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一話 終わりと始まり

夏の暑さが抜けて過ごしやすい気温になった頃初秋。桜花高校では文化祭真っ只中だ。運動部による屋台や文化部の練習してきたパフォーマンス。学校一美女を決めるミスコン等々高校らしい活気溢れる文化祭だ。


「フンフフーン…あー、なんかしっくり来ない」


そんな盛り上がりの中、一人屋上のベンチで白紙の譜面に色々書き込んでいる一人の高校二年生の男子生徒守屋音羽。彼の趣味は作詞作曲をで暇があればよく作詞作曲を行っている。


「前回は18位だし、今度はtop10にはいきたいよなー」


彼は自作の曲を投稿できるサイトでtop20を毎月取っている。彼は学校ではあまり目立つ方でもないのでこの素顔を知っているものは・・・ただ一人。


「お~い、もりもり~」


その素顔を知っているクラスメイトの女生徒が相変わらず満面の笑みで近づいて来る。


「今日のステージ見に来てくれるんでしょ?」


「まぁな、と言うか曲作ってって言われた時変な汗出たんだからな・・・あと、出来も気になる」


その作曲を彼女に買われたのか文化祭での曲を作ってほしいといわれた。


「でも、初めて知ったときは驚いたな~もりもりってそんなイメージなかったもん」


「はいはい」


彼女の名前は桜ノ宮春風。軽音楽部のギター兼ボーカル担当。彼女の部活仲間で結成されたバンド名「四季少女」のリーダーだ。そんな彼女と出会ったのも丁度一年前だった。











「よっしゃ!自信作!」


今回は良い出来で満足行く曲だ。ちょっとかわいい感じになったのがあれだが、恋する乙女をショートケーキに例えた曲だ。


「帰って、編集して音入れて、投稿して、今回はボーカロイドもいれてみよっかなー」


ご機嫌なのか鼻唄を歌いながら屋上を出ようとすると突如扉が開く。


「わ、ごめんね守屋く…ん?なにそれ?」


たまたま表を見せていた楽譜をジーっと見る少女。これがきっかけだった。


「わ。手書き…見せて!!」


許可を出す前に出来立ての楽譜を盗まれ、それを取り返そうとするが素早くかわされるが、目線は楽譜だ。


「こ・い・の・ショートケーキの私は~君の好みになり~たい~。でも、き・み・の好みはビターな感じの大人っぽい味~・・・よし!」


歌詞を読み上げて歌い出したが、とりあえず、楽譜を返してもらうようにいうが、彼女はそれを持ったまま屋上を出ていった。


「ちょ!?それ持ってくな!」


だが言うことは聞かずに彼女は歌詞を読み上げながらある場所に入った。


「軽音楽部…部室か」


その瞬間、中からキーボードの音が聞こえ、弾き語る。


「♪~」


「……」


中に入った守屋だが、止めようとはせず、彼女の弾き語る姿を見つめていた。透き通った声による歌唱力と跳ねるようにポップにキュートな感じ。彼女のことを知らないのに彼女らしいと思ってしまった。


「ふぅ…」


一曲を終えて、こちらを見る。


「すごいよ守屋君!いや、もりもり!」


「いや、って…いいよ、それやるから、これ書いたの内緒にしてな」


守屋にとって自分がこういった趣味を回りに知られたくなかった。なので今回の自信作は諦め、とりあえず口止めとして気に入ってくれた曲を桜ノ宮に渡すことにした。


「ふぅ…また作るか」



屋上に戻り音楽のテーマを決める。さっきのは恋の歌だったので逆に失恋ソングにし、それを雪ダルマに例える。作ってくれた彼女に届かない雪だるまの気持ち…


「よし、悪くない」


そういって、ペンを走らせていく。作ってくれた積雪初日、もらった手足とアクセサリー…感謝の気持ちを伝えようにも伝えられず、いずれ溶けていく運命。それでも、君は僕を覚えてくれているだろうか?このちっぽけな存在を…


