男の子はいつまでたっても男の子
総合評価が100超えてました。あざまーす。
「なあ、ゾネ。みんな異様に初心者に優しくないか?俺は、生き馬の目を抜くような世界でだと思っていたからなんかこう、しっくりこなくてさ。初心者なんていい鴨だろうに」
あのあと、リンの監督役はアニタに、徹の監督役はゾネに決まった。
リンはたまった経験値を消化してレベルアップしてから挑むということで、徹は一足先に迷宮に向かっていた。
「そう言う奴らもいないではないけどな。初心者なんて基本的に金持ってないし、奴隷にして売り飛ばそうものなら訪問者ギルドからまったが入るさ」
「え?ゲオルグのおっさんそんなことしてくれるの?」
「そりゃそうだ。ギルドにしてみれば、俺たちは迷宮から魔石とういう資源を掘り出してくる炭鉱夫さ。それが、資源を掘らずに炭鉱夫同士のもめ事を起こして数を減らそうってんなら手も入れる。それに、初心者を食い散らかすようじゃあ、この仕事に未来はないからな」
「ああ、なるほどね。荒くれ者の集まりっていうか、みんなこの仕事にプライド持ってんのね」
「ったりめえだろ。こちとら、命はってんだ。それで、この勝負、勝つ算段はついているのか?」
「んー基本に忠実に行こうと思うよ」
「基本?」
「んむ。モンスター狩りでの金策!つまり、狩るスピードが落ちないギリギリの強さの敵を延々とかり続ける!これだ!」
徹の頭は基本的にゲーム脳である。
故にネットゲームでの金稼ぎのセオリーをそのまま実行しようとしていた。
というよりは、ほかに手段がなかった。
今回の勝負は、迷宮においての稼ぎという制約がついているし、時間もない。
レアアイテムを狙うにはリスクが高い上に、その情報もなかった。
「その手しかないな。ルール上、効率のいい稼ぎ場なんて教えられんし、そんなものを教えたら、俺のパーティのやつらから文句が来る」
「期待はしてないよ。ただし道案内はよろしく」
「それくらいだったらいいだろう。引き受けた」
そういって二人は迷宮に姿を消した。
ヴァニル・クランの前には学習装置―経験値をステータスに振り分ける装置を使い終わり、一息ついたリンの姿があった。
その隣には、アニタの姿も見える。
「どう?レベル上がった?」
「はい。3ほど上がって4になりました」
「それはすごい!見せてもらってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
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Name リン・クライス
Level 4
Age 15
Job none
HP 310
MP 950
Str 40(8↑)
Vit 32(7↑)
Int 97(8↑)
Dex 25(1↑)
Agi 36(8↑)
Mnd 22(3↑)
Luck 21(1↑)
Skill 天賦の才 武人 エルフの子孫
薙ぎ払い 鼠殺し
装備 鉄の剣
皮の鎧
皮のブーツ
皮の小手
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薙ぎ払い(active)
範囲攻撃(範囲は武器依存)
範囲内の敵複数に対して攻撃を加える。
通常攻撃の約7割のダメージを与える
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鼠殺し(Passive)
鼠系モンスターに対して攻撃力上昇、防御力上昇
一撃殺判定あり(2%)
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「あら、スキルが二つも増えたのね。これだったら低階層での戦いが一気に楽になりそうね。それにしても、平均的にステータス上げたのね」
「あの…だめでしたか?」
「いいえ、あなたが好きなようにすればいいわ。私にできるのは少しのアドバイスだけだもの。それよりさっさと行って、1階層の敵をあの男の前で皆殺しにしてあげましょ」
アニタは徹のことが気に入らなかった。
昨日のあの時からゾネの興味を一気に持って行ってしまったからだ。
あんなにひどいステータスをしても、全くゾネの興味は失われなかった。
