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Hacking・to・the・world  作者: 阿多田佐助
It is easy to attach a clor to colorlessness.
4/12

透明感

大幅改稿。

「ショウ君」




 誰かが少年の名前を呼んだ。

 この日初めて呼ばれた少年の名前。その名を呼んだ人物は綺麗な紅い髪をもつ少女だった。

 透き通るようでいて、子供のようなあどけなさを残す声で少年の名前を呼んだ、声の主は、少年の席に近くに立ち少年を心配そうに見下ろしている。



 少女の名前は杞紗原美優(きさはらみゆ)。美優は教師でもなければ、少年のクラスのクラスメイトでもない。



 美優は学校で孤立している少年にとって、数えるほどしかいない少年に話しかる人物だった。

 最も、少年がそれに応えるかどうかは別なのだが。

 



 そして、ショウ君と呼ばれた少年。荒月翔(あらつきしょう)。それが、色無き少年の名前だった。




 美優は心配そうな瞳でショウに問いかける。




「………ご飯、食べた?」



 ショウはその少女に目を向けると、この日初めて言葉を発した。




「……………食ってない」



 それは声量が小さく、低いため聞き取りにくかったが傍に居た美優には聞こえたようで、




「ダメだよ、ご飯ちゃんと食べなくちゃ。元気でないよ……」



 ショウが持っていたカロリーメイトに目をやり、眉をひそめる。




「お昼もそんなので……。栄養がつかないよ」



 そして、その手に持っていた黄色い包みをショウの机の上に置く。




「これ。食べて」



 ショウは机の上に置かれた黄色い包みに目をやった後、自分の手の中にあるカロリーメイトの箱を開けた。



 美優はショウのその行動に僅かに涙をためる。そしてそれを手で拭うと気丈にも笑顔でショウの方を向いた。




「…絶対、食べてね………」



 そう、一言だけ残し、美優は教室を出て行ってしまった。

 少年、ショウはその様子を光の無い目で見た後、机の上の弁当箱に目をやり、カロリーメイトを口に含んだ。美優の好意を裏切るその行為に教室にいた生徒たちが、眉をしかめる。



 そしてその中の一人がショウの前まで来て、ショウに怒気を孕んだ声をかけた。




「何やってんの?アンタ。杞紗原さん泣いてたわよ………」



 その圧迫するような威圧感をもつ声を発した少女をショウは興味なさげに一度見ただけで、それからは窓の外を見ながら、カロリーメイトを口に含み始める。




「相変わらずシカトって訳?それがかっこいいと思ってんの?」



 その声には明らかに挑発の意味が込められていたが、その相手を挑発する様な言葉さえ、ショウの耳には届かなかった。

 自分が相手を挑発し有利になったと思い込んでいた少女は赤面する。当然ながら羞恥ではなく、怒りによるものである。

 そして何を言っても無駄だと悟ったのか、方に入れていた力を抜く。そして最後にショウを睨んだ。




「最低ね、アンタ」



 その言葉を最後に少女は、自分のグループに戻っていく。



 戻った少女に周りの女生徒たちが話しかけ始める。どうやらそれなりに人望はあるようだった。



 見たことがない顔だが、クラスメイトの顔さえ覚えていないショウが他クラスの、しかも異性の顔と名前を覚えている訳がない。

 ショウはその女生徒を脳内で過去のものとし、二つ目ののカロリーメイトを口に含んだ。



 結局、それ以降ショウに話しかけようとする者はいなかった。



 カロリーメイトを食べ終わり、ショウは顔の向きをそのままに窓を見る。

 窓の外に広がる風景は、全体的に透明感のあるものだった。それもそのはず。この学校がある場所はこの町においても、比較的都市に近い。

 そのため、ショウが住んでいる住宅街と違い、2064年という時代に相応しい光景だった。



 半世紀前から見れば、SFと言われるような光景だが、そこには空飛ぶ車もないし、想像されていたような、歩けないほどに太った人物がいるわけでもない。実質その光景は、その素材と透明の部位が増えたこと以外、半世紀前と対して差はなかった。



 その景色を見ているといつの間に時間が過ぎ去ったのか、昼休みの終了のチャイムが鳴った。

 そのチャイムにショウはびくりと反応し、器用に鼻で溜息をついた後、机の中にしまっていた本を取り出す。



 それを見た担任教師は、もはや嫌悪すら出さず、ショウの存在を無視した。

 日直が冊子に書いた連絡を、言っていたがその連絡を聞きもせずに、ショウは黙々と本のページをめくり続けた。その様子は午前の者と大して変わらないが、ショウが読んでいる本は、午前の物とは違い、一度も読んだことがないものだった。

 そのため、ショウはあまりに本の世界に入りんでいた。



 そのせいで授業開始のチャイムを聞き逃す程に。



 普通の授業なら、ショウの事を教師も無視するのだが、唯一ショウを無視しない教師がいる。

 その教師にショウは僅かながらの危機感を憶えていた。

 というものもその教師、日常的に過剰暴力なのだ。そしてその暴力の専らの矛先がショウだった。



 そして、その教師の授業は木曜日の五時限目にある。そう、先ほどのHRの後。つまり今。

 


 そのことにショウが気づいたときには既に遅かった。



 ショウの額に何かが直撃し、脳に無視できぬダメージが奔る。そのダメージは頭蓋を割らんかという衝撃を残したままショウの全身に奔り、そのままショウ自身の体を椅子から吹き飛ばす。



 一番後ろというショウの席が仇となった。

 椅子から投げ出されたショウの体は、二メートルもない、教室の後の壁に激突する。今度は激突の衝撃により、肺から全ての酸素が外に吐き出される。




「かっ……ハッ…」



 呼吸が粗くなる。ショウはチカチカする視界の中で自分を吹き飛ばした物を捉える。



 それは恐らく円柱の形であろう細長く白い謎の物体。2064年、それの存在を認知するものはごく僅かだが、半世紀前の人々が見ればこう言うだろう。



 チョークと。



 石灰でできた、もはや砲弾と言ってよいそれを投げつけた帳本人はというと、手首のみを曲げたままショウにその鋭い眼光を送っていた。




「私の授業で本を読み続けるなど、いい度胸だな。荒月」



 その教師の名前は咲式麗華。自分の為のことのみ、校内最高の厳しさを持つ教師であり、学校生活において何事にも無関心なショウが唯一苦手とする教師である。






『Hacking・to・the・world』episode3:透明感ザ・クリアthe clear.








曲げてるのは手首だけなので、麗華さんは手首のスナップだけでショウを跳ね飛ばしたわけです。




怖っ!!

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