「うーん」


最終的に彼女は覚えているのだろうか?そっちの方がロマンチックでいいのはわかるが、自分が作った雪だるまを溶けてから心に残り続けてるって言うのはないよな…


「じゃあさ、来年の雪が降ったときふと思い出すって言うのはどう?去年そういえば必死に作ったな~って」


「なるほど、そうすれば後味悪くない感じで終わるし、雪だるまも報われる…って!?」


「えへへー、来ちゃった♪」


先ほど、恋のショートケーキの楽譜を渡した桜ノ宮春風がいつのまにかそばに来ていて楽譜を除き込んではアドバイスまでしてきた。


「すごいねー。音入れしなくてもある程度の作曲は出来ちゃうんだね!」


本来ならば、音を入れたあと他の楽器とのハーモニーが合うか等の確認作業を行いながらやるのが普通なのだが、守屋は音楽一家ということもあり音と共に生きてきたのである程度の音が想像で出来てしまう。


「っても、これは作詞で、音はまだ…って、何のようだよ?」


「あ、うん。これなんだけど使うかなって?」


そう言って彼女が渡してきたのは詩集だ。付箋なども張ってあり使い込まれているのがわかる。


「私が使ってる詩集なんだけど・・・どう?」












これが彼女との初めての出会い。その後は休み時間中にあったり、昼休みも彼女の自主練がなければ屋上で会うようになっていた。また音羽も日に日に春風と話す時間が悪くない。寧ろ心地よいと思ってしまっている。


「じゃあ15時から体育館だからね!!ハイ!もりもりのチケット!!」


そういって渡されたのは最前列のチケット。特等席だ。四季少女のコンサートと言ったら他校からも来るほどの人気っぷりだが、こんな開演ぎりぎりで良い席があるとは思っていなかった。


「いいのか?こんないいもの?」


「うん。もりもりには・・・一番近くで見てほしい・・・かな」


そう言って恥ずかしそうにしている彼女のチケットをもらう。


「ケッホ・・・ん・・・」


「風邪か?」


「ちょっとのど痛くて・・・でもステージには問題ないと思う」


「・・・そうか。わかった。後で行く」


「うん!!じゃあ後でね!!」


そういって、春風ランランと鼻歌を歌いながら屋上を出て行った。


「はぁ・・・」


やはり彼女との時間は楽しい。もっと過ごしたかったが、彼女はこの学校ではアイドルの様なものだ。そしてチケットをよく確認する。


「・・・はぁ!?」


チケットには演奏する曲名も記載されている。四季少女の演目はコピーが一つ。自分が四季少女用に書いた曲「学園フェス」お祭り騒ぎの曲で春風がタオルを振り回すパフォーマンスも行う。だが、問題はもう一曲


「なんでこれ・・・」


これは無くしたものだと思っていた。なんとなく作って途中で恥ずかしくなってやめた未完成の曲。その曲名は・・・春風











春風に頼まれた曲作りを自宅で行っていたころ。学園フェスを作っているときに行き詰った時に思いついた。


「学祭の主役は君自身・・・」


言葉を繋げてみるがいまいちしっくりこない。パーティ系の曲はあまり作ったことないのもあって行き詰ってしまった。


「春風・・・」


何を思ったのか彼女を歌にしてみようと思った。


何気ない日常の中で一つの風が吹き始めた。それは可愛らしくて、ずっと見ていたくなる様なもの。高嶺の花のそれを眺めるだけでよかった。でも近づいてきてくれる君に勘違いをしてしまいそうだよ。君は月で僕はスッポン身の程も理解してるはずなんだけど、君のそばにいたい。

君との時間が当たり前になってずっと続けばいいと思っていて、でもそれは君にとっては何もない日常の一部なのかな?君が向ける笑顔は僕だけじゃなくて、いろんな人に向ける笑顔だから特別なものを持っていないだろう・・・でも少しだけ期待をしてもいいのだろうか・・・いや、やめておこう。


「・・・・・・」


するすると書けてしまった。ポエムの様な感じになり、恥ずかしくなった。


「・・・バーカ」


この歌詞のように期待は止めよう。今のままで十分楽しい。なので、音羽は学園フェスの作業に戻った。そして翌朝、そのまま机で寝落ちをしてしまい急いで完成した曲と一緒にクリアファイルに詰めた結果入ってしまったのだろう。




