とある冬の童話2018の『桃太郎伝説』(あの有名なシリーズと本作品は一切係わりが御座いません)
何故か既に、桃太郎は旅立ちを決意して居る様子です。
前略。
結果、桃太郎はすくすくと育ちましたので、終にアノ日が来ました。
お婆さんは、お爺さんと二人して家の縁側に並んで座り、お茶をすすりながら庭先を眺めていました。
すると突然、居間に座って居た桃太郎が急に思い立った様に言いました。
「お婆さん、大事な頼みがある!」
後ろに居る桃太郎へ振り向いたお婆さんは「どおしたんだい?桃太郎?」と、驚いて訊きました。
「オラに『きびだんご』を作って、それを持たしてくれろ!オラ、ちょっと行く所があるんじゃ!」
桃太郎の頼みに、お婆さんは、桃太郎の言う『行く所』もそうでしたが、それより何より『きびだんご』なるモノに、ハテ?と思いました・・・。が、そこは年長者であり親であったので、息子の桃太郎に弱みを見せられないと思い。
「わ・・わかったよ、『きびだんご』だね!?・・・・直ぐにこさえてやるさ!」と言ってごまかしながら、大きく頷きました。
すると桃太郎は「う~んと!美味しいのを頼む!」と言ったので。お婆さんは(そうか、食べ物なんだな)と、分かり「そんだら、うんと美味しいのをこさえてやる!」と言って、そそくさと竃の方へと向かいました。
すると、そんなお婆さんの後ろ姿を見て居た桃太郎は、ゴロンと床に寝転がり。
「んだら、昼寝でもしながら、きびだんごが出来上がるのを待つか。」と言って昼寝を始めたのでした・・・。
さて・・・・竃の前では、お婆さんが土間にしゃがみ込み首を傾げ、座り込んで居ました・・・。
「桃太郎の言う、『きびだんご』とは・・・どんな食べ物なんじゃろかぁ・・・・。」
桃太郎の話から食べ物なのは間違いないとは思うものの、お婆さんは、それがどんな物なのか全く想像が付きませんでした。
そうして、独り困り果て居ると、突然、ガラガラ!っという大きな音が壁の向こうからしたので、お婆さんはビックリしてしまいました。
すると直ぐ、土間に有る裏口から、お爺さんが「やれやれ・・・重かったわい」と腰を擦りながら家の中へと入ってきました。
お婆さんは胸を撫で下ろしながら「ああ・・・お爺さんかいな。突然、裏から大きな音がしたから驚いたじゃないかいね」と、言いました。
「おお・・・すまん、すまん。芝をずいぶんと拾ってきたんで、放り投げるようにして、そこに積んだもんだからのぉ」と言って、笑いながらお婆さんにあやまりました。
「やれやれ・・・・お爺さんが、おっきな物音をたてるもんじゃから、もう少しで分かりそうだった事が分からんくなってしもうたじゃろが。」
お婆さんは、本当は何にも分かってなかったのですが、行き場の無い思いをぶつける様に、お爺さん向かってそう言いました。
するとお爺さんは「そうかいな・・・それは増々すまんかった・・・。」と言って、もう一度謝った後「で・・・?分かりそうだったってのは、いったい何の事かの?」と、お婆さんに訊きました。
そこでお婆さんは、お爺さんに事の次第を話しました。
「『きびだんご』・・・のぉ?」
話を聴いたお爺さんは、そう言ったものの、そんな物は見た事も無ければ聞いた事も無かったので、お婆さんと二人して首を傾げる事しか出来ませんでした・・・・。
「きびだんご・・・ですじゃ・・・・。」
困ったお婆さんも又、ポツリと口にしました。
すると、お爺さんは、ふと、お婆さんに訪ねました。
「きびだんご・・・とは、『きびだんご』って言う食べ物なのかね?」
訊かれたお婆さんは「桃太郎が『美味いのこさえてけれ』って言っとったから、やっぱり食べ物じゃと思うがのぉ。」
するとお爺さんは「そうで無くてだのぉ・・・言葉の区切りが別に有るんじゃなかろうかの?」と言って少しだけ考えたあと「例えば・・・『き・びだんご』とか・・・じゃないのかね?」
