第3部
でもとりあえず、ぼくはしばらくの間、のんびりすることにした。
ぼくは、のんびりすることを、ここ何年か忘れていた。銀行マンはのんびりすることなんてできっこない。そういう感覚が身についてしまっていたし、働き盛りの年齢だったので、のんびりしようという気も起きなかった。世間では、銀行マンはつまらない仕事の代表みたいに言われるけど、ぼくは性に合っていたようで、働きごたえのある職業だった。
そして毎日忙しく働いていたある日、ぼくは眩暈を起こして座り込んだ。それと同時にお腹が痛くなり、這ってトイレに入った。
びっくりしたけど、トイレから出てしばらく経つとウソのようになんでもなかった。ちょっとした疲れなんだろうと思い、ぼくはたいして気にしないですぐに仕事に戻った。
それから一ヶ月後、また同じ症状になった。そのときも気にしなかったけど、3日と空けずに眩暈を起こしたとき、さすがにこれはおかしいと思って病院に行った。
検査後に言われたのは、すでに末期で手の施しようがないということだった。ぼくは一言、
「あぁそうですか」
と言ったきり黙りこくった。他に言うことがなかったからだ。
それが、一年前の今日のことだった。