訪問者
ーーコンコン
扉を叩く音が聞こえそれに対し「はい」と返事を返した、看護師さんなら一言添えて入ってくるけど今回は違うみたいだ。
咄嗟に今まで書いてたノートやらを隠すように自分とベッドの間にしまった
「よう、元気か?」
「あぁお前か」
さっき僕の日記に出てきた中学時代の唯一の友達というのがこいつ弘樹だ。
昔から突然消えたり現れたりする不思議君でもある、言ってる意味が分からないかもしれないけどそういう奴なんだと思ってくれていい。
「なんだよ折角お友達がお見舞いに来てやったっていうのに、もっと嬉しそうにしろよな」
「何言ってんだ、嬉しいぞありがとうな」
「……バッカ照れるだろーが!」
いい歳して口尖らせたと思ったら顔真っ赤にしてブツブツ何かしら言っている、地獄耳だったら耳をすまさなくても扉とベッドの距離でも聞き取れるだろうけど僕は地獄耳でも無ければわざわざ耳をすまそうとも思わない。
昔と言っても初めて弘樹と話した日に聞いた事がある、それを思い出したらわかる。弘樹の事だ大した事は言っていない。
「ほんと変わらないな」
「栄司は変わったな、昔はピュアだったぞ」
「お前は中二病だったな」
「や、やめろよっ黒歴史だ!」
「僕の引き金は中一の後半だ」
「おいピュアを否定しろよ」
あれは中学一年生の頃だったか。
新しい制服、ガヤガヤ騒ぐ生徒、小学校からの顔見知りが多くいた中、やけにうるさい奴がいた。
「俺様が一番カッコいい!」とかほざいてる奴
周りもドン引きしてたっけな、コソコソ何か言ってる奴もいた、それでも本人は気に止めてなくてこいつ凄いなと思った時にはもう僕から話しかけてたっけ
普段そんなキャラじゃないから自分でも驚いた。
「お前、ヒーローだな」
何故かこんな言葉をかけていた、今考えたら何がヒーローなのか教えてほしいぐらいだ。
でもこの時の僕はこいつと仲良くなりたいと思ってた。そこには嘘はなかった。
「ひ、ひーろー?俺が、ヒーロー」
「おうカッコいいぞ」
この後だ、この後に小声でブツブツ言うもんだから聞き取れなくて聞き返したら
「なっ何でもねーよ!お前と俺はもう友達だからな」
顔を真っ赤にさせながら僕から遠のいて行った。
名前も聞かずに去って行った不思議君を眺めながら苦笑した。それから僕も教室に向かうとその教室には不思議君もいたんだ。
それがこいつ、弘樹との出会いだった。
違和感なく話せるようになって毎日連むようになって弘樹のブツブツ言うのは照れた時の癖なんだと分かるようになって一層面白くなった。
弘樹が言ってた事がある「お前は見た目と台詞があってない」と、僕の見た目がクール、無口、一人称が俺ってイメージで……と耳が痛くなるほど言われた。
だから初めて話しかけられた時戸惑ったらしい。
一人称は僕だし、ツンケンしてそうなのにしてない。
そのギャップが弘樹を照れさせる原因だったらしい
「弘樹の方がピュアだったよな」
「はぁ?何処がだよ」
僕に照れちゃう所とか、なぜ男に照れなきゃならないんだか……
「ところで手土産は」
「……ねぇよ」
その一言に弘樹を睨むと
「か、買ってきます……」
一歩下がりダッシュで何処かに行ってしまった。
病院の廊下を走ったらダメだぞ、僕は心の中で注意しておいた。僕達も歳を取ったものだ。
「ッ……」
しんどいな、ここ最近は痛みもないと思ってたから油断した、正直弘樹と話してる途中も痛みがあった。
一番長い付き合いである弘樹だからこそ弱っている僕を見せたくなくて我慢をしていたけど、あれはきっと気づいてた、それであの行動をとったんだろうな。違うか弘樹は素で出来ちゃうから凄いんだ。
鈴子と弘樹には敵わない。
ベッドにうずくまる僕は生きてる感じがしなかった。苦しみと闘いながら意識を手放した。