お爺さんの言葉を聞いたお婆さんは、暫しキョトンと・・・・そして。
「なんじゃねその『ラ・フランス』みたいな名前は。」と、言いました。
お婆さんは、以前、都に織物を売りに言った時に、数派有・市場と言う大きな複合商家で見た異国原産の果物の名前を思い出したのです。
「ラ・フランス?」
お爺さんは、又も首を傾げながらお婆さんに聞き返しました。
その言葉にお婆さんは「ラ・フランスじゃ・・・いや、でもあれは果物じゃから、わしが今こさえる様な物では無いしのぉ・・・。」と答えながら、目を瞑り、項垂れてしまいました。
するとお爺さんは「では・・・・『きび・だんご』じゃ無いのか?」と言いました。
「『きび・だんご・・・・?』」
「そうじゃ・・・『きび』と言えば、『稲黍』じゃなかろうか?」
「おお・・・・稲黍かいな!?」
「そうじゃ!」
「で?『だんご』とは何ぞな?」
「そこじゃ・・・・そこが問題じゃ・・・・。」
二人は、『きび』を『黍』と考えましたが、『だんご』なる言葉は、生まれてこの方、一度も聞いたことが無いので、何のことやらと、又も考えあぐねてしまいました・・・・。
しかし、いくら考えた所で、言葉の意味を知らなけれた何も解りようも有りません。
「爺さんや・・・・。」
「なんだい、婆さんや。」
「わしゃー、『だんご』なんて言葉を聞いた事が無い。」
「わしも無い。」
「そうなれば、『だんご』って物は無いんじゃ無いかのぉ・・・。」
「そうじゃのぉ・・・・『黍』が出たから・・・・『だんご』も有るかと思ったんじゃがのぉ・・・・。」
「そうなれば・・・・『きびだ・んご』かのぉ?」
「『きびだ』ってのは何じゃろか?」
「解らん・・・・。」
「『んご』ってのは?」
「解らん・・・・。」
「すると最後の望みは・・・・?」
「『きびだん・ご』」
「やっぱり・・・・」
二人の思考は、完全に行き詰まってしまいました。
そうして二人、途方に暮れそうになっていたのですが、又も突然に、お爺さんは閃きました。
「そうじゃ!」
「どうした?お爺さん!?」
「ああ・・・・わしがバカじゃった・・・何でこんな簡単な事を気付かんかったんじゃー!」
「おお・・・解ったんじゃな?お爺さん!解ったんじゃな!?」
「そうじゃ!終に謎は解けたわい!」
そう言ったお爺さんは、すくっと立ち上がり、顎に右手を添えて決めポーズをしました。
「おお・・・それで!?それで、わしは何をどう、こさえれば良いのじゃ!?」
「そう急くでない・・・・今、教えるからの、遠くなりかけた耳をグッと近づけて聴くのじゃ!」
「ふむふむ・・・・で?」
「良いか・・・・『きびだんご』とは『きび・だん・ご』なのじゃ!」
「何ぃ!『きび・だん・ご』じゃと!?」
「そうじゃ・・・我々は、『きびだんご』と言う言葉を、二つの単語から成っていると思い込んでしまい、危うく、この言葉の持つ意味を取り違えてしまうところじゃったのじゃ!!」
お婆さんは、ゴクリと固唾を呑み、お爺さんの気迫漲る姿に、脳梗塞と心筋梗塞の心配をしました。
「婆さんや。その答えはこうじゃ!・・・・『きび』とは先のとおり『黍』、即ち『稲黍』よ!」
お爺さんは悦に入って続けます。
「続く『だん』・・・・これが難問じゃった。何せこれは単語としてはチョット違っていたからの・・・・詰まり・・・・『だん』とは『ダン!』・・・・擬音じゃからじゃ!」
お爺さんさんは更に悦に入ると同時に変なスイッチも入ったらしく、フッフッフッフッっと4回もフッと言って笑い不敵さを醸し出しました・・・・。
そうしてタメを作った後、お爺さんは「しかして・・・この擬音、擬音に織り込んだその言葉の持つ意味とは・・・・。」と言って、右手でピストルを作り、お婆さんの胸に狙いを着けました。
そして・・・・!
