ブランコを漕いだもの
夏の訪れを告げる生温い風が体を撫でる度に、思い出すのです。あの山で起こった恐ろしい出来事を。科学だけでは割り切れない不可思議と、妄執に当てはめきれない不可解がこの世にはあるのだと、私は思い知らされたのです。
願わくは、今から私が話すような出来事が、皆様の身に降りかからないことを。
心霊スポットに行こう、という内容のメールが私の携帯電話に届いたのは、大学の夏休みに入ってから数日後のことでした。メールの差出人、仮にAは、これまでにも何度も心霊スポットに足を運んでいて、でもその度に見えなかったと残念そうに話すのが常です。私も彼と共に心霊スポットに行ったことはあるのですが、特段何かがあったわけでもなく、やはり幽霊なんて、霊魂の存在なんてないんだと改めて実感するだけでした。
だから私は、全く乗り気ではありませんでした。ところが、今回の心霊スポットは一味違うとAが言う。何でも、オカルト雑誌に掲載されているような有名な場所ではなく、小さな地域内にのみ伝わる心霊スポットだと言うのです。
私は半信半疑で、どうやってそのスポットのことを知ったんだ、とメールを送信しました。返って来たメールは非常に簡潔で、Bから聞いた、とただそれだけでした。
思わず首を捻ってしまいました。私もBと友達です。ですが彼は、幽霊の類が苦手なのか、それに関する話なんてしたことがありません。そんなBがどうしてそんなスポットを知っているのか、またAに話したのかが全く理解できませんでした。
再びAからメールが来ました。Bは大学に進学するまでその地域に住んでいて、前々からそのスポットに興味があった。しかし、一人で行くのは怖い。だから、心霊スポットが大好きな自分を誘った。メールには、そういった旨の内容が乱雑に書き込まれていました。
断る、という選択肢はなかったのかもしれません。断れば小心者とからかわれたでしょうし、小さな地域内のみに伝わる心霊スポットというものに、多少の興味が湧いてきたからです。
結局、私とAとB、そして三人共通の友人であるCの四人で、心霊スポットに行くことになりました。ちなみに、私たち四人は幽霊を見たことがありませんでした。だからこそ、行ってみたい、見てみたいと思うわけですが。
道中、Aは微妙に不機嫌でした。Bが、小さな地域といっても一面に田んぼが広がっているような田舎じゃないよ、と苦笑交じりに言ったせいでしょう。Aは外界から隔離された村や集落を想像していたようですが、実際は、コンビニもマンションも建っている、町の外れとでも表現できそうな場所でした。
ただ、静謐とは言えない、圧し掛かるような静けさがありました。活気がない、というべきでしょうか。私たちがその地域に到着したのは十九時を回った頃で、人通りが少なかったことも関係あるでしょう。しかしそれにしても、ここで人が生活をしていると言う実感がいまいち湧きませんでした。
何だか、社会から見放されたような場所だな、と私はそんな風に思いました。私たち四人が交わす会話が、ここに在り得る音の全てだと、そんな気さえしてきます。
「Bの家って、まだ遠いの?」
Aが、懐中電灯を手の中で弄びながらBに問いかけました。この懐中電灯は四人のお金で買った新品で、私は丁寧に扱うべきだとAに言ったのですが、Aの性格上それは叶いませんでした。
「ううん。もうちょっと。後、十分くらいかな」
「十分か~」
Cが若干うんざりしたように言います。というのも、電車を降りてからすでに二十五分程度歩いていたからです。景色の良い場所ならともかく、代わり映えのしない場所を歩き続けるのは精神的に苦痛です。私も正直、飽き飽きしていました。
「悪いけど、後十分我慢してくれよ。あ、でも、心霊スポットは見えて来た」
そう言ってBは、人差し指を上に滑らせました。その先には、山があります。今までマンションに遮られて一部が見えなかった心霊スポットが、遂にその全貌をさらけだします。
もっとも、それは本当にただの山でした。それは当然のことなのですが、威圧感というか、見ただけで悪寒が走るような場所を期待していた私とAとCは、少々がっかりしてしまいました。
「まぁ、登ってみないと分からないよな」
自分に言い聞かせるようにAがそう言ったことを覚えています。それからBの家に着くまで、私たちは一言も話しませんでした。
