残念ながら毛根は死滅しています
若干説明回
――――――――――――――――――――――
Name カーマ・トール
Level 1
Age 30
Job none
HP 10
MP 8
Str 11
Vit 1
Int 1
Dex 8
Agi 9
Mnd 5
Luck 15
Skill 持たざる者【上位】
装備 ????
?????????
????????
――――――――――――――――――――――
「………………微妙」
どこからともなくこぼれたその一言が、その場における人たちの心境を物語っていた。
「さ…さすがにこれはひどくないか?並みか並以下だぞ?本来なら、訪問者になるのを止めるレベルじゃないか…」
「い…いやほらさ。じょ…上位スキルとかもあるしあれがすごいのでは?」
(ゾネさん?声裏返ってマスよ?俺を勧誘しに来たっていうのを後悔しているのかよ…)
――――――――――――――――――――――
持たざる者(passive)【上位】
ありとあらゆる、才能、スキル、属性、特性、個が持つ優位・劣位をはじめとする一切を持たないもの。
他のスキル無効、新たにスキル獲得不可(※)
※本スキルより上位スキルの場合はこの限りではない
――――――――――――――――――――――
「終わったな…帰るか」
「ヴァニルも貧乏くじ引いたもんだな。先走るからそういうことになる」
「結局昨日の祭りはなんだったのかねえ、しっかし無能スキルとはね。笑える」
誰となく言ったセリフを皮切りに、どんどん人はギルドから出て行った。
結局残ったのは、最初っからギルドにいた人間、ギルド役員、それにゾネさんと徹だった。
「しかし、変だな。カミラ、信用していないわけではないが、何か手違いはなかったか?」
「はい、問題はなかったはずです。すべて順調に終わりました。そこに映っているステータスが、カーマさんのものであることは間違いありません」
「変だな、このステータスでは、昨日のあれについて説明ができない。あんなことができるような便利な魔道具なんてないだろうしな」
「たしかに、その前にもヌエの群れに向かって魔法と剣で戦っていたしなあ。あれが、装備の性能なんていわれたら、訪問者全員廃業だな」
実際に能力を見たゲオルグさんとゾネさんはステータスに納得がいかないらしく、渋い顔で考え込んでいる。
徹はその横で顔を俯けていた。
「か…」
「か?」
「か…神スキルきたああああああああああああああああ」
「「ええ゛ー!?」」
「おい、カーマがあまりにもステータスが低すぎて狂ったぞ」
「ステータスなんて飾りだろ!?俺はちゃんとお前を勧誘するから落ち着けって」
「そうそう、レベル上げてきゃ自然とステータスだって上がるって」
「うんうん。ヴァニルでしっかり鍛えてやっから、元気出せって」
あまりの奇行に見かねた二人が、交互に励ましてくる。
しかし、それは頓珍漢な励ましだった。
『持たざる者』―それは、多くの人には呪いにも似たようなスキルだろう。
しかし、徹にとってはあこがれのスキルだった。
心の師匠たる神崎司が、このスキルを持つがために魔術師として底辺を這いつくばり苦労したが、このスキルが故に魔法使いとして無類の強さを得たスキル。
彼は『グリモワール』の中で持たざる者の強さと語っている。
一見デメリットしかないスキルだが、わかりやすいところで言えば、レベル上限、ステータス上限がないことや人間としての枷がなくなっている。
といっても、弱い人間が強くなるというスキルではなく、強い存在が際限なく強くなれるというスキルではあるが…
「ふっ、このスキルの良さがわからないとは、この凡人め!これは、俺の時代が来たな!追い風をびゅんびゅん感じるぜ!」
「ねーよ。幻覚だからかえってこい」
「くそ、これだからハゲは使えねえ」
「カーマ、お前の言う気持ちはわからんでもないが、このハゲの言うことは一理ある」
「ハゲじゃねえ!スキンヘッドだ」
「だが、強さってのはステータスだけで決まるもんじぇねえ。昨日、お前が俺にみせたようにな。だから俺のとこで鍛えてやるよ、一人前の訪問者になれるようにな」
「ゾネさんありがとう。あのハゲは糞の役にも立たねえけど、ゾネさんがいるから生きていけるわ…」
「ハゲじゃねえっつってんだろうがあ!それで、カーマ。説明すっからこっちこい」
「説明?なんの?」
徹は何のことかわからずにきょとんとする
「訪問者とそのギルドについてに決まっているだろうが、このあほが。それとお前は一般常識もないんだからそこらへんもしてやるわ」
「おっす、ギルド長よろしくおねがいしまっす」
「都合のいい時だけ、そういいやがって…」
なんだかんだいって、面倒見のいいゲオルグさんは徹に1時間ほどかけて、説明するのであった。
ギルドでは、基本的に訪問者の身分証明を行う。
他にも、迷宮産の特産物―モンスターの装備や体の一部の仲買いを行う。仲買いは、訪問者がいちいち店に売りに行く手間を省くために行う。一括して一定の値段で買い取り、それぞれ店に卸すということをしてくれている。
そのほかには、クランの斡旋。犯罪を起こすような訪問者の監視などをおこなっている。