「ダーン!」っと言い放つと同時に、指先から弾が出て反動が起きた動きをしました。
お婆さんは、思わず胸を押さえます。
それは50年振りに味わう胸キュンです。
お婆さんは、足が年のせいでは無い感じで縺れて、クラっとしました。
それを察したお爺さんは、ニヤリとしてピストルの指先にフ~っと息を吹き掛け、目に見えない煙を吹き飛ばしました。
「そうじゃ・・・『だん』とは『弾』!・・・即ち弾の事じゃて・・・・そして、それは詰まり、猟師が鉄砲で打った物って事じゃ・・・・・。」
そこまで言ったお爺さんは、またもタメを作ります。
お婆さんは、お爺さんを見詰めながら、心の中では(それは何!?)と声を大にして訊いて居ました。
すると、お爺さんが、まるでそのお婆さんの心の声が聞こえていたかの様に答えます。
「答えは一つ・・・・それは『紅葉の味噌漬け』じゃ!!」
「はぁ?紅葉!?・・・今は春じゃが?」
「だからじゃ!だから米治の所にはまだ、紅葉の味噌漬けが残っておるんじゃわい!」
お婆さんは、お爺さんの言っている事をやっと理解しました。
紅葉とは詰まり『鹿肉』の事・・・・お爺さんは隣に住む猟師の米治が去年の秋に落とした鹿の肉を味噌漬けにした物を差して言ったのです。
「おお・・・そうか!弾で打った鹿の肉・・・・それの味噌漬けかの!?」
何故かお婆さんは、酷く納得し「そうぁ・・・・に・・肉・・・肉じゃったかぁ・・・」と小声で呟いて何度も頷き「それは・・・久し振りじゃのぉ・・・・そうか・・・そうか・・・。」と、興奮気味に繰り返して居ました。
「そうじぁ・・・わしらの大事な一人息子の頼みじゃからの・・・・そう言って米治には少しばかり紅葉の味噌漬けを分けて貰うとしよう」
「そうじゃのぉ・・・!これは一大事じゃからの!米治には、すまんが我慢して貰おうかの!?」
「そうじゃろう。では早速、わしが米治に掛け合って紅葉を分けて貰ってくるからの!何、心配は要らん。事情が事情じゃから米治も解ってくれるに違いないて!」
そう言ってお爺さんは竃の有る土間の裏口から出ようとしたのですが「爺さん!まだ、最後の一つが解って無いじゃろう?」と言って、お爺さんを呼び止めました。
するとお爺さんは、その声を背中で聴きながら、立ち止まりもせずに答えました。
「なぁに・・・最後の単語『ご』じゃろう?・・・・・それはもう、これからわしがする事と繋がっておるんじゃわい・・・・詰まりは、『ご』とは数字の『五』・・・・・即ち紅葉の味噌漬けを5切れって事じゃからのう・・・。」
そう言い終わらぬ内に、お爺さんの身体は、既に表へと出ていました。
それは勿論、隣に住む米治の家に向かう為です・・・・。
米治の家にお爺さんが鹿肉の味噌漬けを貰いに行ってる間、お爺さんは黍を炊く支度を始めていました。
火種を使って竃に火を起こしたお婆さんは、少しづつ燃え上がる炎を見詰めながら、さっきお爺さんが右手で作ったピストルに打たれた胸を押さえて居ました。
「今晩のオカズは・・・久し振りの肉じゃからのう・・・・・」
そう呟いたお婆さんの顔は、竈の炎で赤く染まり、色付いた様に見えました・・・・。
「 春来呼ぶに
雪溶かしたぞ
埋紅葉 」
一句読んだお婆さんは・・・・そそくさと風呂の準備も始めたのでした・・・・。
今は春真っ盛り・・・それも、老いらくの・・・・。
まだまだ夜は長い頃です・・・。
暫くすると、少し窶れたお爺さんが、木の薄皮に包まれた鹿肉の味噌漬けを抱えて戻ってきました。
「米治の奴ぁ、快く分けぇてくれたぁわい・・・。」
そう言ったお爺さんの発音はさっき迄とは違い、前歯が1本抜けたせいで、少し滑舌が悪くなっていました。
「おお・・・お爺さん、ご苦労じゃったのう。」そう言ってお爺さんはお爺さんを労い、鹿肉を受け取りました。