あの神輿を一人で持ち上げる力を見れば、ステータスには表れていない秘密があるのは確かだろうが、面白くはない。
「それなのですが、2階層に行ってみようと思います。先ほどためしに2階層で戦闘をしてみたのですが問題なくこなせました。行けると思います」
「うん。わかったわ。ただし、私が危ないと判断したらすぐに1階層に戻るのよ?いい?」
「はい!アニタお姉さま。よろしくお願いします」
徹は目の前のカク猿という、大型の青黒い毛並みを持った猿のような獣と向き合っている。いや囲まれているといった方が正しいだろう。
「☤」
徹は左前方のカクエンに青白い炎の塊と飛ばした。
一切の予備動作もなく、たった一音によってとなえられたその魔術は完全にカク猿の意表を突いた。
狙われたカク猿は、奇声を発することしかできず、炎に焼かれて嫌な音を立てて蒸発する。カク猿がいた後には魔石が一つ、コロンと転がり落ちただけだった。
しかし、徹の攻撃はそれでは終わらなかった。
カク猿が奇声を発したと同時に地面をける。すでに『身体強化』がかかっている体はやすやすと迷宮の天井にとどき、空中で体を反転させた徹は天井を軽く蹴った。
狙うはさっき後ろにいた個体。自由落下+蹴り足の勢いを殺さずに愛刀『月』をふるう。
『月』はまるで大根でも切るような感覚で、カク猿の頭蓋を真っ二つに割った。
(神崎さんが、特殊機能の付与を全くせずに、ただ切ることだけを念頭に打った一振りか…さすがというべきかな)
頭蓋を真っ二つにしたカク猿の左にいる個体の頭をつかんで軽くひねると、簡単に頸椎が外れた。
もう徹にとってカク猿は完全に格下のモンスターとなっていた。
頸椎の外れたカク猿をゴミのように投げ捨てると、いまだに呆気にとられている個体を一太刀で絶命させた。
しかしその攻撃のタイミングを見計らうように、別の個体が徹に向けてとびかかる。
それに気づいた徹は、バックステップで1mほど距離をとると再びカク猿の群れと対峙した。
「なあ、さっきから見ていて思ったんだが、カーマって変じゃないか…」
「はあ?何が変だっていうんだよ」
「ステータス詐欺から始まって、全部変なんだけどよ。攻撃の時は鋭い動きするのに、防御とか回避が目も当てられないとことか、アンバランスすぎないか?」
ゾネは、徹の後ろでのんびりと壁にもたりかかりながら戦闘を眺めていた。
「仕方ないだろう。ずっと一人で訓練していてちゃんと教えてくれる人がいなかったんだからさ!☤」
高速言語により短縮された呪文に反応して、紅蓮の炎が辺りを焼き尽くす。
「ちょっ熱いんだよ!こんな狭い迷宮でそんな魔術つかうな!しっかし、誰にも教わらずにそれだけ動けるなら大したもんだ。カーマがよければ、俺が多少はみてやろうか?」
(カーマは本当に不思議な奴だ。ステータスは完全に素人以下。だが、魔術の腕は一級品。一級どころかあんな短い詠唱で、中級魔法を発現させるなど聞いたことが無い。近接戦闘に至っては、身体能力任せでぎこちない戦いであぶなっかしい。それなのに、戦闘中に会話をするなどという離れ業をやってのける。これほど型にはまらない奴はそうはいない)
「まじで!?いいの?やったね!頼みます」
「俺のPTは1回迷宮もぐるとだいたい2~3日休みとるからその時だな。明日からちょっと潜るから、出てきたら連絡する」
「おお、了解!楽しみにしているよ」
「その代り条件がある。この条件は、断ろうがどうしようが飲んでもらうがな…」
ゾネの出した条件を聞くと、徹は『どうせそんなことだろうと思った』と笑って返した。
「無辜に眠る力よ その眠りを解き放ち 我に来りて そを貸したもう コンフォメーション ブースト」
リンは剣を水平に突き出すように構えて、突進していく。身体強化により、強化された突進は、小玉鼠と土蜘蛛を薙ぎ払い、轢死させていく。
リンが駆け抜けた後には、小玉鼠の死骸が転がっていた。
土蜘蛛は迷宮の2Fから出てくるモンスターだ。しかしそれも、リンの前では敵ではなかった。
(『身体強化』の魔法は、一般に思われているほど使い勝手がいいものではない。強化された体は確かに筋力も上がるし、スピードも上がる。だがそれに反射神経や思考スピードがついていけず、振り回される結果となる)
