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二話 再出発

翌日。紅葉にはあんなことを言われてしまったが、正直やる理由はない・・・はずだった。放課後になって帰ろうとしてるが、カバンを思いっきり引っ張られる。小さくて見えないが、その正体は紅葉だ。


「何帰ろうとしてるのよ、新入部員」


入るではないサポートとは言ったが、だが、されるがまま彼女らの部室に向かう。


「・・・いないか」


「・・・うん」


あの二人が来ないことは察していた。それは昨日二人で病院から帰っているときのことだった。









「・・・初秋とは言えもう寒いわね」


辺りは夕暮れであと30分もたてば暗くなるであろう時間帯だ。一か月前までは夏だったにもかかわらず、ここまで冷えるとは思わなかった。


「そうだな・・・んで、四季少女はどうするんです?」


「え?入るでしょ?」


「そう言うのじゃなくて・・・解散なんて言ってたけど」


病室ではリーダーである桜ノ宮春風が喉頭癌と診断されてしまい、生きて行くためには声帯を取らなければならない状態になってしまった。そこでメンバーに解散と言い放った彼女・・・


「絶対にさせない・・・あの子が返ってくるまでは絶対に・・・」


険しい表情、何かを決心した表情でそう言い放った彼女は言った。


「まぁ、三人で頑張れよ。俺も応援はしてます」


「・・・・・・」


「秋雨さん?」


「うん。ありがとう・・・ねぇ、暇?」


「まぁ、暇ですけど・・・」


「たまーに敬語になるよね。同級生よ!!そう!!たとえ身長が30㎝差があったとしても!!」


少々怒りを買ってしまったようだ。やはり、と言ってしまえば失礼なのだがコンプレックスなのだろう。だが、この子はこの地域ではそれなりの有名人と言っても過言ではない。四季少女は学校ではもう芸能人並みだ。


「・・・すみません」


「じゃあ、詫びとしてついてきて」


そう言って、彼女と歩くペースを合わせて並んで向かった場所はとある一軒家。


「ん。あがって」


「・・・は?」


なんとなくついてきてしまったが、ついた場所は秋雨家。・・・なぜ?


「いや、いきなり女性の家に入るのは・・・」


「別に気にしないし、それよりもケーキ処理すんの手伝って、賞味期限今日までだから」


急に家に連れ込まれたりしたら誰だって困惑する。だが、彼女はあまり・・・というかまるで意識していないようだ。そして、そのまま彼女の部屋まで案内される。


「コーヒーか紅茶・・・どっちがいい」


「じゃあ、コーヒーで・・・」


そう言って紅葉はその作業に入り、部屋を出て行く。一人同級生の女子の部屋に残された状況は少し気恥ずかしい。なんとなく周りをきょろきょろと見渡すと、どでかい本棚には女子高生らしく音楽雑誌やファッション雑誌など、よくある光景だ。なんとなく一つの雑誌を手に取り、表紙を見た瞬間、少し、嫌なことを思い出してしまった。


「(・・・あったな、こんな時代)」


中学校のオーケストラ特集のページがあるこの雑誌。これはあまり触れたくない過去ではある。そして、それを元のところに戻し、少ししたら紅葉が戻ってきた。


「おまたせ」


「ああ。ありがとう」


そう言って彼女が持ってきたのはコーヒーと紅茶。そしてお土産として買ってきてたショートケーキ5つもある。


「晩飯前に・・・」


「いただきまーす」


晩飯前にケーキ、しかも全部処理をしなければならないということは最低でも二個は食べないといけない。ヘビーだが横ではもう食べ始めていたので、一口いただく。


「・・・うっま」


濃厚生クリームにふわふわスポンジで非常に美味だ。若干濃いめの味付けになっていて、甘いものが好きな人にはたまらない。


「ごひふぉうふぁま」


守屋は一口目だが、紅葉は口周りをクリームまみれにしなが一つ目を完食していた。こう見ると・・・見た目相応というか・・・子供っぽい。


「・・・なに?」


「いや・・・良い食いっぷりだなと」


「そう?これ美味しいからね」


本当にうまい。久しぶりにもう一回食べたいケーキ屋に出会え、たまには買って帰ろうかとも思えるものだったのですぐに食べた紅葉の気持ちもわかる。その後はお互い無言で食べていたのだが、守屋はケーキを一つしか食べず、残りの四つは紅葉が食べつくした。


「ごちそうさまでした」


「(もう一個は食いたかった・・・)」


晩御飯前だからあまり気は進まなかったが、もう一個食べたいくらいの美味だった。


「さて、本題なんだけど」


ケーキを片づけ終え守屋は帰る準備をしていたが、どうやらまだ帰さないらしい。


「・・・なんだよ?」


「実は・・・このメール見て」


紅葉のスマートフォンから送られてきたSNSの相手は夏目花火同じ四季少女のメンバーの一人だ。



ーーーーーー


春風のお母さんから話はもう聞いた。癌で声帯取らないと死んじゃうんだってね。

あの子が解散って言った理由がわかってモヤモヤが少し晴れた。

そこでお願い。

大学の姉の軽音サークルの練習に加わって練習しない?そこで新しい人を見つける。どう?

