再会(その2)
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「そこまでだ!!
キョーイチローよ、その女は何者なのだ!? その……なんだ、ずいぶんと親しげなように見えるが……。とにかく貴様たち、そこまでだ!」
なにが『そこまでだ』なのかはわからないが、カーラの疑問はもっともだ。
「いいや、カーラ。親しくない。この女は、ただの――」
敵だ。
――俺はそう答えようとしていたが、今度は加藤によって言葉が遮られる。
それも不良女らしい喧嘩腰でだ。
「はァ!? あんたこそだれよ? なんで『キョーイチロー』なんて下の名前で呼んでるわけ?」
……なにやら、妙なことになってきた。
(けど、なぜだろうな? 少しだけ、許してもいい気になってきた……)
加藤の言葉を最後まで聞いたわけでないため、本当に『好き』と言われたのかはわからない。それに、そもそも彼女のような不良というのは平気で人を騙すものではあったが――。
(そうだ……。きっと、また騙す気に決まっている! 小四のバレンタインの日もそうだった。自分の身を守るために適当な嘘を吐いてるんだ!)
そう思いはしたものの、憎悪はだいぶ減っていた。
その一方、カーラと加藤は口論を続けていた。剣騎士と不良高校生――腕力では勝負にならないが、口喧嘩では別だった。
「あのさ……あたし、勘でわかるんだよね。あんたも恭ちゃんのことアレなんでしょ?」
「むっ!? アレとはなんだ? だが、このカーラ・ルゥ、受けて立つぞ。貴様の言うアレが私の想像するアレであるならば、その……わ、私はキョーイチローのことをアレである!」
「ほら、やっぱり! だと思った!」
アレ? アレってなんだ? 俺のことをなんだって?
口論で白熱する二人を横目に、族長オークの白い牙〇一九は、なぜか意地悪い笑みを浮かべながら俺に言った。
「“ヤツ”ヲ、貢ギ物トシテ、貴様ニ捧ゲタイ」
「貢ぎ物? 加藤八千代をか?」
「戦ノ勝者ニ対スル敬意ダ。……貴様ノ知己デアルノダロウ?」
「知己……? いや、たしかに知り合いではあるが」
「受ケ取ラヌナラ、我ラノモトデ今後モ捕虜トシテ働カセル。“まよねず”ノ商売ガデキヌ以上、前ヨリ厳シク働イテモラウ」
「ま……待て!」
白い牙〇一九は頭の切れる男だ。今度こそ、明確にそれを思い知らされた。
この族長オークは、俺に嫌がらせをしようとしていたのだ!
「少し考えさせてくれ……」
「ウム、考エヨ」
白い牙〇一九は、歯をがしがしと擦りながら笑っていた。
やはり、これは嫌がらせだ。
この短い時間で、俺と加藤八千代の関係を理解し、『あの女は大嫌いだし大の苦手だったが、長いつきあいだから、このままオークの部族に置き去りにするのも気の毒だ』と思うことを見抜いた上で、このような手を仕掛けてきたのだ。
しかも、なぜか加藤はカーラといきなり不仲だ。
あの女を引き取ればトラブルは絶えないだろう。
(どうして、あの二人はいきなり喧嘩しているんだ……? 理由がさっぱりわからない)
俺が怪訝な顔をしてると、族長オークはまた笑った。
「勝者ヨ、モシカシテ貴様、アノ二人ガ不仲ナ理由ヲ理解デキヌノカ?」
「ああ、さっぱりだ」
「デハ、貴様ヨリ我ノ方ガ賢イ。人間ハ、我ラおーくヲ野蛮デ愚カト思ッテイルヨウダガ、貴様ヨリハ上ラシイ。ソレトモ、貴様ハ特ニ愚カナ人間ナノカ?」
悔しいが、なにも言い返せなかった。
「ソレト、訊キタイコトガアル」
「なんだ?」
この猪頭の族長は、ぐるる、と一唸りしたのち、少しだけ改まった態度で俺に訊ねる。
「貴様ノ“まよねず”ハ、ナゼ腐ラヌ?」
ああ、その話か。
なるほど、気になるに違いない。
俺の作ったマヨネーズは、どうして半月以上もの賞味期限を持っているのか?
なぜ成分が分離して、底に汁が溜まらないのか?
逆に、なぜ加藤八千代の駄マヨネーズは一日や二日で駄目になってしまうのか?
味つけはともかく、同じマヨネーズでどうして賞味期限がこれほど異なる?
族長オークは、その秘密を知りたがっていたのだ。
「それを知ってどうする? またマヨネーズを作って商売する気か?」
「違ウ。タダノ知的好奇心ダ。貴様ニハ、ソウイッタ好奇心ハ無イノカ?」
「ふん……。本当に、見た目によらず知性派だな?」
知的好奇心ときた。驚きだ。
本当は秘密を話してやりたい。
俺はもと優等生だけあって、勉強好きな男は嫌いじゃなかった。
しかし、今の俺は『悪』。
企業秘密を明かすようなお人好しではやってはいけまい。
なので――、
「魔法だ。腐らなくて味も良くなる魔法をかけている」
とだけ答えてやった。
「ぐるるる……」
白い牙〇一九は、はぐらかされたことで露骨に不服そうな顔をする。
「それと友情パワーだ。俺と相棒、二人の力が合わさることで最高のマヨネーズが生まれる。お前たちのマヨが不味くて腐りやすいのは、俺の相棒が混ぜてないからだ」
「ぐるるるるるる……」
族長オークの表情はますます不機嫌なものとなっていく。
この男は、ずっと知らないままだろう。
――俺の答えが、実は嘘ではないことを。
それを思うと、少しだけだが溜飲が下がった。
さっきの嫌がらせの仕返しだ。
俺たちのマヨネーズの秘密は、オークなどには教えられない。
小一時間後、女二人の口論は終了する。
両者、喋り疲れてのダブルノックアウトだ。
その後、何時間も悩み、カーラともさんざん話し合った結果、加藤は俺たちが連れていくことに決まった。




