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ふるさと転生  作者: 勒野宇流
第1章 ふるさと
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第1部


 ぼくは今、病院のベッドで寝ていて、間もなく人生を終える。あと、たったの数分といったところじゃないかと思う。


 ぼくは、好きだった海外ドラマの、ひとつのセリフを思い出す。ここ数日、朦朧とするなかで、時折思い出しているものだ。


「もう、いいじゃないか。結婚して、子どもがいて、育てて、仕事にも打ち込めた。じゅうぶんに生きたじゃないか」……。


 それは、ガンになった主人公が医師から言われた言葉だった。主人公は脳腫瘍を、名医に奇跡的に取り除いてもらった。しかし1年後に再発して、再び名医を頼ったときに、匙を投げられてしまう。


 その言葉はとても沁みる。なぜなら、今のぼくがその主人公と同じだからだ。


 ドラマの主人公は40歳そこそこだった。ぼくもほぼ同じ。だから、子どもの年齢も同じくらい。ドラマの主人公は医師で、ぼくは銀行マンだった。職業は違うけど、毎日忙しくて充実していたことは同じだ。


 今のぼくは、この言葉にウンウンと頷ける。「もう、いいじゃないか」。たしかにそのとおりだ。もう疲れてしまったんだ。


 こうやってベッドの周りで泣いてくれている妻と娘には悪いなぁと思う。でも、もう疲れて、眠ってしまいたいんだ。それはやっぱり、ぼくだって死ぬのは怖い。怖いけど、正直に言うと、のんびりしたいんだ。ぼくは死んだあと、なんとなくなんだけど、転生できるんじゃないかなぁと思ってる。なにに転生するか、もう心の中で決めているんだ。それは、とってもとっても、のんびりできるものなんだ。


 あぁもう眠くなってきた。体力があったなら、娘の頭を撫でたかったなぁ。これはちょっとだけ心残りだ。


 なにかに引きずられていきそうだ。もう眠ったら、目を覚まさないんだろうな、このぼくとしては。


 悪くない人生だったな。両親も既に亡くなっているし、家ではないけど、こうやって布団の上で最期を迎えられる。もう思い残すことはないよ。あとは願いどおり転生できればいいだけ。じゃあおやすみ。受験、がんばるんだよ。


 =  =  =  =  =  =  =

 =  =  =  =  =  =  =


 そしてぼくは願いどおり、ぼくの「ふるさと」に転生した。ぼくは夏の夕日を受けて、全身を赤く染めていた。

 



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