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破壊の王  作者: けせらせら
37/41

破壊の王 8.4

 相模原は相変わらずだった。

 部屋のなかはタバコの煙で充満している。

 今日も奥さんはどこか外出しているらしく、家には相模原しかいないようだ。

「不思議な人だね、君のお兄さんは。何を考えているのかわからないが、君の名前を名乗り、君のフリをして私に会いにきた」

 相模原はソファにあぐらをかき、足の裏をボリボリと掻きながら、前に座った亮平に言った。

「兄は何か言っていましたか?」

「成川の話をしにきただけだよ。表向きはね」

「表向き?」

「うん、彼には何かもっと違う理由があったのかもしれない。そんな感じがしたんだ。それが何なのかは、私にもよくわからなかったけどね」

「それにしてもよく兄と私の違いがわかりましたね」

「あまりバカにして欲しくないもんだなぁ。これでも人間観察は得意なほうなんだよ。人間というのは外見半分、中身半分。たとえ見た目が似ていようとも、性格の違いは声や話し方、立ち居振る舞いに自然と表れるもんだ。君とお兄さんとではまるで違っているじゃないか。もちろん兄弟として似ている部分も多々あるけどね」

「そんなもんでしょうか?」

「人間はなかなか自分のことがわからないもんさ。自分自身に向き合う機会なんて滅多にあるもんじゃない。君は自分自身の姿を客観的に見たことがあるかい? 自分の声を聞いたことがあるかい?」

「いや……」

「私は月に一度は妻にビデオカメラで私自身を撮影させることにしている。そうすることによって私という人間を正確に掴むことが出来るからね。君もぜひやってみたらいい。新しい世界が広がるはずだ」

「はぁ……」

 どう答えていいかわからず適当に答える。

「ところで事件のこと、何かわかったかい? 新聞には成川のところで働いていた老人が犯人だというようなことが書かれてたけど」

 ぐっと身を乗り出して相模原が訊く。

「警察ではそう考えているようです」

「ほぉ、そうなのか」

「でも、まだはっきりと決まったわけじゃありません」

「すると他にまだ可能性が? ひょっとして君は他に犯人がいると考えているのか?」

 相模原は鼻からタバコの煙を噴出しながら、好奇心に満ちた子供のような眼差しで亮平を見つめた。

「まだわかりません。それにしても相模原教授は成川さんの古くからの親友なのでしょう?」

「そうだよ」

「こう言っては失礼ですが……相模原教授はどこか……面白がっているような……」

「別に楽しんでいるつもりはない。ただ、非常に興味はある。これは良くないことなのかな?」

 相模原は首を捻りながら顎をさすった。

「いえ……良くないということじゃないんですが……」

「君の言いたいこともわかる。知り合いが死んだんだから、もっと悲しまなければいけないのかもしれないねえ。いや、こう見えても成川が死んだことは非常に残念だとは思っているよ。でもね、私がどんなに悲しんだところで成川が生き返ってくるわけでもないだろ。それにね、最近になって感じるんだが、ひょっとしたら成川は初めからこうなることを予感していたんじゃないかと思うんだ」

 相模原の意外な言葉に亮平はハッとした。

「予感していた? 殺されることをですか?」

「そうだ」

「何か思い当たることでもあるんですか?」

「引っ越していく1ヶ月ほど前だが、成川が一度訪ねてきたことがあった。特に何か用事があったわけでもなく、1時間ほど雑談をしていっただけでね。ただ、あの時の成川はどこか悟りを開いた僧侶に似たような雰囲気があった。今にして思えば、あれは私への別れの挨拶だったのかもしれない。2年も前のことだったんで、すっかり忘れてしまっていたよ」

「それじゃ弟さんの帰国と成川さんの死は関係しているんでしょうか?」

「さあ、それは何とも言えないよ。弟が帰国するってことも帰り際にちらっと話しただけだしね」

「話というのはそのことですか? それを教えてくれるために私を呼んだんですか?」

「話? ああ、そうだった。君に渡すものがあったんだ」

 相模原はタバコを咥えたまま立ち上がると、部屋の隅にある棚のなかから小さな箱を一つ取り出してきてテーブルの上においた。

「これは?」

「つい2日前ばかりに大学の友人と会ったんだ。それで成川の話もいろいろしたんだが、そこで面白いことを思い出した。まあ見てみなよ」

 相模原に促され、亮平はその箱を開けた。

(これは……)

 それを目にした瞬間、亮平の頭のなかに雷が走ったような光が見えた。


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