そして中を開いたお婆さんは「これは立派な紅葉じゃて・・・・早速串に挿して竈の口前で炙り焼きにしようかの!」と言って、準備を始めようとしましたが、ふと、桃太郎の様子が気になり、居間の方へと戻ってみました。
すると桃太郎は、ぐっすりと眠っていたのです。
そんな桃太郎の姿を見届けたお婆さんは、桃太郎が出掛けるのは、今日じゃ無いらしいと思いました。
それから、夜に冷えるといけないからと、桃太郎に布団を掛けてあげました。
お陰で桃太郎は、深い眠りに付き、翌朝まで起きませんでした・・・・。
そうして、一度途中まで支度をしていたお婆さんでしたが、桃太郎に渡す『きびだんご』は、明日の朝に作る方が良いだろうと思いました。
それでそれから、味見と称して紅葉の味噌漬けの串焼きを2本作り、それをお爺さんと二人で夕飯に食べました・・・。
それから、久し振りに二人して、ゆっくりとお風呂に入りました。
その夜・・・・お爺さんとお婆さんは、30年振りに同じ布団で、とても仲良く眠りました・・・・。
そして翌朝。
早朝から『きびだんご』作りをしたお婆さんは、無事に『きびだんご』を作り終え、それを竹の葉に包んで縛り、弁当にしました。
すると、桃太郎が起きてきて。
「お婆さん、何か変わった匂いがするけど、オラの『きびだんご』は出来ただか?」と訊いてきたので。「おお、やっと今しがた出来上がったところじゃわい。」と言って、竹の葉に包んだ『きびだんご』を見せました。
『きびだんご』が出来たのがよっぽど嬉しかったのか、お婆さんは、どこか気怠そうでしたが、いつもより艶かかな声でした。
「オラ、ずっと寝てしまっただども、その間に何かあっただか?」
お婆さんの雰囲気に心配に成った桃太郎が、お婆さんに訊きました。
するとお婆さんは「なぁ・・・・なぁんも・・・なぁんも有りゃせんって・・・こん子は可笑しな事を言いよるのぉ!」とアタフタとして答え、顔をポッと赤らめました。
そんなお婆さんの姿を見た桃太郎は、それ以上、何も訊くことは無いと言うよりも『何も聞きたく無い』と思いました。
それから旅に出掛ける支度を整えた桃太郎は、お婆さんから貰った『きびだんご』を腰に下げて、家を出た直後に家に入りました。
お爺さんとお婆さんは、そんな何処に行くのかも分からない息子の行動に、もう一度応えました。
すると、桃太郎は「これで、ウ◯テクは、無事終了・・・」と、一人意味不明な事を呟いたあと、今度は振り返りもせずに、家を出て行きました。
そんな桃太郎を送り出した、お爺さんと、お婆さんは、昨日はお互いによく眠れなかった事も有ったので、今日は仕事を休みにして、一日中、二人一緒の布団で過ごす事にしたのでした。
桃太郎に、激しく年の離れた『紅葉』と言う名の妹が出来たのは、この約10ヶ月後の事でした・・・・。
後にそれを世間は『桃村』(桃村という名は、後に付けられたと推測される)の奇跡と呼んで語り継ぎ、桃太郎の生家の横には※1『お宝神社』と云う名の神社が立てられて、多くの人々の信仰を集めることに成って行くのです。
※1 現在の、O山市に在る『お宝桃神社』がこれであると言い伝えられています。
△ 参考文献・満明書房『オレ々鷺と9羽の売り子』・エピローグ13章・中節に記載。
二度家を出た桃太郎は、暫くの間、意気揚々と歩いていました。
しかし実際は、意気揚々と歩いてる『振り』をしていただけでした。
「さて・・・これからどうすっかなぁ・・・。」
数日前のこと。
桃太郎が村の子供達と一緒に遊び、遊び疲れた夕方の帰りぎわ、わっと走り去る子供達の一人が「おら、腹減った。もう、帰って、おっ母の作ってくれとる『きびだんご』食べるだよ!」と言って駆けていく後ろ姿を見送った後・・・。
「『きびだんご???』」
