こんな夢を観た「スカイ・ドライブ」
どうやら、ここはよその惑星らしい。それも、地球などより、はるかに文明が進んでいる。
クルマにはそもそもタイヤなどついていない。ハチソン・エンジンで、常に浮遊しているのだ。
地上にも道路はあるが、そこを走るクルマは滅多にない。中空に描かれたホログラム道路「スカイ・ロード」が主な車道だった。
スカイ・ロードは、地上5メートルから設けられている。ここは「レベル0幹線」と呼ばれていて、さらに5メートル毎に「レベル1」「レベル2」のレーンがレーザーで描かれていた。
最上階の「レベル2001ウルトラ幹線」に至っては成層圏へと達し、宇宙船クラス以外は、乗り入れができない。
宇宙船どころか、普通車両の免許も持たないわたしは、いまだにスリッパーを乗り回していた。
カヤックくらいの小型コミューターで、原動機付き自転車に相当する乗り物である。
当然のことながら、レーン規制は最低区分で、レベル0の走行しか許されていない。時速60キロ以内、道路同期なしのマニュアル運転のみ、と制限だらけだった。
「人の頭の上をもたもた走っても、つくづくつまんないな」わたしはパッドを握りながらぼやく。
ハンドルの代わりに、ゲームのコントローラーそっくりなパッドを使って、すべての操作を行う。スリッパーなのでボタンの数も少なくてすむが、これが普通車両だと、数十も扱わなくてはならないので大変だ。
わたしが免許を取らずにいるのは、そうしたことも理由の1つである。
狭い街中、ホログラムの描き出す立体映像だけを頼りに運転する。60キロまでしか出せないとは言え、対向車線をはみ出しでもすれば、ひどい事故につながりかねない。普通車両のように、道路同期が使えないので、オート・ドライブもセイフティー・モードも無効なのだ。
レベル0最大の難関、「町外れのつづら折り」を慎重に抜けていく。谷間に作られたこのコースは、タイトなカーブが延々と続いていた。オート・ドライブを持たないスリッパーがコース・アウトする事例は、後を絶たない。
コース・アウトをしても、崖にぶつかりでもしない限り、事故にはならない。道路をはみ出して、空中を走るだけだ。
けれど、通行区分違反として、中央交通局へただちにデータが送られ、後日、反則金を徴収されてしまう。
わたしもこれまでに何度かはみ出したことがあり、決して安くはない出費に憂き目を見たものだ。
そんなやっかいな道をやって来たのには理由がある。
先にも言った通り、わたしのこのスリッパーは、高度5メートルの制限道路しか走行できない。
ところが、町の外に広がる荒野には、「フリー・スペース」と呼ばれるエリアがあった。
ここでは、スリッパーであっても、高度300メートルまで好き放題に飛び回れるのだ。
普通車両の立ち入りも、エマージェンシー・カーを除いて、ここでは禁止されている。そのこともあって、いつ来てもスリッパー乗りで溢れ返っていた。
「町外れのつづら折り」の出口が見えてくる。その先には分岐点があって、普通車両は速度を緩めることなく、まっすぐ走っていく。
わたしは方向指示器を点滅させ、「フリー・スペース」と書かれた方へ曲がった。周囲の視界を遮っていた崖は消え、扇状に広がる草原へと飛び出す。
この瞬間の開放感が何とも言えない。
遠くでスカイ・ターンの練習をする、見慣れた色柄のスリッパーを見つけた。
「おーいっ!」わたしは呼びかける。昔ながらの友人だった。
「よおっ!」向こうもわたしに気づき、パッシングで合図を送ってくる。
わたし達は併走しながら、近況を報告し合い、それが済むと、うなずいた。
「じゃあ、本日も参りますか」友人がウインクをする。
「今日は負けないよ」わたしもパッドを握りしめた。
これから300メートルまで駆け登り、一気に地上目がけて落ちていく。どちらが地上すれすれまで耐えられるか競争をするのだ。
「いくぜっ!」
「うんっ!」
わたしは加速ボタンを固く押し込んだ。