「マジかよ・・・」


チケットを見てもやはりその曲は演奏されるようだ、しかもトリ。正直逃げたい気持ちでいっぱいだが、約束をしてしまい、できれば未完成の曲を回収できるかもしれない。そう思い、体育館へ向かった。












体育館は現在人でぎゅうぎゅうになっている。それほど人気のバンドなのだと改めて思い、文化祭実行委員が受付を行っているのでチケットを渡し、パンフレットとペンライトをもらう。その席へ行く。本当に真ん前の席を用意してくれたので、体育館の二階までもが満員となっている状況、ファンクラブなどが気合を入れているのか鉢巻などを巻いて準備をしている。


そして体育館の電気が落ちついに始まる。暖簾があがり、衣装を身に纏った四人の少女たち。そしてドラムのスティックで三拍子リズムを取り、始まる。


一曲目はコピーバンドで行う。彼女たちのルックスもあるのだが、バンドのレベルも高い。正直プロでもやっていけるのではないか?と思うレベルでもある。ただ、学生の文化祭レベルではないことは誰でもわかる。そして曲が終わり、春風がマイクを取り。


「みんな!!こんにちわぁあ!!!」


うおぉおおおおお!!!!!


全員ガ興奮しているので雄たけびのようになり、ペンライトを振っている。会場が彼女たちに注目しているのがわかる。ひとまず、周りに合わせてペンライトを振る。


「じゃあ、メンバー紹介!!キーボード雪野冬子!!」


そう言ってスポットライトを浴びたのは大人っぽい背の高い女性。腰まである黒髪を揺らし、パフォーマンスを行いまた会場の熱気が上がる。


「続いて!!ベーシストの秋雨紅葉!!」


続いてスポットライトを浴びたのは雪野と比べなくても小さいことがわかる小柄のベーシスト。全体的の幼いが、ベースを弾く彼女は誰よりも大人っぽく見えた。


「さてさて!!お次はドラム!!夏目花火!!」


ポニーテールを大きく乱し、ダダダダダダダダダッと叩くのは・・・


「しゃああ!!花火ちゃんだ!!!!」


元気があり余っているであろう彼女は春風からマイクを奪い、ドラムがマイクパフォ-マンスを行っている。そしてそのまま、


「最後に我らがリーダー!!ボーカル兼ギターの・・・桜宮はるかじぇ!!」


思いっきり噛んでしまっているがマイクを渡し、おくじょうで会っているときとは違う彼女の姿。正直魅力的だ。


「さて!じゃあ、自己紹介も終わったし二曲目いこっか!」


そう言って彼女たちは元の立ち位置に戻り。それぞれ楽器を構える。


「ワンツー!!」


春風の掛け声とともに始まったドラムの連打。そしてそれぞれ音が入り始めた。アップテンポなこの曲を完ぺきにこなしているのは流石だ。大きく動くこの曲、そして一番感心したのはベーシスト。正直ベースの支えが成立しないと成り立たない曲だ。高音がメインというよりはベースのスラップで格好いい音を響かせるように作った。そして秋雨さんはそれをすべて完璧にやり切っている。小さい彼女でベース自体難しいはずだが、彼女の才能と努力がわかる。







「やっぱ音楽って良いな・・・」


自分が作った曲をこんなハイレベルの人たちが演奏してくれるのはこの上なくうれしい。昔音楽を諦めた自分がここまで戻ってこれるとは思ってみなかった。そんなことを考えると学園フェスは終わり最後の曲


「・・・あ」


そう言えば回収したかったこの曲を忘れ完全にライブを楽しんでしまっていた。ただ、未完成の曲、二番は未記入なのだが、どうなのだろう。


「えっと、これが三曲目最後の曲です!!」


客席からはえー!!と残念そうな声が聞こえる。確かにまだ終わってほしくない。アンコール破必ず起こるだろうが、今回は文化祭、時間が限られてしまっているので難しいだろう。