数時間後、私たちは山の麓にいました。Bの両親には、コンビニに行って来ると嘘をついています。Bの両親も心霊スポットのことは知っていて、正直に話すと反対されることは目に見えていましたから。
さて、こうして夜の山を間近で見上げてみると、存外不気味なことに気付きます。人間の領域ではない、と言いますか。いかな科学でも、立ち入るべきではない理があるのではないかと思わされるのです。漆黒に染まった森は、その理で武装しているかのようでした。
山道は狭く、四人が横になって歩くことは出来そうになかったので、私たちは二列に並びました。懐中電灯とリュックサックを持ったAとBが前列で、私とCが後列です。
「それじゃあ、B。この山がどうして心霊スポットと呼ばれているのか、その理由?いわく?を話してくれ」
傾斜を登っていることを感じさせない、実に弾んだAの声でした。それも仕方のないことでしょう。これまで私とAとCは、意図的にその話を避けていたのです。どうせなら心霊スポットか、その近くで聞きたい。これは、Aの提案でした。
Bは若干躊躇いました。しかしAの無言の要求に、渋々話し始めます。
「…この山をちょっと登った先に、開けた場所があってね。そこに、二台のブランコが設置されている……らしいんだ。でも、他には何にもない。ただ、錆びたブランコだけがあるらしい」
Aは力強く首を振って先を促します。私とCは顔を見合わせ、Aのハイテンションっぷりに少々呆れました。
「何十年前かは分からないけど、そのブランコで一人の少女が死亡した。少女は山に迷い込んでしまって、帰り道を探しているところだったらしい。そんな時に見つけたブランコで遊んでいる最中に地面に落ち、頭にブランコの椅子の部分が激突したって聞いてる。そんなんで死ぬのかなって疑問に思うだろうし、思ったけど、打ち所が悪かったんだってさ」
お決まりと言うか、お定まりと言うか、とにかくこの先のBの話は私の想像を超えるものではありませんでした。どこかで聞いたようでもあり、他の心霊スポットとは違う、特別恐ろしい何かがあったと言うわけではなかったのです。
「そんなことがあったんで、そのブランコを撤去することになったんだけど、作業に携わった人間が次々に謎の怪死を遂げる。お祓いは事前に済ませてたようなんだけどね」
「へぇ~……少女が怨霊になったのかな。でも、怨霊になるような理由なんてなさそうなのに」
Aの疑問に、Bが淡々と答えます。
「その少女は、自分が死んでいることに気が付いていないらしい。だからその少女は、私が遊んでいる場所を壊そうなんて許せない、って思ったのかも。その少女がブランコで遊んでいる事を示すかのように、風が吹いたわけでもないのにブランコが強く揺れたり、無邪気な笑い声が聞こえてきたり……まぁ、そんな噂がある場所なんだ」
Bが、話を一気に終わらせました。それまで夜風を受けてざわめく木々と、地面の土色しか見えなかった視界が開けたのです。
そこはかなり広い場所でした。青々と生い茂る草の絨毯が、眼前をどこまでも緑で染めています。いえ、思ったより近くに建っていたブランコを除けば、緑しかありません。他に遊具と言える物はなく、鬼ごっこやケイドロには最適な場所でしょうが、どことなくうら寂しさを感じさせる広場でした。
「……おい、何だあれ…」
横にいたCが不意に私の肩を叩き、低い声でそう呟きました。視力の低い私は気が付かなかったのですが、広場の中心に小さな何かが立っているようなのです。ブランコはひとまず置いて、私たちはその何かに近づきました。
それは、時代劇などでたまに見かける、お触書の看板でした。と言っても、お触書が張りつけられているわけではありません。ただ三文字。汚らしい黒色の三文字が、看板で踊っていました。
入ルナ
「…意味、わかんね。広場の中心にあるのに入るなって、おかしいだろ。普通は入口に建てとくべきだろ」
何と言うか、それはAにしてはまともな発言でした。いつものAなら、看板が広場の中心に建っている不思議を、好奇心に変えるのです。しかし今のAは、不快なものを非難するかのよう。その違和感が、私にとっては”入ルナ”の三文字より恐ろしく思えました。
