪拌され、《渦動の障壁》に包まれていてもバランスが崩れそうになる。


 爆雷に巻き込まれた潜水艦のようだ。オリョクルさせまくった報いだろうか。

 とにかく、背筋が凍る思いだった。


「カイラさんは大丈夫だったでしょうか?」

「あの人が大丈夫じゃない光景が浮かばない」

「オーナー、テレパシーで確認すればいいのでは?」

「あ」


 もっともな指摘を受けると同時に、海上へ出る。

 津波を引き起こした超巨大半魚人(ダゴン)たちは、再びグライトを目指して進撃を再開していた。


(こっちはなんともないわ。気にしないで)

(良かった……)


 カイラさんからテレパシー通信が入り、一安心。


「まずは、攻撃がどの程度通用するか試してみよう」


 近付くにつれて巨大になっていく怪物から視線を逸らさず、攻略法を思案する。


 比較的射程の長い《凍える投斧》と《純白の氷槍》のどちらにするか。

 いや、結局両方試すんだ。順番なんかどっちでも……。


 ――そう思案していた俺の横を、一陣の風が駆け抜けていった。


「はっ、水は克服したぜ」

「無茶苦茶だなてめえーーー!」


 ラグビーやアメフト選手を遥かに超えるガタイをしたヴェインクラルが、海面を走っていた。しかもフェニックスウィングを凌駕するスピードで。


 さすがに無茶だったらしくすぐ併走状態になったが、それでもおかしい。どうなってるんだよ!?

 どうやって、あの超巨大半魚人(ダゴン)の衝撃波を切り抜けたんだよ!?


「オーガ……。海……牛鬼ではないですよね?」


 本條さんも驚いて、なんとか伝承との整合性を取ろうとしちゃってるじゃん!

 一瞬、《踊る水》で邪魔してやろうかと思ったが、エクスの声で我に返る。


「オーナー! ブレイヴシャードが活性化してます」

「ああ、女騎士さん」


 そりゃ、このシチュエーションで出てこないはずがないよな。


「初手、最大攻撃だ!」


 とどめは必殺技で? そんなん知るか。

 変身中の攻撃だって辞さないぜ。


 フェニックスウィングの操縦桿にきっちりはまったタブレットから刃の欠片がせり出してきて、それを勇者の指輪(アインヘリアルリング)と擦り合わせる。


 間、髪を容れず白い鎧の光り輝く聖騎士(ホーリーガード)が、枝刃のついた大剣を振りかぶって虚空に出現した。


(謳えよ、数奇なる運命(さだめ)! 我、今ここで勇者(アインヘリアル)の伝説の一節となる!)


 超巨大半魚人(ダゴン)の雰囲気を感じ取っていたのか、めちゃくちゃやる気満々だ。


(《降魔の突進》)


 聖騎士(ホーリーガード)さんが剣を掲げて、海面を滑るように突撃。


 絶対的な攻撃が城壁のように巨大な怪物を貫き――片足が綺麗に切り落とされた。


「オ、オオオオオオンンンンッッッッッ」


 絶叫とともに倒れ伏す超巨大半魚人(ダゴン)

 同時に、とんでもない大波が発生する。


「エクス、《踊る水》全開で!」

受諾(アクセプト)!」


 突如発生した津波を石500個の力でなんとか反らしたが……やべぇ。とんだ怪獣大決戦だ。


(――最後までお供できず、無念です)


 聖騎士(ホーリーガード)さんは、刃の欠片に戻っていった。


 本当に無念なんだろうが、充分やってくれた。


 超巨大半魚人(ダゴン)は未だ立ち上がれず、血は流れたまま。とんでもない量の青い血が流れ、海がより一層濃くなっていく。


「クハッ、クハハハハハッ! さすがだ、さすがだぜミナギィィィッッ!」

「お前を喜ばせるためにやってるわけじゃねえよ、ヴェインクラル!」

「オレも、やらせてもらうぜ!」


 気合いもテンションも充分過ぎるヴェインクラルが、水飛沫を上げた。

 足を切られた仲間へと近寄っていく、もう一体の超巨大半魚人(ダゴン)へと海上を走って行き……。


「やあぁっって、やるぜぇっっ!」


 超巨大半魚人(ダゴン)の体を蹴って顔の高さまで飛ぶと――。


「はぁ?」


 ――自ら、口の中へ飛び込んでいった。


 はあぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁ????????


