「どうして」な朝
「……じ……ん」
「ん……」
「起きれますか藤本さん」
看護師さんの声で目が覚める、あれ僕はどれくらい眠っていたんだろうか、確か弘樹がお見舞いに来ていたはずだ。
「どうかされましたか?」
「あ、いや今日は……」
ずっと固まっていたからだろう、看護師さんはカーテンを開けながら尋ねてきた、僕は疑問に思う事を聞いてみた。
すると何か戸惑った表情になり僕から目を逸らし花も何も添えられていない花瓶を見つめ口を開く
「……今日は日曜日ですよ」
日曜か。弘樹がお見舞いに来る日は決まって土曜日の仕事がない日だ、弘樹もきっと驚いただろう。弘樹が来ている時に呼吸困難になるのは滅多にないと言っても初めてでもないな、ここ最近は比較的に多い。少しは慣れてくれたかもしれないな
日数は曖昧だが「入院してから二年半は経つのね」鈴子が言っていた事を思い出す。
「中島さん毎回こんなこと聞いてすみません」
「いいんですよ、私たち看護師の役目でもありますから」
看護師の中島さんは僕が入院した時からの担当の人。五十代後半らしい中島さんはこの病院の中ではベテランと言ってもいいだろう。
患者思いで常に気を配れる素晴らしい人だ。鈴子ともよく話したりするみたいで仲がいい。
「ありがとうございます」
「やっぱりカレンダーはお嫌い、ですか?」
「そうですね、ここ数ヶ月でもっと嫌になりました」
日付が分かってしまうのを見ると哀しくなったり自分が自分じゃいられなくなる、そういった感情が込み上げてくる、それが最近では悪化し始めてきた。
だから僕の病室にはカレンダーも無ければテレビも置いてない朝になれば中島さんがカーテンを開けに、お昼近くになれば昼食や鈴子が来て、夕方には帰る。
そんなサイクルで僕は成り立っている。
なんて我が儘な大人なんだと我ながら思う所も勿論ある、だが身体の自由がない、うまく動かせない生活が続くと精神的にもくるし、当時なんともないと思ってた事だから余計腹が立つのかもしれない。
子供のように暴れまくった事も何度かあるみたいだ。
こうやって曖昧な事だって沢山あるんだ、先生がいうには記憶障害らしい
どうして……
「あっ藤本さん!これ」
いきなり声を張った中島さんに驚きつつも手にしている物をみてキョトンとしてしまった。
「あの、これは?」
「消しゴムです」
それは見れば分かる。聞きたいのはそういう事ではないと表情で訴えると悟ったのか
「お見舞いに来ていた男性の方が藤本さんが起きたら渡してほしいと手土産だと頼まれまして」と補助してくれた。
あいつ何を考えているんだ手土産と言ったらフルーツか本の類だろうが
流石に中島さんに文句は言えないからお礼を言って受け取った。にしてもどうして消しゴムなんだ
まさか僕がいま書いているノートの事を知っているのか?誰にも見せていないのにどうして
あぁさっきから「どうして」しか言っていない気がする今度会ったら問い詰めてやろう