桃太郎は生まれて初めて聞いた食べ物の事が気になってしまったのだった。
それで昨日。
桃太郎は、まるで自分がそれを知っているかの様にして、婆さんに「きびだんごを作ってけろ!」と言ったのだった。
詰まりは・・・・桃太郎の目的はもう、概ね果たされていたのだ。
そう、後に残されている目的は、腰にぶら下げた『きびだんご』を『食う』と言う事だけであった・・・・。
例えそれが、本当は『きびだんご』では無くても・・・・であった。
そう思い悩みながら歩いていた桃太郎は、気づけば村の近くの川にたどり着いていた。
「さて・・・ここは一つ、この川の土手にでも座って、一休みすれば、何か良い考えが浮かぶかも知れないのぉ。」
桃太郎が腰を下ろした場所は、『荒川の土手』と呼ばれているちょっと有名なスポットでした。
「とお~く まで~ 見える~ のぉ~♪」
桃太郎は、気分を変えようと軽やかに声にした。
「桃太郎さん。ごきげんですね!・・・・ワン!」
聞き慣れない声に、桃太郎がその声がした方を見ると、一匹の白い犬(中型犬)が座って居ました。
「いや・・・そうでも無いよ。」
桃太郎は、努めて冷静に答えました。
「お腰につけた『きびだんご』をくれたら、あなたの家来に成ってお供しますよ!・・・・だワン!」
と犬は言います。
半信半疑だった桃太郎でしたが、そんな易い事で家来が出来るならと、ダメ元で、犬に『きびだんご』をあげる事にしました。
桃太郎は腰の袋から取り出したチマキの様な『きびだんご』を、その包を解いて中身をポンと放りました。
すると犬は見事に空中でパクっと咥えて、しのままパクパクと食べてしまいました。
犬は思いました。
(これは獣の肉だ!美味いぞぉ!!・・・しかし、きびだんごでは無いな。)
これはストーリーが違うと思った犬でしたが、取り敢えずは形には成ったのだから(ま、良いか!)と思う事にしました。
すると、そんな様子を土手の近くに生えている木の上から見て居た猿が。
「犬のヤツ、桃太郎さんから早速『きびだんご』をもらったな!」と言って、地面へと駆け下りました。
そして、一気に土手の外側を駆け上がり桃太郎のもとにやって来ました。
桃太郎も犬も、猿が駆け寄る音に驚いて、猿を見ました。
すると、すっくと二足歩行の姿で立ち上がった猿は。
「桃太郎さん、お腰につけた、以下同文。」と省略して言いました。
「なんだ・・・見てたんだろ?」そう言った桃太郎は、渋々、腰にぶら下げた袋から、『きびだんご』を取り出し、それを包みごと猿の手にそっと握らせました。
「上物ですぜ!」
猿は何も答えず、辺りに気を配っています。
そうして、辺りを確認した猿は、貰った『きびだんご』をさり気なく口の中に入れ、更に右の頬袋の中へと押し込みました。
そうして、桃太郎が歩き出そうとすると。
猿が「旦那。オイラの左の頬袋は、まだ空なんでさぁ・・・・ここもちょと埋めてくれないと・・・。」と、したり顔で桃太郎に小声耳打ちしました。
「欲の張った猿だのぉ・・・。」そうボヤいた桃太郎でしたが、仕方なくと言った感じで犬には見えない角度から、猿にもう一つの『きびだんご』を手渡しました。
すると猿は、口に『きびだんご』を詰め込みながら「欲が張ってたって、腹は膨れません。頬が張らなぁ・・・。」
そう言った猿は、又もしたり顔で言ったのでした・・・・。
猿の頬袋は福福と膨れて居ました。
そんな一人と2匹の様子を、上から見下ろして居る者が居ました。
雉です。
雉は、猛禽類の様に鋭い視線を、ここに向けて居たのです。
「しめしめ・・・これはいいネタになるな!」
そう1羽呟いた雉は、空かさず桃太郎の前に降り立ちました。
バサササさ・・・・・。
降り立つ雉の羽音に、桃太郎達は、驚いて立ち止まりました。
「桃太郎さんですね?・・・私は雉と言う者です。ちょっと二人だけで話があります。良いですか?」
