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その男、引きこもりに付き  作者: 祀木 楓
第1章 引きこもりの総司
4/5

夢の整理

 

 

 ゆっくりと目蓋を開く。


 目の前には、先ほどと変わらぬ天井が広がっている。


 変わらない!?


 どうして!?


 目の前の天井は、俺の家の天井ではなく、先程眠りにつく前に見た天井だ。


 やべぇ……夢から覚められねぇや。


 久しぶりに、焦りを感じる。


 早く起きて、時間限定のイベントをやらなきゃならないのに……参ったな。






「総司の目が覚めたのは本当か?」


「そうなの……さっき目覚めたのだけど……何だか変なのよ」


「変?」


「記憶が無いみたいで……私以外の事は、分からないみたいなのよ」


「記憶を無くしても、ミツは覚えているたぁ……さすが総司だな。目ぇ覚ましたなら、お前は少し休め。京に来てからずっと総司の看病していたから、ろくに寝ちゃあいねぇんだろ?」


「さすがは歳サンね……でも、大丈夫よ。姉の私が付いていなきゃ、総ちゃんが不安がるでしょう?」


「まったく……ミツは相変わらず、言っても聞かねぇなぁ。良く似た姉弟だな」



 聞き覚えのない男の声と、ミツ姉の声がする。


 何だか楽しそうなミツ姉の声に、俺は苛立ちを覚えた。



「総司……やっと目ぇ覚めたか。っと……俺を覚えてねぇんだったな。俺は、土方歳三。この新選組の副長だ」


「土方? 新選組の副長?」


「やっぱ、分からねぇか……仕方ねぇな。幹部を集めるか。ミツ、すまねぇが近藤サンに言って、みんなを集めてくれねぇか?」



 土方という男は、ミツ姉にそう指示する。


 ミツ姉は小さく頷くと、部屋を後にした。






 しばらくすると、数人の男たちが部屋にやって来た。


 みんなは部屋に入るなり口々に良かったと言い、俺の目が覚めた事に喜んでいた。



「おい、総司。この中に見覚えのある奴は居るか?」


「っ……ミツ姉だけ。そもそも、俺はソウジじゃねぇ……ソウシだ!」


「お前……てめぇの名すら分からねぇのかよ。ミツの事ぁ分かるのに……何だそりゃ」



 土方サンは深い溜め息をついた。



「まぁ良い。見ての通り……総司は木から落っこちたせいで記憶がねぇらしい。すまねぇが、初対面だと思って自己紹介してやってくれ」



 土方サンの言葉に、端から順々に名を名乗っていく。


 永倉に原田に斎藤に、藤堂に山南に井上等々……覚えるまでに時間が掛かりそうだ。


 ん?


 待てよ?


 この名前は確か……



「新選組!?」


「そうだ。新選組だ。ここがお前の居場所……お前があの日選んだ、お前の生きる道だ」


「俺は……沖田……総司なのか?」


「総司以外の何者でもねぇよ。お前は正真正銘、沖田総司だ」


「嘘だろ……ミツ姉はもしかして……ミツ姉じゃねぇのか?」



 ミツ姉と同じ顔のこの女。


 もしや、ミツ姉とは別人?



「何言ってやがる。ミツはミツだ……お前の姉じゃねぇか」


「そう……だよな」



 この夢は本当に複雑だ。


 ただの夢だと分かっていながらも、俺は今のこの状況を整理する。



 俺は今、沖田総司になっているらしい。


 沖田総司は木登り中に、木から落っこちて意識を失っていたそうだ。


 で、目覚めたら沖田総司の中に俺が居て……って、もう既にグチャグチャで訳わかんねぇよ!


 とにかく、ミツ姉はミツ姉らしい。


 さっきは変に勘繰っちまったが……俺を総ちゃんと呼ぶし、きっと本物だ。


 ただ、これが夢だから……ミツ姉が俺の知らねぇ奴らと親しかったりと、少し変なのだろう。


 よし……納得した。


 要するに……夢から覚めるまでは、俺は沖田総司として過ごせという事なのだ。




「分かった。俺は沖田総司だ。ミツ姉の弟で、新選組の……沖田総司なんだな」


「総司……思い出したのか?」


「いや、思い出したとかじゃねぇけどさ……まぁ、仕方ねぇもんな。沖田総司として過ごすよ」


「そう……か。まぁ、隊務やら稽古やらで記憶もその内戻るだろうよ」



 土方サンは、俺を眺めながらそう言った。



「なぁ……剣でも握らせりゃあ、何か思い出すんじゃねぇの?」


「平助にしちゃあ、名案だな。そうか……道場に連れて行ってみるか……」



 平助という奴の一言で、みんなの視線が俺に集まる。


 余計な事を言うんじゃねぇよ……俺は、怪我人という大義名分でもって、ゴロゴロして過ごしたいんだ。


 そもそも、剣道なんて出来るわけねぇよ。


 竹刀を見た事すらない。



「……無理。俺は行かねぇよ!」



 そう言うなり、布団を頭までかぶった。



「くだらねぇ駄々こねんな!」


「なっ……何すんだよ。出来ねぇモンは出来ねぇの!」



 俺が布団をかぶると、すかさず土方サンが布団を剥ぐ。


 このやり取りを何度か繰り返したところで、土方サンの怒りは頂点に達した。



「いい加減にしやがれ!」



 土方サンは一言怒鳴ると、俺を布団ごと担ぎ上げた。


 為す術の無い俺は抵抗も虚しく、そのまま道場へと運び込まれるのであった。



 夢でまで、運動なんざしたかねぇよ……














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