と、突然Bが震えながら蹲りました。具合が悪くなったのかと思ったのですが、そうではないようです。Bは、看板の下に落ちていた何かを拾い上げました。
思わず、息を呑んでしまいます。Bが拾い上げたものは、人形でした。心霊体験では市松人形が定番ですが、Bが拾い上げた人形は月に代わってお仕置きする戦士です。
ただし、肩から上がありません。頭が、何かに喰い取られたかのように存在していませんでした。
私とBとCが言葉を失う中、しかしAだけは憮然とした面持ちで言いました。
「ああ、いるんだよな…心霊スポットにこういう人形を置く奴。まったく、なにが楽しいんだか」
Aはこれまでに何度も心霊スポットに足を運んでいますから、そういった経験があるのでしょう。
血糊が塗りつけられた人形よりかはマシだな、とAが一笑に付します。ただその眼は、やけに鈍く光っていました。Aの視線の先には錆びたブランコがあります。それは、夏の生暖かい風を受けて揺れていました。
「さてさて、そろそろブランコに乗るか」
Aは背負っていた鞄の中からレンズ付きフィルムを取り出し、私に預けました。
ブランコは二台あり、そのどちらで少女が亡くなったのかは分かりません。とりあえずAが手前のブランコに、Bが奥のブランコに乗ります。大人の体重を受けたブランコが、苦しそうにギィ…ギィ…と呻きました。
「それじゃ、撮るよ」
私がそう言うと、Aは指でブイサインを作ります。一方Bは緊張しているのか、ポーズもとらずにブランコに座っていました。
私はシャッターボタンを二、三度押し込みました。それからカメラをAに手渡し、手前のブランコに乗ります。Cも、無言で立ち上がったBに代わって、奥のブランコに腰を下ろしました。
実のところ、ブランコに座ったその際の記憶が驚くほど薄いのです。錆びた鎖に触りたくないな、と思ったことしか覚えていないのです。得体の知れない何かを感じたり、何かに囁かれた気がしたり、そういったことは一切ありませんでした。
フラッシュを数度浴びた後、私とCは立ち上がりました。
「うん。やっぱり幽霊なんていないんだな。Bには悪いけど、正直期待外れだった」
Cがからからと笑いながらそう言い、私も同意しました。”入ルナ”と書かれた看板や、頭のない人形を見た時は肝を冷やしましたが、それはあくまで人為的なものです。霊的で理不尽な恐さ、と言ったものは何一つ感じられませんでした。
「ああ……そうだな。うん、多分そうなんだろうな」
しかしAの同意は、非常に歯切れの悪いものでした。そして、少し急かすように続けます。
「写真も撮ったし、帰ろうぜ」
「え?もう帰んの?」
Cの意外そうな声にAは、いいから、と言って踵を返しました。この心霊スポットは何か違う、と本能で感じたようでした。
渋々Cが、しばらく一言も発していないBと私がその後に続きます。
数歩、歩いた時でした。後方から、妙な音が聞こえてきました。
ギィ…ギィ…ギィ…
ギィ…ギィ…ギィ…
その苦しげな音が、ブランコの揺れる音であることに気付くまで、数秒かかりました。しかし、どうにもおかしいのです。ブランコが風に揺られる音にしては、やけに重苦しいのです。
まるで、何かが乗っているかのような。
振り返るな。本能は、そう告げています。しかし怖いもの見たさと言うのでしょうか、今この時に振りかえらなければ一生確かめることが出来ないのかもしれない不可思議が後ろにあるのかと思うと、いてもたっても居られなくなるのです。
誰よりも早く振り返ったのがBでした。ただ、Bの眼には生気がありませんでした。黒の瞳が、周りの白を喰らい尽くすように、段々と大きくなっていきます。
Bは何を思ったのでしょう。背を曲げ上半身をだらりと前に倒したかと思うと、いきなり走りだしたのです。
僅か数十秒の間に起きた出来事を理解できず、私はしばし呆然としていました。怖いと言うより、恐ろしいと言うより、意味が分かりません。
「おい!!」
Aの大声で私は我に返りました。意を決し、振り返ります。
ゆっくりと、ゆっくりとブランコが揺れていました。しかしそれは、風のせいでも、ましてや霊のせいでもありません。Bが、虚ろな表情をしたBが、何も乗っていないブランコの椅子を手で押していたのです。
ギィ…ギィ…と、その音を愛しむかのように。
「何やってんだよ!」