あまりに目に余る行為をした訪問者は処罰されることになっているが、その基準はギルド長であるゲオルグさんの胸一筋たといっていた。
この件の文明レベルの低さに徹はおののいた。
そしてクランだが、ほとんどの訪問者はクランという組織に所属し、そこでPT編成や情報の交換などを行う。
また、クランは、本拠地というものを持っており、クランメンバーの共同出資により本拠地に設備が置かれる。
このため、クラン員の稼ぎがよければ寄付も増え、設備がよくなっていく。
設備がよければ、上位クランと呼ばれ、強い人間が集まる傾向がある。
上位クランに所属するのは一種のステータスともなっている。
次にレベル。これは迷宮で戦闘し、モンスターを討伐すると、モンスターの大部分は迷宮に吸収される。
しかし一部分を純粋なエネルギーとして、手に埋め込んだ宝石が奪うことができるらしい。
奪ったエネルギーは、訪問者に置いてある専用の装置で、身体強化に使うことができる。
この装置は、高額であるが、上位クランならばもっているらしい。
身体強化の割合によって、レベルも同時に上がる。
レベルは、どれくらい能力を強化したかの目安といえる。
そして、この世界の通貨についても教えられた。
国それぞれで通貨は違うが、後々覚えていけばいいということで、『カーマイン』で流通している通貨について教えてもらった。
細かい説明はぬくと、金でできた金貨1枚が銀でできている銀貨100枚分、銀貨1枚が銅でできた銅貨100枚分になる。その下に青銅貨があるが、これは10枚で銅貨1枚分である。
物価を知るために、宿の相場はと聞くと、ピンきりだと返された。
どのみち、ヴァニル・クランに入るならクランの本拠地が宿をやっているからそこで値段を聞けとのことだった。
全く相場がわからないという不具合。
最後に、野菜や肉の買い取り値段に、この街に入った時の税金とギルド登録料を引いた分といって銅貨1枚を投げつけられた。
「おう、話は終わったか?改めて聞くが、カーマ、ヴァニル・クランに入らないか?」
ゲオルグさんの説明の間、小一時間も待っていてくれたようだ。
「俺みたいなー半端もんにー声をかけてくれてーゾネはホンマええ…」
「うるせえハゲ!女装させんぞ!でもゾネさんほんとにいいんですか?この街でも有名な上位クランに俺みたいに無能にしか見えないステータスの人間を入れて…」
「ああ?俺は昨日カーマとやりあって、そんじょそこらの訪問者より強いと思っている。その上、ゲオルグから、ヌエの群れを狩ったっていっていた。正直ヌエの群れなんてもんは、腕のいい訪問者だとしても1パーティあってやっと戦えるレベルだ。大丈夫だ、カーマは強い。そのことを、少なくとも俺とゲオルグは知っている。だから自信を持ってうちのクランに来てくれ」
その言葉に少し泣きそうになった徹は、首を縦にふった。
「よっし!それじゃあ。登録にいこう!すぐ行こう」
ゾネさんは徹の背中をバンバンと叩いて、さっさと自分の本拠に戻っていく。
置いていかれそうになり、あわててゲオルグとカミラに挨拶をしてギルドを出た。
ゲオルグは楽しそうに、カミラは少し残念そうにしていた。
ゾネさんは出たところで待っていたくれたらしく、そこから肩を並べてヴァニル・クランへと向かった。
「なあ、カーマ。ほんとに魔術師なのか?俺はてっきり戦士だと思っていたんだけどな。今も剣を差しているし」
「一応、魔術師だよ。将来の目標は神々の奇跡を操ることだな!」
「でけー目標だな。その剣は飾りなのか?ちょっとみてせもらってもいいか?」
ゾネはさっきから、徹の剣に興味津々だった。
見た目はごく普通の剣だが、ゾネの勘が只者ではないといっていた。
「飾りじゃないけど、そんなにみたいならどうぞ」
深く考えずに、徹は腰のものを抜いて渡す。
渡されたゾネはその剣を一息でぬく。
片刃の湾曲したその剣は、切ることに特化した感じを受ける。
しかし、その重厚な造りは、その存在感を主張するとともに頑強さをもち実戦で使うことのみを目的に作られたことを示していた。
「これは…魔剣なのか?」
「えっ。どうだろう?多分特殊機能とかついてないただの剣だとおもうよ。ただ、その分耐久性とか、魔力の浸透性とかは馬鹿になんないけどね」
「この輝きで、魔剣じゃないだと!?どんな名工がつくったんだ!こんな美しい剣を作れるものなんて聞いたことが無い」
「それは、神崎司って人が打った剣だよ。もう死んじゃった人だけどね」
「カザキ・ツカサ?うーん。聞いたことねえな。それでも相当な腕の鍛冶師だな」
そういってゾネさんは名残惜しそうに剣を徹に返した。
「カーマはカザキと知り合いなのか?」
「いや、直接はあったことが無い。というかもう死んでいるしね。俺はあの人を心の師匠とあがめているだけだよ」
「そうか…まあそれを持っているのは隠しておけ、狙われる」
「そんなに?」
「ああ、そんなことする奴は少ないが、気を付けることに越したことはない。ここは、そんなに品のいい街じゃない。自衛は常に心がけるべきさ」
「わかった。さんきゅ」
「いーえ、どういたしまして」
それからの会話は、徹による『いかに神崎さんがすばらしいか』という話で終始した。
お気に入りに入れてくれた方、評価してくださった方とても感謝です。
やるきでました。がんばります