そんな雉の突然の申し出に「オラは何も話は無い!失礼する!」と言い放った桃太郎は、足早に雉の脇を通り抜けようとしました。
「良いんですか?桃太郎さん。犬さんと猿さんとの報酬についての事なのですが・・・・・。」
「なんの事だか・・・・。」
「お忘れですか?僕はさっきまで、あなた方の上空に居たんですよ。・・・・それで、見るともなしにですがねぇ・・・・見えたものですから・・・・二者間の・・・その・・・数ですよ・・・『きび・・・・』何とかと言っていた様な・・・・?」
最後の方は、雉が意味深に桃太郎に近づき、羽根でクチバシ元を隠しながら耳打ちしました。
「お前達はそこで待て!オラはこの雉と話があるでの!」
そう言った桃太郎は、雉と一緒にその場から少し離れました。
「何が言いたい?」
「ですから、犬さんが貰った『きびだんご』の数と、猿さんが貰った・・・」
「もういい!!・・・何が望みだ!?」
「簡単な事ですよ。そのお腰につけた『きびだんご』の残りを全て私に下さいな。」
「なんだとぉ!?」
「良いじゃないですか。もうあなたのお供は、全員そろったのですから。」
「う・・・・むむ・・・・。」
「後はアレですよ・・・・そろって隣村の都地区に居ると言う、鬼を退治すれば終わりです。」
「鬼退治?」
「そうですよ。鬼退治です。それで全ては丸く収まるし。天下泰平、一家団欒です!」
「一家団欒かぁ・・・!」
桃太郎はヨシ!と決心しました。
「分かった。しかし、今はこれ一つじゃ。」そう言って桃太郎は雉に『きびだんご』を一つあげました。
「残りが無いと、あいつらもやる気が無くなるだろう。だから、残りは鬼を退治し終わってからじゃ!」
「筋は通ってます。しょうが無い・・・・従いましょう。しかし、約束は違えないで下さいよ。」
いよいよです。
桃太郎達は、隣村の都(地区)に巣食ったと言う鬼を退治しに来ました。
村で聞いた話に寄ると、鬼達は、村に有るたった1軒の居酒屋『島』に入り浸って、数ヶ月分の飲食代をツケににしたままで、四六時中どんちゃん騒ぎをしているので、皆んな困っているとの事でした。
そんな状態が長く続いたこの居酒屋は、いつの日からか、「鬼が居座る居酒屋『島』」略して「鬼ヶ島」と呼ばれていました。
確して、桃太郎達は、その鬼ヶ島の門前にやって来ました。
さて・・・・時間も無いのでもう突入です!!
中に入ると同時に犬がワンワン!と吠えまくります!
すると一人の鬼が「うわ~!!俺は犬が苦手なんだ~!!」と叫んで、一目散に逃げ出しました。
「ウキッキー!!」続いて猿が狭い居酒屋の中を駆け回ります。
すると一人の鬼が「うわ~!!俺は猿が苦手なんだ~!!」と叫んで、一目散に逃げ出しました。
「ケーン!!」と一声鳴いて、雉も中に飛び込みました。
すると一人の鬼が「うわ~!!俺は動物が苦手なんだ~!!」と叫んで、一目散に逃げ出しました。
桃太郎達は(じゃ・・・・最初に犬が入った時に逃げろよ!)と、心の中で思いました。
「ええ~い!!腰抜け共め!!ここは一つ、この『きびだんご』を食べて力を付けてお前達を蹴散らしてやる!!」
最後に鬼ヶ島に残ったラスボスの大鬼は、傍らの皿に積まれていた『きびだんご』をワッシと掴み、一度に5個も口の中に放り込みました。
「なんだと!?お前も『きびだんご』を持っていたのか!?」
桃太郎は焦りましたが、自分も負けじと腰に下げた袋から、お婆さん手作りの『きびだんご』を取り出して食べました。
それをゴックンと同時に飲み込んだ二人は「これで百人力だ!!」と、意味不明な事を口走ると、直ぐ様睨み合いました。そして一瞬のスキを付いて互い同時に放った右ストレートが、互いの顔を捉えドッ!!と鈍い音を立てました。
クロス・カウンター・・・・・!!?