「この曲は・・・その・・・」


マイクのパフォーマンスの彼女だが、目の前の自分と目があった。


「私の気持ちを・・・表した曲です・・・」


始まった。キーボードの彼女がゆっくりと引き始め、音が入っていく。


そして歌い始める。最初は自分がなんとなく書いてしまったあの菓子を彼女が歌っている。正直この場から立ち去りたいくらい恥ずかしいが、彼女の真剣な表情を見ないわけにはいかなかった。そして歌い終わったかと思えば、二番が始まった・・・


毎日楽しい日常で・・・出会いがありました。高嶺の花は見てくれていることを知ってうれしくて、飛び跳ねた。表情の読めない君に迷惑じゃないかって考えたけど、でも君の隣にいることが何より心地いい私の特等席・・・

君との時間が当たり前になってずっと続けばいいと思っていて、隣にいるときはすごい緊張で、どうにか相手にしてもらいたいって考えてる。君に向けている笑顔は自然にできているのかな?違和感と感じてないかな?少しは意識してくれてるのかな・・・まだなのかな・・・


彼女の気持ち、仮にこれが彼女の答えだとしたら・・・


だが、次の瞬間・・・


「・・・・・・」


伴奏は続いているにもかかわらず、春風が歌うのをやめた、周りのメンバーも何か察したのか表情に出てしまっている。何かあったのか?


「も・・り・・・・・す・・・」


バタンッ!!


マイクのハウリングとともに春風は前のめりに倒れてしまった。会場はざわつき始め、メンバーも彼女を起こし名前を呼ぶが返事をしない。


「春風!!どうしたの!?」


「くっそ!!」


見ていられなくなった守屋もステージに上がり彼女の容体を見る、医療については何も知らないがとりあえず大声で名前を呼ぶ。


「桜ノ宮!!・・・早く幕降ろせ!!」


「は、はい!!」


ステージの裏もテンパっており、とりあえず、さらしていい状況じゃないので幕を下ろさせ照明も消した、そして、アナウンスで少し待つようにいい、裏で彼女の容体を見る。


「はぁ・・・」


とりあえず、落ち着いた現場だが、守屋がまだここにいるのはまずいと思い、ステージ裏から出ようとする。


「ありがとう・・・場をまとめてくれて・・・」


そう言ったのはベースの秋雨紅葉だった。彼女も落ち着かない様子だが、周りが見えている。先生が救急車を呼び、春風は運ばれ、四季少女と先生はそのまま病院へ向かった。



その後会場は流れ解散となった。心配をする声が上がる。そう、彼女はこの学校の人気者だ。ここまで心配してくれているので早く帰ってきてほしい。それは守屋も同じ気持ちだ。



そして、文化祭が終わってから十日後・・・


「はぁ・・・」


昼休みいつものように屋上に入るが彼女はいない。聞いた話だが、入院をしているらしい。病気なのかどうかはまだ知られていない。だが、まだ入院をしているということは重い病気なのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんで最近は趣味にも目を向けていない。