冬子は考え中、紅葉はどうする?


ーーーーーーー


「秋雨さん的にはどう・・・」


「絶対にヤダ。私は四季少女を解散させない・・・でも、花火の気持ちもわかる」


彼女が壁を背に座り込む。彼女は悩んでいるのだ。今の環境を壊したくない紅葉。現状を受け止め立ち止まっていないで次に進む花火。どちらもそれ相応に理由がある。


「・・・自分のやりたいことをすればいいじゃん・・・やんないで後悔するのが一番ダメだろ」


「え?」


「やれることやって、それで後悔なくやればいいんじゃないか?結果はまた別問題だが・・・」


「・・・あなたはどう考えてるの?」


守屋自身。四季少女のメンバーでもない自分はどう考えるか。一のファン。いやそういうわけでもない作詞作曲を彼女らのためにした。いや、それじゃない。メンバーじゃない。ただ一人のため、あの少女がまた演奏している姿が見たい。歌っている彼女が見たい。


「・・・あいつが好きだ」


「じゃあ・・・協力して!」


そう言って紅葉は手を伸ばし握手を求めるのでそれに応じた。












その協力が四季少女の復活のためのサポートのため軽音楽部に入った。立ち位置的にはマネージャーになるのだろうが、とりあえず仮入部ということになった。ちなみに他にメンバーはいない。部活ではあるが春風が作った身内のみの部活らしい。


「さて、とりあえずサポートっていっても何やるんだよ?」


四季少女をどうにかして春風の帰る場所を作るためだが、正直何をすれば良いのか・・・だが、次のことはもう決まっているらしい。


「えっと、秋祭りのゲスト呼ばれてる」


「・・・はぁ!?」


秋祭りとは高校の近所で行われる祭りである。そこでこの地域の学校がパフォーマンスを行う。うちの高校では四季少女が出る予定なのだが・・・現状一人。しかもベーシスト一人。


「・・・どうすんだ?」


「え?出るわよ?」


メジャーではないがベースソロを行うらしい。出演者本人はあまり慌てていない様子で図太い。いや、怖いもの知らずといった感じだ。


「歌うのか?」


「うん。やってみる」


そう言うので一曲歌わせてみたのだが、普通。カラオケでちょっとうまいかなレベル。春風と比べてしまっている自分もいるが、それぬきでも平凡だ。さらにこれが弾きかたりになると歌唱力はさらに落ちるだろう。


「・・・・・・」


「・・・平凡ね」


だが、彼女自身も現状を把握しているようだ。もともと無理難題をやらせてそれをこなそうと頑張っているのだが、結果がついてくるかはまた別の話だ。


「じゃあ、やるか」


始めたのは発声練習部室にあった基礎本を始める。まずはロングトーン。四拍子に声を発音すること。メトロノームをセットしてテンポを合わせるなど、基礎練習は行うが春風ほどの歌唱力を今更どうにもならないことは二人も重々承知だ。だが、やれることはやる。彼女は基礎練習を続けて、守屋はやることも特になく、部室を漁ることにした。


「・・・あ」


そして見つけたのはファイル。いままでで四季少女が演奏してきた楽譜だ。その最後のページにあの曲があった。


「・・・・・・」


原本の守屋自身が書いた曲。その続きを春風が書いてくれた歌詞を読んでいく。


「ああ、その曲ね。良いよねそれ」


「うわ!?」


「何驚いてるのよ?・・・なんか拾った曲なんだって」


自分が書いたことを黙っててほしいとは言ったが、もう少し良い誤魔化し方もあったのではないかと思う。

その拾った曲を使って続きを書いたのか・・・


「え?じゃあ。学園フェスは?」


「天からの授かりものらしい」


「・・・あっそ」


守屋が書いたこと知られていないのならそれでよかったのでまた部室を漁ろうとする。


「でも、この拾った曲って良い歌よね・・・私この歌大好き」


「・・・どうも」


「・・・ってあんたもなんかやりなさいよ!!」


「はいはい、わかりました」



急にお怒りになったので彼女の弾き語りの撮影や、ベース以外の音をPCで編集して流す。最近ではアプリでもそのようなことができるので音源がいらないのは助かる。



「はぁ・・・うまくいかないわね・・・」


何度も練習はしているが、弾き語りが一向に上達しない。どちらかに絞るべきだと思っているが、彼女はまだ諦めていない様なので見守ることにした。そしていつの間にか部活は終了の時間になった。


「ふぅ・・・春風は毎度のようにこれやってたのね」


「高校生であのレベルはあまりいないからな・・・それで秋祭りまであと一週間ぐらいだろ?どうすんだ?」


四季少女を期待しているお客さんは仕方ない理由があるとはいえがっかりするだろう。だが、現状をステージで演奏してみたい。


「うん。じゃあ、ライブやろっか」


「・・・マジかよ」


SNSのつぶやき機能で明日の昼休み秋雨紅葉の単独ライブを行う。簡単な文章を送ったら多くのDMが返された。


「じゃあ、明日もよろしく」













そして翌日、HR前に部室に呼び出され最終確認を行う。PCに入れた音の確認と曲を通しで演奏してみる。部活後も練習していたのか上達はしているがまだ完璧に弾き切れていないし歌もまだまだだ。一日ちょっとで弾き語りができるなんて言うのも無理な話だ。だが、それを彼女本人がやると決めライブの告知までしてしまったのでもう後戻りはできない。