ああ・・・・だれが予想し得たでしょう・・・・この結末を!!
今や桃太郎とラスボスの大鬼の二人は、白く清らかな世界に二人だけで立って居る様でした。
居酒屋 島 の中は、時間が止まったかの様です・・・・。
しかし、その清らかな世界から、まだこの薄汚れた世界での修行を続ける様にと、追い返された魂がありました。
「へへ・・・・いってぇなぁ・・・・・。」
虚ろな目をしながら、そう言い放ったのは桃太郎でした。
「桃太郎!!」犬、猿、雉の3匹は同時に叫びました。
ドッと崩れ落ちる大鬼。
それを見下ろした桃太郎が言いました「どうやら俺は、まだあっちに行くには早すぎたらしい・・・・。」と。
一瞬の沈黙のあと、一同は勝利に沸きました!!
「僕は桃太郎さんの家来になれて良かった!・・・・ワン!」
「ウッキィー!!『きびだんご』が繋いだ絆が、世界を救ったんだ!!っキィー!!」
「ようやった、我が家来共よ!!」桃太郎も、右手を突き上げて応えます。
そんな最高潮に盛り上がった様子を、一人・・・・いや、1羽、覚めた目で見下ろす者が居ました。
そうです・・・・雉です。
「さてと・・・・後はどのタイミングで、残りの『全てのきびだんご』を貰おうかな?」
そんな事を、居酒屋の梁の上に止まって考えて居た雉でしたが、ふと、目に止まった物が有りました。
「アレは・・・・」
その視線の先には、さっき大鬼が食べて居た、皿に盛られた『きびだんご』の残りが有ったのです。
「しめしめ・・・・他の連中が浮かれている間に、先ずはアレを頂くとするか!!」
今日は『きびだんご祭りだ!!!!』
そんな言葉が、雉の脳裏を横切り、思わず何故か求愛ダンスをしたい衝動に駆られバッと尾羽根が広がりかけましたが、そこはグッと堪えたのでした。
それかた雉は、羽音を忍ばせて『きびだんご』が盛られた皿の横に降り立ち、一個の『きびだんご』をクチバシで摘むとクック・・・と、丸呑みしました。
「これは・・・・・!?」
驚いた雉は、更にもう一つ・・・・今度は味わって食べてみました・・・・。
「くっ・・くっ・・・くっ・・・。」
雉は、笑いを堪え切れずに声を漏らしました。
「くはっはっはっ!!」
更に大声で笑い出します。
それまで浮かれていた桃太郎達も、雉のその笑い声に気づき、驚いて見ました。
「どうした!?勝利の嬉しさが遅れてやって来たのか?」
有頂天の桃太郎は、楽しそうに雉に訊きます。
「これが笑わずに居られましょうや!?」
突然に真顔に成った雉が、桃太郎達を見据えます。
桃太郎達は、何のことやら分かりません。
「兎に角。コイツを食べてご覧なさい・・・。」
そう言う雉は、皆の前に大鬼が食べて居た『きびだんご』の載った皿をクチバシで押しやりました。
すると、犬も猿も、そして桃太郎も、それぞれ一つづつ食べました。
「甘くて美味しい!・・・・ワン!」
「ホントだ!!・・・キィー!・・・甘くて美味しい!・・・・キィー!」
少し遅れて桃太郎も「うん。甘くて美味しい食べ物だのぉ。これは、何だ?」と言いました。
すると、その言葉を待っていたとばかりに、雉は一同に向かってバッと右の羽根を大きく広げ言いました。
「これが『きびだんご』ですよ!・・・・正真正銘のね!!」
!!!!?
