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破壊の王  作者: けせらせら
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破壊の王 4.2

 屋敷の裏口のドアを開けると、小さなプレハブ小屋が建っているのが見えた。

 杉の木に囲まれているため、おそらく裏口に回らなければこんな小屋があることすら気づくことはないだろう。

 亮平は桐野の共に、濡れた石畳の上を歩いてプレハブ小屋に近づいていった。

 桐野がプレハブ小屋のドアを叩く。

「住川さん! いらっしゃいますか?」

 反応はないが、それは桐野も当然予測していたようだ。すぐにドアを叩くのを止めると躊躇うことなくドアを開く。

 開いたドアから狭い部屋のなかが一目で見渡すことが出来る。

 部屋の中央に電気炬燵が置かれ、その上にトレイに載せられラップをかけられた食事が置かれている。部屋の隅には薄っぺらい万年床のような布団が敷かれている。部屋の奥には小さなキッチンが設置され、その手前には小さな冷蔵庫がチョコンと置かれている。

「誰もいないようですね」

 桐野が一歩部屋に足を踏み入れながら言った。亮平も後に続いて部屋に足を踏み入れる。確かに人の気配はまったく感じられない。

 大きな屋敷の裏手にあるため、日の光はほとんど入ることはないだろう。そのためか部屋のなかが妙に湿気っぽい。

「あれだけデカイ屋敷があるのに使用人はこんなプレハブ小屋か……」

 部屋をグルリと見回しながら桐野が呟く。

「どこへ行ったんでしょうね?」

「逃げたのかもしれませんね」

「逃げる?」

「もし、その住川秀吉なる人物が犯人なら、当然逃げていて当然でしょう?」

「まだ決まったわけじゃないでしょう?」

「そりゃ、そうですがね」

 本当に桐野は住川秀吉こそが二人を殺した犯人と考えているのだろうか。

 昼間の住川秀吉のことを思い出す。鎌を振り上げるあの細い腕。あんな痩せた老人の腕で大人二人を殺せるものだろうか。

 部屋を見ていると壁に貼られた写真が目に付いた。

 屋敷の前で小学生くらいの少女と手を繋いだ一人の老人。おそらく老人のほうは住川秀吉その人だろう。まだ、その顔は今日見た老人の顔よりもずっと若い。

 少女のほうにも見覚えがある。昼間、木村から見せてもらった写真の少女だ。

「これ……成川君江ですね」

 その声に桐野も近寄ってくる。

「成川君江? 誰ですか、それ?」

「以前、この屋敷に住んでいた成川家のお嬢さんですよ。高校の頃に事故で亡くなったって木村さんから教えてもらいました」

「よほど大切に思っていたんでしょうな」

 桐野はそう言っただけで、さほど興味がなさそうに横を向いた。「何も手がかりになるようなものはなさそうですな。それにしてもその老人はどこに行ったんでしょうね。まさか押し入れにでも隠れているわけでもないでしょうし……」

 桐野は部屋の奥まで歩いていき、本当に押入れの戸を開いて中を見る。だが、当然のようにそこに住川老人の姿はない。

「住川さんの身に何かあったのかもしれません」

「わかりました。至急、この付近を調べさせましょう」

 そう言うと桐野は急ぎ足で屋敷のほうへと戻っていった。

 ちょうど雲の切れ間から青空が覗き始めていた。


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