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Hacking・to・the・world  作者: 阿多田佐助
It is easy to attach a clor to colorlessness.
7/12

危険領域

 車に乗せられ、三十分は経っただろうか。未だ、本部とやらにはつかない。それは大して問題ではないのだが、ショウにはそれよりも気になることがあった。




「何で目隠しをされなければならないんだ………」



 あの後、車に入った途端渡されたのは目隠し布だった。若い女警察は、運転席に座ると振り返りもせずに、




『それで目隠しをして。ちょっと見られたら困る物があるのよ』



 先ほどの礼儀正しい警察の姿はどこかへ消えた。どうやらこちらが素らしいが、急に口調や態度を変えられると此方としても対応に困る。



 ショウはこの場は下手に騒ぐよりも寧ろ、学校でのスタンスをとった方が良いと判断し、素直に目隠しを着けた。



 だが、目隠しをされてから三十分も経つと、流石に不安になる。

 警察と言われ、のこのこついてきてしまったが、もしやこれは誘拐の類なのではないだろうか。そう勘ぐってしまっても誰も責めることができないであろう。




「………後どれくらい掛かるんだ?」



 下手に騒がないとは決めたが、何も、何も喋らないという訳ではない。せめてどれ位かかるか聞くくらいは構わないだろうと思っての一言だったのだが、




「もう少しね。そう、ざっと十分てとこかしら」

「そうか」



 それならいい。どのみちこれが誘拐であっても今更じたばたしたところで、なんの意味もないだろう。

 それなら大人しく無駄な体力を使わない方がいい。

 そもそも目隠しのせいで誘拐など考えてしまったが、家には大金などない。何よりも彼女はあの時自分の名前を知っていた。ショウの身の周りのことを考えると誘拐の線はまずないと言っていいだろう。



 そのことに僅かながらに安心感を覚え、そっと脱力する。

 後十分と言っていたし、それまでくつろぐとしよう。

 ショウは自分なりの楽なポーズをとり(腕と足を組む)十分後の到着を待った。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 十分後……。



「……」






 三十分後……。



「……十分じゃなかったのか?」






 一時間後……。



「……おい」

「なにかしら?」

「十分はどうした……」

「ああ、確かに真っ直ぐいっけば十分だったでしょうけど、貴方に場所を悟られないため回り道をしているのよ」



 なら何故十分といった、という言葉を喉もとで飲み込む。

 ……まずい、相手のペースに乗せられている……。そもそも本当は十分で辿り着く距離に無いかもしれないのだ。

 目が見えていたのなら相手の表情の変化で嘘かどうか見抜けたかもしれないが、今は目隠しにより相手の表情は見えない。



 ……此処まで考えての目隠しだったのならと思うとゾッとする。もしそうなら、この女性は相当の手練れだ。



 ショウが心の中で女性への評価と警戒心を引き上げていると、車が停止しエンジンが止まる。




 ……着いたのか?



 その可能性を頭で考えると、再びエンジンがつく。

 その行程に何の意味があったのだろう。たかが、数秒のエンジン停止。耳からのみの情報でも信号に引っかかっている訳ではないことが分かる。




 ――――なら一体何故?




「……倉崎、だったか?何かあっぐあっ!!」



 その理由をショウが運転手倉崎に聞こうとした時、急激な加速感、Gがショウを体を襲い、シートに叩きつけられる。

 背後にあったのが柔らかいシートではなく硬い壁だったりしたら、本日二度目の肺から全ての酸素が出される経験が味わえたであろう。




「おい!!倉崎!!」

『後十分くらいよ』

「そんな事は聞いてない!!何故いきなり加速を……!!」

『後十分くらいよ』

「倉崎……?」

『後十分くらいよ』



 何を言っても同じ言葉しか発さない倉崎に不信感を抱く。

 何が起きているのか?

 あたってほしくない推論が頭をよぎる。

 思い浮かぶのは小さいころに本屋で読んだやまんばの童話。坊主がやまんばから逃げるためにトイレに札を貼り、あとちょっとあとちょっと、と……




「倉崎!?」



 目隠しを勢いよく外し、運転席にいるはずの人物を確認しようとする。そして考える限り最悪の事態が目の前に広がる。




『後十分くらいよ』



 運転席は無人。どこにも倉崎の姿はなかった。

 倉崎が座っていたシートに身を乗り出す。するとそのシートのヘッドに何かが巻き付けられているのが分かった。それを確認するために手を伸ばそうとした瞬間、さらに車が加速し再びシートに体が叩きつけられる。

 その勢いは先のものより強く、いくら柔らかいシートでもその衝撃を受け止めきることはできなかった。



 その結果、ショウは本日二度目の肺からすべての酸素が吐き出される経験をする。

 だが、それにかまっている暇はない。再度運転席に体を乗り出し、ヘッドに巻き付いている物の正体を確認する。

 黒く、五センチもないであろう大きさのそれは、巻き付いているわけではなく、ベルトか何かで固定されている様だった。それを力任せにヘッドからむしとる。その特徴的な形状のそれは、




「ボイスレコーダー……」

『後十分くらいよ』



 ご丁寧に返答機能が付いているらしかった。

 いや、そうではなく恐らく返答という目的を果たすために録音機能が付けられているのだろう。しかも切羽詰まった状況で、このムカつくセリフは応える。

 だが、今はボイスレコーダー等に構っている暇はない。即座に運転席に座り、計器の状態を見る。そこに示されている速度は、




「百……四十キロ!?」

『後十分くらいよ』



 本格的にボイスレコーダーに構ってはいられなくなった。

 両手を空けるためにボイスレコーダーを後部座席に投げる。そして空いた両手でハンドルを握った。

 車の運転などゲームで数回かじった程度だ、簡単に本物を、しかも時速百四十キロで暴走する車など扱えるわけがない。

 だが、何もしないよりかは安心感があった。





 しかしその安心感は一瞬にして崩されることとなる。




 目の前に有ったのは、ここはどこの映画の撮影現場だ、と言いたくなるほどの絶壁。

 ゴツゴツした岩肌、ところどころ飛び出る木の根らしきもの。そしてそこに向かって突っ走る時速百四十キロの車。



 どこをどうとっても絶望的な状況だった。もはや諦めたショウは運転席に深く腰掛け、




「終わった……」



 一言だけ呟いた。

 後ろから『後十分くらいよ』という声が聞こえる。この距離でも反応することに軽く驚きながら、自分を殺す要因となったその人物の声が逝く前に聞く最後の言葉なのかと思うと、信じていない神の非情さを呪いたくなる。





 車はそのスピードを緩めず、そのまま岩肌に突っ込んだ――――。





『Hacking・to・the・world』episode6:危険領域デンジャーゾーン




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