この日記に、綴ります〜贈り物〜
「僕は、幸せだ。なぁ鈴子はどうだ?」
「ねぇ?その質問は愚問よね」
あぁそうだった。これは僕たちの間では聞くまでもない事だったんだ、暗黙の了解というやつだろう。
そうは言っても今誰かが、いや僕が言葉にしていなかったら確実にずっと言う事も彼女からの答えを出す事も出来なかった。
何故だか無性に問いたくなった、偶々なのか、今日という日だからなのか、このタイミングで少し寂しくなったのかもしれない、違うなこのタイミングだからこそ寂しくなったんだ。
そんなの分かりきっている事だった。
「さようなら」
口にしてしまったらきっと、いや必ず君は涙を見せるだろうからこの別れ方はしないと決めた。
僕たちは昔からこの「さようなら」という言葉に敏感で、苦手だった。
理由があるのかと聞かれても二人共“特に無い”と答えると思う、だがそれは嘘だ。
ちゃんと理由ならあるんだ、ただ言いたく無いだけなんだ。
前に彼女が言っていた事がある
「怖いんだ」とこの時見た表情が全て崩れていく瞬間だったすごく印象的だったんだ。
だから僕はこの言葉を選ばない。
こんなにも好きで今にも叫びそうに胸が苦しくてあと寸前で溢れかえって暴れるんじゃないか。そう思わせる感情がある。
別れ方は沢山あるけど僕たち二人で決めた言葉が一番しっくりくる、他の人に言ってもダメなんだしっくり来ない上に安心感が違う。
「別れ方なんて何言っても同じだろ?」
稀にこういう奴がいる。
分かってないんだ、その言葉の重さを、理解しようとしてないんだ。
例え意味が同じだと言われようが僕は大切に思う。
こんな事を真剣に考える様になったのはやっぱり彼女と出会ってからだ。
彼女はいつでも何に対しても真っ直ぐだった、それは今でも変わらず残っている。
彼女と関わりを持って僕は女々しくなったかな。
「またね、ばんちゃん」
お見舞いに来てくれた彼女を僕はいつも通り玄関口まで見送った。彼女もまた僕と同じ様に
「またね、おやすみなさい」
一言残して帰って行った。彼女は僕が“ばんちゃん”とあだ名で呼んだ事に気づいていないのか、それとも無視をしたのか。
ーーいや前者だな
ここ最近お見舞いに来ても遠くを見ている事が多い気がする、何を考え込んでいたんだろうか。もしかしたら勘付いているのかもしれないな、昔からよく僕の嘘を見抜くのを自慢気に話していた事がある。
その上、僕の嘘は下手だと言われた事もある。
「いつになってもひとりで戻るこの時間は慣れないな」
ーーガラッ
真っ白に統一された病室。
橙色の夕日が僕を包む様に差し込む。
まるで彼女見たいな夕日だ。
帰り際に見せた彼女の後ろ姿が刹那気で妙な違和感を感じた、それが目に焼き付いて離れてはくれなかった。
そんな最後は嫌だ
僕はベッドに座り、今朝、病院内のコンビニで買ったB5のノートと鉛筆を取り出して一呼吸した。
「はは、書くだけだというのに緊張するな」
右手で持つ鉛筆がギュッギュッと音が鳴るのがわかる。それぐらい手汗をかいて緊張しているんだと見なくとも想像できる
彼女が少しでも幸せだと感じられる様に、愛されてると思える様に
僕は、僕なりに綴ってみるよ。