アニタがリンを見守っていると、先ほどの突撃で撃ち漏らしたり、生き残っていたりしていた土蜘蛛を丁寧に一匹ずつかっているところだった。
(理論上は、細かい調節が可能だといわれている『身体強化』だが、そんなことをしようと思ったら刹那の間に身体への魔力供給量の変更を正確に行わなければならない。そんなことができる魔術師など聞いたことはない。なにより、思考が追い付かない。そんな扱いにくい『身体強化』ですら、あの子は見事に使いこなしている)
リンが散らばった小玉鼠の魔石を拾っている。その姿は、小動物がちょこちょことあちらこちらを行ったり来たりしているようでかわいらしい。
思わず顔がゆるんでしまう。
(リンには、才能がある。それもステータスには表れないものだ。戦闘の流れを構築する才能、柔軟な発想で制約のある技を、魔術を使いこなす才能。それは何よりも得難いものだ。リンは強くなる。私よりも、ひょっとしたらヴァニル・クランをしょって立てるほどに…)
たったったと足音を響かせて、リンが駆けてくる。
「終わりました。次行きましょう」
「そうね、でも残念だけどもう時間なの。あなたも連戦で疲れているでしょう。無理は禁物よ」
「はい、アニタお姉さま」
そう元気に答えたリンを連れて、アニタは2Fから1Fに向かった。
迷宮の1Fは完全に初心者向けだ。全くと言っていいほど、命の危険はない。農民が間違えて紛れ込んだとしても、モンスターに殺されることはないだろう。
だが、そのために1Fでの稼ぎなどたかが知れている。子供のお小遣い程度、もしくは安い食事を何とか食べられるほどしか稼げない。
そのために、1Fでは人がほとんどおらず、閑散としている。
そんな中、男の声が迷宮に響いて聞こえてきた。
アニタにとってはよく聞きなれた声、ゾネの声だった。
リンと目が合うと少しうなずいてその声の方に駆ける。
パァン
何かがはじける音が聞こえる。
「うおおおい。爆ぜたぞ!くせえ!きたねえ!」
「おいちょっとあっちもなんか、やる気満々じゃねーか。もっこりしだしているぞ!」
「ちょ、やめろ!臓物を飛ばすな!」
そこには、小玉鼠の自爆により臓物だらけになったゾネと徹の姿があった。
「そうだ!必殺!」
「お?なんかいい案でたのか?」
「ゾネバリアああああ」
「ふざけんなああああ。俺が臓物だらけになるだろうが!押すな!やめろ!」
徹が、ゾネの巨体に隠れてゾネを前にぐいぐい押していた。
二人の前には、自爆寸前の小玉鼠がいる。
(なに遊んでるのよ…ゾネもなんか子供みたいにはしゃいじゃって…)
その光景にアニタはため息しか出なかった。
「なによ…小玉鼠すらろくに倒せないくせに生意気な…」
リンが怒りで顔を赤くして小さく震えていた。
(リンはプライドが高いから、あれが許せないのね…最弱のモンスターである小玉鼠にすら満足に倒せないていたらく…私もなんでゾネが彼にこだわるのかわからない)
「いやー助かった。アニタとリン、助かった。ありがとな」
アニタとリンは、小玉鼠の半数が自爆したくらいで二人の助けに入った。
しかしそれまでに相当数の小玉鼠が爆ぜたらしく迷宮は臓腑まみれだった。
「ゾネ…臓物臭い…」
「おめーもだろうが!えっ!?」
そこには臓物だらけのゾネと全く汚れていない徹の姿があった。
「いやーゾネバリアが優秀だったもんでよお。ふひひ」
「くそ、てめーにもつけてやる!こっちこいやー」
アニタの口からため息が出る。
いつも凛々しく、頼りになるクランマスターのゾネが徹と一緒にいると極端に子供っぽくなる。
そしてリンが言うように、小玉鼠なんかにてこずっているようでは、今回の勝負は見えたものだろう。
それなのに、一切焦った風がない。
真正のMなのだろうか?
なんなんだろうこの男はと思わずにはいられない。
「ゾネ、そしてカーマ。遊んでないでギルドの方で換金しましょう。これではいつまでたっても終わりませんよ」
「「は~い」」
(はあ…これでは子供の遠足よ…)
アニタは頭痛を感じながら、訪問者ギルドへ向かった。
戦闘シーンが書けない病…
もうしわけない・・・・・
そして、ああ…ストックがなくなってきた。一日一話書くなんて無理!