「・・・・・・」


考えてみれば春風がいたから作曲がどんどん面白くなっていた。作って満足だったが、それを実際に演奏してくれたり、意見を言ってくれた彼女はまだ、帰ってこない。


「・・・戻るか」


昼休みももう終わるので教室に戻ろうとしたが、出入り口の扉である人物が待っていた。


「守屋君・・・であってる?」


「・・・はい」


そこで待っていたのは四季少女メンバー夏目花火だ。真剣な表情としていたが、自分を守屋認識したところで


「しゃあ!合ってた!でね、今日の放課後なんだけど暇人?」


「ええ、大丈夫ですけど・・・」


「ちょっとお話したいんだよね~我ら四季少女がお相手仕る!!」


「はぁ・・・?」


テンション高めで花火ワールド全開であろうこの状況・・・正直守屋には合わない。


「じゃあ、放課後に行くね。紅葉が同じクラスだから、声かけてもらうように言っておくから!」


「わかりました」


あまりクラスメイトと話さない守屋は今初めて紅葉と同じクラスなのだと知った。いったんその場は解散となり、放課後になる。


「お待たせ、行くわよ」


「はい」


帰りのHRが終わり、紅葉が守屋の席に向かい先ほどの要件についてだが・・・周りの反応が刺さる。


あまり教室では無言であまりかかわりのない二人がなぜか話しかける。しかも、相手は学園の有名人。珍しい組み合わせとなった。


「悪いわね、時間とらせて」


そういって二人で並んで玄関に向かうが、身長の差がすごい140㎝ぐらいだろうか?身長だけでなく、手も小さい。そんな彼女がベースを弾いているのがまだ信じられない。


「あ、すみません」


そして歩幅も小さくなっているので合わせようとするが、逆に紅葉が速足で合わせてきた。


「別に、小さい私が悪いからいいわ。それよりも敬語が気になる。私は先輩でもないし同学年よ」


そう言われるが、多少ペースは落とし足並みをそろえて行くことにした。見た目は子供なのに中身はしっかりとした大人で勝気な性格なのだろう。その後は特に何も話さず玄関に行くと二人が待っていた。


「ふっはっは!!遅かったな!!」


夏目花火がテンション高めでそして若干魔王風で待っていた。そして、その後ろに雪野冬子が・・・睨んでる?


「・・・・・・」


そして無言。


「ああ、この子って実は人見知りって言うか恥ずかしがり屋さんだから気にしないで」


正直、そっちはあまり気にしてはいないが・・・やはり周りが気になる。ものすごく場違い感が出てしまっているが、三人は気にせずに話をつづける。


「じゃあ、行こっか!!」


行こっか!!といわれてもなぜ呼ばれたかがまずわかっていな。どこに行くのか聞きたいのだが、三人はスタスタと先を歩いてしまった。


「ついて行けばいいのか?」


彼女たちから二メートルくらい離れたところでついて行ってみる。端から見たらストーカーのようになってしまっているので周りを気にしながらついて行った。


訪れたのは・・・個人経営のケーキ屋だった。エプロンに三角巾をしたやさしそうな女性が出迎えてくれた。


「おかえり冬子・・・え!?」


「あ、ただい・・・」


「冬子ちゃんが男連れてきた!?!?」


驚いた表情で守屋を指さし、雪乃は顔を隠してしまっている状況だ。


「お世話になってます。すみません、ショートケーキ5つください」


「はい!それでそこの男の子は誰のものなのかな~?」


「いえ、別に・・・」


今日初めて話しました。というのもおかしな話なので中途半端に答えてしまった。女性は微笑みショウケースに入っている当店おすすめのショートケーキを・・・5つ?


「あの子、好きだもんね・・・」


紅葉がそう呟き、守屋もある程度察した。お会計をし、守屋が料金を払おうとしたが、今日は無理矢理連れてきたからおごらさせてとのことだった。


そして店を出て、ここから20分ほど歩いたところに目的地に到着した。そこは病院だ。


4人が入り、目的の場所に到着し扉を開ける。



「・・・・・・」


そこには春風の姿があった。ひどく落ち込んでいる様子だった。普段話している彼女とは思えない様子だった。食べてないのか若干痩せていて、顔色も悪い。だ


「・・・!!」


守屋の顔を見た途端若干表情に変化が見えたが、本のい俊でまた元の落ち込んだ状態になってしまった。


「ほら、冬子のケーキ屋のやつ。買ってきたから一緒に食べよう」


聞いた話によると、春風はこのショートケーキが大好物らしく部活帰りや、何かイベントが終わるごとに食べているほどの好物だ。


「それで?大丈夫なの?」


花火がそう聞いた瞬間だった。彼女の表情はより暗くなったかと思えば、鳴きだす。


「・・・だった」


「へ?」


「癌・・・だった」


子の病室で静寂が流れる。彼女は今、癌といった。医療知識などないが、死んでしまうのではないかと不安にさせる。だが、春風の次の言葉に少し救われた。


「・・・一応、治せるらしい」


「・・・そっか!じゃあ、四季少女は休業だね!春風がいないのなら四季少女じゃなくて三季少女だし」


この場に居る全員が安心した。春風の癌は治る。進んだ医学に感謝した。彼女はここで終わる人間ではない。病室内だが、にぎやかに騒いでしまっている。


「止めろ!!!!」


荒々しく叫んだのはベットのいる春風だ。正直彼女が先ほどから少しおかしいのはあったが、なぜか、怒りを覚えさせてしまった。


「もう・・・ダメなの・・・私は・・・」


そう言ったあと、彼女はとんでもない一言を言い放った。


「四季少女は・・・解散します」


「・・・え?」


「ちょっと・・・春風?」


「・・・もういいよ、紅葉、冬子、守屋君・・・今日は帰ろう」


皆が驚きを隠せない中一人冷静・・・いや、彼女も怒りを抑えに抑えている状態だ、少しふれれば爆発してしまいそうな状態。だが、その気持ちもわかる。今までともにやってきた仲間だが、いきなり解散というのもおかしな話だ。


