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白濁




  人の性は悪なり、其の善なるものは偽なり

           ――中国の思想家、荀子(紀元前313~238)




 ここは、ただ《地平》とのみ呼ばれる世界。

 俺――高二で、もと優等生の弦木つるぎ恭一郎は今、剣と魔法の異世界にいた。


 古城の地下室に、女騎士と二人きりで。




「――んほぉお゛お゛おおおおおおおおッ!」




 美貌の女騎士カーラ・ルゥは白目を剥きつつ、聞いたこともないような悲鳴を上げていた。


 彼女は俺と同じ一七歳でありながら、その剣の腕と美しさにより“紅百合の騎士”と世に称えられる高名な騎士。

 戦場では彼女の顔を一目拝もうと数多くの敵騎士が一騎討ちを挑み、兜のマスクを上げる決闘の礼を取ったのち、敗れて大地に赤い花を咲かせる。


 だが、白くきりりと凛々しかったその美貌は、既にもう存在しない。

 今や快楽で大きく歪み、どろりとぬめる白濁液にまみれていた。


「ははッ。カーラ殿、これがもっと欲しいのではありませんか?」

「や……やめるのだ、キョーイチローよ! もう……はいらない……。クッ、殺せ!」

「おやおや……。口では勇ましく凄んでいても、体はそうは言ってないようですが」

「否! このカーラ・ルゥ、絶対そのようなものに負けたりしない!」

 カーラは長い睫毛の奥から、必死にキッとこちらを睨みつけていたものの――、

「クッ……!!」


 俺が手づかみで“それ”を差し出すと、よほど我慢できなかったのか、その手に口で直接かぶりつく。




 ――マヨネーズたっぷりのゆで卵に。




「んひぃいいいいッ! ら……らめぇっ! ごわれるぅ!

 ゆでたまご食べすぎで、お腹ごわれるうッ! ごはん、たべられなぐなっぢゃう! ひぃい゛いいいンっ!」


 高貴なる女騎士は顔をいっそうマヨまみれにしながら膝から崩れ、ビクンビクンとその全身を痙攣させた。冷たい石畳の床をのたうち回ったため、鋼の甲冑ががりがりと石床の表面を掻く。


 これは、毒だからではない。


「はぁはぁ、ぜぇぜぇ……。じぬぅ……おいじぐで、じぬぅ……」


 そう。単に美味だからだ。

 マヨなき異世界の人間が初めてマヨを口にしたのだ。このくらいの反応は当然だろう。


「見たか、カーラ殿――いや、カーラよ! これこそがマヨネーズ! 亜神クピド(キューピー)より賜りし地球の恵み! その味の奔流は、全ての味覚神経をただ純白色に塗りつぶす!」

「う、うう……」

「カーラ、俺の“商売ビジネス”に協力しろ。――これを大量に作って、売り捌く!」


 つまりは密造。

 そして密売。


 この世界で、それが犯罪なのは知っている。だが俺は罪など怖れない。


「俺は世界に裏切られた。だから、今度は俺が世界を裏切る。カーラ、お前もそうしろ。一緒にマヨに染まるんだ」


 まだ石の床にへたりこみ、立ち上がれぬままの女騎士。そんな彼女に、俺はマヨで汚れた手を差し伸べる。




「俺はこの異世界で、マヨネーズ密売王に――



“  白  濁  王(キューピー・キング)  ” に 俺 は な る ! 」




「キョーイチロー……」



 話は、一日前にさかのぼる――。



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