雉意外の一同は混乱しました。
そんな一同の姿を見て居た雉は、たった今確信した事を話し出しました。
「つまり、こう言う事です。我々が・・・・桃太郎さんも含めた我々が『きびだんご』だと言われて渡された食べ物は、『断じてきびだんごでは無い』と言う事です!!」
驚いた桃太郎は「な・・・なに言ってんだ!?オラは婆さんに『きびだんご』を作ってくれとたのんで、これを作ってもらったんだそ!」
そう言って、自分の腰に下げている『きびだんご(らしき物)』を取り出しました。
すると雉は「アナタはさっき大鬼と戦う前にそれを食べてた時、それが『きびだんご』では無いと分かりませんでしたよね?」
桃太郎はウッと言葉に詰まりました。
雉は追い込む様にゆっくりと続けます「そうですよね・・・そうですよね・・・。だってアナタは・・・・・。」
雉は溜めを作り、一同を見渡しました。
それから、バッと右の翼を使って桃太郎を指し「なぜなら、アナタは本当の『きびだんご』を食べたことが無いからです!!」と、言ったのでした!
雉の言う事は、当たってました。
しかし、実は桃太郎だけでは有りませんでした・・・・本当は犬も猿も『きびだんご』を食べたことが無かったからなのです。
犬は言葉を失いました・・・・・。
猿は、恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になりました・・・・。
すると雉は酷く冷めた表情に成り「そんな訳ですので・・・・・我々(以下 乙)が桃太郎さん(以下 甲)と結んだとされる『きびだんごに寄る主従契約』は、そもそも、その契約の条件と成る『きびだんご』が渡されてないので、無効と成りました。」と、言いました・・・・。
桃太郎・・・・・・・・・・・・・・ ア然。
犬は突然開放された事に喜び、ワンワン!と吠えながら、外に飛び出しました。
猿は、自分の無知さに尻までも真っ赤にして、一目散に森に逃げ帰りました。
雉は言います「そんな訳で、私も失礼させて頂きます。」
桃太郎は戸惑い「あ・・・いや・・・しかしですね・・・・。」と、取り付こうとしました。
すると雉は、右羽根をバシ!っと桃太郎に向け、かの軍師の様に言い放ちました。
「黙らっしゃい!!・・・・もう、アナタとは他人なのです!!!我が身は既に一国、一国が一国に頼み事をするには、それ相応の扱いを持って成されよ!!」
そして、桃太郎に向かって、ケン!ホロロ!!と鳴きました。
桃太郎は、雉に取り付く島もないと思いました・・・・そして、今いる場所が『居酒屋 島』と言う名前だと言う事に皮肉を感じてニヒルに笑いました・・・。
そして「へへ・・・・。オラは、とんだ茶番を演じてたって訳かい・・・・。」と、自分を惨めに思いながら呟いたのでした。
そんな桃太郎を横目に見ながら、雉は鬼が残した皿に盛られた『きびだんご』を次々とついばみ、ゴックンと飲み込んでしまいました。
「さて・・・・桃太郎さんとやら・・・・ここで有ったのも何かの縁。アナタの旅の土産に、ひとつこの『きびだんご』ってのを食べてみてはどうですか?」
そう言った雉は、『きびだんご』が一つ残った皿を、桃太郎の方へとクチバシで差し出しました。
呆然としていた桃太郎でしたが、雉に言われるがままに、その『きびだんご』を手で掴むと口の中に放り込み、じっと瞼を閉じてあじわいました。
「これは本当・・・・、いや、これが本当の甘くてうめぇ・・・『きびだんご』かぁ・・・・。」
そう言った桃太郎の前には、もう雉は居ませんでした。
帰りしな・・・・桃太郎は、荒川の土手に腰を下ろし、お婆さんが作ってくれていた、それはそれは美味しい『鹿肉の味噌漬けのチマキ』を、ゆっくりと味わって食べてました。
この時に食べたチマキは、桃太郎が生涯に食べた食べ物の中で、一番美味しい食べ物と成りました。
めでたしめでたし。
・・・・・・・ん?
チマキの数が合わないって・・・・・?
それは、桃太郎が『きびだんご』をもらって家を出た直後に、直ぐに家に入った事で起きるバグを使った裏技《ウ○テク》に依って、5個入り『きびだんご』(チマキ)を2回もらったからなのでした・・・・・。
はぁ?
おしまい