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ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
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第6話

視点:バレーノ




見覚えのある造りの壁、道…

ただ俺が知っている町とうって違うのは、その静けさだった


人一人いない…これもアムンストのせいか?


「城上町南地区。君のいた所とは地区が違う」

そう言うとさっさとプラーミャは進んでいく


そうか、俺のいた地区は城下町北地区

そこではないと思うと少しホッとした

…あんな場所でも、俺には思い出があるからだろうか


プラーミャは俺のほうを見ることなく進んでいく

その態度につい俺は言ってしまった

「どうしてそんなにぶっきらぼうなんだ?俺がなにかしたか?」


プラーミャがピタッと足を止め、こちらを振り向く


表情は大きく変わらなかったが、その瞳はとても鋭く、まっすぐこちらを見ていた


「…私はまだ君を認めてない。私たちと君は違う。たとえ同じ仲間だとしても、君には…」

そこまで言うと、我に返ったようにきゅっと口をつぐみ、またさっさと進んでしまった


俺と、彼らとの違い…プラーミャはそこに不満があるのか


町は変わらず静かなままで、人の気配がしない

それが俺とプラーミャの間の空気を物語っている


町の皆はもう避難したのか、それとも…


プラーミャは道がわかれるごとに立ち止まり、また進んでいく

アムンストの居場所がわかるのか?


だが次第に俺も嫌な胸騒ぎを覚える


この先に…何かが…いる!


プラーミャが立ち止まった


そこは町の端の、建物がなく、枯れた草むらが広がっている場所だった


そしてその先に―なにかがうごめいていた


巨大な熊のような大きさの黒いそれは、生き物としてあるべきでない姿だった

全身が黒く硬いなにかで鎧のようにおおわれており、長い牙と爪は簡単にものを引き裂けそうだった


これが…アムンストなのか…?


プラーミャはこちらを振り返り、まっすぐに俺の目を見てわずかに首をかしげた


「こいつはアムンストの中でも倒しやすいタイプ。…君にあれが倒せる?」


その俺を試すような言葉に、手に力が入る


「倒す…?やるだけのことはやるさ」

短刀を抜き、ハビアンに教えてもらったことを思い浮かべる


短刀を胸に構え、腰を低くする

重心はわずかに後ろにかけ、相手の全体を見る―


「違う、覚悟のこと」

プラーミャはまばたき1つせず答えた

だが俺はその言葉を最後まで聞く前に飛び出していた


アムンストはこちらに気づき、雄叫びをあげる

地面が揺れるような、こみあげるような声だ

片腕を振り上げ、俺を払おうとする


だが俺から見ると、その巨体が邪魔をしているのか動きは鈍い


奴隷のころから身軽さには自信があった

ハビアンに教えてもらった足さばきでその手をかわす


体が軽い、今なら思いのままに動かせそう―


次いで反対の手を高々と振り上げるアムンストの胸元に入る

単調な動きのため隙が多い

これならいける


そのまま短刀を胸に突き立てる―!


…手応えはなかった


アムンストが振り上げた手で俺を払うのではなく、短刀ごと俺の手を掴んだのだ


あえて高く振り上げ、フェイクをかけた?


こいつ、知識があるのか―


ヤツはにんまりと笑い、そのまま俺を地面に叩きつけた


ぐっ…

頭に、全身に、強い衝撃が走る

そのまま精神だけどこかへ飛んでいってしまいそうだ


―痛い、俺は勝てない…のか?


初めての衝撃に体が動かない

そんな俺を見下ろし、アムンストは両手を高く振り上げ、気味の悪い笑い声を出す


そのまま俺を潰すつもりか


死―そんな言葉がよぎる


胸が冷たい、苦しくなる


嫌だ、まだ俺は、死ねない、約束を、俺の、俺の大切な―


ふっと小さい影がよぎる

次の瞬間、アムンストは目の前から消えていた


な、なにが起きた?


わずかに動く頭をおこし、横を見る

かなりの距離吹き飛ばされたアムンストが呻き声をあげ、よろめいている


「そんなんで勝てると思ってるの?」

俺の前を小さな影が、プラーミャが通り過ぎる


アムンストは辛うじて体勢を起こすが、かなりのダメージを受けたようだ


「大切なのは覚悟―こいつを、本当に殺すという決意」

そう言いながらプラーミャは走り出す


速い

あっという間に距離をつめる


すばやく地面を蹴り、アムンストの胸に鋭い蹴りを入れた

鋭い一撃は、黒く大きな怪物の胸を一撃で貫いた


アムンストがけたたましい雄叫びを上げる


耳をつんざくような叫びを残し、それは倒れた


プラーミャは表情1つ変えず、そいつを見下ろしていた


強い…


痛む体をなんとか起こし、倒れたアムンストを見る


すると突然それはぐにゃりと歪み、黒い鎧が溶けていった


嘘だろ、どうして―


俺は絶句した

そこには息絶えたごく普通の男性の人間の姿が残った


プラーミャのほうをパッと見る

彼女はなおも表情1つ変えずそれを見ていた


そして俺を見て言った

「これが覚悟。君にはできる?」


その瞳は、先程同様まっすぐで、俺を試すようだった


「…知ってたのか、真実を」

プラーミャを睨む


彼女の表情は変わらない

「もちろん、私たちはこれとずっと戦っている。これを殺すのが私たちの使命」


ふつふつと怒りがこみ上げてきた

抑えられない


たとえどんな理由があろうと、人を殺すようなことがあっていいと言えるわけがない


「他に方法はないのか?この人を生きたまま助ける方法は!」


「ない。アムンストの時点で殺さないと、こいつらはひたすらに他の人間を襲い、運命を乱す」


「だとしても人を殺す理由にはならないだろ!」


「ならば彼らを野放しにしろと?放っておくと他の人間が死ぬだけ。なぜ人間がこうなるのかはわからないけれど、殺すしか術はない」


プラーミャは無表情のまま返答する


耐えきれなかった

なぜこんな風に断言する?

なぜ表情1つ変えず、人を殺せる?


「お前それでも人間かよ!!」


ピクリとわずかにプラーミャの表情がひきつった


はっと我に返る

俺は今…なんてことを言ったんだ


プラーミャは何も言わなかった


そして少し間をおいて、瞬き1つせず、右腕の手を覆いつくす布を破った


俺はまた絶句した

…人間の腕ではなかった


プラーミャの腕は肘から下にかけて、恐ろしい形をなし、爪は鋭く尖り、全体が黒く硬い鱗のような―化け物のような手だった


プラーミャはなおも俺を見つめ、静かに答えた


「…人間じゃないよ」




第7話へ続く

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