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破壊の王  作者: けせらせら
31/41

破壊の王 7.1

   7


 手詰まり感が強い。

 成川正文のことも花柳真一のことも、そして二人がなぜ殺されなければならなかったのかもまだ何もわかっていない。

 わかったことといえば、花柳が成川を脅して自らの仕事に資金提供させていたということと、それ以外にもいろいろ恨みを買っていたということだけだ。

 だが、これ以上、いったいどう調査を進めればいいのか、それがまるでわからない。

 しょせん――

(俺はにわか探偵に過ぎないんだよな)

 初めからそんなことは自覚している。それでも調査を進めていくうちに、少しずつだがこういう仕事をやっていくのも悪くないという気持ちになっていたことも事実だ。

 何よりも――

――私を守ってくれる?

 道場里瑠子の声が頭のなかに蘇る。

 もし、犯人が住川秀吉でないならば、彼女もまた狙われる危険がないとはいえない。それだけは必ず避けなければいけない。

 いったい犯人は誰だろう。

 里瑠子は亮平とずっと一緒にいて、犯人からは除外出来る。

 それ以外ではどうだろう?

 もし、山口さやかと栗原加奈の二人が共犯だとすれば犯行は可能だ。だが、彼女には二人を殺す動機などありはしない。

(動機……)

 動機の面でもっとも可能性があるのは村上かもしれない。しかし、村上が食事に加わったのは花柳が席を立って20分ほど経ってからだ。しかも、すぐに飲み潰れてしまって、成川を殺すことは不可能だろう。木村にしても同じことが言える。席を立ったのは、ほんの5分程度。それで二人を殺してさらに成川の身体をバラバラに切断することなど出来っこない。

(まてよ……)

 二人が殺されたのが同じ人間の仕業と考えることがそもそも間違っているのではないだろうか。

 犯人が一人ではないと考えたらどうだろう。

 村上なら花柳のことを殺す時間は十分あったろう。そして、木村にも同じことは言える。だが、それでも二人に成川を殺し、あの状況を作り出すことは出来ない。

 いや……

 一人、成川を殺し、あの状況を作り出すことが出来る人間がいる。

(花柳だ)

 花柳ならば、成川を殺しバラバラに切断して火をつけることが出来る。

 ひょっとして花柳は始めからそれを狙って、自分から席を立ったのではないだろうか。その後、成川がやってくることを見越していたのかもしれない。

 時間を気にする成川の姿を思い出す。

 二人はもともとあの時間に会うことを約束してあったのではないだろうか。

 ならば、花柳は誰によって殺されたのだろう。

 花柳を殺すのに、それほどの時間は必要とはしない。


   *   *   *


「よく短い間にそこまで調べたじゃないか。立派立派、さすが我が弟だ」

 亮平の話が終わると、朝宮はそう言って手を叩いてみせた。どうしてもこの男の一挙一動が不快に感じられる。

「からかわないでください」

「からかってなどいない。これだけ調べることが出来るなら立派に探偵としてやっていけるさ。本気でやってみるつもりになったかね?」

「そんなつもりはありませんよ」

「もったいないな。事務所を開くつもりなら資金を提供しても構わないんだがね」

 朝宮の言葉を無視するように、亮平は新聞社に残された当時の記事のコピーを鞄の中から取り出し朝宮に差し出した。

「28年前の事故のことは新聞社で調べてみましたが、それほど多くの資料は見つけられませんでした」

「ふぅん。この事故がなければ成川正文が遺産を引き継いだかどうかはわからなかったということだね」

「そうですね。しかし、この事故が今回の事件に関わっているのかどうか……」

「自信がないのかね? 花柳真一が成川正文を強請っていたことは事実なのだろう?」

「成川正文さんが君江さんを殺したのであればそれもわかります。けど、そんな事実はありません。むしろ逆ならわかりますが……」

 もし花柳真一が成川君江を殺したのだとすれば、逆に花柳真一が成川正文に弱みを握られていることになる。

「似てると思わないか?」

「え? 何がですか?」

「私たち兄弟とこの成川兄弟だよ。そうは思わないかね?」

「そうですか? 二人とも世間に認められた存在ですよ。あなたのような幽霊じゃない」

 亮平は皮肉をこめて言った。

 朝宮はそんなことなど気にする素振りも見せずに――

「そんな書類上の話をしているわけではないよ」

「なら、どういう意味です?」

「自分で考えてみたまえ。前から思っていたが、君は目に見える表面のことしか見ようとしない癖がある。もう少し丁寧に物事を見る癖をつけたほうがいい」

「何かわかってるなら言ってくださいよ」

 だが、朝宮はそれには答えずに――

「一度、その屋敷を見に行ってみたいものだな」

「どうしてですか?」

「君は『現場百辺』という言葉を知らないのか? どうだね? 明日にでも一緒に行ってみようじゃないか」

「そういう意味で聞いたわけじゃありません。事件を調べているのは俺なんでしょ? どうしてあなたが現場に行かなきゃいけないんですか?」

 亮平は突き放すように言った。どこか楽しげに観光にでも誘うような口ぶりで喋る朝宮に我慢が出来なかった。

「冷たいことを言うもんだな。もっと客は大切にしたほうがいい」

「客?」

「調査費用を出しているのは私だ。ある意味、私は君が探偵を始めるにして最初の顧客というわけじゃないか」

「探偵になどなりませんよ」

「何にしても明日、一緒に行ってみようじゃないか」

 亮平の意志などまるで意に介さぬ様子で朝宮は笑った。


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