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その男、引きこもりに付き  作者: 祀木 楓
第1章 引きこもりの総司
1/5

プロローグ

 

 

 起きがけに、パソコンを起動させる。


 それは、俺にとっては欠かせない起床後の行動だ。


 パソコンが立ち上がりきるまでの間、冷蔵庫をあさり朝食となりそうな物を探した。



「何もねぇのかよ……」



 俺は、溜め息混じりに呟く。


 そんな時、慌ただしく階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。


 きっと、姉が起きてきたのだろう。



「あれ? 総ちゃん、起きてたんだ」



 これが俺の姉、美月(みつき)だ。


 俺よりも十も離れているせいか、母親の様にお節介なところもあるが、家族の中では好きな部類に入るだろう……多分。



「総ちゃんって呼ぶなよ! 俺は総司(そうし)だって言ってるだろ?」


「総ちゃんは、総ちゃんだよ。アンタが生まれた頃からそう呼んでるんだから、今更変えられないでしょう?」


「だから……」


「はいはい。分かった、分かった。沖田総司の点足らずの、そうし君」


「一言余計なんだよ」



 俺はこの名前が嫌いだ。


 「総司」と書けば誰もが「そうじ」と呼び、大半が「新選組」の名を挙げる。


 訳のわからない人物名を文字って名付けられた俺には、大迷惑な話なのだ。



「そういや、総ちゃんは何か食べた?」



 もう呼び名が戻ってるし……と心の中で呟くが、きっとこれ以上言っても無駄だろう。


 そう思い、反論の言葉はグッと飲み込んだ。



「今起きたから、まだ……」


「そう。じゃあ、これで何か食べて? 今日は夕食を作る時間が無いから」



 ミツ姉は、俺に五千円札を手渡した。



「あぁ……ありがとう。ところで、ミツ姉は夜勤?」


「そうだよ。明日は昼頃まで帰れないかなぁ……色々やる事があるからねぇ」


「ふぅん……婦長も大変だな」


「婦長じゃなくて、師長!」



 ミツ姉の仕事は看護師だ。


 三十路を目前にして、大病院の師長にまで登り詰めた。


 確か、精神科とか言ってたような……


 就職後も努力を重ね、様々な資格を取得していたのだから、それもまぁ頷ける。


 何にしろ、俺と違って出来の良かったミツ姉は、両親の自慢の娘だった。



「ねぇ、総ちゃん。バイトとかしてみようって思わないの?」



 化粧をしながらミツ姉は尋ねる。



「バイト? しても良いけど……だったら、ミツ姉が見付けてきてよ」


「もう……いつも、そればっか。お父さんやお母さんが死んだら、総ちゃんはどうするの?」


「そしたら、ミツ姉に寄生する」


「私だって、ゆくゆくはお嫁に行っちゃうのよ?」


「だったら、弟付きでも良いって言ってくれる医者を探しなよ。ミツ姉は綺麗なんだから、余裕でしょ?」


「何で医者なのよ?」


「裕福な生活が出来そうだからな……俺が!」


「っ……もう、総ちゃんったら!」



 頬を膨らませるミツ姉を見て、俺は大笑いした。





 ミツ姉が出掛けるとすぐに、俺はパソコンに向かう。


 優しいミツ姉はの事は確かに好きだが、その反面ミツ姉と話した後は気が滅入るというのも事実だった。


 美人で頭が良くて仕事もできる姉。


 それに対して、俺といったら……誰がどう見ても、人生の敗者そのものだ。


 学校には中学から行けなくなった。


 理由はよくあるイジメだ。


 空気が読めないと言われ、コミュ障だと罵られ……いつしか、学校に行けなくなってしまっていた。


 それでも、高校は県内一の低レベル全日制高校に合格し、心機一転通い始めたのだ。


 しかし、それも長くは続かなかった。


 結局、どこに行っても同じ。


 俺は本当に、コミュ障なのだろう。


 一学期の内に通信制高校へ進学したが、月に二回の登校日ですら、俺には通う事が出来なかった。


 その後は、この通り……立派な引きこもりという訳だ。


 毎日好きな時間に寝起きし、好きなだけパソコンに向かう。


 端から見れば羨ましいと思われるかもしれない。


 しかし、こんな生活で心が満たされる事など無いのだ。


 俺からすれば、元気に学校や仕事に通う人こそ羨ましい。


 ミツ姉が……羨ましく、妬ましい。



「今日は気が乗らないから……寝るか」



 起きて数時間しか経っていないというのに、俺は再び眠りについた。


 さすがはダメ人間だな……


 こんな役たたずの俺なんて、消えてしまえば良いのに……


 眠りにつく間際、そんな事を考えていた。




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