Aが悲痛に叫び、Bの肩を掴みました。しかしBに反応はありません。どころか、いびつに歪んだ唇で、ひたすら不気味に呟くのです。
「しいか……たのしいか……たのしいかたのしいかたのしいかたのし」
私は反射的に、Bの体を力一杯引っ張っていました。Bを、一秒でも長くこの場に居させてはならない。そんな予感がしたのです。
Bを引っ張る私の手。その手首に不意に、ひんやりとした感触が走りました。見ると、小さな手が私の手首を掴んでいます。白い白い小さな手が、私を憎むように力を籠めています。
少女でした。きっと、少女でした。眼は異様に窪み、深い黒で塗られたかのようです。色素の抜けた真っ白の髪の毛は、風を受けても揺れることがありません。着ている服が真っ赤に濡れているせいで、あまりにも白い肌が酷く気持ち悪く感じられます。
少女の、三日月を模った紫の唇が、私の耳元で微かに動きました。
ジ ャ マ ヲ ス ル ナ
悲鳴すら出てきませんでした。Bを連れて逃げる、Bを連れて逃げる。その思考だけが、頭を駆け巡ります。Aも、そしてCも少女を見たのでしょう。今にも泣きそうな表情で、必死にBを引っ張っていました。
しかしBは微動だにしません。体格を考えると、一人の力でも簡単に動くはずなのです。なのに、三人の力を合わせても動く様子がないのは、明らかにおかしいことでした。
私は、未だに手首を掴んでいる白い手を見て、幽霊なんて現実にいるはずがないんだ、と強く念じました。それははっきり言って、逃避以外の何ものでもなかったと思います。
「幽霊なんて……いるはずがない!いるわけない!いてたまるか!」
念が言葉に、雄叫びになりました。いつの間にかAもCも、同じことを叫んでいました。
急に、Bの体が軽くなります。手首の冷たい感触もなくなっています。理由は分かりません。ですが、突如訪れた僥倖を察した私とAとCは全力でBを引っ張り、広場から必死に逃げだしました。
逃げるその途中、後ろからギィ…ギィ…と音が聞こえて来たような気がしましたが、私は振り返りませんでした。
この話はここで終わらせることが出来ます。また、べきかもしれません。
山から降りたBはすぐに正気を取り戻しました。それも、何事も無かったかのようにケロリとしていました。更に、ブランコを押していた時の記憶はなく、私とAとCは一斉に彼の頭を軽く叩いてしまいました。
現像した写真に、霊的なものは一切映っていませんでした。ブランコに乗っている時のBの顔が一番恐ぇよ、と茶化すくらいにしか役に立ちませんでした。
あれからしばらく時が経ちましたが、私たち四人は全員元気です。霊に憑かれたり、障られたりと言うこともないようです。
いえ、当然ないのです。あるわけがないのです。
ここからは、幽霊の怪談としては蛇足になるのでしょう。
これは、心霊スポットに行った翌日の話です。
私たち四人は、Bの家の近くにあるお寺の禅堂に居ました。禅堂の行き届いた清掃からは住職の真面目な性格が窺えたのですが、壁や畳に隠しきれない汚れがあり、清掃だけではどうにも出来ない歳月の歪みが見られます。
住職は、かなりの高齢ですが矍鑠とした人物でした。
私たちの話を黙って聞き終えた住職が、厚ぼったい瞼を二、三度下ろします。すぐにお払いをしてくれるのではないか、と期待していた私たちですが、しばしの沈黙の後、住職はふぅと息を大きく吐き出して言いました。
「それは……有り得んよ」
「有り得んって…!それじゃあ、これは何なんですか!」
Aが手首を見せながら、食って掛かります。Aの手首には、小さな手に握られたような形の赤い痣があります。私も、そしてCにもその痣があります。だからこそ私たちは、誰に否定されようと昨日の出来事が現実だと思わざるを得ないのです。
「それでも、有り得んのよ」住職はAの手首の痣を細い目で見ながら言いました。「あのブランコで死んだ少女なぞ、存在しておらんのだから」
は?と私たち四人の疑問符が重なりました。住職は抑揚のない声で、私たちの疑問符に答えます。
「もう、四、五十年前になるか。その頃のこの寺の住職は、ある危惧を抱いておった。この地域には、特別な産業も、人を惹きつける名所もない。都市部からはかなり離れていて、開発の手も望めない。このままでは人が離れて行く一方だ。そこでその住職は、幾つかの手を打った。その一つが、○○山に迷い込んだ少女が山に愛され神になった、という創作の昔話を伝播させることだった」