「・・・俺は残ってもいいか?」


「うん・・・ごめんね、無理に連れてきて変な感じになっちゃって・・・」


そう言って守屋を覗く三人は病室を出て行った。二人きりになってしまったが、話すこと・・・となった音楽のことだろう。だが・・・何かあるので慎重に行う。


「・・・ケーキ食うか?」


皆で食べる予定だったものだが、誰も手をつけなかったので5個余ってしまっている状態だ。


「・・・ううん、そう言うのはあまり食べないようにって・・・」


「それもそうか・・・」


「・・・ねぇ、もりもり、ごめんね」


「急に謝るなよ」


「曲・・・勝手に使って」


「いや・・・まぁ、気にすんな」


そのことなど守屋は許すも何も今となっては気にもとめてなかったが、彼女は反省しているようだ。


「ちゃんと皆には謝っておけよ・・・心配してたんだから。病気で焦って怒りをぶつけるのもしょうがないけど・・・解散なんて言っちゃ・・・」


「・・・本気だよ」


「え?」


「もう、ダメなの・・・私」


そう言って次の一言で彼女がここまで追い込まれているのがわかった。







「生きて行くためには・・・声を捨てないといけない」


診断の結果は喉頭癌。だが、まだ、切り離せば何とかなる状態なのだが、声帯を取らなければならないらしい。彼女から歌声を奪わなければ死んでしまう。


「だから、もりもりと話せるのもこれで最後。本当に感謝してる。もりもりに会えたから、私はすごく楽しんでた・・・でも」


彼女の音楽人生はこれで終わってしまった。それだけではない、彼女はこれから声を出せないという状態で人生を過ごすことになる。言い方が悪いが何もかも不利になってしまう。


「・・・俺も楽しかった。正直、春風が隣でほめてくれる。感想を言ってくれる。話し合える。それがスゲー嬉しかった・・・なぁ、聞いてくれないか?」


「・・・それはあの歌の答え?」


「・・・ああ」


ある程度察しているようだ。あのポエムを見られて、途中ではあるが、歌で彼女の気持ちも聞いた。


「ごめんねもりもり・・・私は・・・もう・・・」


だが、そんなにうんまくいかないことはわかっている。彼女もこんな状態で何をやってしまったのか。


「・・・あなたのそばにいると・・・辛い」


「そうか・・・」


正直フラれると思わなかった。・・・と考えた時点で自分の失礼さを感じた。こんなに苦しんでいる状態で自分の気持ちを伝えたところで結果は見えていただろうに。なんて自分勝手なのだろう。


「・・・帰るわ」


守屋はそう言って、この場を離れる。いや、離れたかった。自分のふがいなさ、彼女のことをまるで考えない自分自身に怒りを覚えた。お土産のケーキとともにそんな状態で扉を開けて外に出る。



「はぁ・・・」


「ため息ばかりついてると幸せ逃げるわよ」


目線を下に向けると紅葉だけがなぜか待っていた。小さい体を震わせている状態だ。


「入ってくればよかったのに・・・他の二人は?」


「帰った。それにあんたってアホね。何自分の告白現場に人入れようとしてるのよ」


見てたのか・・・あまり見られたくないものを見せてしまったらしいが、なぜ彼女は待っていたのか?


「とりあえず・・・」


そう言って紅葉は持っていたケーキを奪い取るようにもっていく。


「それと・・・守屋。お願いがあるの」


そう言って紅葉は言い放つ。


「四季少女に入って」


その人ことから守屋翔馬の音楽人生が変わり始めた。


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