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ゼーン ~戦火に咲く灰色の花~  作者: ちゅーおー
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第3話

視点:バレーノ




不思議な格好をしたその人は、長めの銀色の髪で隠れた顔を見せ、にこりと笑う

「私がメディウムのボス、レガトゥスといいまス」

不自然にも感じる陽気な口調でそう言った

笑みをうかべた顔には、わずかにしわが見える


レガトゥスはずいっと顔を近づけ、興味ありげにじろじろと俺を見る

「ふんふん、この子で間違いありませんネ。よく見つけてきました、プラーミャ」

嬉しそうにまた笑う


「でもレガトゥス、彼にはあれがない」

プラーミャはまだ不満そうだ


「確かに不思議ですガ…私は確かに【聞いた】のですから間違いありませン。研究対象としますネ」

コツコツと足音をたてながらレガトゥスは広間の奥へ進む

それを俺たちは追う



広間の先にはレガトゥスの書斎であろう部屋があった

こじんまりとした部屋の奥には大きな机と椅子があり、片隅で暖炉がパチパチと優しく音をたてている

四方の壁を覆うように大きな棚があり、そこには分厚い本がぎっしりと詰まっていた

レガトゥスは奥の椅子ににどかっと座り、脚をくんでこちらを見る


「さて…少年よ、君はなにをしにここに来ましたカ?」


「…え?」

一瞬聞き間違いかと疑う

この人はなにを聞いている?


「君はプラーミャが差し出した道を選びここへ来た。その目的はなんですカ?」

レガトゥスはまだ陽気な口調のままだ

それにより余計に違和感を覚える


それは―


「我々はそれぞれある目的のためにここへ集まり、力をあわせていまス。君には…なにがありますか?」


―わからなかった

突然与えられた日常とは違う道

あの時俺はその道を進もうと思った

そこに理由なんてあったのだろうか?

俺の「これまで」を終えようと思ったことに、目的なんてあったのだろうか?

ただ与えられた自由に…すがりついただけなんじゃないか?


が、ふと俺はあることを思い出した

そしてそれを伝えるべきだと思った


「…約束」


レガトゥスは眉をぴくりと動かした

俺は続ける

「俺は誰かと、なにかを約束した。それが何かも、誰とのかもわからない。ただ、果たさなくちゃダメなんだ。今自由になったからこそ、俺は…探さなくちゃならない。全てを」


口をついて言葉がでてくる

ここまで自分の意見を言ったのはいつぶりだろうか


レガトゥスは黙ってそれを聞いていた

そしてあごに手をあて、考え込むような様子を見せる

そして口を開いた

「ふむ…少なからずとも、それは私たちと共にいれば次第に見つかるでしょう。歓迎しますヨ。少年、バレーノよ」


なにを根拠にそんなことを?

なぜ俺の名前を知っている?

聞きたいことは山ほどあった

だがきっと全ては答えてくれないのだろう

俺は何よりも気になることを尋ねた


「メディウムとは…なんですか?」


レガトゥスは嬉しそうに笑った

この質問をすることを待っていたようだった


「そうですネ…では少年よ、質問をします」


「君の目の前を、大きなトロッコが走っていきまス。その先には3人の人間がいまス。しかし彼らは気づいていない。このままでは彼らはトロッコにひかれてしまうでしょう」


「あなたの目の前にはまた、トロッコの走る線路を変える操縦機械がありまス。それをただ一度、動かせば彼らの命は助かりまス」


「しかし線路を変えた場合、その先には一人の人間がいまス。君が道を変えた時、その一人の人間は死ぬことになりまス」


考え込む俺をレガトゥスは試すような目で見る

「3人の人間が死ぬことを運命と思い、ただ見ていますカ?それとも、3人の人間の運命を変えるために、一人の人間の運命を犠牲にしますカ?」


…答えられなかった

どちらも命であることに変わりはない

どちらが正解だといえる?


レガトゥスはにこりと笑った

「私たちが目指すのは、どちらも選ばないことデス」


ふっと俺の後ろに人影ができた

振り返るとそこには黒髪にわずかな赤髪のまざったストレートな髪に、口を覆う大きなマスクをつけた若い男がいた


「…少年よ、焦ることはない。少しずつ、真実をしるといい。まずは己の目的―【約束】を探してみなさい。その先に我々の知る真実が待っている」


背後からレガトゥスの声がする

顔は見えないが、レガトゥスはなおも笑っているのだろうと思う


…結局はなにもわからなかった

これから探せということか


「オース、彼に新しい服と装備を。いつまでもそのような格好ではネ」


「はい」

オースと呼ばれる男はそれだけ言うと、俺を見て、書斎を後にしようとする

ついてこいということか


「あぁそうそう」

レガトゥスがわざとらしく俺を呼び止める


「物語にはなにが大切だと思いますカ?」


「…?なんでしょう」


レガトゥスのほうを見ると、やはりレガトゥスはにこにこと笑っている

「どのような物語でも必ず存在するもの。それは【前提】デス。全ての始まりを示唆し、それが正しくなければなにも始まりませン」


「少年よ、君の【物心ついた時から奴隷】という前提は、【ほんとうに正しい前提】ですカ?」


またしてもレガトゥスは何も話していないことを知っていた

いったいどうしてだ?

そして俺の【前提】が正しいかどうかってどういうことだ?


レガトゥスはそれきり何も言わず、近くにあった書物を読み始めた

自分で考えろということか


まだわからないことだらけだ

それでもレガトゥスは確かに俺にヒントを与えている


―やってやる

自分で答えを探していってやる


プラーミャはこちらを見て、少し心配したような表情を見せた


俺はそんなプラーミャをおいて、オースの向かった道へと歩きだした




第4話に続く

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