「……一体なにを?」

「まさか、体内から殺しにいくつもりか?」


 馬鹿げている。

 あまりにも馬鹿げている。


 だが、考えれば考えるほど正解としか思えなかった。


 ……バカなの? 死ぬの? いや、死んでいいんだけど!


「一寸法師メソッドですね……」


 あまりの非常識さに、本條さんも変な用語を開発してしまった。

 あいつといると、こっちの知能が下がる気がする。


「ちょうどいい足場ができて助かったわ」

「カイラさん!」


 戦場に生まれた空隙を縫って、きらきらカイラさんが海中から空中へ飛び出した。《水域の自由者》を活かして、海底を進んでいたらしい。


「死ぬまで殺してみましょう」


 物騒なことを言いながら三本になったカラドゥアスを両手とマフラーで構え、浮島になった超巨大半魚人(ダゴン)の背に飛び乗った。


 初めて遭遇したときは、「生物である以上、斬れば死ぬわよね?」と言っていたカイラさんだが……内容はほぼ一緒だ。


 違いはと言えば、あのときは逃げを打てたけど今はその手は取れないということ。


「我慢比べの始まりよ」


 カイラさんの開始宣言と同時に、ルーンで光の刃を形成。

 超巨大半魚人(ダゴン)の背を疾駆しながら、当たるを幸い鱗と肉を削っていく。


 青い血煙がカイラさんの移動経路に立ち上った。


「カイラさんをサポートしたほうが、いいかもしれません」

「なにかいい呪文が?」

「この子が教えてくれます」


 背後から伝わる、本條さんが魔道書を構えた気配。

 そして、自信。


「地・風・火を五単位。加えて、光を二単位。理によって配合し、肉体と魂を覚醒す――かくあれかし」


 きらきらが解除され、本條さんのバフがカイラさんに乗った。


 エンハンスポーションに加えて本條さんのフィジカルエンチャント的な魔法を受けて、カイラさんが倍速で動き出す。

 立ち上がりつつある超巨大半魚人(ダゴン)の背中も、今のカイラさんにとってはアスレチック程度のもの。


 青い血煙の量はさらに増し、痛みに超巨大半魚人(ダゴン)が身をよじる。


「オーナー、出番ですよ!」

「勇者の祝福のことだろうけど、こっから声届かないだろ」

「そのためのテレパシーですよ!」


 それだ!

 リディアさん、マジでマンオブザマッチなんじゃ?


(カイラさん、信じてる)

(……!? ――――??!!??!!??)


 伝わる、混乱の気配。


「え? なんか変なこと言った?」


 しかし、俺の狼狽をあざ笑うように青い血煙の量は天元突破。

 というか、超巨大半魚人(ダゴン)ちょっと細くなってない?


 これならいける。


 そう思った瞬間、海面からいくつもの陰が飛び出した。


 あれがウェイブシャーク!?


 マークスさんが言っていた、集団で海面を十数メートル跳躍し、人も貨物も船体も関係なく飲み込んで、また海へと去っていく。獰猛で問答無用なモンスター。


 もしかして超巨大半魚人(ダゴン)の血に惹かれて集まったのか?


(カイラさん! サメが!)


 他に言いようがあったはずだが、そうとしか言えない。


 視界には、船すら蹂躙するサメが、巨大な口を開けてカイラさんへと襲いかかっていく光景が広がっていた。

海と言えばサメ。古事記にも書いてある。

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