歯車
メインヒロインが登場させられなかった……orz
「倉崎……」
「なにかしら?ショウ君」
目の前で優雅に腰かけながら、右手で紅茶のカップを持つ倉崎結衣。その姿に無性にイラつきを覚える。だが、仕方がないはずだ。こちらは本気で死ぬと思ったのだから。
「……聞きたいことがある」
「だいたい予想通りよ、ショウ君。で何かしら?こちらもだいたい予想できているけどね。フフフ」
どことなく、悟った雰囲気をもちながら笑う倉崎。その姿はどこか既視感を覚えるが、今は関係ない。それよりも、聞きたいことが山ほどある。だが、まず確認しなければならないことは、
「何処だ、ここは?」
ここが何処か。それが目下ショウが一番聞きたいことだった。
岩が開いたり、周りが全て金属でできたものであったり。どこからどう考えようが誰かの住まいである可能性はない。
一体何に使われているのか。
「場所については心配ないわ。ここは貴方の住む霧神市から、三十分程。帰ろうと思えばすぐ帰れるわ、フフフ」
どうやら相手は、質問の意味を間違えたらしかった。
いや、それは位置も当然聞きたかったのだが、それよりもここは何なのかという、何という施設なのかという事が気になったのだが。
「……俺が言いたいのは、此処が「分かっているわ、此処がどんなところか、と言ったところでしょう、先の質問は」……」
分かっていたのに、違う意味で答えたのか。
ここにきて更に冗談を重ねる倉崎に憤りを感じる。しかも、先ほどの冗談は冗談に聞こえなかった。顔の色も一切変えない。
そこにあるのは、大人が子供をからかう時のような余裕の笑みだけだ。
……訂正しよう。
車の中で表情さえ見えていれば分かると思ったが、あの時表情が見えていたとしても嘘が見抜けたかは分からない。恐らく、同じ笑みを浮かべ続けるだろう。この警官、いや本当に警察の者かは分からないが、本当に相当な手練れだ。
見た目からは想像できないが、かなり場慣れしている。
倉崎はショウの警戒が高まったのを、楽しむような目で見ている。倉崎は紅茶を一口含むと、花の柄が描かれたカップを左手のソーサーの上に置いた。
「……ここが何処か、そうね。これは国家機密レベルに重要な問題になるのだけれども、聞きたい?」
それ程までに重要なことなのか……?
この遊び心が満載の、子供が妄想する要素を詰め込んだように見える、この場所が?それを聞こうと、ショウが口を開こうとすると、
「知ったら私たちに協力してもらうわ」
知らない方がいい。ショウの頭で警戒音がけたたましく鳴り響く。
倉崎の言葉は、知ったら戻れないと同義だ。何かは分からないが、これには関わらない方が良さそうだ。
その旨をショウが伝えようとすると、またしても倉崎に先手を打たれる。
「ちなみにもし知らないでいい、といった場合はここまでの記憶の全消去よ。やってみる?生まれたての経験がもう一度味わえるわよ」
「……」
「ちょうど、最新の取除記憶装置が届いてて試験運用の相手を探していたのよね~」と追加する倉崎。
記憶の消去。取除記憶装置。
聞こえは非常に恐怖を誘う物だが、実際はそうではない。
2064年の今現在では、精神科の必物としてその名を飾っているくらいだ。ただ、それによって起きている故意的記憶消去を行うものがいることが今の問題となっている。
そこは仕方がない、いつの時代だって快楽的犯罪者は存在している。
今のショウにとっての問題は、目の前のこの人物がそんなことを平気でやりかねない、様な気がする事だ。
当然有りえないことなのだが、先ほどの経験(車の暴走)からして、ギリギリまではやる女だ。
その巧みな言葉で精神的に追い詰め、気絶させてから記憶消去。くらいなら平気でやってのけるだろう。
最初の会話の時と言い、主導権を握られっぱなしな相手の精神的追い詰めに耐えられる自信がショウにはなかった。
「それに」
「もし、この仕事を完遂してもらえるのなら、全て免除してもいいわ。本来貴方が受けるべき、
禁錮約300年の刑罰を」
倉崎のその言葉に、ショウの警戒心は最大に引きあがった。そして凄まじいまでの動揺がショウを襲う。
「……日本にそれ程に長い刑罰はない」
「そうだったかしら。でも終身刑、いえ、死刑であることは確実よね」
「青少年保護法で……」
「日本は法律が緩くていいわね。でも世界がそれをで許すかしら?もっとも世界に影響を与えた四人の子供達、子供の形をした災厄の一人である貴方を。ああ、そんなに怖い顔しないで。まだ国には報告してないわ。まぁ、ここで断られたらどうなるか。想像はできるわよね?」
詰んだ。確実に。
そこまで知られているのなら最早自分の死は免れない。
いや、もしかしたら更に恐ろしい目に遭うかもしれない。それこそ死んだ方がマシと思うような目に。
その鍵を倉崎に握られている。ショウは一転、攻めから受け身に転じさせられる事となる。
「……何が目的だ」
「最初に言ったでしょう。協力してほしいのよ、私たち、『テラーズデターレント』に――――」
倉崎は、勝利の笑みを浮かべ、言い放った。荒月翔はこの瞬間、倉崎たちへの協力が余儀なくされた。
誰もが知らず知らずの内に世界を大きく変える。これはその一つの光景だった。
『Hacking・to・the・world』episode8:歯車
このままだと次も説明回で潰されそうな……。