「○○山って、今は心霊スポットになってるあの山ですか?」
Bの言葉を、住職が首肯しました。
「その住職は、私財を全て投げ打って○○山を購入した。そしてそこに社を作り、この寺に保管されている資料を捏造してまでその話に信憑性を持たせようとした。○○山を、神の住まう場所として認識させたかったのだ。無論、そうはならなかったがな。今よりは神への、自然への畏怖が残っていたとはいえ、近代化の時代だ。そうでなくとも、降って湧いたような話を、信じるものは居なかっただろうが」
住職が一息つきます。私たち四人は、黙って住職の次の言葉を待っていました。
「あれはいつだったのか……うむ、正確には思い出せない。○○山に小さな公園を作ろう、と言う話が持ち上がったのだ。その頃にはあの住職は亡くなっていて、彼の息子が○○山を格安で売却しようとしていた。まぁ、そこら辺の権利やら開発やら利潤やらはよく分からんが、とにかく公園が作られることになったのだ。ボロボロの社は解体され、まずブランコが建てられた。しかし、工事は突然頓挫した。詳しい理由は分からない。風の噂で、開発の資金を提供していた人間が、その提供を打ち切ったからだと聞いている。そもそも、平野ではなく山に遊具付きの小さな公園なんて、不自然な話だがな」
住職が、そこで笑いました。初めての笑みでした。生きてきた年月の深みを感じさせる皺が蠢き、白く太い眉が少し下がっています。不気味にも、慈しむようにも見える笑み。私は、頭を振りました。住職を、じっと見ていられなかったのです。
「それから、山に迷い込んだ少女がブランコで亡くなった、と言う話が広がり始めた。最初は、そのせいで工事が頓挫したと言う話と一緒だったのだが、いつの間にかその話は消えていた。そしてこの話は、この地域に住む者なら全員知っているほどまでに広がったのだ。誰が言い出したのか分からない。何のためにこの作り話を流したのか、も。…分かったかね?公園で死んだ少女なぞ存在せんのだよ。儂が思うに、君たちが見たと言う少女は、君たち自身の恐怖心が生み出した幻想だろう。その痣も、恐怖と言うストレスに押し潰された脳が引き起こしたものではないか?強いストレスで肉体が死ぬ、と言う事象が確認されているくらいだからな」
私たちは、渋面を浮かべました。住職の言っている事が分からないわけではないのです。”入ルナ”と書かれた看板や、首のない人形は、私たちに恐怖を抱かせました。その恐怖心が、心霊スポットにいると言う少女の幽霊を、現実として見せてもおかしくはないのかもしれません。
しかしあの時、私の手首を襲った冷たさは人間のものではありませんでした。それに、私の手首に確かに刻まれているこの痣は、脳が引き起こしたものとは思えないのです。
そんな私たちの不満を察した住職が、もしくは、と言葉にします。
「その少女は、人間が作り上げたものかもしれん。ブランコで亡くなった少女の原型と言えるのかもしれない、四、五十年前の住職の創作が、その執念が。突然工事が中止になった、その不思議が。ブランコで亡くなった少女の話を信じる、この地域の人間の心が。その話を確かめようと○○山を訪れる人々の面白半分な心が。その全てが、存在しない少女を現実のものとして作り上げるのかもしれん。これほどまでに様々なものを創造してきた人間だ。幽霊の一つや二つ、どうということもないのかもしれんな」
どこか満足そうに、住職はそう言い終えます。
その後私たちは、住職から軽いお祓いを受けて、帰路に着きました。一応住職に、”入ルナ”と書かれた看板や、首のない人形のことを聞いたのですが、そんなものは知らないとのことでした。
手首の痣が消えた今となっては、あの少女が何だったのか、私には何一つ分かりません。あの時手首に感じた冷たさは、恐怖心が生み出したものではない。そうは思うのですが、確証は持てないのです。
この後、私とAはまたしても不思議な出来事に遭遇するのですが、それはまた別の御話になります。
恐い話まとめブログを読んで触発された結果がこれです。興ざめかもしれませんが、70%くらいしか実話ではありません。
寺生まれのTさんに会って「破ァ!」してもらいたいです。