「この程度か・・・」


「一日しかたってないし、その割には十分できている」


「でも!・・・ううん、何でもない。いこ」


教室に戻るライブの話題でクラスは盛り上がっていた。紅葉はそれには目もくれず、楽譜に目を向けてエアで練習をしていた。それに集中しているので周りの声届かずその後の授業中も見ていたが、ずっとそれに集中していた。




そして昼休み、とっておいた体育館にはそれなりには集まったが、文化祭ほどの人数には程遠く、正直四季少女としては少数という感じだった。


「ふー・・・意外と緊張するわね」


「なんだよ意外とって」


ステージの裏で準備をしていた二人先ほどPCのテストもして音源は完璧だった。後はそこに紅葉の演奏を乗っけて、メロディーを歌うだけ。


「じゃあ、行くね・・・」


「・・・ああ」


緊張の表情のままステージに上がる。何かリラックスさせる声でもかけるべきだったのだろうが、何も思い浮かばなかった。




そしてステージ、簡単なセッティングのステージに立った彼女をステージ裏から見守っているだけなのだが、こっちも緊張してきた。そして、彼女の掛け声とともに音源を流し始め、彼女のパートに入る。


メロディー前の前奏はほぼ完ぺきだ。さすがは四季少女のベーシスト。しかし、メロディーに入ったとたん。


「・・・だよな」


音源とかみ合わなくなったベース。歌声も声が小さくて聞こえない。音程も滅茶苦茶。これを見たギャラリーも不安の声が上がる。


紅葉の表情も不安と苛立ちを隠せない様な顔になってしまう。これ以上続けても自分を苦しめるだけだった。何とか歌いきった・・・いや、歌いきったというよりは苦痛の時間が終わり、紅葉はステージ裏で、膝を抱えたまま顔をあげなかった。そこで昼休み終了のチャイムが鳴り響くが、守屋は動く気配がない彼女の横に座ることにした






「あの・・・さ・・・」


「なんだ?」


ようやく声をあげたが、とても弱弱しい声だった。朝の彼女とは思えないものだ。


「・・・ごめん」


「別に、謝られるようなことはされてない」


「無謀だった。それに付き合わせた・・・でも!!春風みたいにできるって思ってた!!・・・あの時みたいに・・・」


「ああ・・・」



紅葉のいうあの時とは学校全体で有名に話だ。桜ノ宮春風が行った伝説のゲリラライブ。



まだ、四季少女というものが存在してなかったころの昼休み入学してから一か月が立ち部活の加入者が入部するころの時期だ。当時、軽音楽部は存在せず作るには最低四人部員が必要だった。


「ねぇ春風ちゃんは何の部活にするの?」


教室で盛り上がり、クラスの中心にいる桜ノ宮春風。そんな彼女を教室の端からよく目に入っていたのが人付き合いが少々苦手な秋雨紅葉だ。



「うん。軽音楽部作るんだ~」


この会話を聞いていたほとんどがそれはないだろうと思った。


「えー、春風ちゃんはもっと自分にあったことしなよー、お料理部とか?」


「うん。桜ノ宮さんっていつもボーっとしてぽやぽやーってしてるからイメージないなー」


「え~じゃあさ!明日ギター持ってくるから!演奏するね!」






そして、翌日。


「じゃーん!我が相棒の・・・名前はないけど」


本当に持ってきた。そして、教室内でアンプをつなぎ始め準備万端といった感じだ。フフンと鼻を鳴らし。


「さぁさぁ、何かリクエストはあるかね?」


語尾が偉そうになっている・・・のは置いておき、一人の女生徒がカバンからCDを取り出した。


「じゃあ、このバンドの最新曲!」


そのグループはロックバンドの有名グループだ。


「はは、似合わねーWW」


「うんオッケー!」


「え?」



談笑する教室で急に鳴り響くエレキギターの音。教室中の目線がすべて春風に行きそれを確認した彼女はまた弾き始める。


「♪~」


その最新曲のサビを演奏し始めると、教室がわきだす。


「これって新曲のやつ!?」


「今度公開の映画の主題歌だよね?」


人気曲なので周りからの反応も上々だ。さらには隣のクラスからも見物客ができてしまった。徐々に人が集まってきて、一年生の教室を舞台に使ったライブ会場を完成させてしまった。


「・・・すごい」


その陰から見ていた紅葉もいつの間にかライブのギャラリーとして見惚れていた。そして自分もこれを体験したいと思った。









「でも、私は春風のようにはいかなかった・・・」


紅葉にとって彼女は特別だ。人生に影響を及ぼした人物なのだろう。


「・・・今日放課後暇か?」


「うん・・・」


「うち来い」


お互い春風に影響を受けた人物として紅葉に最善の手助けをしようと思った。

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